前回


  人の目が全て自分に向いているのではないかという錯覚と戦いながら集合場所へと赴く。
  既にマイクロバスが待機していた。良かった、これでもう人目を意識せずにすみそうだ。
  「あ、あ・・・あの!こんにちわ・・・。私今回のツアーを担当いたします黒崎です。よ、よろしくお願いします。」
  ごくごく簡単な割にやけにたどたどしい自己紹介の後、今回のツアーの案内と説明が始まる。
  どうやら自分たちが一番早く着いたらしい。車に乗り込む前に簡単な手続きを行う。
  なんでも人形が参加証の代わりらしい。なるべく目立たぬように蒼星石を外へ出して見せると名前を申告する。
  しかし、少人数だしまず外部の人は紛れ込まないだろうが何とも言えない不安は残る。
  名前もさっき自己申告しただけだし、なんともアバウトなツアーだ。
 マ「あ、運転手さんこんにち・・・わっ!?」
 白「おや、その人形?・・・って、あなた・・・」
 マ「しーっ、しーっ!!」
  なんと運転手さんの方は“白崎さん”ではないか。
 白「何やら面白い事をやってるみたいッスね。」
 蒼「まさか、今回の旅行も君が一枚噛んでるのかい?」
  確かにそれならこの無茶苦茶さにも多少は合点が行く。
 白「違いますよ、メインのバイト先が臨時休業中で暇なんで他のバイトしてるだけッスよ。」
  ツアーの運転手ってそんないい加減な決め方でいいのか?
 蒼「とにかく、僕らの事は黙っていてもらうよ。」
 白「いいですよ。黙ってた方が面白くなりそうですから。」
  とりあえずはその言葉を信じておこう。
  しかしなんだこのツアーにおける知り合いの多さは。
  残り二名もドール関係のお知り合いとかいう落ちじゃあるまいな・・・。
  その場合は結果的に女装した方のダメージがでかかったことになりそうだな。
  とりあえず席を選ぶ。自分たちが一番乗りだから好きに選べる。
 マ「景色が良い所を通るって言ってたよね。じゃあ窓際の席にしよっか。」
 蒼「うん。」
  前よりの右側の席、ちょうど運転席の後ろ辺りに陣取る。
  残りのメンバーも乗り込んでくる。やはり自分たちと似たようなやり取りをしていた。
  結局、僕たちの後ろにはみっちゃんさんと金糸雀、その反対側にジュン君とのりちゃん及び真紅たちが座った。
  車内にはまだ“関係者”しかいなかったので、しばらく蒼星石とこれからの旅への期待についてお話できた。
  そのうち誰かが来たのか、外から話し声が聞こえてきた。
 マ「どうやら一般の参加者が来たみたいだからしばらくただのお人形さんのふりをしててね。」
 蒼「分かった。」
  他のメンバーにも一応その事を伝えてから、蒼星石の頭を撫でつつ窓の外をぼんやりと眺めていると声をかけられた。
  「あの、ここって空いてますか?」
  声の主は眼鏡をかけたロングヘアーの女性。今の自分の髪と同じくらいの長さだろう。
  手にはハンドバッグと人形を大事そうに持っていた。
 マ「ええ、空いていますよ。」
  「そう、じゃあ失礼しますね。」
 マ「はい、どうぞ。」


  しばらくして最後の一人も到着した。
  落ち着いた感じがするショートカットの女性だが、やはり可愛らしい人形を抱えている。
  彼女は黒崎さん用の席以外で空いていた、みっちゃんさんの隣に座った。
  ついに全員がそろって出発することになった。
  そんな時隣の席の女性に声をかけられる。
  「あの、私は梅桃桜花って言います。桜花って呼んでくださいね。あなたは?」
 マ「あ、私ですか。青木瑠璃です。よろしくお願いします。」
  「こちらこそよろしく。楽しい旅にしましょうね。」
 マ「ええ、そうですね・・・。」
  「景色が楽しみよね。でも、私ってド近眼で・・・」
  何やらいろいろと語り出した。明るく積極的な人みたいだな。
  大人しそうな第一印象を受けたけれど、人って結構見かけによらないんだな。



  車はもう二時間くらいは走っているだろうか。
  後ろはさっきから大分賑やかだ。どうやら着せ替えについて熱く語っているようだ。
  みっちゃんさんのが話している相手は山田花子と名乗っていた。
  自分たちの席からは手続きをしている時の会話までしっかり聞こえていたから間違いあるまい。
  偽名かもしれないが、そんな名前の通り地味な雰囲気の女性だった。
  だがしかし、今はみっちゃんさんと意気投合してしゃべるしゃべる。
  やはり女性というのは元来おしゃべり好きに出来てるのかもな。
  一方自分はというと、黙り込んでもっぱら車外の風景を見続けていた。
  知らない人に自分から話しかけたり、もっと言えば単に話をしたりも、は苦手なのだ。
  そのくせ知らない人から話しかけられやすいという難儀な体質ではあるが。
  さりげなく蒼星石の目線が窓の外に向くように抱っこする。
  そうして蒼星石と車外の景色を楽しみつつも、注意は怠らない。
  車が揺れた弾みでどこかにぶつけやしないかと慎重に慎重を重ねる。
 梅「そのお人形さんをすごく大事そうに抱いてますね。とってもお気に入りなのね。」
  二人で景色を見ていると、隣の席の桜花さんに話しかけられた。
 マ「あ・・・はい、この子はお気に入りっていうか、自分にとって大事な子で・・・。」
 梅「分かるわ~、私もこの子、エリザベスって言うんだけどね、いつも一緒なの。
   ・・・でもその子も可愛いわね。ちょっとキスしちゃお。そのお人形さん貸して♪」
 マ「だ、駄目ですっ!この子だけは他の人に渡せません。」
 梅「あらあら、おでこでいいから。ねっ、ねっ?」
 マ「ほ、本当にこの子だけは特別な存在なんです!!」
  蒼星石をぎゅっと抱きしめて、自分の体で隠して絶対に渡すまいとする。
  なぜなのかは分からないが、絶対にこの人に渡したくないという思いに支配されていた。
  自分の独占欲がこんなに強いとは思ってもみなかった。
 梅「ふふふ、そんな涙目になっちゃって、本当に大事なのね。分かったわよ。」
   ちゅっ・・・
 マ「へ?」
  不意打ちで髪をかき上げられおでこに口付けされてしまった。・・・自分の方に。
 梅「あはは、あなたの方は駄目って言われてないわよね♪ちょっとからかっただけよ、あなたって可愛いんだもの。」
 マ「は、はは・・・ありがとうございます。」
 梅「ごめんなさい。なんかね、あなたと私って気が合いそうって言うか、似てるような気がしちゃって。」
 マ「え、そうですか?」
  嘘だっ!外見はまだしも絶対真逆の性格をしてると思うぞ。
 梅「だから・・・もっと親しくなりたいなあって・・・。」
  気のせいか、なにやら目の奥にヤバイものを感じる。
  まさか・・・狙われてる!?
 マ「あ、あはは・・・旅の間はよろしくお願いしますね。」
  とりあえず当たり障りの無いことを言ってお茶を濁しておいた。
  そんな事をしていたら車がレストランとお土産物屋が一つになったようなスポットに入って停車する。
 黒「あのー・・・すみません・・・。ここで30分ほど休憩を取ります。昼食もできればこちらで済ませてください。」
  ただの連絡がなぜかやたらと申し訳なさそうに伝えられた。


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