マ「温泉旅行、ですか?」
  渡されたプリントに軽く目を通す。
 み「そう、ネットの『人形同好会』のオフ会で旅行に行くのよ。」
 マ「費用は安いみたいですけど・・・また変な時期にやるんですね。」
 み「そうなのよ。せっかく新入りさんが小規模のツアーを利用して企画してくれたんだけど、
   ツアーの日程が悪かったせいもあって思いのほか人が集まらなくって。参加者を集めたいのよ。」
 マ「はあ、そういう事ですか。」
  呼び出されて来てみると、既に真紅に翠星石も来ていた。
 翠「ところで蒼星石はどうしたですか?」
 マ「なんか夕飯の仕度だか下ごしらえだかで手が離せないから少し遅れるってさ。」
 翠「そうですか、それは好都ご・・・いや、お気の毒様・・・いやいや、残念ですねえ・・・くひひひ。」
 マ「?まあ、もうすぐ来るとは思うからもうちょっと待っていてよ。」
  翠星石の反応がなにやら腑に落ちない。
 マ「あれ?そういえば雛苺もいないんだね。」
 翠「チビ苺がいたら騒いでまとまる話もまとまりませんからね。あいつは今日は留守番ですよ。」
 マ「相変わらず遠慮のない事をする・・・。」
 真「まあ仕方ないわね。それぞれの役割みたいなものがあるのだわ。」
 マ「ふうん・・・。で、その温泉旅行にみんなで参加しようというお誘いでしたよね。」
  とりあえず話を本題へと戻す。
 み「そうなのよ。出来ればローゼンメイデンとその関係者のみんなで行けたらなあ、って。」
 マ「お誘いはありがたいんですがそんなに大勢参加できるんですか?」
 み「ところがねえ、四人分しか確保できなかったの。」
 マ「へえ、四人分。ところでそれってどんな旅行なんですか?部外者がオフ会なのに混じっていいんですか?」
 み「その紙にもあるけどツアーは総勢六人で二泊三日ね。まあ初日と最終日はほとんど移動だけで終わっちゃうみたい。
   もちろん同好会のメンバーで行くんだけど・・・」
 マ「あの・・・途中ですみませんが、ちょっと待って下さい。」
 み「何かしら?」
 マ「六人中四人がみっちゃんさんの関係者でいいんですか!?」
  そもそもそんな少人数でも人が集まらないなら、まず計画を変更するべきだと思うのだが。
 み「ええ、最初はしばらく経っても私も入れて三人しか集まっていなかったのよ。
   それじゃ寂しいし、って私が知り合いの人形好きの子を二人連れて行かせてもらうという事にしたの。」
 マ「あれ?それじゃあ三人では?」
 み「流石に一人で過半数占めるのは気が引けて・・・だからまだ残っていたもう一人分は別のハンドルで参加希望を出したの。」
 マ「はい?」
 み「えーとね、自演用の別ハンドルがあるの。そっちの性格は大人しめにしてあるからあなたなら丁度いいわ。」
  うわあ・・・この人ダメな大人だ・・・。
  しかも全然気が引けてないし。オフ会を私物化する気満々で結局残り全部取っちゃってるし。
 マ「・・・それに成りすませば同好会メンバーとして参加できるって事ですか。」
 み「そうそう。どうせみんなの本名とかは秘密だし、平気だから。」
 マ「でもオフ会で親睦を深めるならその辺が話題になるんじゃ。」
 み「今回はそういったのは一切無しなのよ。地位とか立場に関係なく気楽にやれるように、って。」
 マ「はあなるほど、一理あるかもしれませんね。じゃあハンドルネームで行動するんですか?」
 み「まさか。そんな事したらネット上の関係がギスギスしかねないじゃない。」
  なんか生々しい話だなあ・・・。
  まあ発言者の情報があると発言内容を色眼鏡を通して見てしまうというのは分かるが。
 マ「確かに今まで通りにはいかなくなりかねませんよね。」
  だったら何のためにオフ会なんてやるんだという疑問は残るが・・・。
 み「でしょ?だから今回はみんな本名を秘密にして偽名を考えて行くの。」
 マ「じゃあ旅行会社の人だけが素性を把握しているんですね。」
 み「今回のはその手の企画物めいた集まりって事で交渉して、それも無しにしてもらったんですって。すごい徹底ぶりよねえ。」
  なんだか無茶苦茶な・・・旅行会社もそれでいいのか?保険とかも自己責任になるだろうし。
  確かに最近はネットでの知り合いがつるんで変な事したりもするみたいだけどさあ・・・。
  参加者が少なかったのはその辺の胡散臭さ、面倒さも関係しているんじゃなかろうか。
 マ「それで・・・今日のは参加メンバーに関しての相談とかですか?」
  みっちゃんさんと金糸雀は当然参加するのだろう。
  後の二人分を自分と蒼星石、あるいはジュン君と誰かもう一人でどうするかという事だろうか。
 マ「残り二人しか枠がないんだったら僕らはご遠慮しますよ。」
  自分が参加したら場合によってはネカマ発見とかでちょっとした騒ぎになりそうだし。
  しかも旅行の間だけとはいえ、人形を愛好する男というのも肩身が狭そうで嫌だ。
  ジュン君も同じかもしれないが、まあのりちゃんや巴ちゃんに代わってもらってもいいだろうし。
 金「ところがどっこい、策士であるカナが既に名案を考えてあるかしらー!」
 マ「名案?」
  ものすごく嫌な予感がする。
  自信満々な辺りが特に。
 金「カナたちが子供として参加すれば参加できる人数がとても足りないかしら。」
 マ「うん。」
 金「だからカナたちは人形として参加するかしら♪」
 マ「はあ、なるほど。それなら人間四人で行動して鞄を持って移動すれば、ドール五人もみんな行けるわけだ。」
  珍しく本当に名案ぽいのでちょっと感心する。
 金「どっこい、これだけじゃあないかしら。」
 マ「え?」
  再び嫌な予感がする。
 真「移動中もずっと鞄の中に閉じこもっていては、このツアーの売りである明媚な風景を拝めないのだわ。」
 翠「せっかくの旅行も楽しさが半減って訳ですよ。」
 マ「つまり、みんなをむき出しで持ち運びながら参加する形を取るって事?・・・で、メンバーは?」
 真「みっちゃん、のり・・・そしてあなたとジュンよ。」
 マ「へ?」
  何も男を二人とも入れんでも・・・。どっちかを巴ちゃんにした方がいいのではないだろうか。
 真「あら、不服なの?あなたも蒼星石と行けるじゃない。」
 マ「確かに二人分の旅費としては破格だし、そりゃあ行けた方がうれしいけどさ。
   まず疑問なんだけどみんなして人形を持っていたら人目を引かない?しかも僕は男だよ?」
  ただでさえ目立つだろうに男二人に人形を抱えてろだなんて拷問の一種かと。
 み「その点は大丈夫ですよ。なんせ人形同好会の面々が参加するツアーですから。
   みんな自分のお気に入りの人形を持参して見せ合う事になってるんです。
   むしろみんなも人形を外に出した状態で旅行するんじゃ・・・。」
  どんなツアーだ、どんな。想像するとものすごく奇怪な光景だ。
 マ「・・・で、僕とジュン君にもみんなを抱えて参加しろ、と。」
 真「あら、あなた、愛しの蒼星石を放っておくつもり?」
 マ「いや・・・それは嫌だけど、男が人形抱えてたら流石に異様だろうし。」
  やはりどう考えても好奇の視線は避けられないだろう。
 翠「てめえはその程度の男だったですか・・・なら構わないですよね・・・。」
 金「んっふっふ。そこで登場するのがカナの奇策なのかしら・・・。」
 マ「な、なんか二人とも笑顔が怖い・・・。って何で詰め寄ってくるのさ!?」
 真「・・・やっておしまいなさい。」
  真紅が静かに命令を下す。なんだか分からんがとにかくヤバイ!
  どっちだ?二人の一挙手一投足に全神経を集中する。
  どっちも能力を使うのに必要な道具はまだ出していな・・・。
 マ「いっ!?」
  その時、自分の四肢を捕らえるツルが伸びつつあるのに気づいた。
 雛「ほいさっさ、なのー!」
  家具の陰から雛苺が飛び出してきた。今まで隠れていたようだがまったく気づかなかった。
  伏兵であった雛苺の苺わだちで床にがっしりと体を固定されてしまった。まるでガリバーだ。
 真「ふぅ、ドールとミーディアムは波長が合うらしいけど・・・あなたたちって本当に素直よね。」
 マ「いったい・・・何をするつもり?」
  薄ら薄ら勘付いてはいるものの聞いてみた。
 金「ふっふっふ、男の人だと異様なら女の人が持てばいいかしらー?」
 翠「ひょろっちい貧弱な体つきの上、女々っちい顔つきをしてますからきっとてめえも似合うですよ。」
 マ「“も”ってまさか・・・。」
  禍々しい笑顔を浮かべる二人の後ろからは、みっちゃんさんが手にアレな物を持って迫ってきている。
  ・・・この場の自分以外、完全にグルだ。
 真「安心なさい。」
  こちらに言い聞かせるように真紅が優しく言う。ひょっとしてこれはドッキリとか・・・。
 真「あなたは声もそんなに低くないからちょっと練習すれば大丈夫よ。」
  そう言って親指を立てた。
  はい、一縷の望みもボッシュート。
 み「きゃーー、人間をいじるのもちょっと面白ーーーい!今度は大きいからやり甲斐ありそー♪」
 マ「すると・・・やはりジュン君はすでに・・・。」
 翠「見ろです人間!あれが新(ニュー)・ジュンの雄姿ですよ!」
  その言葉と共に、隣の部屋から自分より先にここへ呼ばれていたと思しきジュン君が連れられてくる。
 マ「やっぱり・・・。」
  もはや抵抗する気力も無いのだろう、なんだかぐったりとしてされるがままだ。
  ジュン君は普段薔薇乙女が着ているようなドレスを着せられ、頭にはでっかいリボンまでつけられている。
  顔には良く見ると薄化粧まで施されていて、ご丁寧にも苺わだちが後ろ手に拘束し続けていた。
 マ「なんか似合ってるね・・・。」
 ジ「そんなこと言われてもうれしくないです・・・。」
  力のない返事があった。
 み「はーい、次はあなたの番ですよー♪」
 マ「ひぃぃっ、蒼星石助けてーーーー!!!」
  そんな悲鳴も空しく、みっちゃんさんの手にした化粧道具が顔面を暴れ回るのだった。