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 マ「ここがおばあちゃんの夢の中か・・・。」
 蒼「なんだか和風の空間に仕上がってるね。」
  周りは畳やふすま、木製の柱や梁といった和室のパーツのようなものが集合して構成されている。
 マ「どことなくだけど見覚えがあるような・・・。きっと昔おばあちゃんが住んでいた家の再現なんだろうな。」
  マスターがどことなく懐かしそうな顔になる。
 蒼「あ、あそこ!おばあさんがいたよ。」
 マ「本当だ。あと他にも・・・。」
 蒼「男の人、だね。」
 マ「多分あれはおじいちゃんだ。二人とも若いけど面影があるよ。」
 蒼「夢の中だからね、あれはおばあさんの思い出なんだろうね。」
  場面が変わる。
 蒼「子供たちだね。」
 マ「あれは多分お母さんとおじさんだろうな・・・。」
 蒼「近くで見てみよっか?」
  二人でおばあさんの方へと寄っていく。
 マ「おばあちゃん、こっちにはまるで気がつかないみたいだね。」
 蒼「多分、今のおばあさんの心が自分の夢に閉じこもってしまっている状態だからだと思うよ。」
 マ「おじさんの方は良く分からないけど・・・多分あっちがお母さんなのは間違いないだろうな。」
  再び場面が変わった。
 蒼「あ、あれはお孫さんみたいだね。あっちの男の子がマスターかな?無邪気そうで可愛いね。」
 マ「・・・子供なんてのは大抵みんな無邪気なものだからね。
   無邪気で・・・それゆえに自分のしている事がいかに汚く残酷であるかに気づかない・・・。」
  マスターが苦虫を噛み潰したような表情で言った。
 蒼「え?」
  マスターは子供好きだったはずなので少し意外だった。
  さらに変化が起きて、少し成長したマスターとマスターの妹さんと思しき女の子が登場する。
 マ「あれは・・・遊びに行った時にプレゼントを貰っているところかな・・・。
   しょっちゅういろいろな物をくれてさ、ゲームなんかもせがんで買ってもらったりしたものだよ。」
 蒼「ふうん、大切にされていたんだね。うらやましいな。」
 マ「だけど・・・僕の方はおばあちゃんとおじいちゃんを大事にはできなかったんだ。」
  次第に暗くなってきたマスターの表情に不安を覚える。
 蒼「・・・また、変わるみたいだね。」
  今度はおじいさんとおばあさん、それにさらに成長したマスターと思しき男の子。
  一緒に談笑しながら楽しそうに食事をしている。
 マ「こうやって・・・よく食事に連れて行ってもらったりもしたんだ。
   両親が共働きだったんだけどさ、それで通学や塾へ送ってもらったりする関係でお邪魔する事も多かったからね・・・。」
  食事が済んだらマスターがおじいさんの肩をもんだりと、とっても仲が良さそうだ。
 蒼「なあんだ、マスターってばしっかりと孝行をしてるみたいじゃない。」
 マ「違うんだ・・・あれは違うんだ。あんな事だけで、恩を返せているつもりになって・・・。」
 蒼「え、だけどおじいさんもすごく喜んで・・・。」
  そこでふと気が付く。そういえば、マスターのおじいさんは一体・・・。
  今まで話題に上らなかったが、すでにどこかの施設で生活しているのか?
  いや、だったら多分おばあさんも一緒に・・・それじゃあ・・・。
 マ「おじいちゃんは・・・もう死んでしまった・・・。僕が・・・殺したようなもんだ・・・。」
  マスターが突然両手で頭を押さえて膝から崩れ落ちた。
 マ「僕のせいだ!!僕が、僕が気づかずにおじいちゃんを殺したんだ!」
 蒼「マ、マスター・・・急にどうしちゃったの?」
 マ「僕がああやって負担をかけ続けたからだ・・・だから、おじいちゃんも・・・僕が・・・。」
 蒼「落ち着いて、言ってる事が分からないよ!!」
 マ「ずっと、ずっと、さっきみたいにいろいろしてもらって、それを当然と思って自分からもねだって・・・
   そのせいで二人は手に負えない借金をして、おじいちゃんはくたびれて倒れてしまった・・・。
   残されたおばあちゃんも・・・親戚から厄介者扱いされて・・・居場所を無くしてしまったんだ・・・。」
 蒼「そんな馬鹿な!いくらなんでもマスターのことだけでそんな事態にはならないよ。
   きっと他にも事情があったんだってば。」
 マ「違う!僕が気づかずにあんな事をし続けていたからだ・・・。他に理由があったにせよ、自分も加担していたんだ!」
  この時になってようやく僕は気づいた。あの時のマスターの発言・・・。
  逃げる事なく現実と向かい合う、それがおばあさんの夢に入る際のマスター自身の覚悟だったという事に。
 蒼「マスター・・・しっかりして!」
  マスターを抱き寄せる。しかし胸の中のマスターは一向に泣きやむ気配を見せない。
  こんなにマスターが小さく、頼りなげに見えたのは初めてだ。
  さっきからずっと、まるで子供みたいに泣きじゃくっている。
 マ「ごめんなさい!ごめんなさい・・・!うっ、う・・・。」
 蒼「マスター、落ち着いてよ!しっかり・・・して!!」
  マスターは先程からうわごとのように誰かに謝り続けている。
  契約によって僕の心と一つにつながったマスターの心の苦しみがひしひしと伝わってくる。
  僕の心まで押し潰されてしまいそうな、深い絶望と悲しみが。
  ・・・僕のせいだ、僕がマスターの心の傷跡をほじくり返してしまったからだ。
  僕が、自分の能力に溺れてマスターの心を結果的に攻撃してしまったからなんだ・・・。
  僕が自分のことばかり考えて、事情もよく知らないくせに出しゃばって・・・。
  結局僕がしようとしていた事は、おばあさんを再び以前のような苦境に追い込む事であり、
  そして・・・マスターの心を追い詰めてしまう事だったんだ。
 蒼「ごめんねマスター、僕のせいでこんな事に・・・。」
  それでも僕の声など届かぬようにマスターの懺悔は終わらない。
  どうしていいか分からないままに立ち尽くしていると、誰かがそばに来る気配がした。
 ば「カズキさん、そんなに泣いてどうしたのかしら?」
 マ「おばあ・・・ちゃん?」
 蒼「え、でも・・・なんで僕らに気づいて・・・。」
 ば「そんな風に大声で泣いていたら誰だって気づきますよ。」
  おばあさんが僕の方ににこりと笑って言った。
  そういえばおばあさんは元々マスターの事ははっきりと分かっていた。
  ひょっとしたらだけどそのためなのかもしれない。
 ば「カズキさん、私は良いおばあちゃんじゃなかったかもしれないけれど、あなたは良い孫でしたよ。
   だからそんなに泣かないでちょうだい。」
 マ「そんなことない。おじいちゃんとおばあちゃんは良くしてくれたのに、僕が・・・!」
 ば「あなたは本当に優しい子ね。でももういいの、私のことで悩まないで。
   ・・・私がああいった方法以外で愛情を示す術を心得ていればあなたをそんなに苦しめずに済んだのにね。」
 マ「それは自業自得なんだ。恩を仇で返して二人にあんな苦労をかけたんだから。」
 ば「私の方こそ・・・随分と苦労をかけたわね。あんな風に身をすり減らしながらお世話をしてもらって。
   起きている時には伝えられないけれど、今まで本当にありがたかったわ。・・・でもね、もういいのよ。」
 マ「でも・・・このままだとおばあちゃんは・・・。」
 ば「ありがとう。その気持ちは本当にうれしいわ。
   だけど・・・今のあなたには私よりもそばにいてあげるべき、もっと大切な人がいるのでしょう?」
 マ「そうしたらおばあちゃんは本当に一人ぼっちになっちゃう!」
 ば「いいのよ、離れた所にいても、忘れないでいてくれて、そして・・・笑顔でいてくれるのならさびしくはないわ。
   無理してまでそばにいてくれなくたっていいの、そんなに泣いているのを見たらこっちまで辛くなっちゃうから。」
 マ「おばあちゃん、ごめん、ごめんなさい!」
  マスターがおばあさんにすがりつく。
 ば「あらあら、言ってるそばから困ったわね。いいかしら、そういう時はね、謝らなくてもいいの。
   にっこりと笑ってお礼を言ってくれれば。大事な人が笑ってくれるのが一番うれしいんだから。」
 マ「・・・あ・・・ありがとう、おばあちゃん・・・。あはは、やっぱり涙は止められないや。ごめんね。」
 ば「いままで本当にありがとう、また気が向いたらお顔を見せてね。」
 マ「うん、分かった。そうするから元気で待っててね。」




  その後、おばあさんはご実家近くの施設に預けられる事になった。
  受け入れの準備が整うまでということで引き続きおばあさんのお世話をしていたが、ついに今日連れられていった。
 蒼「ほんの数日だったのに、なんだか急にさびしくなっちゃったね。」
  おばあさんの寝ていた布団が片付けられ、なんだか部屋ががらんとしてしまった気がする。
 マ「そうだね、結局おばあちゃんには何かしてもらいっ放しだったな。」
  マスターの表情は未だ晴れない。やはりまだ尾を引いているのだろうか。
 蒼「マスター、ごめんね。僕が余計な事をしちゃったから・・・。」
 マ「蒼星石そんな暗い顔して謝らないでよ。
   おばあちゃんは言ってた、『大事な人に泣いて謝るくらいなら笑ってお礼を言え』って!
   だから・・・蒼星石ももっと笑って、笑ってよ・・・!!」
 蒼「・・・でもさ、そう言っているマスターの方がもう泣きそうじゃない。」
  僕の言葉に、マスターがかすかに笑った気がした。
 マ「ごめんね、僕は弱い人間だから、またすぐに泣いてしまうかもしれない。
   ・・・だからそんな時は蒼星石にそばにいて力づけてもらいたいんだ。
   だから・・・蒼星石には笑っていて欲しい、自分の弱い心を支えて欲しい。」
 蒼「・・・分かった。マスターを支えられるように頑張るよ。」
 マ「ありがとう。・・・ごめんね、蒼星石の負担をまた増やしてしまって。」
 蒼「いいんだよ、僕らは離れるわけにはいかないんだから。
   喜びも、悲しみも、共に経験していけばいいんだ。
   だから僕はマスターのことをきっと支え続けるよ。
   その代わり・・・マスターも僕のことをちょっとだけ支えてくれないかな?」
  そこで少し間が空く。
 マ「・・・ちょっとだけだなんてけち臭い事を言いなさんな。嫌だと言っても全部支えちゃうからね!」
  マスターの大きな手が僕の頭をやさしく撫でる。
  そう言ってくれたマスターの顔には以前のまぶしい笑顔が戻っていた。