今日は13日の金曜日。
  別に敬虔なクリスチャンとかでもないが、なんとなく不気味な気がしてしまう日。
  そんな気分を最大限に利用しようとビデオを借りてきた。
 マ「ねえねえ蒼星石、一緒にビデオを見てくれない?」
  夕食の後蒼星石に切り出す。
 蒼「ビデオですか?まあ夕食の片付けが済んだ後でしたら構いませんが。」
 マ「本当!?それじゃあ手伝うから早く済ませちゃおう!」
 蒼「いや、それは僕が・・・ふふっ、まったく仕方の無い人だ。」


  そんなわけで速攻で片付けも済ませてテレビの前へ。
 蒼「それで一体何のビデオですか?アニメですか?アクションですか?」
 マ「じゃーん、『フレディVSジェイソン』でーす♪」
 蒼「・・・なんでまたそんなチョイスを・・・。」
 マ「だってさ、今日は13日の金曜日だしさ。なんだかそれだけでドキドキしてこない?」
 蒼「じゃあそのドキドキとやらだけでもう十分じゃないですか。僕はもう寝ますよ。」
 マ「そんなひどい!さっきは一緒に見てくれるって言ったのに。僕の純真をもてあそんだんだ!!」
 蒼「そんな人聞きの悪い・・・。分かりましたよ、ご一緒しますよ。」
 マ「やった♪じゃあ再生するよ・・・。」


  おどろおどろしいオープニングと共に惨劇の幕が徐々に開けていく。
  そして次から次に映し出されるスプラッタ・・・。
 マ「(どきどき・・・)」
 蒼「・・・・・・・・・。」
 マ「ひいっ!」
 蒼「・・・(びくっ)・・・。」
 マ「うわぁあぁぁああーー!!」
 蒼「あの、マスターもう少し静かにしていただけません?」
 マ「だ、だ、だ、だって怖いんだもん。」
 蒼「・・・そうだったんですか。僕はまた脅かそうとしているのかと・・・。」
 マ「本当にこ、こ、こ、怖いんだよ。」
 蒼「じゃあもう見るのやめましょうよ。」
 マ「いやだ!せっかく借りたのにもったいない!!」
 蒼「そういった思い切りだけはいいんですね・・・。」
 マ「そうだ、蒼星石膝に乗っかって。それなら怖くない、多分。」
 蒼「マスターのお膝に、ですか?いくらなんでもそれは・・・。」
 マ「怖いんだよー!」
 蒼「・・・はいはい。」
  泣きついたところ、苦笑しながらも蒼星石が膝の上に来てくれた。
 マ「ありがとう、これでもう勇気100倍だよ。」
  ザシュ・・・ぎゅっ、ドタッ・・・ぎゅう、ギャァァアーー!・・・ぎゅぅぅうう・・・・・・。
 蒼「あの・・・マスター、そんなに抱き締められても困るんですが。」
 マ「やっぱり怖い・・・。」
 蒼「・・・勇気100倍じゃなかったんですか?」
 マ「も、元々が少なかったんだよ。でも・・・」
 蒼「でも、なんですか?」
 マ「・・・こうしてるとちょっとだけ落ち着くんだ。だからお願い。」
 蒼「やれやれ・・・今回だけですからね。」




  怖い思いをなんとか我慢しながらやっとの事で全部見終わった。
  抱っこのおかげで大分救われたものの、正直ストーリーなんて頭の中に入ってない。
  まあいかに怖がるかを目的とするならば大いに達成されたわけだが。
 マ「さあ・・・もう寝るとするか・・・。」
 蒼「それではマスターおやすみなさい。どうか良い夢をご覧になって下さいね。」
  そう言って鞄に入ろうと背を向ける。
  それを引き留めるように袖をつかまれた。
 蒼「どうかしましたか?」
 マ「あの・・・一緒に寝てくれない?」
 蒼「はぁ!?」
 マ「その・・・さっき、怖い映画を見たからさ、一人じゃ怖くって・・・。」
 蒼「マスター、ご自分がいくつだと思ってるんですか?」
 マ「だってだって怖いんだもん!なんかさ、暗闇にいると突然化け物が出てきそうで・・・。」
 蒼「だったら最初からあんなものを見なければ良いでしょうに・・・。」
 マ「だってちょっと興味があったし、見ている時は蒼星石が一緒にいてくれたから・・・。」
 蒼「寝る時だってそばの鞄の中にいるから平気ですよ。それとも今夜は電気点けときます?」
 マ「・・・だめ・・・?」
  布団の中から、捨てられた子犬のような潤んだ目で見上げてくる。
 蒼「・・・はぁ、寝入るまでですよ?」
  根負けしてそう言った。
  マスターの顔がぱっと輝く。
 マ「ありがとう蒼星石!」
 蒼「まあ、これもマスターのためですからね。」
  いかにも仕方がないといった感じで言って布団にもぐりこむ。
 蒼(さてと、それじゃあ早速レンピカで・・・。)
  手っ取り早く済ませようとすると声をかけられた。
 マ「ねえ蒼星石。」
 蒼「今度はなんですか?」
 マ「あのさ、ありがとう。こんなわがままを聞いてくれて。・・・へへ。」
  屈託のない笑顔でこちらを見てくる。
  僕の事をまったく疑っていないようなまぶしい笑顔だ。
  正直この笑顔は苦手だ。嫌いではないが僕が僕らしく振舞えなくなる・・・。
 蒼「・・・まあ、マスターのお役に立つの僕の仕事みたいなものですから。でもこんなのは今度だけですよ。」
 マ「仕事かあ・・・。ごめんね、わざわざこんなことで面倒をかけて。」
 蒼「仕事と言っても別に嫌々だという意味ではありませんよ。そこは気にしないで下さい。」
  結局、なぜかそのままマスターが自然に寝付くのを待つことにしてしまった。
 マ「ジェイソンがチェーンソーで襲ってきたらどうしよう・・・。」
 蒼「僕が庭師の鋏で応戦しますよ。」
 マ「フレディが夢に入ってきたら・・・。」
 蒼「僕もマスターの夢に入って助けますから。」
 マ「でもあの連中って強そうだったし・・・。」
 蒼「大丈夫ですよ、最悪でも相討ちには持ち込みますから。」
 マ「それはやだ!蒼星石がそんな目に逢うなら、自分も加勢する!」
 蒼「おや、マスターったら怖くないんですか?」
 マ「怖い!でも女の子が頑張ってるのに自分だけ逃げてるだなんてのはもっと嫌だ!!」
 蒼「わがままですね。」
  くすりと笑う。
 蒼「まあ、僕はマスターの言うような女の子とは違いますからね。心配御無用ですよ。」
 マ「そんな事無い!蒼星石だってれっきとした女の子だ。だからきっと守ってみせる!」
 蒼「ふふっ、そういう事はもっと度胸をつけてから言う事ですよ?」
 マ「ううっ・・・だったらこれからは頑張るからっ!!」
  まったく・・・今度のマスターは変な人だ。
  怖がりで、騒々しくて、そのくせわがままで、でも、なぜか一緒にいると落ち着くんだ・・・。
  なんだか・・・こうしてるととってもあったかいや。さっき抱っこしてもらっていた時みたいに安らいで・・・。
  また13日の金曜日が来れば・・・マスターはビデオを借りて・・・また・・・怖がって・・・ああしてくれて・・・




 マ「蒼星石、あのさ・・・。」
 蒼「・・・・・・・・・。」
  呼びかけに対する反応は無い。
 マ「あれ、寝ちゃったの?」
  かわいい寝顔だな・・・なんとしても守りたい、そう思える。
 マ「度胸か・・・確かにこのままじゃいけないな・・・。」
  蒼星石をそっと抱き上げると近くにあった鞄にそっと寝かせる。
 マ「ありがとう、僕に勇気をくれて・・・。」
  ほんのちょっとだけど、強くなれた気がした。



  [つづく ※話としては完結だけど、エピソードとしては次の13日の金曜日の話に続く]