マ「今日は休みだってのに雨か・・・。」
  外は秋雨前線とやらのせいか、結構な雨が降っている。
  まあどうせ今日中にやらなくてはならない課題がある。数時間くらいかかりそうな大物だ。
  むしろ外を出歩かなくてはならない平日でなくて良かったというところか。
  そんなことを考えながらボーっと窓の外を見ていると蒼星石が声をかけてきた。
 蒼「すごい雨だね・・・。」
 マ「うん、なんだか気分も暗くなっちゃいそうだね。」
 蒼「やだなあ、そんなことを言わないでよ。」
 マ「家の中でもなにかパーッと騒いだり出来ればいいんだろうけどね。」
 蒼「パーッとは無理だけど・・・二人で遊んだりとかなら出来るかもね。」
 マ「何かする?」
 蒼「じゃ、じゃあ・・・もしマスターが忙しくなければ、一緒に遊んでくれたら・・・。」
  珍しく蒼星石がそんなことを言う。まだ時間もあるし、ちょっと位なら遊んでも大丈夫だろう。
 マ「さて、それじゃあ何して遊ぶ?」
 蒼「う、うん・・・トランプだとか、オセロだとか、・・・うーん、どれがいいかなあ。」
  どうやら候補が一杯あって悩んでいるらしい。
 マ「よーし、それじゃあ全部やってしまおう!」
 蒼「え、でもそんなにたくさんいいの?」
 マ「まあまあ、蒼星石が楽しんでくれれば自分も楽しい。それじゃあ早速始めよう。」
  そんなわけで早速オセロからやる事にした。


 マ「ありゃ、負けちゃった。」
 蒼「惜しかったね。」
 マ「よーし、もう一回!」
 蒼「でももう大分時間が・・・。」
 マ「負けたら夕食作るから!」
 蒼「いや、そんな事してもらわなくても。」
 マ「とにかくもう一回、ね?」
 蒼「ふふっ、はいはい・・・。」


 蒼「あ、今度は負けちゃった。」
 マ「やったー!勝ったぞ!!」
 蒼「参ったなあ、じゃあ夕食は僕が作らなきゃだね。」
 マ「・・・ひょっとして、負けたのわざとじゃないよね?」
 蒼「あ、いやその・・・じゃあもうそろそろお夕食の準備を始めないとだから。楽しかったよ、ありがとう。」
 マ「え、まだこんな早い時間じゃないの。」
  確かにオセロを二回戦やった割には、時間は大分経ってしまっている。
  蒼星石はしっかりと手を読んで厚く指すタイプで、こちらも長考はしないが多少はしっかりと読んで打ったからだ。
  だけどまだ時間は気にしなくても良いと思うのだが・・・。
 蒼「でもやっぱりマスターに食べてもらう物には少しでも手をかけたいし、僕は要領も良くないから・・・。」
 マ「たまには少しぐらい遅れて食べてもいいじゃない。それよりもまだやりたい事があったらお付き合いするよ。」
  そう言って取り出したトランプを切る。
 翠「お、人間、トランプですか。翠星石も混ぜろです。」
 マ「うわぁ、いきなり出たぁ!!」
 翠「人を化け物みたいに言うなです。どうせ二人じゃやれるゲームも限られますよね?だから一緒にやってやるです。」
 マ「じゃあそうしましょうか。」
  そんで七並べやら神経衰弱やらをやることにした。
 翠「きーーーっ、またやられたです。てめえの非人道的な仕打ちは許せねえですよ!」
 マ「ふふん、戦略ってやつですよ。」
 蒼「ねえ、そろそろ夕食の時間だから・・・。」
 翠「おっ、もうそんな時間ですか。それじゃあ翠星石は帰るですよ。あっという間でしたが楽しかったです。」
 マ「よーし、じゃあお次は二人でやるゲームと行こうか。」
 蒼「え、でも時間が・・・。」
 マ「いいから、いいから。蒼星石だってたまには遊びたいんでしょ?」
 蒼「そ、それは・・・。」
 マ「いや?」
 蒼「いやじゃないけど・・・。」
 マ「じゃあやろう。蒼星石と二人っきりでも何かやりたいし。」
 蒼「う、うん。それじゃあお願いします。」
 翠「やれやれ、程々にしておけですよ。」


 マ「あー楽しかった。」
 蒼「ごめんなさい、マスター。」
 マ「ん、どうしたの?」
 蒼「もうこんな時間になっちゃって、今からご飯の仕度をしたら夜遅くになっちゃう・・・。」
 マ「ああ、たまには店屋物でも取ればいいよ。」
 蒼「でも・・・マスターに食べてもらう物を作るのは僕の仕事なのに・・・。」
 マ「いいって、いいって。かく言う自分も大物の課題を放っぽっちゃったから、おあいこだよ。」
 蒼「え、そんなのあったの!?ごめんなさい、僕のわがままにつき合わせたせいで・・・。」
 マ「そんなんじゃないって。あくまでも自分で決めた事だよ。
   課題の一回くらいなんでもないし蒼星石が喜んでくれるならそっちを優先したいしさ。」
 蒼「・・・そうだったんだ。マスター、今まで付き合ってくれてありがとう・・・。」


  結局その後は夕飯を出前で済ませて寝てしまうことにした。
  まあ蒼星石も楽しそうにしてたしたまにはいいさ。


  ・・・・・・ん・・・目が覚める。
  いつもどおりの朝、のはずだが何か微妙に違和感があるような・・・。
  蒼星石が起こしに来てくれなかったからだろうか。
  眠い目をこすりながらふと気づく。
  鞄が無い。いつも寝室にあるはずの蒼星石の鞄が。
  どこかに出かけたのだろうか?こんなに朝早く?
  嫌な予感に駆られて慌てて家中を探し回る。なぜか朝食の用意は済んでいたが蒼星石の姿はどこにもなかった。
  くたくたになって食卓に着く。そこで初めて手紙が置かれている事に気づいた。


    マスターへ

   今までずっとありがとうございました。
  昨日はとても楽しかったです。僕のためにマスターの貴重な時間を割いてもらってすみませんでした。
  今まで、僕なんかでも身の回りのお世話等をして少しでもマスターのためにお役に立てればと思っていました。
  でも、昨日みたいに自分の気づかぬうちにわがままを言って、マスターにご迷惑をかけていたのではないかと思うと
  申し訳なくてたまりません。だから、これでお別れです。楽しい思い出をいっぱいありがとうございました。

   これからはマスターも自分のために自分の時間を使って下さい。
  偉そうな事を言うだけではなんなので、これがたぶん最後になりますが、僕も自分の務めを果たします。

   マスターの今日の朝ごはん、これが最後かと思うと悲しくてなりません。
   出来れば冷めないうちに食べてもらえたらと願いつつ、いつもよりも、
   少なくとも昨晩の分を補える以上には手をかけたつもりです。
   あと、僕の先延ばしにし続けてきた宿題、アリスゲーム。
   もうマスターに会えないのではと思うとそれだけが残念です。


   今まで本当にありがとうございました。   さ よ う な  ら


  最後の方は、蒼星石の達筆が見る影もなくぐしゃぐしゃになっていた。
  涙を流しながら書いたのだろうか、字も滲んでいる。
  そこに新たな涙が追加され、さらに文字がゆがむ。もう一文字も読めない。
  ・・・自分のせいだ。自分が、蒼星石のためという名目で自分のすべき事、したくない事から逃げたからだ。
  自分の背負うべきものまで全部、言い訳しては蒼星石に押し付けてしまったからだ。
  だから、だから・・・。
  もう・・・蒼星石は帰って来ないんだ・・・。
  取り返しようの無いことを嘆きながらただ泣き続けるしか出来なかった。

















  「マスタ・・・マスター・・・マスター!!」
 マ「う・・・うーん。」
  「どうしたの?すごいうなされてたよ。・・・涙まで出てる。」
 マ「あ・・・蒼星石!?」
  時計を見る。どうやらまだ寝てから数時間しか経っていないようだ。
  じゃあさっきまでのは・・・夢か・・・。
 蒼「うん、そうだけど・・・ひゃぁ!どうしたのさ、いきなり抱きついて。」
 マ「ごめん、ごめん。今まで・・・ごめん。」
 蒼「・・・どうしたの?」
 マ「あ・・・いや。ちょっと怖い夢を見たんだ。それだけだよ。」
  よもや夢の内容通りの事を実行されたりはしないだろうがあえて黙っておく事にした。
 蒼「でも大丈夫?安眠できなそうなら僕が・・・。」
 マ「いやいいよ。今夜はもう寝ないから。」
 蒼「え、そんなに怖い夢だったの!?それは大変だ、僕に任せて!!」
 マ「違うよ。さっき寝る前に言った課題ってやつ、今からどこまで出来るかはわからないけどやれるだけやろうと思ってね。」
 蒼「え・・・?」
 マ「このままじゃ蒼星石のせいにしてサボった事になっちゃうからね。・・・蒼星石はずっと支えてくれてたのに。」
 蒼「・・・そっか、それじゃあ頑張ってね。」
 マ「うん、頑張るよ。蒼星石のおかげだ。」


  改めて課題に取り掛かる。朝までかかりそうだが何とかできるだろう、いややってやるさ。
  ふと窓の外を見る。もう雨はやんでいたようだ・・・。
 蒼「マスター、簡単なお夜食と眠気覚ましのココアを用意したよ。」
 マ「・・・どうやら、お見通しだったのかな・・・。」
 蒼「なんのこと?」
 マ「いや、なんでもないよ。僕なんかを支えてくれる人たちのためにも頑張らないとだな・・・。」
  窓の外、こちらを叱咤するように翠の光が飛び回っていた。