A. 翠星石は僕の膝に座ること!


 翠「な、なんでてめえなんぞの膝の上で・・・!」
  案の定、翠星石は異を唱える。
 マ「はっきり言って無茶な取り方しそうだから監視できるように。あと、これ以上騒ぐのなら・・・。」
 翠「了解です。寿司のために我慢してやるです。」
  現金にも翠星石はすぐに言うことを受け入れた。



 翠「あ、あれ取れです。」
 マ「はいはい。」
 翠「お次はあれも逃がすなです。」
 マ「ほいほい。」
 翠「あれもうまそうですよ。」
 マ「ラジャー。」
 翠「む、あれはぜひ食べてみたいです。」
 マ「アイアイサー。」
 蒼「マスター・・・結局ほとんど翠星石の言いなりになって取ってるじゃないかあ。」
 翠「ご苦労です。半分ずつ分けてやるから食えです。」
 マ「あ、そう?じゃあ一貫もらうね。」
 翠「ふふふ、これでより多くの寿司ネタを楽しめるという寸法ですよ!」
 マ「あー、それは正しいかもね。じゃあ、僕が取ったえんがわを一貫あげるね。」
 翠「むっ、これはいけるです。なかなか目が高いですね。」
 マ「でしょ、でしょ。好きなんだよね、それ。」
 翠・マ「あはは・・・。」
  予想外に二人は和気藹々と食事をしている。
  そんな二人の様子を見て蒼星石が何やらブツブツと言っている。
 蒼「・・・何が監視なんだか。あれじゃあまるで、仲良くデー・・・。いやいや!」
  蒼星石が頭に浮かんだ考えを振り払うようにぶんぶんと首を振る。
 マ「蒼星石どうかしたの?」
 翠「そんなにまで一つ一つをじっくりと味わって食べずともまた来ればいいですよ。」
 マ「あっはっは、あんまり調子に乗ると流石に怒るよ?」
 蒼「・・・どうせ、口だけの癖に・・・。」
  蒼星石がボソッとつぶやく。
  何やらただならぬ気配を帯びたその言葉を耳にして、隣の席の二人に動揺が走る。
 マ「え、あの、その・・・いや、ちゃんと実行にも移すぞ!」
 翠「しゃあねえです、やってくれですよ。」
 マ「よーし、あんまりわがままばっかり言っちゃあ駄目でしょ?めっ!」
  マスターが翠星石の頭を軽くはたく。
 翠「うー、痛いです。ごめんなさいですぅ。」
 蒼「・・・二人ともなんだか楽しそうだね。ひょっとして僕ってお邪魔?
   家でおとなしくお留守番していれば良かったかな、あはは・・・。」
  二人が懸命にフォローを試みるも、逆効果にしかならなかった。
 翠「ちょっと、お前いったい何をして怒らせたですか!?」
 マ「知らないよ。翠星石が変な裏設定つけようとしたからお母さんが真に受けちゃったんじゃ・・・。」
 蒼「お母さん?」
 マ「うん、お父さん、お母さん、娘の親子連れって設定だから。」
  順繰りに、自分、蒼星石、翠星石を指差しつつ言う。
 翠「なんで翠星石だけ子ども扱いするですか!」
 マ「いや、そういうところとか、普段の行いとか・・・。あと蒼星石の方がしっかりしてるし、それに・・・さ。」
 蒼「それに何?」
 マ「まあなんだ・・・その方が自分が自然に行動できるって言うかさ・・・。
   えーっと・・・まっ、とりあえず愛想を尽かせて捨てるのはやめてよね。」
  こんなところで言うのは照れくさかったし、万が一にでも誰かに聞かれたら不審な目で見られかねないと思ってごまかした。
 翠「こら、話をはぐらかすなです!」
 マ「はいはい、娘さんはお膝の上で暴れないでくださいね。」
  翠星石の頭をぽんぽんと叩いて適当にあしらう。
 蒼「だめだよ、駄々をこねてお父さんを困らせちゃ。」
  さっきまでと違って険の取れた蒼星石も微笑みながらそんなことを言う。
 翠「蒼星石までひどいです。翠星石はきっと橋の下で拾われた子なんですぅ。よよよ・・・。」
  なんだかんだで翠星石も乗ってきたようだ。
 マ「もう・・・泣いたりしないの。」
 翠「じゃあ、トロとイクラとウニを食べたいです。」
 マ「ちゃっかりしてるなあ・・・。まあめったに無い機会みたいだしお好きにどうぞ。」
 翠「やったです。なかなか気前がいいですね。」
 マ「たーだーしー、高いものだから蒼星石お母さんと分けて食べてね。」
 翠「えー、ケチくさいこと言うなです。」
 蒼「翠星石が一人で食べていいよ。」
 翠「本当ですか!すまないです蒼星石!」
  そう言って翠星石は流れてくるお寿司に釘付けになってしまった。
 マ「半分じゃ足りない?だったらもう一皿取っちゃえばいいよ。」
 蒼「僕はいいから自分が食べなよ?」
 マ「いや、蒼星石が食べないのに自分だけそんな。」
 蒼「じゃあもう一皿取っちゃう?」
 マ「いや・・・そんなに懐具合に余裕も・・・。そこまで食べたいわけでもないしさ。」
 蒼「だよね。それじゃあ僕らで分けっこしようか。」
 マ「いいって、僕の分はあげるよ。翠星石だって一人で一皿分食べてるんだからさ。」
 蒼「そんなのいいんだよ。それより僕も二人で分かち合って食べたいんだ。
   それにこういった場合には、やっぱり子供に贅沢をさせてあげないとね。
   だからさ、僕たちが二人で分けて食べようよ・・・ね、“あなた”。」