そんな沈黙を破ったのは蒼星石だった。
 蒼「・・・ねえ、せっかく作ったんだからお団子を食べてくれないかな?」
 マ「そうだね、干からびちゃってももったいないし、美味しくいただいたほうがいいもんね。」
 蒼「でも初めて作ったからまずかったらどうしよう・・・。」
  ちょっと不安げな様子を見せる。
 マ「普段から察するに大丈夫だと思うけどなあ・・・。まあどんな出来だっていただきますよ。」
  そんな蒼星石を勇気づけるように言う。
 蒼「変な味になっちゃってても全部食べてくれる?」
 マ「もちろんだよ。なんてったって蒼星石が作ってくれたんだからさ。」
 蒼「本当?約束だよ。」
  蒼星石が微笑みながらそんな事を言った。
 マ「はーい、じゃあいただきまーす。」
  笑い返しながらてっぺんに置かれたお団子をつまんで口の中に放り込む。
 マ「んぐっ!?」
  次の瞬間、口の中を灼け付く感覚に支配されて思わず右手で口を覆う。
  およそ想像していた味とはかけ離れていて、反射的に口から出しそうになる。
  その手を膝の上の蒼星石が押さえつけてきた。
 蒼「出しちゃ駄目だよマスター、約束したよね。食べてくれないとマスターのこと嫌いになっちゃうよ?」
  自分の口の中で何が起こったのか分からないまま、無慈悲な言葉を一方的に突きつけられる。
  ちらりと蒼星石の顔に目をやると、さっきまでの笑みが消えて真顔になっていた。
 マ「うぶっ!う・・・ん、んぐっ、うぅっ!!」
  閉じた両目に涙を滲ませながらコクコクと頷くと、口の中のモノをなんとか嚥下する。
 マ「はっ・・・はあっ・・・。げほ!けほっ・・・。」
  口の中だけでなく、食道、胃袋までもが熱い感覚に襲われる。
 蒼「あはは、マスターったらいきなり大当たりを引いちゃったみたいだね。ごめんね、びっくりした?」
  むせているこちらの様子にはお構いなしでそんなことを言い出した。
 マ「・・・大当たり?」
 蒼「ちょっと刺激が欲しいと思ってね。一つだけハバネロを入れてみたんだ。・・・それもたっぷりと。」
 マ「ハバネロなら食べた事があるけど、こんなには・・・。」
 蒼「これでも庭師だからね。いろいろな植物を手に入れるくらいなら訳無いよ。通常の三倍以上は辛い唐辛子とかね。」
 マ「・・・水を貰うよ・・・。」
 蒼「駄目だよ。」
  水差しを取ろうと手を伸ばしたが、あざ笑うかのように蒼星石が先に奪ってしまった。
 マ「そんな意地悪をしないでよ、もう口の中が・・・。」
 蒼「大惨事、だろうねえ。舌なんかえらい事になってるんじゃない?」
 マ「ヒリついて、火がついたみたいで・・・苦しいよ。」
 蒼「あーあ、マスターかわいそう。」
  まったくそうは思ってなさそうな様子でそんなことを言う。
 蒼「舌、見せてみて?」
  言われるがままに舌をべえ、と見せる。
 蒼「うっわあ、真っ赤になってるよ、痛々しいなあ。ごめんねマスター、お詫びに僕が飲ませてあげるからね。」
 マ「いや、自分で飲むよ。」
 蒼「遠慮しなくてもいいよ?たっぷりと飲ませてあげるからさ。」
  言うが早いかおとがいに手が掛けられ、上向きに口を開かされる。
  そこにどぼどぼと大量の水が一気に注ぎ込まれる。
 マ「ちょ・・・飲み切れな、うごっ・・・げはっ!」
  水が気管に入り激しく咳き込んでしまう。
  にも関わらず、注ぎ込まれる水の勢いは増すばかりだ。
 マ「が、ま・・待って。やめてったら!」
  必死で顔をそらす。当然ながら体が水でびしょ濡れになってしまった。
 蒼「ありゃりゃ、マスターったらお水をこぼしちゃって。困ったさんなんだから。」
  息も絶え絶えになって苦しむこちらの様子など見えていないかのような言葉を投げかけられる。
 蒼「まだ足りないよね。ほら、もっと飲ませてあげるよ。」
  そう言ってさらに飲ませようとしてくる。
 マ「げほっ、げほっ、・・・もういいよ。」
 蒼「あっ、そう。じゃあまたお団子を食べてもらえるかな。」
 マ「え!?」
 蒼「あはは、そんなに嫌そうな顔をしなくても大丈夫だよ。ハバネロ入りの大当たりなんて一個しか作らないって。」
  だけど・・・さっきの一個目がその唯一の『大当たり』だったのは果たして偶然なのだろうか?
  故意に一番上に置いて、こちらがそれを真っ先に手に取るのを見越した上で勧めてきたのだとしたら?
  だとしたら・・・今の蒼星石の言葉を鵜呑みにしてしまってもいいものなのだろうか。
  もちろん本当にゲーム感覚でたまたま一番上になってしまっただけという可能性もある。
  あるいはちょっとしたいたずら心で一つだけ後から作り足したというのは?
  考えれば考えるほど分からなくなってくる。いったい蒼星石はどんな意図があってあんな事をしたのだろうか?
 蒼「うふふ、僕の事が信じられない?」
  こちらの考えを見透かすように蒼星石が笑いかけてくる。
 マ「いや、いただくよ。」
  二段目のお団子のうちの一つをつまみ取る。
  このお団子を割って中身を確かめるのはたやすいが・・・
  それでは蒼星石を信じられないと認めた事になる。
 蒼「どうしたのかな?」
  蒼星石はそんな風に懊悩する様子を楽しむかのように笑いながら決断を促す。
  このまま食べよう、正直言って暗い考えを完全には振り払い切れない。
  だけど今の自分は蒼星石に対して疑念を抱いてしまっている。そんな自分が何より嫌だった。
  あくまでも蒼星石を信じる自分を貫こうと、お団子を口の中に放り込んだ。
 マ「・・・んぐぅ!?」
  お団子を口にした顔がさぞや苦悶に歪んだことだろう。
  確かに辛味ではない、しかしこれまた嫌な刺激が襲い掛かってくる。
 マ「う、んぐ・・・むぐ。・・・ごくり。」
  二回目のせいか、今度は多少余裕を持って口の中の異物に対処できたようだ。
 マ「か、はぁっ!・・・これは・・・塩か。」
  じゃり、としたおぞましい食感がいまだ舌の上に残っているようだ。
  味の強烈さもさることながら、圧倒的な辛さに火傷したも同然の舌に塩が追い打ちをかける。
  もはや精も根も尽きはて、はぁはぁと肩で息をしながらがっくりとうなだれる。
 蒼「どうやら今度のは当たりのようだね。ちゃんとお塩の一日の摂取量は考えてあるから大丈夫だよ。」
  確かに・・・『大当たり』はもう無かったという事か・・・。
  同時にその言葉で確信する。
  間違いなくこれは計画的に、明確な意図を持って仕組まれていたことだ。
  少なくとも夕食を用意する時にはもう一連のことが決定済みだったと見て間違いないだろう。
 マ「・・・なんで、なんでこんなひどい事をするのさ!単に僕のことを嫌いなの?
   それとも気に障ったことがあるのなら、きちんと謝るからはっきりと言葉で伝えてよ!!」
   俯きながら必死に蒼星石の真意を問うた。
   少なくとも怒らせるような事をした覚えはないし、知らず知らずに傷つけていたのならまずその事は謝りたい。
 蒼「違うよマスター。・・・むしろ逆さ。」
  優しく、言い聞かせるような声が返ってきた。
 マ「え、じゃあなん・・・」
  予想外の反応に疑問を口にしながら顔を上げたところで言葉を失う。
  蒼星石は・・・笑っていた。満月をバックに背負い穏やかに微笑んでいた。
  その笑みは、まるで母親が自分の子供に向けるような、慈愛さえ感じさせるような・・・。
 マ「・・・とにかく、水をおくれよ。」
  異常な事態に頭が混乱するのを必死にこらえ、水差しを渡すように目で促しながら手を伸ばす。
 蒼「でもなあ・・・さっきみたいにまたこぼされても困るからね。」
 マ「自分で飲めば大丈夫だから!」
 蒼「えーっ、どうしようかなあ・・・。」
  蒼星石は迷っているかのような素振りを見せながら、しばらく水差しの中の液体をくゆらせていた。
  結局、軽く鼻で笑うと手にした水差しに口をつけ、残りわずかの水を見せびらかすようにして空けてしまった。
 マ「そんなに僕が憎いか・・・。」
  怒りよりもむしろ空しさと悲しさを覚えて力なくうなだれる。
  そんな自分の肩を蒼星石がちょんちょんと叩いてきた。
  ぼんやりと顔をあげたところを、不意を突かれて唇を奪われる。
  蒼星石の口から自分の口の中に水が流し込まれる感覚がある。
  そのまま蒼星石の舌が侵入してきて口内を、特に舌を執拗にねぶられる。
 マ「もういいっ!」
  蒼星石を体から引き剥がす。
 蒼「ね?嫌いな人にだったらこんな事できないよ。」
 マ「なんて真似を・・・。」
  体がわなわなと震えているのが分かる。
 蒼「どうしたのさ、舌が大変な事になったってマスターが言うから念入りに処置してあげようとしたのに。」
 マ「・・・蒼星石こそどうしたってのさ。今日の蒼星石、なんか・・・・・・おかしいよ。」
 蒼「あれえ、こういうの嫌いだった?でもなんかマスターの方からも舌を絡めてきたよね?」
  こちらの問いかけなどお構いなしにからかう様な口調で言われてしまう。
 マ「そ、そもそもそういう問題じゃなくって!」
 蒼「ふふっ、言ったよね、僕もマスターを包み込めたらって。確かに僕の体じゃあマスターの体を包み込めない。
   だけどね、気づいたんだ・・・だったらあなたの心の方を包み込んでしまえばいいんだってね!」
 マ「こんな事をしなくたって、もう十分に・・・。」
 蒼「違うよ、僕が欲するのは本当のあなただ。」
 マ「蒼星石に嘘や隠し事なんて何もないよ。信じて!」
  こちらの懇願に蒼星石は冷たく首を振る。
 蒼「そうじゃないんだ。そういった遠慮、建前・・・そして理性、それらすべてを剥ぎ取ったあなたが欲しいんだ!」
 マ「そんな事を言ったら誰だって、それこそ蒼星石だって同じじゃあ・・・。」
  そこまで口にしてハッとする。
 蒼「そう、僕はもうそういったしがらみから解放されたんだ。次はあなたの番だよ・・・。」
  蒼星石がこちらの股間を覗き込むように屈みこんで、カチャカチャと何かをいじる。
  どうやらベルトを外しているらしい。
 マ「やめるんだ、蒼星石。」
  止めようにもショックの連続ですっかり参ってしまったのか、なんだか気だるくてそれも叶わない。
  あっという間に下着まで脱がされてしまう。
 蒼「なんだかぐったりとしちゃってるね。やっとお薬が効いてきたのかな?」
 マ「クスリ?」
 蒼「そう、誰かさんは本当に素直じゃないからね。
   力が抜けて、気持ちいい気分になっちゃうお薬をさっきの水に入れておいたんだよ。」
 マ「馬鹿な、そんなものがある訳・・・。」
 蒼「忘れたの?僕は庭師だって事。」
  つまり・・・得体の知れない植物を使ったってことか。
 蒼「ふふっ、察しはついたみたいだね。どう、悔しい?自分の意に反していいようにされちゃってさ!」
  蒼星石の足が剥き出しにされたこちらの股間に狙いを定めてきた。
  先程の口づけの興奮の痕跡を見せるそれをぎゅっと踏みつけてぐりぐりとえぐってくる。
 蒼「あれ、反応が無いね?」
  拍子抜けしたように言った。
 マ「当たり前だろ、そんな事で悦ぶなんて変態じゃあるまいし・・・。ただ痛いだけだよ。」
  抵抗はできずとも異常な事態に流されまいと、毅然とした態度で反論する。
 蒼「ふふっ、そう・・・。じゃあ痛めつけちゃったお詫びをしてあげなきゃね。」
  その言葉を境に、一転してさっきまでとは違う、優しい刺激が敏感な部分を襲う。
 マ「こ、こらっ。もうやめてったら。」
  蒼星石が両手でくるむようにして優しくなでてくる。
 蒼「でも痛くしちゃったままじゃ悪いからねえ。まだ痛みが残ってるんじゃないの、触るとビクビクしてるよ?」
  すっとぼけた様子で話をしながらも手の動きは休めない。
 蒼「あれえ、やっぱり痛かったんだねえ、なんだか涙を流しちゃってる。ごめんね、よしよし。」
 マ「駄目だって!もう・・・手を放してくれ!!」
 蒼「ほーら、痛いの痛いの飛んでけー。」
  片手でしっかりと掴まれたまま、もう片手に亀頭をさすられる。
  ついに限界を超えてしまい、その証が蒼星石の手の中に収まってしまった。
 蒼「あはは・・・痛みじゃなくって別のものが飛んじゃったね。」
  何も言うことも出来ずに、ただただじっとしている。
 蒼「へえ・・・初めて見たけど思ったよりも少ないんだね。それとも最近話題の精子が減っているってやつかな?」
  手の中のものをじっと見つめながらそんな感想を漏らす。
 蒼「うふふ・・・せっかくだから味も見ておこうかな。ふうん・・・苦いや、それに匂いにもクセがあるかな・・・。」
  蒼星石は手についたものを飲み込むと、自分で手をぺろぺろと舐めてきれいにする。
 マ「やめてよ!そんな・・・穢らわしい・・・。」
 蒼「おやおや、自分で出しておいて結構な言い草だね。」
 マ「だって・・・仕方ないじゃないか。蒼星石が変な物を飲ませるから・・・。」
  羞恥に狂いそうになりながらなんとか反論する。
 蒼「ああ、アレね。アレはただの水だよ。そんな便利な物があるわけ無いじゃない。」
  小馬鹿にするようにくすくすと笑いながら言った。
 マ「え!?なんでそんなことを・・・。」
 蒼「あなたは素直じゃないからね。自分を解き放つお手伝いをしてあげただけさ。これでもう分かったでしょ?つまり・・・」
 マ「・・・やめてくれ!」
   蒼星石の言わんとすることを察し、無駄とは分かりつつ制止を試みる。
 蒼「あなたは自分が望んでいたから抵抗もしなかったし、されるがままに欲望を放ったって事だよ!」
 マ「違う・・・そんな事を望んでなんていやしない・・・。」
 蒼「そうなの?本気で逃げる気があれば体は動いたはずなのにねえ・・・。
   どんなに言い訳したって、一部始終されるがままだったのは自分の意思だったって訳さ。」
  こちらが窮する様子をさも愉快そうに眺めている。
 蒼「さあ、いよいよ仕上げだよ。」
 マ「これ以上・・・何をするって言うのさ・・・。」
 蒼「まだ体の方はともかく、精神の方は僕に屈し切っていないみたいだからね。心の方も委ねてもらうよ。」
 マ「いやだ!もうやめ・・・」
 蒼「おだまりよ!」
 マ「うぅっ!」
  蒼星石の足が再び股間を襲う。
 蒼「あれ、今度は反応があるね。ちょっとは素直になったじゃない。」
  確かに・・・ただの苦痛でしかないはずの刺激になぜか体が反応してしまう。
 蒼「あはは、空気入れみたいだ。踏めば踏むほどパンパンに膨らんできたよ。
   さっき出したばかりなのに随分と元気みたいじゃない。」
  そんな実況になど耳を貸したくはなかったが、なぜか逆らうような事が出来なかった。
  俯いたまま、ひたすらされるがままになっていた。
  しばらくすると蒼星石が足の動きを止めて耳打ちしてきた。
 蒼「ねえ、そろそろ素直になったらどう?素直になってあるがままの自分と、僕とを受け入れるんだ・・・。」
  素直に・・・素直って・・・?
  蒼星石の口から呪文めいた言葉が紡がれる。
 蒼「ほら、こっちをしっかりと見て・・・。」
  その言葉のまま、ぼんやりと視線を送る。
  直立した蒼星石の背後に満月が輝いている。
  まるで後光が差しているかのようだった。
 蒼「さあ、どうしたいのか言ってみて?」
 マ「あ、あ・・・。」
  月の光が静かに差してくる。
  妖しい光が僕の目を、脳を貫く。
 蒼「さあ・・・早く続きをおねだりよ。」
 マ「・・・もういいよ、もういいんだ・・・蒼星石・・・。」
  直立したままの姿勢を崩さない蒼星石の肩に手を回し、そっと抱きしめる。
 蒼「突然どうしたの?」
 マ「蒼星石・・・ありがとう。やっと・・・君の気持が理解できたよ・・・ありがとう。」
  蒼星石もこちらの体に手を回してくる。
 蒼「よかった・・・。僕もうれしいよ、ありがとう。」
  互いに理解し合えた二人は、幸せに包まれながら抱き合い続けた。



      マ ン ゲ ツ ハ、 ヒ ト ヲ ク ル ワ セ ル・・・