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 マ「ただいま。」
  最近にしては珍しく、夜になっての帰宅だった。
 蒼「お帰りなさい。今日は遅くまでお疲れ様でした。」
  暗くした部屋の中、窓辺で夜空を見上げていた蒼星石が出迎えの挨拶をしてくれた。
  月光を浴びながら振り向いた彼女は、普段にはない妖しげな美しさを醸し出しているようにも見えた。
 マ「そうか、今日って中秋の名月ってやつだっけか。」
  そう言えば周りの連中もなんか落ち着かないというか、やけにうきうきとした感じだった。
  窓辺には月見団子のみならず、ススキやら水差しやらも置かれている。
  すでにお月見のセッティングが万端に整えられているようだ。
 マ「ずいぶんと本格的だね。ススキも用意してあるし、お団子もちゃんとこの台・・・・・・えーと・・・。」
 蒼「三方(さんぼう)、でしょ。」
 マ「そうそう、それそれ!」
  三方の上には少し大きめのお団子がピラミッド状に並べられている。
 マ「ひょっとしてお団子も手作りなのかな?」
 蒼「うん、お夕飯の仕度をした後で作ったんだ。」
 マ「なんだか気合が入ってるねえ。」
 蒼「雨でお流れかと思ってたからね。その分ついつい張り切っちゃったのかもね。」
 マ「これは楽しみだなあ。こんな風にお月見をするのは久し振りだよ。」
 蒼「だけどお月見の前に夕ご飯を済ませちゃわない?」
 マ「そうだね、もう結構な時間だしね。先に食べちゃおう。」



 マ「ご馳走さまでした。」
 蒼「どうだった、お味の方は。」
 マ「美味しかったけれど・・・今日は随分と薄口の味付けだったね。」
  気のせいだろうか、ほとんど塩気が感じられなかった。
 蒼「やっぱりそうだった?物足りなかったかな?」
 マ「いや、僕はもともと調味料はほとんど使わないからこの位でも気にならないよ。
   揚げ物や生野菜なんかにも基本的に何もつけないで食べちゃうし。
   健康にでも配慮して塩分控えめにしてくれたの?」
 蒼「うん、まあそんなところかな・・・ごめんなさい。」
 マ「相変わらずそんなに気遣ってくれちゃって。こちらが申し訳ないくらいだよ。」
  味付けのことを必要以上に気にかけていそうな蒼星石の頭をそっとなでる。
 蒼「そう?ありがとう。」
  そう言って微笑んでくれたのでこちらもほっとする。
 マ「じゃあ早速だけどお月見と洒落こもうか。」
  大急ぎで洗い物を済ませると、部屋の電気を消して窓辺へ腰を下ろす。
 蒼「お団子を食べるならお茶を入れよっか。」
  まだ台所で片づけをしていた蒼星石が言った。
 マ「うーん、今日はなんとなく何も飲み食いしないでただ月を眺めたい気分かな。花より団子の真逆ね。」
  蒼星石の提案をやんわりと断る。なんだか今日の月には不思議と気になるものがある。
  手招きして後からやってきた蒼星石を自分の膝の上に乗っける。
  しばし二人で月に見入る。
 マ「月はいいなあ。なんだか心が洗われる気がする。」
 蒼「そうだね。・・・ねえ、マスターはお日さまとお月さまのどっちが好き?」
  急に蒼星石がそんな質問をしてきた。
 マ「そうだなあ、別にどっちも嫌いじゃあないけどなんとなく月の方が好きかな。
   太陽って頂点とか宇宙の中心とかの象徴みたいで、すごく偉大で強いみたいなイメージはあるけれど、
   まぶしくって直視は出来ないし、なんか近寄りがたい気がするんだよね。
   月ならじっと眺められるし、なんか静かさと儚さを感じさせるし、厳かでどことなく魅惑的だよね。」
 蒼「僕は太陽かな。いろいろな植物や生命に恵みを与えてくれる、明るくて、暖かな光を注いでくれるところが。
   ・・・・・・僕にとってはマスターがそういった存在なのかもしれない。」
  最後に小声でそう付け足した。
 マ「なら蒼星石はなんとなくお月さまみたいなイメージがあるかな。」
  蒼星石の言葉に応える感じでそう言ってみた。
 蒼「そうかもしれないね。僕は月と一緒かもしれない。自分だけでは輝くことができない。
   ただ太陽の光を反射しているだけで・・・。マスターという太陽がいないと僕も光を放てはしないんだ。」
  軽い気持ちで口にした言葉に蒼星石が神妙な面持ちで答える。
  他愛のない冗談ならいいが、どことなく自虐的ともとれる発言が返ってきた。
 マ「やっぱり自分は地球がいいかな。それでお月さまといつも一緒に周ってるの。」
  自分の軽はずみなひと言で傷つけてしまったのではないかと思い、元気づけるようにあえて脳天気に言う。
 蒼「・・・でも月って地球にはいつも同じ面しか見せていないんだよね。」
  何やら意味深な事を言われてしまった。
 マ「・・・いつでも見てくれてるってことだよね?」
  腕の中の蒼星石をぎゅっと抱きしめる。
 蒼「こうしていると、とても落ち着けるんだ。まるでマスターにすっぽりと包み込まれたみたいで・・・。」
 マ「うれしいこと言ってくれるじゃないの。なんならずっとだってこうしていたいよ。」
 蒼「でもね、同時にひどく不安になりもするんだ。僕はこういう風にマスターを包み込むことはできない。
   いつかマスターが僕を必要としなくなってどこかに行ってしまうんじゃないか、って・・・。」
 マ「何を馬鹿なことを言い出すのさ。そんな事があるはずないでしょ?」
 蒼「満月のせいかな・・・変な事を言っちゃったね。ごめんねマスター、あんまり気にしないで。」
 マ「いや、変だなんて思わないよ。自分だって・・・蒼星石と同じ不安を抱いているんだから。」
  それを聞いた蒼星石が無言で体を預けてきた。
  そのまま二人とも一言も発することなしに、しばらく月を眺めていた。
  だがそれは、とても心地よい静寂だった。