マ:「たらいまー。」
   今日は病み上がりということで半休使って早々に帰宅。
蒼:「マスター、おかえりなさい。」
雛:「おかえりなさ~い。」
マ:「お?」
   これは珍しいお客さんというか。蒼星石と共に雛苺が玄関に出迎えにきてくれた。
マ:「これはいらっしゃい。雛苺。」
雛:「おじゃましてま~す。」
   俺が靴を脱ぎ床に上がると二人が笑顔を浮かべながらそれぞれ俺の脇に寄り添ってきた。
   ううーむ。状況がよくわからんが、とりあえず二人を伴い、玄関からリビングへ移動する。
   リビングを見渡したが他の子達は来てないようだな。
マ:「雛苺だけ来たのかい?」
雛:「うん。ヒナだけよー。」
マ:「ほうほう。」
   俺は蒼星石に鞄を渡しながら訊く。
マ:「雛苺だけとは珍しいね。なんかあったの?」
蒼:「うんとねぇ・・・、雛苺ったら真紅と喧嘩してね。しばらくここに居させてって。」
マ:「真紅と?」
   雛苺の喧嘩相手といったら翠星石と、俺の中でイメージがあったんだが。 
雛:「うゆ~。ヒナはくんくんと一緒に遊んでただけなの~!」
   またくんくん絡みかいな。
マ:「一緒に遊んでただけじゃ、真紅もそんな怒らんだろう。雛苺、なんかやったんじゃないの?」
雛:「うゆ~・・。」
蒼:「それがねぇ、マスター。雛苺ったら、真紅のくんくんにクレヨンで落書きしちゃったんだ。」
マ:「なんでまた?」
雛:「だから~、落書きじゃないの~! お化粧なの~!」
   お化粧~?
   あのワンコロにお化粧?
マ:「いや、仮にお化粧たって、くんくんは男だろ。・・・・く、は、ハハハハ。」
   雛苺の言い分、クレヨンで汚されたくんくん、それを見て激怒する真紅を想像し、俺はつい可笑しくなって笑ってしまった。
雛:「うにゅ~!」
   雛苺は自分のどこに落ち度があるのかわからないようでむくれている。
マ:「それで、真紅から雛苺を匿ってるってわけか。」
蒼:「うん・・ま、そんなとこかな。」
   ここは駆け込み寺じゃないんだがなぁ。
蒼:「マスターが迷惑だったら・・・他のとこに移るけど・・・・?」
   うーむ・・・・。他のとこって柴崎さんとこか。
マ:「そんなに真紅怒ってるのか?」
   傍らの雛苺に尋ねる。
雛:「もうね、こーんな角が生えてね、ガオーって、すんごい怒ったのよ~!」
   雛苺は人差し指を角のように頭におっ立てて力説した。
   ほーう、それは怖いねぇ。
マ:「その時、蒼星石もいたのかい?」
蒼:「うん。もう、とりなす隙も無いというか。たまらず逃げてきたんだよ。」
マ:「ふえ~。」
   蒼星石と雛苺が救いを求めるように俺に眼差しを向ける。
マ:「あー、わかったよ。ほとぼりが冷めるまでここにいなされ。」
雛:「わー、ありがとなの~。」
   雛苺が満面の笑顔を俺に向けた。
蒼:「ふふ。じゃあ僕は昼食の準備してくるね。」
   蒼星石がキッチンの方へ向かった。
   さてと・・
雛:「どこいくの~?」
マ:「ん、自室で着替えるんだよ。おきが・・・」
   お着替え見たい?と続けて口に出掛かるのを慌てて引っ込める。
雛:「うにゅ~?」
   さすがに、この子にそういう冗談はNGだよな。
   なら蒼星石にはそういう冗談言ってもいいのか?と言われると・・・言ってもいいんですよ。
   俺は訝しがる雛苺を後にし、自室へ向かった。
   ラフな服装に着替えてリビングに戻る。
   雛苺は床にスケッチブックを広げてお絵描きの真っ最中だった。
   お。
   リビングのテーブルに湯気を立てたお茶が一杯置かれているのを見つけた。
   昼食の準備の合間を縫って、蒼星石が俺のために淹れてくれたんだろう。
   俺はありがたくお茶を口にしながらお絵描きに没頭してる雛苺の元に行った。
雛:「るん~るる~ん♪あ、マスターさん。」
   真紅と喧嘩中だというのにえらくご機嫌な雛苺の背後からその絵を覗き込む。
   ん?
   んん~?
   お、この絵はもしかして・・
マ:「・・・俺と、蒼星石かい?」
   まるで幼稚園児が描いたように輪郭がハッキリしないわかりづらい絵だったが、多分そうだろう。
雛:「うん!」
   絵の中で、俺と蒼星石はニコニコ笑いながら手を繋いでいた。
   うーむ、なんだか照れるね。
マ:「よく描けてるな。」
雛:「うふふ、もう一枚描いたの~。」
   スケッチブックをめくると先程と同じく俺と蒼星石が並んでる絵が描いてあった。
マ:「ほう、こちらもよく描け・・・ん?」
   なんだか絵の中の蒼星石の様子がおかしい。
マ:「この蒼星石、泣いてるのか?」
雛:「そうなのよ~。」
   水色のクレヨンで、蒼星石の目から大粒の涙が流れているのが描かれている。
   俺の絵の方もなにかおかしい、手に銀色の細長い何かを持っている。
マ:「なんで?」
雛:「これはね~、蒼星石が食べられるところなの~。」
マ:「ぶっ。」
   思わず噴き出しつつも絵を注視する。
   てことは俺の手にもってるのはナイフとフォークか?
マ:「な、なんで俺が蒼星石を食べるんだ?」
雛:「遊園地で蒼星石食べたいって言ってたの。ヒナ確かに聞いたのよ。」(wikiのSS「遊園地へ行こう4」参照)
マ:「ぶっ。」
   そ、そんな昔の恥ずかしい話を今になって蒸し返されるとは。
   ああ、せっかく今まで忘れてたのに・・・。
マ:「あ、あれはだなぁ、違うんだよ。俺が言いたいのはね、蒼星石を食べたいんじゃなくて・・・。」
雛:「うにゅ~?」
マ:「蒼星石のお弁当をね、食べたかったんだよ。美味しそうだったから。」
   たどたどしくも説明に苦慮する俺。
雛:「うにゅ~? お弁当の蒼星石が美味しそうなの?」
   え・・・?
マ:「いやいや、ちがうって、美味そうなのは蒼星石で・・・いや、ちがうちがうちがう。美味しそうなのは弁当の蒼星石・・あれ?」
   なんかごっちゃになってきた。なんだ、俺のこの慌てようは。
雛:「うゆ~?」
蒼:「マスター、雛苺。お昼ご飯出来たよー。」
   昼食を作り終えた蒼星石がエプロン姿で呼んでいる。
マ:「あ、ああ、わかった。」
雛:「ごっはん~♪」
   俺と雛苺のやりとりが気になったのか蒼星石が近づいてきた。
蒼:「なに話してたの? あ、さっきの絵・・・。マスターに見せちゃったんだ・・・。」
   蒼星石が、雛苺の誤解を元に描かれた絵が公開されているのに気付いた。
雛:「うん、よく描けてるってほめられたの♪」
蒼:「そ、そう・・・。」
マ:「いや、まぁ、その。」
   ちと気まずい・・・。
マ:「・・・。」
蒼:「・・・。」
雛:「蒼星石~。」
   俺と蒼星石が押し黙ってると、不意に雛苺が真面目な顔になって蒼星石に呼びかけた。
蒼:「な、なに?」
雛:「蒼星石、美味しいって。もう食べられちゃったの?」
蒼:「え?」
雛:「食べられた時、痛くなかったの?」
蒼:「え、ええ?」
マ:「メシ! メシにしよう! メシ!」
   これ以上話が拗れてはたまらん。俺は両手で蒼星石と雛苺を食卓へと押しやった。


   食卓テーブルについた俺、蒼星石、雛苺。
雛:「いただっきま~す♪」
マ:「いただきまーす。」
蒼:「いただきます。」
   昼食はオムライスだった。雛苺は美味しそうに食べている。
   一方、俺と蒼星石は言葉少なめにオムライスをパクつく。
蒼:「・・・なんか平日なのに、マスターと一緒にお昼ご飯食べるの変な感じするね。」
   おそらくその変な感じのする真の原因はさっきのやりとりのせいだろうが、俺は黙っていた。
蒼:「それと、雛苺も一緒だしね。」
   蒼星石は雛苺に微笑みかける。
雛:「うふふ♪」
   雛苺も微笑み返す。
   俺はそんな様子をぼんやりと眺めながら食事を進めていたが
雛:「ねぇねぇ。」
マ:「うん?」
雛:「蒼星石ねぇ、いつもマスターさんのことばっかり話してるのよ~。」
蒼:「・・!」
マ:「ほう、どんな?」
   俺はニヤニヤしたい衝動を堪えながら雛苺から聞き出そうとする。
雛:「あのね~、昨日は帰りが遅くて心配したとか、今日は早く帰ってきてほしいなぁって。」
マ:「ほうほう。」
雛:「そんなことヒナに言ってもしょうがないのにね~。」
   ま、そうだわな。
   俺はチラリと蒼星石の方を見る。
   頬を赤らめ困った顔で俯きながらオムライスをつついている。
雛:「ほかにもねー」
蒼:「あ、あの、オムライスおかわりいる?」
マ:「あ、ああ。」
   まだ皿の上に二口ぐらいオムライスが残っていたが、蒼星石が無理やりおかわりを勧めてきた。
   俺は残り二口ほどのオムライスをかっ込む。
蒼:「雛苺は?」
雛:「ヒナそんなに早く食べれないの~。」
蒼:「はやく食べないとおかわり無くなるよ。」
雛:「うにゅ~。」
   オムライスを食べるのに懸命になる雛苺。
   かくして蒼星石は見事雛苺を黙らせるのに成功したのであった。
   残念。またの機会に訊くか。
マ:「ゆっくり食べなよ。雛苺。蒼星石はちゃんと取っといてくれるから。な?」
   蒼星石にも同意を求める。
蒼:「う、うん。」
雛:「ありがとうなの! もぐもぐ・・・。」


   はてさて、昼食と洗い物を済まし、三人で遊ぼうということになった。
マ:「何して遊ぶべえか?」
雛:「ヒナかくれんぼがいいの~♪」
蒼:「じゃ、そうしようか。」
マ:「よしきた。じゃ鬼決めのジャンケンしよう。」
   かくれんぼなんてやるのいつぶりだろうか。ちょっと思い出せない。
マ&蒼&雛:「じゃ~んけん・・ポン!」
マ:「む~。」
   自分の出した手を悔しそうにみやる俺。
   俺はパー。蒼星石と雛苺はチョキだった。あっさり負けた。
マ:「よし、じゃあ100数えるから隠れろ~。イチニサンソゴロクシ・・・・」
   壁に目を伏せ怒涛の勢いでカウントを始める。
蒼:「数えるのはやいよ!マスター!」
マ:「さ~さ、はやく隠れないと食~べちゃ~うぞ~。ケッケッケ!ハチクジュジュイチジュニジュサン・・・」
雛:「わわわ!食べられちゃうの~!」
蒼:「はやく隠れよう、雛苺!」
   二人の足音が遠ざかっていった。
      ・
      ・
      ・
マ:「キュジュハチキュジュク・・・ヒャク!」
   さ~てと、へへへ・・・哀れな子羊ちゃんたちを見つけましょうかね~。 
   俺はのっそのっそとリビングから移動した。
   腹式呼吸を駆使し腹の底から重低音且つおどろおどろしい声で
マ:「悪い子はいねが~!」
   なぜかなまはげの脅し文句を吐きながら探索する俺。
   バタッ!
   トイレを開けてみる。誰もいない。
マ:「悪い子はいねが~!」
   洗面所、脱衣所、風呂場を調べたが、いない。
マ:「わ~るい子はいねが~~!」
   のっそのっそと寝室に向かう。
マ:「悪い子はいねが~~!」
   寝室の扉口からそう呼びかけると・・・
雛:「いやなの~! 来ないで~!」
   俺のベッドの下から雛苺の声が返ってきた。
   俺はニヤリとほくそ笑む。
   重低音且つおどろおどろしい声で
マ:「そ~ご~か~!」
   ベッドの下に被さってる布団を取り払うと雛苺が頭を抱えてガクガクと震えていた。
   重低音且つおどろおどろしい声で
マ:「みぃ~つげだ~!」
   雛苺にぬうっと手を伸ばす。
雛:「食べちゃやなの~!」
マ:「あ、待て!」
   雛苺は俺の手をかいくぐり走って逃げてしまった。
雛:「やなの~!こわいの~!」
   トテトテトテ・・・・
   ありゃりゃ・・・
   泣きながら走り去ってしまった。
   重低音且つおどろおどろしい声で
マ:「まで~~!」



   俺は今、リビングにて蒼星石に正座させられている。
   雛苺は蒼星石の背に庇われながらメソメソと泣いていた。
蒼:「いったい何考えてるのさ、マスターは。あんな怖い声出しながら探してたら僕も・・・」
マ:「怖かった?」
蒼:「そ、それは今関係ないでしょ! マスター、雛苺泣かせちゃって!」
マ:「正直スマンかった。調子に乗りすぎた。なんであんなことしたのかわからない。今では反省している。」
蒼:「もう、本当に反省してるの?」
マ:「いや、別にそんな怖がらすつもりじゃなかったんだけどね。そんなに怖かったかい、雛苺。」
   蒼星石の後ろでまだ泣いてる雛苺になるたけ優しげに問いかけてみる。
雛:「う、ひっく、ぐす・・・こわかったの・・・・。」
   ありゃりゃりゃ・・・。
   俺はこめかみ辺りを人差し指でポリポリ掻きながら、これはどうしたものかと頭を悩ます。
   ほんと、調子に乗りすぎてしまったようだ。
蒼:「もう、こんなに怯えさせて。よしよし、大丈夫だからね、雛苺。」
   蒼星石が雛苺の頭を優しく撫でながらあやす。
   蒼星石、いいお姉さんぶりだなぁ・・・
蒼:「マスターッ!」
マ:「は、はい!」
   蒼星石のキツイ呼びかけに俺は思わず背筋をピンと伸ばす。
蒼:「雛苺に、ちゃんと謝って。」
マ:「はい・・・。」
   俺は雛苺の方へ居住まいを正し、真摯に語りかけた。
マ:「雛苺、怖がらせてごめんな。もうしないから許してな?」
雛:「本当・・・もうしないの?ひっく・・・」
マ:「ああ。」
雛:「ヒナのこと食べない・・?」
   どうも雛苺にとって俺はドール捕食者みたいな存在になってるらしい。
   ああ、俺があのときあんな失言しなければ・・・。
マ:「俺は誰も食べないよ。」
雛:「蒼星石も・・・?」
マ:「あ、ああ。」
   俺はチラッと蒼星石を見やる。ちょっと困った顔してた。
?:「これはどういうこと?」
   ん?
   雛苺でも蒼星石でもない、この声は・・・・
蒼:「あ、真紅・・・!」
   Nのフィールドを使って真紅がやってきたみたいだ。
真:「雛苺、泣いてたようだけど何かあったの?」
蒼:「はぁ、それがねぇ。マスターが雛苺を怖がらせて泣かせちゃったんだ・・・。」
   蒼星石がやれやれといった風に説明した。
   いやぁ、面目ない。
真:「そう・・・。雛苺、くんくんのこと反省してる?」
   雛苺が一瞬震えたがすぐに
雛:「うん・・。」
   と答えた。
真:「じゃあお仕置きの必要ももう無いわね。もうすでに泣いた後のようだし。」
   そして真紅がすっと俺の傍らに並び俺にだけ聞こえる程度の小さな声で
真:「大人げないわね・・・。」
   と呟いた。
マ:「面目ない・・・。」
   俺があんまり縮こまってるのを気の毒に思ったのか
蒼:「マスターもそんな悪気があったわけじゃなさそうだし・・・。」
マ:「・・・。」
蒼:「ねぇ、マスター。みんなにお菓子作ってあげたらどう?」
マ:「え、おれがか?」
蒼:「うん、仲直りの印に。」
マ:「ふむ・・・。」
真:「お菓子なんて作れるの?」
蒼:「マスターはお料理上手なんだよ。僕も手伝うからさ。」
マ:「・・・わかった。なぁ、雛苺ってフランスにいたことあるんだよな?」
雛:「うぃ~、あるのよ~。」
マ:「よし、じゃああれを作るか。」
   俺は手をパンと叩くと蒼星石とともにキッチンの方へ向かった。
マ:「雛苺と真紅はテレビでも見て適当にくつろいでてくれ。」


   エプロンを身に着けた俺と蒼星石。
蒼:「美味しいお菓子作って名誉挽回しようね、マスター。」
マ:「あ、ああ。」
   なんかやけに蒼星石が張り切ってる。


蒼:「へへ、マスターと一緒にお料理するのって久しぶりだね。」
   さも嬉しそうに言う蒼星石。
マ:「そういやそうだな・・・。」
   俺は生地をこねながら答える。
蒼:「僕、あまりすることないね。邪魔かな?」
マ:「あ、いや。そんなことないよ。じゃあ俺シロップ作るからこねるの交代してくれ。」
蒼:「うん。でもいったい何作るの?」
マ:「秘密。出来てからのお楽しみってやつだ。」
蒼:「もう、いつもそうやってもったいぶるんだから。」
   俺は構わずせっせかとシロップの材料を取り出す。
蒼:「ねぇ、マスターって僕が来る前は一人で自炊してたんだよね。」
   コネコネコネ・・・ 
   蒼星石の小さい手によってこねられ生地は色んな形に変化を遂げている。
マ:「ああ。」
   グラニュー糖はこれぐらいだな。
蒼:「僕が来てからは僕がご飯作ってるわけだけど、美味しい?」
   コネコネコネ・・・
マ:「もちろん。いつも美味しいよ。」
蒼:「本当? でもマスターの方がお料理上手だから・・・。」
マ:「なんでそう思う?」
蒼:「だってマスター、僕の知らない色んなお料理知ってるし・・・作れるし・・・。」
   なんだ、引け目感じてるのか・・・。まったくもうこの子は・・・。
マ:「蒼星石の料理はなぁ、美味しいし、そしてこれが何より一番重要なんだが、とても安らぐんだよ。
   仕事で帰って来たときとかなぁ、蒼星石の作ってくれたご飯を食べるととても心が安らいで疲れもどこかへ吹っ飛ぶ。
   これは自分で作った料理には真似できない芸当なんだよ。」
蒼:「・・・・。」
   俺は作業の手を止め、蒼星石の隣に立った。
   蒼星石はキョトンと俺を見つめてる。
マ:「だから、これからもよろしく頼むぞ。」
   ちゅっ・・。
   蒼星石のおでこにキスする。
   蒼星石は相変わらずキョトンとしたまま、おでこに手をやった。
   俺は再び自分の持ち場につき作業を再開する。
蒼:「あ、あの、その、ありがとう・・・・マスター。」
マ:「こちらこそありがとう、蒼星石。」
   なんだか無性に恥ずかしくなってきた・・・。
蒼:「あれれ、マスター。顔赤いよ?」
マ:「・・・・。」
   蒼星石だって。
蒼:「ふふ、照れてるんだ。」
マ:「あとは俺一人でできるから、蒼星石は真紅達と遊んでなさい。
   あ、あと他の姉妹も呼んどきな。」
蒼:「はーい。」
   蒼星石は素直に従った。


真:「あら、蒼星石。お手伝いはいいの?」
蒼:「うん。」
真:「なんかやけに嬉しそうね。」
蒼:「そう? ふふふ。」
雛:「蒼星石、何かいいことあったの?」
蒼:「秘密。ふふ・・・。」
   わけがわからず不審気に顔を見合わせる真紅と雛苺だった。


   それからしばらく後・・・

   両手をパンと鳴らし
マ:「うし、完成だ。」
   お菓子達をおぼんに乗せリビングへ運ぶ。
翠:「おじゃましてるですよぉ、アホ人間。」
マ:「ほい、いらっしゃい。」
雛:「わぁーー。」
   雛苺が目を輝かせながら感嘆の声を上げた。
マ:「フランス菓子のサバランとババとマリニャンだ。」
   それぞれの菓子を指差しながら説明する。
翠:「アホ人間にしてはなかなか洒落たお菓子ですぅ。」
雛:「ヒナ、これ知ってるの~。」
   そりゃよかった。
蒼:「ね、マスターの作ったお菓子美味しそうでしょ。」
   なぜか得意げな蒼星石、みんなに紅茶を入れてくれてる。
   まぁ、俺も久々に腕を振るえて楽しかったのは事実だ。
マ:「金糸雀は来ないのか?」
   見回しても金糸雀の姿は無かった。
蒼:「後から来るって。今撮影会の真っ最中なんだってさ。」
マ:「はぁー、好きだねぇ。あの二人も。」
   紅茶と菓子が全員に行き渡った。
マ:「じゃあ、どうぞ召し上がれい。」
   真紅が一口食べ、賞味する。
真:「なかなかね。見事だわ。」
マ:「どうも。」
   真紅の好みそうな紅茶シロップを使った甲斐があった。
翠:「でもアホ人間、よくこんなの作れるですね。」
マ:「まぁな。さてと・・・。」
   俺は席を立った。
蒼:「マスター、何処いくの?」
マ:「あー、ちょっとオーブンでまだ焼いてる残りの菓子の具合をね。」
   そう言って俺は再びキッチンの方へ向かった。

マ:「別にバレてもいいんだが・・・。」
   俺はもう一人分の菓子と紅茶を用意し、キッチンの窓を開けそれら菓子と紅茶を窓際に置いた。
   そして手ぶらでリビングに戻る。

蒼:「あれ、マスター?」
   俺が席に戻らず、そのまま素通りしたので蒼星石が声を掛けてきた。
   口パクでト・イ・レと伝えると蒼星石はそれ以上何も言わず再び姉妹達とお喋りを続けた。
   そして俺はトイレ・・・には向かわず、玄関から外にでると先程の窓際の所へ行き
   外から手を伸ばし菓子と紅茶を回収する。
マ:「紅茶冷めちまうなぁ。」
   まぁ、しょうがない。
   そして再び玄関から自宅に入り、そのまま菓子と紅茶を持って自分の部屋へ。
   これで蒼星石達には俺が菓子と紅茶を持って家を徘徊してることには気付かなかったはずだ。
   俺は菓子と紅茶をデスクに置くとマイパソコンのモニターをコツコツと叩き、
マ:「銀ちゃんいるー? おーい。お菓子用意したぞー。銀ちゃーん。」
   と呼びかけた。
   十秒ほど待ってみたが何の反応も無かった。
マ:「ま、さすがに来ねぇか。」   
   なんか放っておけないんだよなぁ・・・あの子。
   普段ちゃんといいもん食ってんのかなぁ・・・。
マ:「・・・・。」
   コソコソと動き回って神経を使ったためか、なんか急に催してきた。
   俺は銀ちゃんを諦め、蒼星石に言った通りトイレに向かう。


   パタン・・・・
   マスターが自室の扉を閉めたその時、PCのモニターから水銀燈が現れた。
銀:「・・・・私を呼ぶ声が聞こえた気がしたけれど・・・・?」
   水銀燈が辺りを見回す。誰もいない。
銀:「あら、このお菓子と紅茶はぁ・・・・?」


   用を済まし、トイレから出ると雛苺が待ち構えていた。
マ:「どした?」
雛:「うゆ~、みんなの様子がおかしいの~!」
マ:「?」
   雛苺がひどく慌てている。なんだ?
   よくわからんが雛苺とともに急ぎ足でリビングに戻ると・・・信じられない光景が目に飛び込んできた。
   真紅が泣いている。
マ:「ど、どうした?」
   俺はシクシクと泣きじゃくってる真紅に駆け寄って訊く。
真:「あの人は全然振り向いてくれないのだわ・・・!」
マ:「はぁ・・・?」
   誰?
マ:「いったいなに・・うが!」
   急に脛に衝撃と激痛が・・・
翠:「チビ苺を泣かせていいのは翠星石だけですぅ!」
   蹴られた。脛を思いっきり蹴られた。
マ:「い~っ・・・つつ・・・。いや、だからお詫びにね、お菓子を振舞ってね・・・」
翠:「男なら言い訳すんじゃねぇです!」
   ドゴッ!
マ:「ギャース。」
   さっきと同じ箇所を!
   いつにも増して凶暴性が増している翠星石。
マ:「蒼星石、たっけて・・・。」
   座ったままでいる蒼星石に助けを求める。
蒼:「ふぇ・・・ますたぁ・・・?」
   ぼんやりとこちらを向く蒼星石。
マ:「翠星石が・・・。」
蒼:「ますたー・・・・。」
マ:「?」
   蒼星石がニコッと笑った。まるで赤ん坊が時折見せる笑顔のそれだ。
マ:「!?」
   蒼星石が立ち上がり、俺の胸に突っ込んできた!   
蒼:「ますたぁ♪」
   蒼星石が抱っこちゃん人形のように張り付いてきた。
マ:「うわ。」
翠:「ふざけんじゃねぇです!」
   ドゴッ!
マ:「いでぇ! あ、・・・わっわ・・・」
   俺は庭師姉妹の苛烈な攻撃に耐え切れず、蒼星石を胸にはっ付けたままソファーに倒れこんでしまった。   
   なに? いったい何が起こってるの?
   スリスリスリ・・・蒼星石が俺の胸に頬擦りしてる・・・・
蒼:「ましゅたぁ・・・・」
   蒼星石の呂律がおかしい・・・これはもしや・・・
マ:「酔ってる?」
   蒼星石の顔が赤い・・・。
   翠星石の方をみるとこちらも顔を赤くしフラフラしていた。
   これは酔ってると見て間違い無いだろう。
   しかしなぜ・・・?
マ:「あ!」   
   まさか、もしや・・・サバランやババを作るのに使ったラム酒か・・・?
   そんな馬鹿な・・・かなり抑えたはずなのに・・・。
   (ラム酒使用のサバランなどの菓子は体質によっては食べた後に飲酒運転でとっ捕まることもままあるらしい。)
マ:「お前たち酒弱すぎ!」
   ソファーに倒れこんだまま俺は叫んだ。
翠:「お前が強すぎるです!」
   ドゴォ!
マ:「おごぅ!」
蒼:「ましゅたぁ・・・」
   気付けば胸に抱いていた蒼星石が俺の顔のところまで体を移動させていた。
   蒼星石の目線と俺の目線が重なり合う。
   俺のすぐ目の前に、目が潤み頬が火照ってる蒼星石の顔が・・・
マ:「そ、蒼星石・・・。今はマズイ・・・今は翠星石が・・見て・・・ん!」
   無理やりキスされた。
マ:「んっ、むむぅ・・・・」
蒼:「ぷはぁっ。」
マ:「は、はぁは・・・んん!?」
   解放されたと思ったら息する間もなく二回目が・・・

      ・
      ・
      ・
      ・

   い、息が・・・!
蒼:「ん・・・。」
   た、たすけて・・・・誰でもいい。呼吸困難で絶息してしまいそうだ・・・!
   翠星石・・・、たすけ・・・
翠:「すやすやすや・・・」
   寝てる!
   翠星石はソファーにもたれ掛かったまま夢の世界に突入していた。
   蒼星石、苦しい・・・。嬉しいけど苦しい。
蒼:「はぁ・・・!」
   やっと離してくれた・・・
マ:「はぁはぁはぁ・・・んん!?」
   また間髪入れずキスされる・・・!
   全く呼吸するペースを掴めない。
   あ、真紅と雛苺は・・・!?
   真紅の方へ視線を泳がせる。
真:「きっとくんくんは私なんかよりも仕事の方が大事なのだわ・・・しくしくしく・・・」
   まだ泣いてるよ・・・。何の話なんだ?
   雛苺は・・・?
雛:「蒼星石が・・・マスターさんを食べてるのー!」
   あー、見ちゃ駄目!
金:「こ、これは何事かしら!?」
   今になって金糸雀がやってきた。
   リビングの入り口で驚愕の表情を浮かべている。
   俺は必死に手をばたつかせ金糸雀に助けを求めた。
金:「これは・・・スクープかしら!」
   パシャッ!パシャッ!
   いや、写真撮ってねぇで!
蒼:「すうすう・・・・。」
   ん?
   蒼星石、キスしたまま眠ってる・・・・。
   蒼星石の唾液が少し俺の口に流れ込んできた。
   俺は慌てて蒼星石を支えてソファーから起き上がる。
金:「いったい、むしゃむしゃ、何が、むしゃむしゃ、あったかしら?」
   金糸雀がテーブルの上の菓子をパクつきながら疑問の声を上げた。
マ:「あーあ、食っちまったか。知らんぞ、もう。」
金:「?」
雛:「うにゅ~。」
   雛苺はまったく変化無いようだ。酒強いのか?
真:「すうすう・・・」
   真紅はいつの間にかテーブルにより掛かりながら眠っていた。
マ:「はぁ・・・。」
   俺は蒼星石を抱き抱えながら大きくため息をついた。想定外だ。想定外。



   蒼星石、翠星石、真紅を寝室の俺のベッドに寝かせた頃、リビングから金糸雀の笑い声が聞こえてきた。
マ:「笑い上戸か・・・。」
   ぽつりと呟く。
雛:「ヒナもなんだか眠くなっちゃったのー。」
マ:「じゃあお姉さん達の隣で眠りなされ。」
雛:「うん・・・。」
   目を擦りながら雛苺がベッドの上に移動して横になった。


   リビングに戻ると金糸雀が笑いながら部屋中の写真を撮りまくっていた。
金:「きゃはははははか~しら~!」
   しばらくその様を呆れながらも眺めていたが・・・
   次第に勢いが無くなり、今にも倒れそうになる。
   俺は金糸雀を持ち上げて抱っこした。
金:「とても・・眠たい・・・かしら・・・。」
マ:「ほいほい。」
   金糸雀も寝室へ連れて行き俺のベッドに他の姉妹たち同様並ばせて寝かす。
マ:「ふー。」
   こんな酔っぱらせて、ジュン君達に怒られるかなぁ・・・。
   はぁ・・・。
   俺は憂鬱になりながらもリビングに戻り、後片付けを始める。


   おや、紅茶のカップが一つ足りない・・・?
   あ、そうだ。自室に置きっぱだった。
   俺はやれやれと自室に向かいドアを開ける。
マ:「わっわっわ!」
   なぜか銀ちゃんがドレスを脱いで下着姿で寝っころがっていた。
   デスクの上を見ると置きっぱだった菓子が食べられた形跡がある・・・。
   再び水銀燈に視線を戻す。
マ:「脱ぎ魔か・・・・。」
銀:「すやすや・・・」
   気持ちよさそうに寝てるのう・・・。
   俺は水銀燈を抱きかかえると自室のベッドに連れて行き寝かせた。真紅の隣に。
   もう俺のベッドはドール達で完全に埋まってしまった。
マ:「・・・・。」
   姉妹達は安らかに眠っていた、ひとりひとり幸せそうに。
   様々な思いが俺の胸に去来した。
   しばし立ち尽くしてしまう。
マ:「ふあ・・・。」
   気持ちよさそうに寝ている姉妹たちを見てたらなんだか俺も眠くなっちまった。
   俺は眠っている蒼星石の頬に軽くキスをする。
   そして、壁を背にしてより掛かり、そのままズルズルと座り込んで目を閉じた。
   ちょっとだけ眠ろう・・・。


   おやすみ、またな。



                                               終わり