蒼「うどん、なす、ねぎ、それとタマネギか・・・。」
  今日は土曜日。蒼星石が明日の買出しに備えて冷蔵庫の残り物を整理している。
 蒼「マスター、今夜は味噌煮込みうどんでいいかな?」
 マ「うん、問題ない。もう涼しくなってきたしちょうどいいんじゃない?」

               ―――60分後―――

 蒼「・・・マスター、大丈夫?」
 マ「うん、問題ない。昔の人は言ってた、『暑いときには熱いものを食べる』と。汗をかくのは健康にいい、って。」
  そう答えたマスターの顔からは滝のような汗が流れていた。
 蒼「・・・まだ案外暑かったよね。それに結構じめじめしてるし。クーラーつけるね。」
 マ「いや、大丈夫。せっかくこの夏クーラーなしで乗り切ったのにここで使うのはなんか悔しい!」
 蒼「でもうちわも扇風機もないよ。」
 マ「我慢する!」
 蒼「もう・・・それじゃあ汗を拭くからシャツ脱いで。」
 マ「駄目、意味もなくうら若き乙女の前で肌をさらすなんてそんな破廉恥な事はできません!」
 蒼「マスターって妙なところで頑固だよね。別にそこまで気にしなくたっていいじゃない。」
 マ「実は・・・僕の胸には七つの傷があって、背中では鬼も哭いて・・・。」
 蒼「嘘だよね♪」
 マ「はい、すみませんでした。」
  蒼星石の笑顔での追及にマスターがペコリと頭を下げる。
 蒼「とにかく、もうだいぶ涼しくなってきたのにそんなぬれたシャツのままじゃまた風邪をひいちゃうよ。」
 マ「確かに・・・僕のくだらないこだわりでこれ以上蒼星石に迷惑をかけるわけにも・・・。」
  観念してマスターがシャツを脱ぐ。
 蒼「わあっ!マスター、背中どうしたの!?」
 マ「え、背中がどうかなってるの?」
 蒼「なんか・・・すごくボロボロになってる・・・。」
 マ「ああ、合宿で泳いだときに日焼けしたから皮がむけてきたんだよ。」
 蒼「なんか・・・痛々しいよ。」
 マ「そっか、蒼星石たちは日焼けなんてしないもんね。治ったかさぶたがはがれてるようなものだから全然平気だよ。」
 蒼「本当に痛くないの?」
 マ「むしろそこまでボロボロになってるのならもう剥いちゃっても大丈夫だよ。ためしに剥いてみたら?案外楽しいよ。」
 蒼「でも・・・皮を剥くだなんて・・・。」
  蒼星石がおっかなびっくり手を伸ばす。
 マ「そうまでなるとその辺に皮が散らかっちゃったりするからね。気にせずやっておくれ。」
 蒼「う、うん・・・。」
  蒼星石がおずおずと手を動かす。
   ぺり ぺり・・・
 蒼「わあっ、きれいに剥けた!」
 マ「なんだか面白いでしょ?大きいのが取れるとなぜか嬉しかったりね。」
 蒼「ねえねえマスター、もっとやってもいい?」
 マ「どうぞどうぞ。心ゆくまで剥いちゃってくださいな。」
   ぺり・・ぺり・・ ぺりりり・・・
 蒼「やった!こんなに大きいのが剥けたよ!それにしても真っ黒だね。」
 マ「こんがりと焼かれちゃったからね。実際に日焼けって火傷みたいなものだし。」
 蒼「じゃあ本当にかさぶたみたいなものなんだね。」
 マ「そういうこと。だから気兼ねなしに続けてくれていいよ。」
 蒼「じゃあ、お言葉に甘えて。」
  その後もしばらく蒼星石が皮剥きを楽しむ。
  マスターもなんだか楽しそうにニコニコしている。
 蒼「ねえ、マスター。なんだか少し赤くなってきちゃったんだけど・・・大丈夫かな?」
 マ「まだ出来立ての皮膚だし多少デリケートなのかもね。別に痛くはないから気にしないでいいよ。」
 蒼「そう言えば・・・汗をしっかり拭いてなかったな。ばい菌が入ると良くないから今日はもうお風呂に入ったら?」
 マ「うーん、少し早い気もするけどそうするか。」
  すぐにお風呂の支度がされてマスターが入浴する。
  そしていざ体を洗おうとしたところで扉がノックされた。
 蒼「マスターちょっといい?今日は僕がお背中を流すよ。」
 マ「え、でも・・・。」
 蒼「だってマスターのことだから赤くなってる背中をゴシゴシこすって痛くしちゃいそうで心配で。」
 マ「大丈夫だとは思うけど・・・それじゃあお願いしちゃおうかな。よろしく。」
  服の袖とズボンの裾を捲り上げた蒼星石が入ってきてマスターの背中を流す。
 マ「ずいぶんと優しく洗ってくれるんだね。そんな腫れ物に触るように扱わなくても大丈夫だよ。」
 蒼「駄目だよ。痛くなってからじゃ遅いんだからね。」
 マ「はいはい、ありがとうございます。」
 蒼「じゃあ、僕はこれで。お風呂から出たら教えてね。それじゃあ、ごゆっくりどうぞ。」
  背中を洗い終わると蒼星石は浴室を出ていった。
  マスターはそれから言われた通りゆっくりとお湯につかった。
 マ「ふう、いい湯だった。」
  マスターがお風呂から出て体を拭こうとすると再びノックがあった。
 蒼「マスターお風呂出たの?お背中は僕が拭くから。」
 マ「いや、そこまでしていただかなくても・・・。」
 蒼「絶対駄目!マスターは加減を知らないから心配だよ。お風呂に入ってふやけてるのに無茶をしそうだし。
   それに、そもそもの原因は僕が調子に乗っちゃったからだしね。」
 マ「分かった、ぜひ頼むよ。本当に責任感が強いんだね。それでいて気が利くし、優しいし・・・。」
 蒼「そ、そんなことないよ。」
 マ「いや、おかげ様でこの夏もバテたりせずに乗り切れたし、体調を崩しても面倒見てもらっちゃったし、大助かりだよ。」
  マスターがとても安らいだ表情で、心底ありがたそうにそう言った。
 蒼(本当に・・・そんなんじゃないんだ。だって、僕は本当はわがままで・・・さもマスターのためのように言ってるけれど
   本当は・・・これになるべく長い間残っていてほしいだけなんだから・・・。)
  タオルでマスターの黒く焼けた背中をそっと拭きつつ、蒼星石はそこに白で大きく書かれた『スキ』の二文字を見つめていた。