マ「ただいま!」
蒼「お帰りなさい、あわててどうしたの?」
マ「今日から個別指導のアルバイトが再開なんだよ。」
急いで奥に駆け込みスーツに着替える。
教育関係の仕事というのは全くもって面倒くさい。
蒼「あ、そうか。高校生はもう夏休みも終わってるもんね。」
マ「まあね、それじゃあまたちょっと出かけるね。」
蒼「あ、待ってマスター。ネクタイが曲がってるよ。」
マ「え、焦って締めたからなあ。」
蒼「ほら、僕が締め直してあげるからしゃがんで。」
マ「ありがとう、お願いします。」
蒼星石が器用にネクタイを締め直してくれる。
蒼「でもマスター、最近忙しいのに大変だね。」
マ「まあね、でも相手は受験生だし、こっちも責任を感じちゃうからなあ。
でも可愛い女子高生だったら喜んで指導できちゃうし、それこそ手取り足取り課外授業だって・・・ぐっ!」
突然蒼星石の手が鋭く動き、ネクタイがのど元をキュッと絞める。
マ「あ・・・あの、蒼・・せ・・い石、絞まっ・・てる・・・。」
何とか声を絞り出す。
蒼「あれ、ごめんね。手が滑っちゃったよ。」
蒼星石が普段通りの調子で言う。
しかし、『ごめん』の言葉の後も手の動きに変化は見られない。
息が・・・詰まる・・・・。
限界を感じた時やっと力が緩められる。
マ「はあ、はぁ・・はぁ・・はぁっ・・・」
蒼「マスター大丈夫?」
マ「何とか・・・。」
蒼「マスターが変なこと言うからだよ・・・。」
マ「はっはっは、嫉妬させるようなこと言っちゃったかな?
でもどうせそれを表現するなら玄関先まで送ってお出かけのキスをし、ぐぇ!!」
懲りずに冗談を言いかけていたところ、再びのどを締め付けられる感覚が襲う。
蒼「まだそんなこと言って・・・ちょっとお仕置きしてあげる。お望み通りにこのまま玄関まで送って行ってあげるよ。」
そう呆れたように冷たく言い放つと、ネクタイをつかんだまますたすたと歩き出す。
首を圧迫された状態で引っ張られているのでついて行かざるを得ない。
それもしゃがんでいたので四つんばいで引きずられているような形になってしまう。
蒼「マスター、なんかワンちゃんみたいで可愛いよ。でも大の男のくせにいい格好だねえ・・・情けないったらありゃしない。」
幸いそんなに広くはない家なので玄関にはすぐ着いた。
これでとりあえず解放されるかとほっとする。
蒼「ふふっ、安心しきっちゃって。・・・でも最後にもう少しマスターの苦痛にゆがんだ顔が見たいな。」
マ「ちょ・・・」
反論の暇も与えられずネクタイが引き上げられ、首を吊るような形になる 。
まさに蒼星石のお望みどおりの苦悶の表情で思わず上を仰ぐ。
不意に何かやわらかいものが自分の唇にそっと触れた。
マ「え・・・?」
蒼「今はここまでだね。お望みなら続きは帰ってからして上げるよ。」
苦しくて目をつぶっていたのではっきりとは分からないが、どうやら蒼星石の唇が触れたらしい。
続きというのがキスのことなのかこのお仕置きのことなのかは分からないが、蒼星石の様子に何か普段と違ったものを感じる。
マ「蒼星石・・・急にどうしたの?」
突如豹変してしまった蒼星石にその理由を問いかける。
蒼「だって・・・だって・・・・・・。」
そのまま蒼星石の目から涙がぽろぽろと溢れ出す。
今の今まで自分を嬲っていた蒼星石に突然泣き出されるという予想外の事態に途方に暮れてしまう。
蒼「マスターがいけないんだ・・・マスターが純粋にその可愛い人を好きになったというのならともかく、
そんな課外授業だなんて・・・そんな不純なことでマスターを失うのなんて、そんなの絶対にいやだ!」
マ「・・・え?いや、実際の受け持ちは男の子だし・・・。それに課外授業って補習のことだよね?不純?失う?なんで?」
脳に酸素が足りないのもあるのか訳が分からずきょとんとしてしまう。
蒼「え!?あ、あー・・・そのー・・・。」
マ「・・・・・・。」
蒼星石の次の言葉を待ちじっと見守る。
蒼「・・・あぁっ!もうこんな時間だ、遅れちゃうよ!さあ、急いで、行ってらっしゃい!!」
結局、訳の分からないまま追い出されるように見送られてしまった。
ネクタイもよれよれになっていたので自分で締め直す羽目になっちゃったし・・・。
まあ・・・短い間の出来事だったが、いろいろと蒼星石の意外な一面を垣間見られたのは良かった気もしないではないけど。
・・・とりあえず、今後は軽はずみに不真面目な言動をして怒らせることのないように自重しよう。
今日は帰りに洋菓子でもお土産に買ってくるかな、蒼星石が待っていてくれるから頑張れるわけだしね・・・。
追記:結局、怖いので『続き』とやらはお願いしませんでした。
最終更新:2006年09月13日 23:25