蒼「マスターってさ、いつもパソコンをいじってるよね。確かに便利そうではあるけどさ・・・。」
 マ「まあね、仕事や調べもの、家計簿をつけたり画像や音楽の鑑賞もできたりと日常やるようなことならほぼ何でも出来るからね。
   それに、データを写したり修正したりするのも楽だし・・・うんそうだ、いい機会だから蒼星石にも使い方を教えておこう。」
 蒼「えっ、いや、僕が言いたかったのはそういうことではなくって・・・。」
 マ「日中に暇潰しなんかもできるし、何か分からないことがあれば調べられるし、一応知っておいたら?」
 蒼「あー、うん、分かった。それじゃあお願いします・・・。」


 マ「じゃあまずは簡単なことから。ここを押すとCDやDVDを入れるところが出てくる。
   今は自動で再生するようになってるからここに再生したいものを入れてくれればOK。」
 蒼「うん、分かった。」
 マ「次はインターネット・・・いや家計簿とか・・・。」
 蒼「マスター、パソコンを使ってどんなことができるかは多少知ってるけれど、
   まずパソコンというものをどう扱えばいいのかが分からないよ。」
 マ「あっ、そうか。それじゃあまずは基本中の基本、文字の入力の練習をしようか。」
 蒼「文字の入力?」
 マ「このキーボードというのにいろいろな文字が書いてあるね。これを使ってパソコンの画面に文字を入力したり、
   いろいろな命令を送ったりするんだ。まあ、ゲームのコントローラーみたいなものかな。」
 蒼「へえー。」
 マ「とりあえずはこのアイコンをマウスの左側のボタンで2回クリックするとこういうウィンドウが出てくる。
   ここに文字を入力するんだ。ちょっとやってみる?まずは自分の名前でも打ってみようか。」
 蒼「うん、えっと『そ』、『そ』・・・と。あ、あった。えい・・・って、あれれ?」
  画面には『c』が表示されている。
 マ「ああ、それは入力の方式にいろいろあって、ここの表示が・・・」
 蒼「ふんふん、なるほど。」
 マ「まあ他にも種類はあるけれど今はローマ字入力だけ覚えておけば十分だと思うよ。」
 蒼「うん、分かった。使ってみると結構面白そうだね。」
 マ「じゃあ後はコピーや貼り付け、保存や削除の仕方を教えるから僕が使ってない時は自由に練習してくれていいよ。」


 - 次の日 -

 マ「それでは昨日の続き。ところであれから多少は慣れた?」
 蒼「うん、コピーとかのショートカットキーも大体覚えたよ。」
 マ「それは飲み込みが早い。ああ、そういえば一つ注意しておくことがあった。」
 蒼「え、何?」
 マ「いやね、そこまで大したことではないんだけどさ、これから蒼星石にもいろいろと使ってもらうとしたら
   ちょっと気をつけてもらいたいことがあってね。」
 蒼「大事なこと?」
 マ「実はね、パソコンはハードディスクというものに情報を保存するんだけど、その余りがなくなると困る場合がある。
   だから必要のなくなったファイルはきちんと削除してもらいたいんだ。」
 蒼「昨日マスターに教わったからきちんと削除はしたよ。」
 マ「それなんだけど、うっかり重要なファイルを削除されたら困るから昨日は言わなかったけどさ、
   完全に削除する際にはこのシフトキーを押さないといけないんだ。」
 蒼「そうしないとどうなるの?」
 マ「んー、別に困りはしないんだけどね、二度手間というか・・・。
   このゴミ箱って中でもう一度削除しないと完全にはデータが消えないんだよ。」
  言葉と共に画面上のゴミ箱のアイコンがダブルクリックされる。
 蒼「え!?」
 マ「あれ、なんだこのファイルは?」
      カチ カチッ
 蒼「だ、だめ!それは・・・!」
 マ「え?」
   時すでに遅く、もうファイルは開かれた後だった。



   無題



 マスターはいつもパソコンをいじっている気がする。作業等で必要なのは僕も分かるし、
 実際に自分でも使ってみて、面白かったり、便利だったりというのにも納得は出来る。
 だけど、パソコンにマスターを取られてしまったようで無性にさびしい。ふたりっきりで
 一緒にいるのにマスターはパソコンの画面ばかりを見て僕のことをちっとも見てくれない。
 僕はいつだってマスターのことを見ているのに、マスターのことをなんとも思っていない
 パソコンにばかりかまっている。パソコンには情報がたくさん入るそうだけれど、きっと
 僕のマスターへの気持ちの方がもっともっといっぱいに違いないのに。

 僕のマスターへの想いでこのパソコンが壊せてしまえればいいのに…

 マスター好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き
 好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き
 好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




  その後も画面中を『好き』の二文字が延々と埋め尽くしている。
 マ「・・・えーと・・・コピペの練習・・・かな?」
 蒼「ぜ、全部手打ち・・・。」
  耳まで真っ赤になった蒼星石がそう言った。
  その言葉を聞いてマスターの方まで真っ赤になってしまった。
 マ「とりあえず今日のパソコン教室は中止ね・・・。」
  パソコンの電源が切られ、そう宣言される。
 蒼「あ、あの・・・マスターごめんなさい。マスターの大事なパソコンが壊れちゃえばいいだなんて・・・。
   それに、僕・・・あんなわがままばかり・・・マスターがせっかくパソコンを教えてくれたのに。」
  必死に謝る蒼星石の頭に優しく手が置かれる。
 マ「謝らなくちゃいけないのはこっちの方だよ。いつも傍で支えてもらっていながら、そのありがたみにも気づかないで。
   こちらこそわがままばかりで蒼星石に甘えちゃっていたんだね。本当にごめんね、どうか許してほしい。」
 蒼「ゆ、許すも許さないも、マスターがしたいようにできてるんなら僕はそれでいいんだよ・・・。」
  マスターが蒼星石をそっと抱き締める。
 マ「本当にありがとう・・・。今日はもうパソコンなんかさわらないからお詫びに存分に甘え返してよ。」
 蒼「本当?何でもいいの?」
 マ「ああ、何だって構わないよ。」
 蒼「じゃ、じゃあね・・・」
 マ「うん。」
 蒼「もうしばらく・・・こうしていて下さい・・・。」
 マ「はい、分かりました・・・。」


                          - FIN -