蒼星石と出会ってからもう一ヶ月になる。

「マスターお帰りなさい」
今日も蒼星石は生真面目に俺の帰りを待っていた。
「ただいま、はあー疲れたー」
俺はすっかりこの生活にも馴染んできていた。
「食事と風呂の準備ができています。どうしますか?」
「じゃあ腹が減ったんで夕飯の方を頂きますかな」
「解りました、では少し暖めてきます。
他にも何かあったら遠慮せずに言って下さいね」
健気でいい子だなあ、よく俺なんかが契約できたものだ。

蒼星石の作る料理は大概健康重視で塩分も控えめ
俺の好みは脂っこいものばかりだから、それが出されるのは週一程度か。
無理に頼めば作ってくれない事もないけど、
栄養バランスをしっかり考えてくれる料理長に意見を呈するのはおこがましい。諦めとく。
しかし今夜がその週一の日にあたった。
「へえ今夜はハンバーグか‥」
「うん、たまにならいいかなと思って。でもサラダもきちんと食べてくださいね」
「はいはいっと」
………

「今日も仕事は順調だよ。でさあ係長が怒鳴る時の癖が面白いんだよ、はは」
とまあ夕飯の時は、今日の出来事と称して
あったことを蒼星石に報告するのが日課になっている。
だいたいは仕事の話でつまらないだろうが、それでも蒼星石は真剣に聞き入ってくれる。
時折交えたギャグには、にこやかに対応してくれたり、まあ悪くない時間が流れる。
でも時々蒼星石は暗い表情をするんだ。
そんな時はいつもギャグの入れ所なんだけど、今日は何も言わなかった。

風呂にも入って、今は寝るまで蒼星石と一緒にテレビを見て寛いでいる。
「あのマスター、もうそろそろ寝る時間ですよ」
「…んっそうか?」
「いつもお疲れ様です。
でも…もし…ったら…僕に…」と掠れた声で何かを言いかけたが直ぐ
「おやすみなさい」と言った彼女の後ろ姿に、俺は思ってしまった…。

「ひゃっ‥え?マスターどうしたんですか…」
気がつくと俺は膝立ちの状態で彼女の後ろ姿に抱きついていた。
彼女の髪が俺の頬に当たる、正直自分でもどうしたいのか分からない。
「ごめん」と言って離そうとした瞬間、蒼星石は
「離さないでっ‥このままでいたい‥です」
今度は逆に俺の方が面食らう形になって少し驚いたがでも‥
うん、俺も離したくなかったさ。
「ねえ‥しばらくこのままでいい?」
彼女の髪が縦に揺れる。
「あっ…でも僕も前向きになっていいかな、
その方がもっと…その…感じられるから…マスターのこと…」
正面を向き合ってお互いを抱きしめている。
「僕、嬉しいよ。やっと繋がる事ができた‥マスターと」
そっか、彼女も…
それにしても気持ちいい、抱きしめ合うって気持ちいいな。
暖かくて…心の闇が晴れていく感じ…ありがとう蒼星石…
時よ、このまま止まってくれ……
…………… 
………
……
朝だ…
ここは居間。俺の体には毛布が掛かっており、
右の頬には畳の痕が‥もう片方はなんだかむずむずする。
ってあれ蒼星石は?
俺が顔を上げると同時に、台所で朝食の準備をしていた蒼星石がこっちを向く。
「おはようマスター、まだ時間は大丈夫だよ」
「おはよう」と返すがやっぱり照れ臭い。
そんなこんなで時間が少し経ってから彼女は言った。
「あのね、昨日はありがとう。辛くなったら、また…」
あーあ俺のセリフ取られちゃったなあ。さてなんて言おうかな。
畏まる彼女に対して、俺はというとある考えが浮かんだ。
「…ねえ蒼、今夜もハンバーグにしてくれない?」
「だーめ。また今度だよマスター」
はあ…でもなんでだろ…お互い笑みがこぼれてる…。(終)