蒼「マスター、朝ごはんの準備できたよー!」
    蒼星石が呼ぶ声がする。
   マ「はーい、今行きまーす。」
    返事はしたものの、まずい・・・激しくおなかが痛い。
    原因は分かっている。昨夜いろいろと食べ過ぎ、そしてお茶を飲みすぎたせいだ。
    むしろ夕べから痛くて、一晩寝たら治るだろうと高をくくっていたら治っていなかったというのが正しい。
   マ「お待たせしました・・・。」
    とりあえず食卓に着く。当然といえば当然だが、今朝もいつも通りの量が支度されている。
    普段が大喰らいの上、朝はしっかりと食べる主義なので結構な量である。
   マ「じゃあ、いただきます。」
   蒼「はい、どうぞ召し上がれ。いただきます。」
    とは言ったものの、苦しい、食欲が湧かない。
   蒼「マスター、なんか手が止まってるけど・・・どうかしたの?」
   マ「あ、いや、なんでもないよ。」
    残すのはもったいないし、がんばって食べる。何とかご飯を平らげる。
   蒼「あ、マスターご飯おかわりするよね?」
    一歩前進したとほっとしたのもつかの間、蒼星石がいつものようにおかわりを勧めてくれる。
   マ「あ・・・うん、ちょうだい・・・。」
    差し出した茶碗にご飯が盛られて返ってくる。一気に十歩ほど後退した気分だ。
    こうなるといつもの自分が恨めしい。
   蒼「僕もおかわりしようかな・・・もう少しご飯を炊いとけば良かったかな。」
    相変わらずちまちまと食べていると蒼星石がこんなことを言った。
    そのとき脳に電流が走り、悪魔的奇手が浮かぶ。
   マ「蒼星石、ご飯が足りないの?じゃあ、僕はこんなに無くても大丈夫だから少しお食べよ。」
   蒼「え・・・でも、悪いよ。」
   マ「遠慮しないで・・・はい、あーん。」
    これならば幸せな気分に浸りながらご飯を消費でき、かつさりげない・・・。完璧だ。
   蒼「う、うん・・・あーん。」
    蒼星石がおずおずと差し出されたご飯を口にする。その仕草がとても可愛らしい。まさに完璧だ!
   マ「・・・蒼星石、もう一口どうぞ・・・。」
   蒼「え?・・・うん。」

      はむ・・   もむもむ・・   ごっくん

    思わず腹痛も忘れて目の前の蒼星石に見入ってしまう。
   蒼「どうしたのマスター?なんか締まりのない顔して。」
   マ「え、なんでもないです!」
   蒼「とりあえず僕はもう残りの分で足りるから後はマスターがどうぞ。」
   マ「うん・・・、いただくね。」
    とはいえ、やはりいざ食べようとするとおなかの痛みが気になってしまう。
   蒼「・・・ひょっとしてマスター、今日のご飯気に入らなかったの?」
   マ「まさか!そんなはず無いじゃない!」
   蒼「だって・・普段より食べるペースは遅いし、なんか無理してるみたいだし・・・ごめんなさい・・・。」
    そう言うとまるで自分にすべての非があるかのような暗い表情になってしまう。
    ・・・・・やるしかない。このまま蒼星石を自分のせいで悲しませるわけにはいかない!
    覚悟を決め、当たって砕けろの意気込みで一気に食べきってしまえば・・・
   マ「・・・あ、痛たたたっ・・・。」
   蒼「マスター!?」
    あっさりと砕け散ってしまった。



   蒼「もう・・・おなかの具合が悪いなら最初からそう言えばいいのに・・・。」
   マ「ごめんなさい・・・。」
    結局、腹痛のことをカミングアウトし、布団で横になることになった。
    蒼星石は半ばあきれながらも傍についておなかを優しくさすってくれている。
   蒼「しかも無理して食べて悪化させちゃって、しょうがないんだから。」
   マ「まことに面目ないです。でも、もったいなくて・・・。」
   蒼「別に少しくらい残り物が出てもいいじゃない。」
   マ「いや、蒼星石の手料理を味わえる機会も限られているんだと思うと、それがもったいなくて。
     それに・・・食べて喜んでくれる蒼星石を見たかったから・・・。」
   蒼「マスターったら・・・。確かに作ったものを全部食べてくれるのは嬉しいけれど、
     僕はこんな風に苦しむ様子が見たくて作ってるんじゃないんだからね・・・。それを忘れないでね。」
   マ「うん、本当にごめん。もうこんな馬鹿な真似しないよ。」
   蒼「さ、とりあえず今はゆっくりと休んで・・・。」
    蒼星石に促されるまま、意識は眠りに沈んでいった。



    しばらくして、体をそっと揺すぶられる感覚で目が覚める。
    どうやら蒼星石が昼食を持って来てくれたようだ。
   蒼「お昼は消化に良いものをと思ってお雑炊にしたよ。なるべく栄養のあるものを入れたつもりだけど。」
    具は卵、細かくちぎった海苔、ごま、鰹節に大根おろしといったところか。蒼星石の心遣いが感じられてありがたい。
   マ「ありがとう、早速いただくね。」
   蒼「まだ無理しないで、僕が食べさせてあげるから。」
   マ「そこまでしてもらわなくても大丈夫だと思うけど・・・。」
   蒼「朝食の時に食べさせてもらったお返しだよ。ほら、あーんして。」
    蒼星石はお雑炊をレンゲにすくうと、息を吹きかけて冷ましてくれる。
   マ「う、うん、なんか照れくさいけど・・・あーん。」
    開けた口に蒼星石がレンゲを運んでくる。
   蒼「熱くない?消化に良いように最低三十回、よく噛んで食べてね。」
   マ「はい・・・。」
    もぐもぐもぐもぐ・・・・・
   蒼「ふふふ、素直ないい子だね。お味の方はどうかな?」
   マ「しあわせ・・・。」
   蒼「もう、それは味の感想じゃないよ?」
   マ「あ、美味しいです。」
    寝起きでぼーっとしているのか、変な事を口走ってしまった。
   蒼「それは良かった。ふー、ふー・・・はい、あーん。」
   マ「あーん。」
    それ以降はもう恥ずかしさも無くなり、普通に口に入れてもらう。
   蒼「お雑炊は食べ終わっちゃったね。デザートはりんごをすりおろしたものだよ。はい、あーんして。」
   マ「あーん。」
    同じ調子でりんごも食べさせてもらった。
   マ「ご馳走さまでした。」
   蒼「マスターは食いしんぼさんだから物足りなかったかな?でもおなかの調子が悪いんだから我慢してね。」
   マ「ううん、満足した。なんていうか・・・量じゃなくて質で満ち足りた気分になれたというか・・・ありがとう。」
   蒼「どういたしまして。ひょっとしたら、よく噛んで食べたからもあるかもね。」
   マ「たしかに・・・噛んでいるうちに味わいが変わったというか、今まで気づかなかった味に目覚めたというか・・・。
     これからはしっかりと味わって真価をきちんと分かるように気をつけるかな。」
   蒼「それがいいね。じゃあ、お夕飯は期待にそえるように腕によりをかけるから早く良くなってね。」
   マ「・・・・・・。」
   蒼「どうしたのマスター?また具合悪くなっちゃったの?」
    そう尋ねる蒼星石に対し無言で手招きする。
   蒼「だ、大丈夫・・・ひゃっ!」
    心配そうに近寄ってきた蒼星石をがっちりと抱き締める。
   蒼「マ、マスター・・・?」
   マ「いやね、考えてみればいつも蒼星石を抱っこさせてもらってるけどしっかりと真価を味わったことが無いなー、って。」
   蒼「そんな真価なんて僕には・・・ちょ、ちょっと!」
   マ「すべすべだ~、ふかふかだ~、いい香りだ~。今までこーんな素敵な子が傍にいてくれたのに愚かだったなー。」
   蒼「そ・・・そんなこと・・・。って、そんなところまで触られ、た・・ら・・・っ!」
   マ「よーし、今日は蒼星石を味わい尽くしちゃうぞー♪」
   蒼「ちょ・・・マスタァァァァァアーー!」



     <未完>  今までのご愛読ありがとうございました。先生の次回作にご期待ください。