※当時の時代背景、言葉等の知識が不足しており、
 現代語を多用している事をお許し下さい。


――プロローグ――


時代は江戸。文明開花どころか、未だ帯刀した人間が我が物顔で町を闊歩しています。

その中で、武士というより農民と言った方がしっくりくる優しい顔立ちの男が
母屋の離れにある豌豆の栽培に勤しんでいました。

腰に差している簡素な装飾が施された一振りの日本刀に桜の花弁が舞い降りてきました。
黒光りする鞘が淡い月明かりに照らされ、妖艶な雰囲気を醸し出しています。

「ふぅ……」

男は溜息をつき腰を下ろしました。

「……いい月だ」

今宵は新月なので月は出ていません。
阿片でもやっているのでしょうか。

「さて、豌豆の世話もやり終えたし、床につくとするかな」

やけに独り言の多い男は立ち上がり歩き始めました。

噛み合う筈の無い歯車が連動したことも知らずに。


――プロローグ2・日常への闖入者――


「…………?」

いつもの見慣れた道に闖入している見慣れない怪しげな露店が目に留まりました。
紫を濃くした布地が2メートル位の高さから地面に垂れ下がっています。

男は不思議に思いましたが年のわりに好奇心が旺盛なので寄って行ってみることにしました。

「ちわーっす」

男はこの時代にあるのか!?と思わせる言葉遣いで店内、と言っても即席で作った骨組みに布切れを被せただけの
殆ど外、と言ってもいい様な店舗の領域を侵していきました。


店の中は足元まで板が打ち付けてある机がありその上に
小さな蝋燭だけ乗っかっており、かなり控えめな炎を立ち上がらせていました。
その蝋燭の周り以外、然程外と大差ない位の明るさでした。

そして、机の向かいに髪の毛が完全に真っ白になっていて目が赤い不思議な少年がいました。

「…………」
「…………」

暫くの沈黙に包まれ男が耐えられず踵を返そうとした時

「まきますか?まきませんか?」

静寂を突き壊す少年から発せられた凛とした儚い声が空気を響かせました。

男は言葉の意向が汲み取れず動揺しましたが暫し熟考した後

「まきます」

そう言い放ちました。

少年は朗らかに、憐れむように笑い、机の下から鞄を取り出しました。

鞄はこの時代ではあり得ない程精巧に作られていました。
色は綺麗な茶色で、シンプルな取っ手と真ん中にある薔薇の装飾がこの品が高級品であることを匂わせます。

男は胸元から財布を取り出し中身を確認すると少し残念そうな表情になって

「すまないが私はしがない浪人だ。お金に不自由しているためこの様な高価な品は……」
「お代はいりません」

少年は男が言い終わらないうちに遮るように言いました。

「……………」

男は浪人といえど武士です。面子を大事にするので本来、自尊心が許さない筈ですが
何故か自分はこれを手に入れないといけない気分になりました。高価な品を無料で貰える事に喜んでいる気持ちも正直ありましたが。

「折角のご好意を無駄にしてはいけない。どれ、貰って行ってやろう」

万人の手に馴染むように作られた人間工学的な取っ手に手をかけ

「本当にいいんですな?」
「はい。貴方は確かに、まきます。と仰いましたから」

少年はそう言うとそれっきり返事をしなくなりました。
男は鞄をしっかり持ち回れ右をしその場を去ろうとして
ふと、気付きました。先程のやりとりの時に財布を卓上に置いていってしまったことに。

「おっと、いけない。」
「WAWAWA忘れ物~♪(谷口風)」

消えていました。
少年も露店も跡形もなく。

店があった形跡が一切残っていない地面に財布が落ちていました。
男は狐につままれた様な気分になりましたがとりあえず財布を拾い、手元にある鞄に目を向けました。

「さては物の怪の類か?」

男はそう言うと人気が無いとは言え道のど真ん中で鞄を思いっきり展開しました。

暗闇に慣れきった男の目に飛び込んできたのは、
短髪で睫毛が長く日本人とは思えない顔付きの少女を模した人形でした。

「………これは面妖な」

男は一緒に梱包されていたゼンマイを手にとり。

「……?」
「カラクリか?」

そう言うと螺旋を巻き始めました。

刹那、
光を放ち、動き出した人形に男は目を一瞬射抜かれ地面に落としてしまいました。

男がテンパっていると。

「いたたたた…もう、丁寧に扱ってよっ!」

声を放ちました。

男は茫然自失。当たり前です、先程まで人形だった「物」が流暢に言葉を話す「者」になったのですから。

「えっ…えっと…初めましてっ。マスター。」
「ますたぁ?」

訳のわからない言葉を使い始めた「者」にかなり戸惑ってしまう。

「えーっと…螺旋を巻いたのは貴方ですよね?」
「……そうだけど」
「じゃあマスターなんです!」
「???」

いかん、余計混乱してきた。

「ぼっ…僕の名前は蒼星石って言います!」

頭が完全にフリーズして使い物にならないが
とりあえずこの「者」は蒼星石って言うことだけはわかった。

「と…ところで此処は?」

「えっ…ああ日本だよ」

しまった。日本だなんて当たり前なことじゃなくて地名を答えればよかったか。
江戸とか。まぁ、かなり城から外れている所だけど。

どう言い直そうか迷っている矢先、目の前の「者」…いや蒼星石の表情が暗澹としたものになっていった。

「に…日本ですか?」

「yes」

いや外国語ありえないだろ。


「さ…鎖国しているとかなんやらで有名の…」

何を言っているのか理解しがたいが、
目の前の少女がかなり戸惑っていることがわかる。

「あ……もう一つ!もう一つ!」

いや、もう一つってなんだよ。

「鞄っ!鞄ありませんでしたか!?これと全く同じの!」
「一つしか渡されなかったが」

「………………」

唐突過ぎて訳がわからないけど
目の前の少女の表情が絶望に満ち満ちていくのが視認できた。

━続く━




――シーン1・戯れ――

世界が朝焼けに染まり全てが白日の下に曝され始める頃
男と一人の少女が同じ屋根の下で話し合っています。

「つ…つまりマスターは、その…白い少年に鞄を渡されたの?」

余談だが「ますたぁ」とは主人のことらしい。バーボンハウスとかの。

「嗚呼。勿論、鞄は一つしか渡されなかったしな」

少女が少し如何わしげな表情になっていく。

「普通なら人口精霊が来るんだけど……その白い少年って?」
「……さぁ?殆ど暗闇だったのに少年の顔だけはしっかり見えたのは、覚えてるけど……」
「うーん……」

「こんなとき、翠星石がいればなぁ……」

先程聞いた話では翠星石とは双子の姉であり、話し振りからどうやら蒼星石はかなり懐いているようだ。

「……ところでマスター。その腰に差しているのは?」
「……嗚呼。刀だよ」

蒼星石は男の表情に翳りが出たのを見逃さなかった。
その理由を聞こうとして口を開きかけたそのとき

「号外!号外だよ!」

外から耳を劈く大声が飛んできました。

「号外?なにか事件でもあったのか?」

男は立ち上がり草履を履くと外に飛び出そうとして


「待ってよマスター!」

裾を思いっきり掴まれて

「はぶぁないすでぃ!?」(奇声)

それはそれは見事なまでに転倒しました。

「な…なんだい…蒼星石」
「色々話もあると思うけど…日本がどんな所か見てみたいから僕も外へ連れて行ってよ!」

「しかしなぁ……見た目ガイジンだし……なんか目の色違うし……」

すると蒼星石は目に少し涙を溜め上目遣いで

「……駄目なの?マスター……」

反則です。

男は即座に近くにあった傘と着物を取り

「こっ、この傘を被って着物を服の上から着ろっ!寸法がかなり大きいが服も目も全部隠れる!」

男は蒼星石に服と傘を投げつけました

「わっ、わかった」

蒼星石は、何故か男が動揺していることに戸惑いながらも服を着ました。

男と、見た目親の着物と傘を着ているよう少年の様な格好の蒼星石は外へ飛び出しました。

数十メートル先の橋の上には既に人だかりが出来ていました。

「号外!辻斬り犠牲者急増!」

(マスター?辻斬りって?)
(外で外国語を口にするな。辻斬りってのは通り魔みたいなものだ)

瓦版が路上にばら撒かれ紙吹雪の様に舞っていく最中、蒼星石は周りの建築物に目を奪われています。

「む…人が解散していく。蒼星石、帰るぞ」

しかし蒼星石は見慣れない建築物に目を奪われている!

   コマンド!  攻略本より↓    

   呼び掛ける(無限ループになります)
   怒る   (ざんねん! ますたー はしんでしまった!)
   叱る   (ざんねん! ますたー はしんでしまった!)
   一人で帰る(ざんねん! ますたー はしんでしまった!)
 ニア 甘やかす (正しい選択肢)


「……そんなに外が珍しいなら団子でも食べるか?」
「えっ、団子?」
「団子ってのは炊いた米に色んな物を混入させ押し潰し練り回し陵辱の限りをした後、㍉㍑㌢㌧㌢㌧みたいな棒にそれを付着させたものだ」
「うんっ!食べてみる!」

今の説明でよく食べる気になったな蒼い子。

男と少女はその場から少し離れた寂れた甘味処に足を運びました。

「ここの主人とは懇意だからな。少しくらい事なら目を瞑ってくれる。だから傘を外してもいいぞ」

そう言い終わる前に蒼星石は串に齧り付いている。矢張り、人形とは言え、色々あってお腹が空いていたみたいだ。

「ゆっくり食べなよ」

忠告をしながら男は思考に没頭する。
今回の辻斬りは名のある名刀を持つ者ばかりを背後から狙い、突き殺し刀を奪い去っていくらしい。
ならばこの刀も狙われる可能性もあるってことだ。

けれど、この刀を外すわけにはいかない。

敬愛する主君との思い出と魂が篭ったこの戒めの刃を


「……気を抜けないな」
「ふぁんふぁふぃっふぁ?」
「………蒼星石!団子を口に含みすぎっ!窒息するぞ!」

指摘も遅く蒼星石は団子を喉に詰まらせてしまった。