このGW、俺は蒼星石と温泉ホテルへ行く事にした。
今はそのホテルへ向かい、海岸沿いを走っているところで、
後部座席に座った蒼星石はさっきから海を眺め続けている。
「マスター、窓開けてもいい?」
「いいけど、飛ぶから帽子は取っとけよ。」
蒼星石が帽子を外すのを確認してから、俺は窓を開けてやった。
「マスター、潮風が気持ちいいよ。」
「そうだな、お、そろそろホテルが見えてきたぞ。」
いよいよ目的のホテルが近付いて来た事を教えると、
「えっ?どこどこ?」
蒼星石は身を乗り出し、俺に顔を近づけて訊いてきた。
「ほら、正面の大きい建物。」
「あれがそうなの?じゃあ急ごうよマスター!」
「分かったけど、もう少ししたら鞄に入ってくれよ。」
予約は俺一人だけなので、蒼星石は鞄に入ってもらう。
それから少ししてホテルに到着した、鞄と普通の荷物を持ち、ロビーに向かった。

「いらっしゃいませ。」
中に入ってまず、仲居さん達による出迎えを受けた。
目移りしてしまうほど綺麗な人達が並んでいる、のだろう。
しかし俺にはそうも見えなかった、美しい物は見慣れたのかもしれない。

ひとまず手続きを済ませ、部屋に向かう事にした。
「どう、元気でやってる?」
親しげに話しかけてきた仲居は俺の友人で、栗間洋子という。
高校時代からの付き合いで、まぁ親友みたいなものだ。
それと俺以外に蒼星石の事を知っている数少ない友人の一人だ。
「まぁまぁだな。」
「あの子はその鞄の中?」
「あぁ、バレちゃあまずいからな。」
そんなやり取りをしながら部屋に向かった。
「おぉ、いい所だな、蒼星石も出てきていいぞ。」
もう安全なので、ようやく蒼星石も鞄から出てきた。
「ふぅ、うわぁ・・・すごいなぁ・・・」
「喜んでもらえて何よりよ、蒼星石ちゃん。」
「あ、洋子さん、お久し振りです。」
「あいかわらず礼儀正しいわね、お茶淹れるからちょっと待ってて。」
洋子がお茶を淹れ始めたので、俺と蒼星石もテーブルに座った。

淹れられたお茶を俺が一口啜り、続いて蒼星石も一口啜った。
「うん、美味しいです。」
「ホント?そういってもらえると嬉しいわ。」
ほめられて上機嫌の洋子は、部屋の説明をしてから去っていった。

蒼星石はお茶を飲み終えると、窓から外を眺め始めた。
「マスターも来て、いい眺めだよ。」
「分かった、おぉ、本当にいい景色だな。」
窓からは綺麗な海が一望できた。
ちなみにこのホテルは各部屋檜露天風呂付きなので、蒼星石も一緒に入れる。
「日が沈む頃に風呂に入るか?飯には間に合うだろうし。」
「うん、分かった!一緒に入ろうね。」
とはいえまだ時間があるので、日没が近付くまで適当に時間を潰した。
「マスター、日が沈み出してきたからそろそろ入ろうよ!」
「そうだな、じゃあ先に入ってるぞ。」
俺は先に入って蒼星石を待った、ここから見える夕焼けの海はまさに絶景だ。
「わぁ・・・キレイな夕焼け・・・・」
続いて入ってきた蒼星石もこの景色に目を奪われた。
「100万ドルの夕焼けって感じだね、マスター。」
蒼星石は湯船に入ってからそう言った。
「そうだな、でも俺はこの夕焼けよりずっと美しくて、金じゃあ表せないものを知ってるけどな。」
「えっ、何それ?僕も知ってるかな?」
やはり分かってないようなので、俺はさらっと言ってのけた。
「もちろん、自分の事は自分が一番良く知ってるだろ?」
「え・・・?自分の事・・・・・・ええぇぇぇぇ!?」
言葉の意味を理解して、蒼星石は大分慌てている様子だ。
「マ、マスター、いきなり何を・・・・・僕が綺麗な訳・・・・・」
「大丈夫、お前が思ってなくても俺はそう思っているから。」
「もぉ・・・・バカ・・・・・」

「そろそろ飯だから出るか、後でゆっくり入ろう。」
「そうだね、じゃあ僕先に出るよ。」
蒼星石が着替え終わった後、続いて俺も風呂から出た。
それから少しして、洋子が食事を運んできた。
「どうだった、お風呂は?」
「あぁ、良かったよ。」
「夕焼けがすごく綺麗でした。」
「そう、良かった、ところで本当に一人分で大丈夫なの?」
予約が一人分なので、食事は一人前を二人で食べる事になる。
「大丈夫、どっちにしろ一人じゃ食い切れないし、いただきます。」
「いただきます。」

「どうだ蒼星石、美味いか?」
「うん、すごい美味しい!あ、マスターほっぺにご飯粒付いてるよ。」
蒼星石は俺の頬に付いていたご飯粒を指で取ると、
「ふふっ、ほんと子供みたいだね。」
と言ってそのまま自分でご飯粒を食べた。
「そろそろデザート大丈夫?」
大体食べ終えたので、洋子がデザートのマンゴープリンを持ってきた。
「あれ、なんで二つ持ってきたの?」
「注文ミスで余っちゃってね、食べるでしょ?」
「はい、ありがとうございます。」
「どういたしまして、それじゃあね。」
「良かったな、蒼星石。」
「うん、あぁー、美味しい!」

「蒼星石、ほっぺに付いてるぞ。」
「えっ、ほんとに?」
「ったく、人の事言えないじゃないか、お前も。」
俺はそう言いながら蒼星石の頬についたプリンを舐め取った。
「ひゃぁっ!もう、やめてよマスター。」

食べ切ってから少しして、洋子が片付けに入ってきた。
「美味しかったでしょ?」
「あぁ、ごちそうさま。」
「ごちそうさまでした。」
「朝は二階のカフェ辺りで食べるといいわ。」
朝は部屋では無理なので、洋子が食べる場所を教えてくれた。
「分かった、いろいろありがとう。」
「ところで、布団はどうする?」
「一つでいいよ、蒼星石は布団で寝るから。」
「そう、分かったわ。」
洋子が食器を持って出て行った後、蒼星石は不安げに聞いてきた。
「マスター、僕鞄じゃなきゃいけないの?」
「いや、あいつに二人一緒に寝るなんて言えないからさ。」
「じゃあ、一緒に寝ていい?」
「もちろん、せっかくの旅行だから一緒に寝ないとな。」
「よかった、ありがとうマスター。」

布団を敷いてもらった後、もう一度風呂に入ってから、俺達はテレビを見ていた。
「そろそろ寝るか。」
「そうだね、マスターちょっと寄って。」
俺は少し右側に寄り、蒼星石を布団に招き入れ、いつものように腕枕をしてやった。
「マスター、今日はありがとう。ちゅっ」
蒼星石は一言俺に言うと唇に軽くキスをした。
「えへへ、気持ちだけだけど、僕からのお返し。」
「ありがとう、確かに受け取ったよ、じゃあおやすみ。」
「うん、おやすみなさい。」
そう言葉を交わし、俺達は眠りについた。

次の朝、洋子に言われた通りカフェで朝食を取った後、
部屋で休んでると洋子が布団を片付けに入ってきた。
「今度そっちに遊びに行こうかな。」
「そうだな、待ってるよ。」
「それじゃあ暇が出来たら連絡するわ。」

それからしばらくして俺達はホテルを出て、家へと向かった。
「楽しかったね、マスター。」
「そうだな、GWを満喫できたよ。」
「ほんと、いい休みだったね・・・・あっ!マスター、和菓子屋寄って行こうよ!」
帰り道で見つけた和菓子屋に立ち寄り、栗羊羹などを買った。
「帰って一緒に食べようね、マスター。」
「そうだな、よし、少し急ぐか。」
この二日間、俺と蒼星石は家事も仕事も忘れて思いっきりリフレッシュできた。