自宅、夕食の風景。


マ:「モグモグ。」
   いや~、やっぱり仕事から帰ってきてすぐ温かい飯にありつけるのは幸せですなぁ~。
   俺は改めて蒼星石に感謝する。
蒼:「美味しい? マスター。 今日のエビチリはちょっと辛めに作ったんだけど。」
マ:「美味い。けど少し片栗粉を少なめにして隠し味にオイスターソースを~」
蒼:「うん。」
   俺の料理のレクチャーを聞き入る蒼星石。
蒼:「なるほど、勉強になるよ。」
マ:「まぁ、あくまで俺の好みだから。蒼星石は好きに調理してくれ。」
蒼:「ううん。とっても参考になるよ。次からそうしてみるね。」
マ:「ふぉっふぉ、ありがとさん。」
   モグモグモグ。
蒼:「ところで、今度の休日ってもう予定決まってるの?」
マ:「いんや、まだ決まってないよ。蒼星石、どこか行きたいところある?」
蒼:「あの、思うんだけど。」
マ:「うん?」
蒼:「せっかくのマスターの休日を、いつも僕のために使ってくれてるよね?なんか最近悪い気がして。」
   この子はすぐ自分を責めるクセがある。
   それがこの子のいいところでもあり悪いところでもあるんだが。
蒼:「だから、たまには僕なんか気にしないでマスターはお友達と一緒に羽を伸ばしてきてもいいんだよ?」
マ:「蒼星石を置いて?」
蒼:「うん。僕がいるとマスターも色々大変でしょ?」
マ:「う~ん。」
   なんでこう要らない気を遣うんだ、この子は。まったくもっていじらしい。
マ:「蒼星石は俺と休日を過ごすのは楽しい?」
蒼:「それは、もちろんだよ。だけど、マスターもお友達と遊びたいでしょ?」
マ:「ふむ、お友達ねぇ・・・。」
   ん、いいことを考えたぞ。
マ:「わかった。今度の休日は友人として蒼星石と遊ぶことにするよ。」
蒼:「えぇ?」
マ:「蒼星石も俺の友達として振舞ってくれよ。」
蒼:「いや、僕の言ってるのはそういうことじゃなくて実際にマスターがお友達と・・・。」
マ:「けって~い。もうけって~い。いや~、楽しみだぁ~。」
蒼:「もう、それじゃいつもと変わらないじゃないか。」
   ま、そういうことだ。


   んでもって休日。

マ:「用意できた?」
蒼:「うん。」
マ:「よし、じゃあ出発。」
   車を発進させる。
   蒼星石には幼児用のツナギを着てもらっている。もちろん俺は普段着だ。
マ:「よし、まずはカラオケだな。」
   友達と遊ぶとこといったらまずカラオケだろう。   
蒼:「カラオケ?」
マ:「歌を歌うとこ。」
蒼:「えぇ~? 僕歌なんて歌えないよ。」
マ:「じゃあ歌えるようになろう。」
蒼:「そんな・・・。」
   そんなに苦手なのか。そういや蒼星石が歌ってるとこみたことないな。
   やがてカラオケの店についた俺ら。
マ:「帽子被って。」
   蒼星石に野球帽を被せる。


   受付を済ます。
   しかし、どうみても俺ら父と息子って感じだよな。まさか恋人同士とは受付の人も夢にも思わんだろう。
   いよいよカラオケの部屋に入る。
蒼:「ここで歌うの?」
   蒼星石が物珍しげに室内を見回す。
マ:「ああ、歌って楽しむんだ。ほい、マイク。」
蒼:「あ、これテレビで見たことあるよ。」
   マイクを持つのも初めてかぁ。
マ:「何歌いたい?」
   俺はリモコンを手に取り蒼星石に訊く。
蒼:「い、いや僕はいいよ。マスター歌って。」
   ん~~。
マ:「んじゃデュエットしようか。」
蒼:「デュエット?」
マ:「二人一緒に歌うの。」
   さ~て、蒼星石が歌えそうな歌はと・・・。
   ポチポチポチとな・・。
   モニターに映し出された歌名は『もりのくまさん』
マ:「ほら、歌おう。」
蒼:「あ、うう。」
マ:「ある~ひ~、もりのなっか~♪」
蒼:「ごにょごにょ・・・。」
   蒼星石は俯きながらでまったく声が出てない。
マ:「くまさんに~であった~♪」
蒼:「ごにょごにょ・・・。」
   デュエットになってないやん。
マ:「ほらほらっ恥ずかしっがらな~い~で~♪」
蒼:「うう。」
マ:「くまさんにであ~った~♪」
蒼:「くまさんにでああたー。」
   お、ちゃんと声を出してくれた。
   そんな調子で一曲目『もりのくまさん』が終了した。
マ:「よし、調子出てきたところで次は・・・。」
蒼:「あの、マスターやっぱり恥ずかしいよ・・。」
マ:「いや~、蒼星石さんの声は惚れ惚れしますな。」
蒼:「ううう・・・。」
   ポチポチポチとな・・。
   次にモニターに映し出された歌名は『どんぐりころころ』
マ:「どんぐりころころどんぐりこ~♪」
蒼:「ど、どんぐり、ころころどんぐりこー。」
   そんな調子でデュエットは進んでいった。 

   数十分後・・・

蒼:「ばーらがさいたーばーらがさいたー まっかなば~らぁが~♪」
マ:「よっ! 蒼星石、日本一!いや世界一!」
蒼:「さみしかった~ぼくのにわにば~らがさいた~♪♪」
   案外蒼星石は乗せやすい。


   カラオケから出て車に乗り込む俺と蒼星石。
マ:「や~、えがったえがった。」
   大満足。
蒼:「マスター、歌上手いんだね。」
   上手いって言われてもなぁ~。
   結局俺も蒼星石に合わせて童謡や民謡しか歌わなかった。
マ:「蒼星石もとてもよかったよ。」
   なによりマイク持って一生懸命歌う姿が可愛らしゅうて可愛らしゅうて。
蒼:「本当?」
マ:「ああ、マスターうそつかない。惚れ直したよ。」
蒼:「えへへ・・・。」


   ある目的のための場所に着くと俺と蒼星石は車を降りた。
   着いた場所は川原だ。
蒼:「ここで何をするの?」
マ:「川原ですることと言えば、やはりキャッチボール。」
蒼:「キャッチボールってボールを投げあう、あの?」
マ:「ああ。やったことある?」
蒼:「ううん。ないよ。」
マ:「じゃあ、説明するよ。」
   俺はポケットからゴムボールを取り出すと握り方を教えてあげる。
マ:「こう握るんだよ。」
   蒼星石にも握れるような小さいボールなので俺自身がちと握りづらい。
蒼:「う、うん。」
マ:「いいか? んで投げ方は・・・。」
   投球モーションやボールの受け方の指導も蒼星石は熱心に聞いてくれた。
マ:「じゃやってみるか。」
   柔らかいゴムボールだからグローブは無しでもいい。
   というか蒼星石に合うサイズのグローブを探したんだが手に入らなかった。
マ:「蒼星石、そこに立ってて。」
蒼:「うん。」
   蒼星石から10メートルほど離れた位置に俺が立つ。
マ:「んじゃ投げるよ。」
   まずはかる~く投げる。
   ボールは放物線を描いて蒼星石の元へ。
   パシッ
   蒼星石は難なくそれを捕った。
蒼:「いくよー、マスター。」
マ:「ほい。」
   先ほど俺が投げたように蒼星石も放物線を描くように軽く投げた。
   パシッ
   数回、そのように投げ合う。
   やがて、
マ:「んじゃそろそろ速めに投げるよ。」
蒼:「うん。」
   シュッ
   パシッ
   蒼星石はそれも難なくキャッチした。やっぱり蒼星石は運動神経いいなぁ。
蒼:「僕も速めに投げるよー。」
マ:「ほい。」
   シュッ
   パシッ
   ん~、なかなかキレのあるストレートだ。
   シュッ
   パシッ
   シュッ
   パシッ
マ:「蒼星石、最近調子どうだ?」
   シュッ
   パシッ
蒼:「え? う~ん、特に変わらないよ。いつも通り。マスターは?」
   シュッ
   パシッ
マ:「俺もいつも通りだな。平穏無事だ。」
   シュッ
   パシッ
蒼:「そういえば、また翠星石が何か企んでるみたいだったよ。」
   シュッ
   パシッ
マ:「マジで?」
   勘弁してくれ。
蒼:「なんか『実録トラップ100選』とかいう本読みながらニヤニヤしてたよ。」
   シュッ
   パシッ
マ:「怖ぇな。」
   シュッ
   パシッ
蒼:「一応、マスターに手を出さないように釘を刺しといたけど・・・。」
   シュッ
   パシッ
マ:「気をつけよう。」
   シュッ
   パシッ
蒼:「翠星石にも困ったものだよ・・・。」
   シュッ
   パシッ
マ:「そういや、もう一人困ったちゃんにこの前会ったぞ。」
   あ、しもうた。
   シュッ
   パシッ
蒼:「え、誰のこと?」
   シュッ
   パシッ
マ:「秘密。」
   正直、口が滑った。
   シュッ
   パシッ
蒼:「なに、秘密って・・・。」
   気にせんといて。
   シュッ
   パシッ
マ:「よし、蒼星石、本気で投げてみて。」
蒼:「う、うん。」
   蒼星石が大きく振りかぶる。
蒼:「はぁ!」
   うお、掛け声付きですか。
   つうか、はや!
   バチィッ!
   いてて。キャッチした手が痛い。
   しかし、コントロールも申し分ないな。
マ:「こりゃ甲子園狙えるぜ。」
蒼:「?」
マ:「どうだい、キャッチボールは?」
蒼:「うん、楽しいよ。マスターとお喋りしながらだし。」
マ:「そりゃ良かった。」
蒼:「マスターも本気で投げてみてよ。」
マ:「えぇ~?」
   俺が本気で?
マ:「いや、肩痛くなるから止めとくよ。」
   シュッ
   パシッ
マ:「いつか皆でソフトボールでもやってみたいなぁ。」
   シュッ
   パシッ
蒼:「ソフトボールって野球?」
マ:「野球はベースボール。ソフトボールってのは、野球によく似たスポーツだよ。」
   シュッ
   パシッ
蒼:「ふ~ん。ところでマスターっていつもお友達とこんなふうに遊んでるの?」
   ああ、そういやそういう話だったんだっけ。
マ:「まぁ、そうかなぁ。」
   本当は、遊ぶ=飲みに行く、という感じなんだが。
マ:「よし、飲みにいくか。」
蒼:「飲みに?」


   一旦自宅に戻って車を置き、蒼星石を抱っこしながらある店へと向かう。
   人の往来があると蒼星石は恥ずかしそうに俺の胸に顔を隠す。
   やっぱり人前で抱っこは恥ずかしいですか。
蒼:「なんで車を置いたの?」
マ:「飲むからだよ。」
   俺は飲むジェスチャーをしながら答える。
蒼:「えぇ、もしかして外食するの? 僕と一緒に?」
マ:「ああ。」
蒼:「大丈夫なの?」
マ:「大丈夫、親子連れにしか見えないよ。」
   蒼星石のいつもの服装だと多少怪しく見えるかもしれないが。
蒼:「親子か・・・。」
マ:「外見はな。中身は恋人だぞ。おかしな話だよな。」
蒼:「・・・・そうだね、フフ。」
   俺のかつての行きつけの焼き鳥屋に着いた。ここも蒼星石と出会ってからはめっきり行かなくなってしまったが。
   ガラガラと引き戸を開ける。
店:「いらっしゃい。おー、久しぶりじゃないか。」
マ:「久しぶり。大将。」
   どうやら俺のこと覚えててくれてたみたいだ。
店:「お、その子あんたの子供?」
マ:「いや、姪っ子だよ。可愛いだろう~?」
店:「姪? 」
   蒼星石が俺に事前に言われた通り、子供っぽく店員に手を振る。
マ:「お座敷空いてる?」
店:「ああ、余裕で空いてるよ。」
   まだ四時だもんな。
   お座敷に上がった俺と蒼星石。
店:「注文は?」
マ:「とりあえず生二つ。」
店:「おいおい。」
マ:「冗談。生一つと・・・えーと、オレンジジュースを。あと焼き鳥を10本、もち塩焼きね。」
店:「はいよ。」
   店員は奥に消えていった。
   蒼星石がカラオケに行った時と同じく、物珍しげに店内を見回している。
蒼:「なんだか落ち着かないなぁ。」
マ:「はは。堂々としてなはれ。客なんだから。」
蒼:「そんなこと言っても。」
   注文した生ビールとオレンジジュースがきた。
マ:「んじゃ乾杯しよう。」
   俺はジョッキを持った。
   蒼星石もグラスを持つ。
マ:「君の瞳にかんぱ~い。」
蒼:「か、かんぱい・・・。」
   カチーン。
   はは、照れてる。
   ゴクゴクゴクゴク。
マ:「ぷはー。さて、先に追加の注文決めちまうか。蒼星石、何食べたい?」
蒼:「え~と。」
   蒼星石はお品書きを真剣に覗き込んでいる。
蒼:「レバー食べたいな。」
マ:「レバーですか。」
   俺が意外そうな声を上げると
蒼:「レバーってとっても体にいいんだよ。ぜひマスターに食べてもらいたいな。
   あ、そうだ。お野菜もちゃんと摂らないと。美味しそうなサラダがあるね。」
   こんな所に来ても俺の体を気遣って注文を決める蒼星石。
   そして、最初に頼んだ焼き鳥がやってきた。
マ:「ここの塩は絶品なんだよ。」
   ん~、香ばしい匂い。
蒼:「いただきます。・・もぐもぐ。」
マ:「いただきまーす。バクバクモグモググビグビ。」
蒼:「マスター、ゆっくり食べた方がいいよ。」
マ:「いや~、運動したせいか腹が減っててね。」
   蒼星石と二人きりっで居酒屋。今日は酒が進みそうだわい。
マ:「美味いか?」
蒼:「うん、とても僕には真似できない味だなぁ・・・。」
   そりゃ老舗の味だから。
   しばし、その老舗の味に舌鼓を打つ俺と蒼星石。
蒼:「マスターって、僕と出会う前はよくこういうところに来てたの?」
マ:「ああ、まぁそうだな。」
蒼:「やっぱり僕がいるとこういう場所行きづらいよね・・・。」
マ:「でも今来てるぞ。」
蒼:「う、うん。でも。」
マ:「たま~に来て食べるからいいんだよ、こういう所は。
   一方、蒼星石が作ってくれるご飯は毎日食いたいな。いやぁ~蒼星石は偉大だなぁ。ハッハッハ。偉大偉大。」
蒼:「もう・・・マスター酔っちゃったの?」
   はは、また照れてる。
マ:「俺がアホみたいに酒強いって知ってるだろ? まだまだ飲むぜよ。」
蒼:「ふふ、そんなこと言ってると酔いつぶれちゃっても介抱してあげないよ。」
マ:「はは。」
   ほんと、どの友人と飲むより酒が進むな。


                                             終わり