世間では夏休みと言った所だろうが、残念ながら俺に長期休暇という物は存在しない。
そんな中での一日の休みは、『貴重』という言葉そのものだった。


「ハハハ、ガキなんか暑い中で日焼けでもして黒くなっとけってんだ、バーローwwww」
「・・・マスター、そんな僻まなくても・・・」

海の日を過ぎた辺りから、毎朝毎朝外から聞こえてくる遊ぶ子ども達の大きな声。
それを聞きながら俺は蒼星石と遅めの朝御飯を摂っていた。
「ごちそうさまー」
「ちょっと待って」
席を立つのを蒼星石に止められる。
「マスター・・・今日もご飯残してるね。ちゃんと食べないと駄目だよ?」
・・確かに蒼星石の言う通りだった。
毎朝完璧なる食事を用意する蒼星石。
今までそれを残すことは俺としては考えられなかったんだが、
「ここんとこ食欲がなくてね。食い切れないんだ」
「でも・・・」
心配そうな顔をする蒼星石。
「最近マスターってば、全然ご飯食べ切ってくれないから・・」
「悪い悪い。そうだ、昼はまた素麺にしてよ」
「・・・・・」
ポン、と蒼星石の頭に手を置く。
素麺ぐらいだったらしっかり食べれそうな気もする。
それに今日は滅多に無い休み。
一日ぐらいは涼しく生きてやろう、と心に決めた。



・・・決めたはずだったんだが。
「蒼・・・俺もう帰っていいですか?」
部屋でクーラーを利かせて昼寝と洒落込んでいた俺。
昼前になって、その甘夢は蒼い影によって無残にも破壊された。
「駄目だよ。折角マスターお休みなんだから、買出しに出ないと」
俺の手を引いて近くのスーパーへ向かう蒼星石。
空からは煮干になりそうなぐらいの量の日が射している気がする。

その後、頭がボーっとなりながらも、俺は蒼星石に引かれてスーパーへ辿り着いた。
入った瞬間にしっかり利いた冷房が俺の体を包み込む。
「はい、マスター。コレお願い」
カートを持ち出してくる蒼星石。
「えーと、ニラとレバーが足りなくなっt」
「ごめん。俺体がしんどいから、ベンチで休んどくよ。買い物は頼んだ」
カートを受け取らずに蒼星石に英世を数人渡す俺。
「え?」
「じゃ後はよろしく」
確か外に自販機があったな。
「・・・ひょっとして、マスター・・」
後ろで蒼星石が何か呟いたようだったが、すでに俺の関心は買おうとする水の方へ向いていた。



         ▼△


夕方。

「はいっ、召し上がれ!」
ドーンと俺の前に置かれる重箱。
「今日は土用の丑の日だし、鰻にしたんだ」
そう言いながら自分の分の蓋を開ける蒼星石。
気温も高いのに、ぼんやりと湯気が立つ。
「・・・俺さ、食欲g」
「その言い訳は通用しないよ」
へ?
「結局マスターはお昼も全然食べなかったし、冷たいもの飲んでばかりだったよね?ここ最近もそうだったけど」
話を聞きながら俺も蓋を開けてみる。
そこには予想を裏切らずビッグな蒲焼が白飯の上に乗っていた。
「今日確信したよ。マスター、夏バテになってる」
・・・思い当たる節はあったけど。
ここまで面向かって言われるのは、ガンときた。
「だから・・・それ食べて元気出して?」
「・・・・・」
無言のまま、目の前に鎮座する鰻を眺める。
そして箸を持って一切れを口に押し込んだ。
「マスター・・・」
「・・・うっ」
瞬間、重箱を持ってかき込む俺。
「うーまーいーぞぉー!」
味皇ばりの言い方になったが、実際それぐらい美味いから困る。
その様に満足したのか、蒼星石も嬉しそうに自分の鰻重を食べ始めた。


「あー食った食った」
お茶を啜りながら、見事に膨らんだ腹を叩く俺。
「ふふ、お粗末さまでした。どう?元気でた?」
食卓を片しながら蒼星石が満足気に問いかけてくる。
「もちろん。鰻は精力がつくからn・・・・あれ?」
「?どうかした?」
俺の顔を覗きこむ蒼星石。
その手には、
「蒼、まさか俺と同じ量を食べたのか?」
俺のと同サイズの重箱が持たれている。
中を見るに、どちらも空だから蒼星石も完食したらしかった。
「そうだけど・・・何か変かな?」
なんてこったい。こんな可愛らしい子が大の男と同量食うなんて。
恐るべしローゼンメイデン。


         ▼△


その夜。


少し前に降り始めた雨はすぐに強くなり、雷も鳴り始めている。
時刻は午後十時前。
今夜は蒼星石の意向で『早く寝たほうがいい』とのこと。
睡眠は夏バテ気味の体には必要だろうし、俺もそれに従って今現在ベッドの中に居た。
こんなに早く寝るのは久々だけど、蒼星石が心配してくれている手前、仕方ないかな。
とりあえず俺は目を閉じることにした。

・・・・・

どれくらい経っただろうか。
まどろんでいる所をノックで起こされる。
「どぞ」
「・・マスター起きてる?」
当然の如く、声の主は蒼星石だった。
「・・・悪い。まだ寝れてない」
「そっ・・か」
薄目を開けると、ドアから蒼星石が入った所だった。暗い所為でシルエットの様にしか見えないが。
「その、マスターさ・・・何ともない・・の?」
「お蔭様でね。鰻食べたら元気でたよ」
「違っ、そっちじゃ・・・ぅぅ・・」
入り口付近でもじもじしているらしい蒼星石。
「雷も鳴ってるし・・僕、マスターとまた・・・」
ああ、成る程ね。
タオルケットを上げて手招きする俺。
「マスター・・っ!」
蒼星石が足早に駆け寄ってくる。
一緒に寝たいなんて、可愛いなぁ。
何か興奮してるようだけど、多分気のせいだろう。


蒼星石がベッドに飛び込んでくるのを確認して、俺は再び眠りへと落ちようとした。





END