今日もひどい土砂降りだった。
  連日の大雨も朝には止んでいたが、久し振りに太陽を満喫できるという期待はあっけなく裏切られた。
蒼「天気予報も当てにはならないな。洗濯するんじゃなかったな…。」
  連休で出かけたり、連日雨だったりで洗濯物はもはや飽和状態だった。
  そこで今日こそは、と一気に洗濯したところでこの豪雨である。
  やってられない気分にもなろうというものである。
マ「おーい、ただいまー!!」
蒼「あっ、お帰りなさーい。」
  普段よりもだいぶ早い時間の帰宅だった。
  蒼星石が玄関に赴くと、そこには濡れ鼠になったマスターがいた。
蒼「ど、どうしたの一体!?」
マ「朝は晴れてたし、折りたたみ傘しか持ってなかったから…。」
  天気予報の被害者がここにも一人。
  どう見ても頭の先から足の先までずぶ濡れであった。
マ「このままじゃ家に上がれないからちょっとお願い。」
蒼「うん、待っててね。」
  慌てて蒼星石はバスタオルと着替えを取りに戻った。


マ「うー、徹夜で睡眠不足の身にはこたえる。」
  体を拭きながらマスターが言う。
蒼「もう、だからレポートは計画的にやっておこうね、って言ったのに。」
マ「確かに、連休中に遊びすぎた。反省してる。ところでさ、下着しかないんだけれど?」
蒼「ごめんね、今日全部お洗濯しちゃってまだ乾いていないんだ。」
マ「この際パジャマでも冬物でもいいよ。」
蒼「パジャマも洗っちゃったんだ…。それに冬物は置き場所がないからご実家に送ったでしょ?」
マ「そうだったね。じゃあ、このままでいるしか……ハクシュン!」
蒼「ほら、風邪ひいちゃうよ!早く体をあっためないと。」
マ「じゃあ、シャワーでも浴びて温まるか。」
蒼「ごめん、それは無理なんだ。」
マ「え?」
蒼「部屋干ししてるんだけれど、もう干す場所がなくってお風呂場にも洗濯物が干してあるから…。
   悪いけれど暖房を入れてお布団にくるまっていて。」


蒼「はい、ホットミルク。体もあったまるし、寝る前に飲むとリラックスして安眠できるんだよ。」
マ「ありがとう。あったかいや…。ねえねえ、せっかく早く帰って来たのに寝なきゃ駄目?」
蒼「駄目!夏風邪って結構しつこいんだよ。お夕飯前には起こすから、まずはしっかりと体を休めて予防しなきゃ。
    マスターも、何も雨が一番激しいときに帰って来なくても、学校で寝てるとかすれば良かったのに。」
マ「だってさ…。」
蒼「だって?」
マ「…蒼星石に早く会いたかったから。」
蒼「他には?」
マ「警報なんかも出て、いろいろ被害も出てるみたいだし、蒼星石の事が心配で。」
蒼「えっ、本当にそれだけなの!?」
  蒼星石は呆気に取られた顔をしている。
  その表情を見たマスターがまくしたてる。
マ「うん、それだけです!お仕事増やしちゃってごめんなさい!
   呆れられても仕方がないけど、でも僕には十分大事な理由だったの!」
蒼「もう、マスターったら子供みたいだよ。」
  笑いながら蒼星石が言う。
マ「ちぇっ、確かに蒼星石と比べたら子供だけどさ…。なんか今日は子供扱いされてばかりだ。」
蒼「さ、そろそろお夕飯の支度しなきゃだからもう寝ようね。」
マ「はいはい、分かりましたよ。」
  マスターが横になろうとすると蒼星石が寄ってきた。
蒼「じゃあ、甘えん坊さんのために膝枕くらいしてあげようかな。」
マ「こういった子ども扱いなら大歓迎かな、へへっ。」
蒼「どうかな、少しは落ち着ける?」
マ「うん、とっても気持ちいいや。やわらかいし、なんだかぽかぽかして、安らいで、ひなたぼっこして…る…みた…い………」
  そう言い終わらないうちにマスターは寝息を立て始める。
蒼「ふふっ、やっぱり疲れてたんだなあ。もう寝ちゃった。」
  しばしマスターの寝顔を見続ける。
蒼「さてと、そろそろお夕飯の支度をしなきゃ。」
  そう言うと、マスターが目を覚まさないようにそっと頭を下ろす。
蒼「でも、本当に子供みたいな寝顔だなあ。なんだか可愛いや。」
  寝顔を覗き込みながら蒼星石が言った。
蒼「マスター、本当にただ『それだけ』のために、あんな雨の中なのに急いで帰って来てくれたんだね。
    ありがとう…。」
  そのまま蒼星石は寝顔にキスをする。
蒼「これからも…ずっとずっと僕を照らし続けてね。」
  そう言って蒼星石は部屋を後にした。