ある晴れた昼下がり。


マ:「暑いねぇ~、蒼星石。」
蒼:「うん、暑いね~、マスター。」
   ふざけやがって、この蒸し暑さ。
マ:「どうにかならんかね。」
蒼:「ちょっと待ってて。」
   蒼星石がキッチンの方へ向かった。
   アイスティーでも淹れてくれるんですかな?
   少しして蒼星石がおぼんに茶器を乗せて戻ってきた。
   なんか、アイスティーではなさそうだな。
   いそいそとお茶を淹れる蒼星石。
   湯気が立ってるな・・・・
   蒼星石がにこやかに俺の目の前にホカホカと湯気が立つお緑茶を置く。
蒼:「はい。暑いときは汗をかいた方がいいんだよ。」
マ:「・・・・。」
   飲むのか、これを。
   確かに、暑い時に熱い茶を飲むと汗腺がどうたらこうたらで結果、涼しくなるとかいうが。
マ:「かたじけない・・・。」
   あち、あちち・・・。
   蒼星石はマメだ。ちゃんと茶器まで温めてある。おかげで茶は高い温度を保っていた。
   舌を少し火傷してもうた。
   しばし静かに蒼星石と茶を楽しむ。

蒼:「どう、マスター?」
マ:「うん、美味い。それに、いくらか暑さを感じなくなってきたよ。」
   ふむ、案外いいな。
蒼:「そう、よかった。」
   蒼星石がにこやかに笑う。
   俺も釣られて笑う。
   そんな時、チャイムが鳴った。
マ:「誰だろ。」
   俺はインターフォンに出る。
マ:『はい。』
?:『草笛ですけど・・・。』
   草笛?
マ:『あー、みっちゃん?』
み:『うん。』
   みっちゃんが来るとは珍しい。なんかいつもより声のトーンが低いな。
マ:『ちょい待ってて。』
   俺は玄関に向かい、扉を開けた。
み:「・・・・。」
マ:「こんちわ。あれ、金糸雀は一緒じゃないの?」
   金糸雀も金糸雀の鞄も見当たらない。
み:「・・・・。」
マ:「?」
   なんだ? 俯いて立ってるばかりで返事しないぞ?
み:「う・・・。」
マ:「?」
み:「うわ~~ん!」
   いきなり泣き出して俺に抱きついてきた!
マ:「ど、どした!?」
み:「わ~~ん!」
マ:「おい。」
   みっちゃんはただ泣くばかりだ。
   なんだなんだ? 俺何かした?
蒼:「ま、マスター! みっちゃんさんに何してるの!?」
   みっちゃんの泣き声を聞きつけて蒼星石が玄関までやってきた。
マ:「ち、ちがう! みっちゃんがいきなり泣き出して俺に・・!」
み:「わ~ん!」
   蒸し暑いさなかの修羅場だった。


   どうにかみっちゃんをなだめて部屋に上がらせる。
   落ち着きを取り戻したみっちゃんは黙って俯くばかりだ。
み:「・・・・。」
   まったくこの人は何を考えているのだ。
   いきなり泣いて抱きついてくるなんて、蒼星石にあらぬ誤解を与えるところだったぞ。
マ:「蒼星石、みっちゃんに何か飲み物を。」
   それはそれは熱~いお茶を出して差しあげるんだ。
蒼:「はい、みっちゃんさん。」
   蒼星石が出したのはキンキンに冷えたアイスティーだった。
   氷がカランとかいって涼しげな音出してやんの。
マ:「(なんでさっきみたいに熱いお茶ださないの!?)」
蒼:「(だって、暑い時に熱いお茶なんて気心の知れた人じゃないと出せないよ。)」
マ:「(ん、ま、そうか・・・。)」
   蒼星石はそういうの心得てるなぁ・・・。
み:「あの・・・。」
   お、やっとみっちゃんが重い口を開いてくれそうだぞ。
み:「ごめんなさい。いきなり抱きついたりして。」
マ:「うんうん。」
蒼:「・・何かあったんですか?」
   蒼星石が遠慮がちに聞く。
み:「実は、金糸雀と・・・喧嘩したの~うううう~。」
マ:「ほうほう。」
   それは珍しいですな。しかしだからってこちらを巻き込まんでもらいたい。
蒼:「みっちゃんさん、泣かないで下さい。」
   蒼星石が親身になって応対してる。ふむ。
マ:「で、どうして喧嘩になったの?」
み:「それは・・・あたしはカナをコスプレさせて撮影してただけなのに・・・。」
マ:「はぁ。」
み:「カナが『こんな暑い日に白熊やペンギンの着ぐるみコスプレなんてありえないかしら!』って駄々をこねて・・・」
マ:「・・・・・。」
蒼:「・・・・・。」
み:「あたしとしては、こんな暑い日だからこそ『北極』をテーマに白熊やペンギンの格好させて涼しい気分に
   させてあげようと思ったのに・・・。カナったら・・・ううう・・・」
マ:「蒼星石、今晩の夕食はなにかな?」
蒼:「ローストチキンだよ、マスター。」
マ:「それは楽しみだなぁ・・・。」
み:「ちょっと聞いてるの!?」
   くだらなさ過ぎる・・・。
   あ~、どこから突っ込もうか・・・。
   ん~、まずは被害者は金糸雀であることを自覚させよう。
マ:「みっちゃんねぇ・・・あんたは着ぐるみのキツさを舐めちょる!
   こんな暑い日にそれを着さすなんてハッキリ言って拷問だよ!?」」
   俺も過去に着ぐるみを着たことがあるが本当に暑くてキツかった。
   俺は金糸雀に同情する。
み:「そんな・・・あなたも私が悪いって言うの・・・!?」
マ:「ああ、そうだね。」
み:「そんな!そんな!」
蒼:「ま、まぁまぁ、みっちゃん落ち着いて、マスターも。」
   む。俺としたことが少々熱くなってしまったようだな。この蒸し暑さのせいか。
   しかしさっきからやたらと『暑い』『熱い』の単語が目に付くなぁ。
蒼:「それで、金糸雀はどうしてるの?」
み:「怒って桜田さんのところに行っちゃったみたい・・・。」
マ:「じゃあさっさと金糸雀迎えにいきましょや。車出してあげるから。」
み:「・・・。」
マ:「どしたの?」
み:「なんであたしから・・・。あたしは・・・悪くないもん・・・。」
   なにいい歳して意地張ってんだこの人。しかも『悪くないもん』って・・・
蒼:「でも早く迎えに行かないと。金糸雀がみっちゃんさんのところに帰ったとき誰もいなかったら淋しいよ。」
   喧嘩した後なら尚更そうだろうな。
マ:「ていうかさ。みっちゃん、なんで俺らのとこに来たの?」
み:「それは・・・カナが出て行った後一人で心細かったから・・・。」
   はぁ~。
蒼:「マスター。」
   蒼星石が俺の顔を覗き込む。
マ:「あ~、わかったわかった。」


   nのフィールドを使い、俺と蒼星石、みっちゃんの三人はみっちゃんの部屋に着いた。
マ:「鏡からお邪魔しまーす。」
   みっちゃんの自宅は初めてだ。
   これまで写してきたものと思われるドール、主に金糸雀のポスターや写真が所狭しと飾られていた。
蒼:「じゃあ僕は金糸雀を連れてくるね。」
マ:「ああ、気をつけてな。」
み:「その、お願いします。」
   蒼星石に頭を下げるみっちゃん。
   蒼星石はnのフィールドで桜田家に向かった。
マ:「さて、俺は適当にくつろいでるよ。」
み:「うん。」
   あ~あ、『一人が心細い』ねぇ~。ふむ。
   俺はテレビを付けてそれを眺める。
   おや。
   俺はある額に入った一枚の写真に気付いた。
マ:「この写ってるの、蒼星石だよね?」
み:「うん、そうよ。」
   蒼星石がフリフリのドレスを着て恥ずかしそうにしてる・・・。
   俺はその写真をしばらく魅入る。
   いったいどういうシチュエーションで撮ったんだ?
   蒼星石はスカートとかは嫌いなはずなんだが。
み:「蒼星石ちゃんのならこのアルバムに・・・。」
   みっちゃんがアルバムを俺に手渡す。
   どれどれ・・・。
マ:「ほう・・・。
   ふむ、これは・・・・。
   おぉ・・・。」   
み:「焼き増しプリントする?」
マ:「お願いします。」


   そうこうしてると蒼星石が金糸雀を連れて戻ってきた。
   みっちゃんと金糸雀、対面する二人。
   俺と蒼星石はその様子を見守る。
み:「カナ!」
金:「みっちゃん!」
   抱き合う二人。
み:「ごめんね、カナ。今度から着ぐるみの通気性もちゃんと考慮するからね。」
金:「カナも、今度から多少の無理な注文も一流モデルとしてちゃんと受けきるかしら~!」
   なんじゃそりゃ。
蒼:「とにかく・・・よかったね、マスター。」
マ:「あ、ああ。うん。よかったよかった。」
   俺は無理やり自分を納得させた。
マ:「あの~、そろそろワタクシらは帰らせてもらいますよ。」
み:「あ、待って。」
マ:「まだ、何か?」
み:「せっかく来たんだし、ちょっと写真撮っていかない?」
マ:「ハイ~~~?」
蒼:「・・・・。」


  その後、みっちゃんの粘り強い説得が続き、俺と蒼星石は渋々承諾した。
  みっちゃんの写真に対する思い入れは凄まじいものがあるな。
  俺はこんなみっちゃんにつき合わされている金糸雀に同情した。
み:「じゃあ、蒼星石ちゃん、あっちでお着替えしましょうね。」
蒼:「え? ちょっと・・・。」
金:「お着替えかしら~♪」
   蒼星石が二人に無理やり連れてかれた。
マ:「・・・・。」
   俺は金糸雀への同情を少し撤回した。 
   待つこと十数分・・・・。
マ:「おお・・・!」
   ドレスアップした蒼星石が出てきた。
   写真で見たのはピンクを基調としたおとなしめのドレスだったが
   今、蒼星石が着ているドレスは藍色の、肩と背中が剥き出しになっているかなりセクシーなドレスだった。
   みっちゃん曰く『イブニングドレス』という系統らしい。
   頭には控えめな花の髪飾りを付けている。
蒼:「マスター、あんまりジロジロ見ないで。恥ずかしいよ・・・。」
   俺があまりジロジロ見るからか、蒼星石は剥き出しの肩を自分を抱き締めるように
   手で隠して後ろを向いて俯いてしまった。
マ:「あの、蒼星石さん。背中が丸見えですよ。」
   背中も剥き出しですから。
蒼:「ひゃ!」
   俺の指摘で気付いた蒼星石は情けない声を上げてますます身を縮めさせた。
み:「さぁ! バリバリ撮るわよ~!」
金:「蒼星石、恥ずかしがってちゃ駄目かしら。」
マ:「そうだぞ~、堂々としなさい。」
   こりゃ眼福ですな。
蒼:「うう・・・。」
   観念したのか、蒼星石は渋々正面を向いてくれたが、顔は俯いたままだ。
   頬もほんのり紅い。
み:「いいわ~、その憂いを秘めた表情、グーよ、グー。」
   パシャパシャ!
   パシャ、パシャシャ!
蒼:「・・・・。」
   みっちゃんの容赦ない撮影会が続いた。
   蒼星石は恥ずかしさを堪えてるようだ。
   俺はしばらくその様子を眺める。
み:「さて、次は・・・。」
   みっちゃんが俺の方を見た。
   ん? 俺?


   テーブルの上にジュースが一つ、ストローが二本・・・
み:「カップルのシチュエーションを撮るわよ~。」
金:「みっちゃんは最近、場面にも凝るのかしら~!」
   俺と蒼星石はジュースを中心に対面に座らされた。
み:「さ、二人とも見つめあいながらジュースを飲んで。」
   飲んでって・・・。
マ:「あのう、さすがに恥ずかしいんですが。」
蒼:「・・・・。」
   蒼星石に至っては恥ずかしすぎて声も出ないようだ。
み:「二人とも恋人同士なんでしょう?」
マ:「いや、だけどこうヒトサマに注目されながらそれをやるのは・・・。しかもカメラまで構えられて・・・。」
   蒼星石もコクンと頷いた。
   蒼星石、ドレスを着てからまるで『借りてきた猫』状態だな。
金:「カナとみっちゃんは全然平気だったかしら。」
   女同士でやるなよ・・・。
み:「好きあってるならできるはずだわ・・・。」
   みっちゃんがカメラを構えた。
マ:「どうする、蒼星石?」
蒼:「・・・恥ずかしいけど、マスターとだから・・・。」
   蒼星石はストローを咥えた。
   えぇ~?
   う、うむむ。
   俺も片方のストローを咥える。
み:「二人とも、ちゃんと見つめあって。」
   俺と蒼星石はそのまま見つめ合う。
   は、恥ずかしい・・・。でもそれは蒼星石も同じだ。俺も我慢しなければ。
み:「はい、ここでジュース飲んで。」
マ:「ちゅー。」
蒼:「ちゅー。」
   パシャパシャ!
   パシャ、パシャシャ!
み:「ああ~、いい画が撮れたわぁ~。」
   蒼星石が真っ赤っかだ。
   おそらく俺も顔が赤くなってるだろう・・・。
み:「はい、次は二人が抱き合うシーン。」
マ:「えぇ~?」
蒼:「まだやるの・・・?」
み:「撮って撮ってとりまくるわよ~!」
金:「かしら~♪」
   うひー。


   夕方近くなってやっと自宅に帰れた俺と蒼星石。
マ:「疲れたな~・・・、蒼星石。」
蒼:「うん、疲れたね、マスター・・・。」
マ:「でも、蒼星石のドレス姿、可愛かったなぁ。」
蒼:「やめて、恥ずかしいよ・・・。」
マ:「いやいや、マジで。」
蒼:「もうっ、夕飯の支度してくる!」
   蒼星石はそそくさとキッチンの方へ向かってしまった。
   ふむ、今日は俺も手伝うか。
   俺は腕を捲くり上げながらキッチンに向かう。
   ん?
   俺はあることに気付き慌てて身を隠し、キッチンを覗き見る。
マ:「・・・・!」
   蒼星石が一生懸命ポージングの練習をしている・・・!


                                      終わり