翠星石、金糸雀、雛苺の策略に嵌り、犬の首輪を付けられ四つん這いにさせられた俺。
   そこに運悪く蒼星石と真紅がやってきた。   


翠:「丁度いいところに来たですぅ・・・蒼星石。」
   翠星石がさも愉快そうな笑みを浮かべた・・・。
蒼:「え・・?」
   そう言いつつも俺をじっと凝視する蒼星石。
   見ないで!今の俺を見ないで!
   あああーっ これはわたしのイメージじゃあない・・・ドールでの災難はジュン君の役だ!
   しかしこのアブノーマルな状況・・・こ、このまま変なことさせられたら・・蒼星石との清純な生活が崩れてしまう・・・!
   な、なんとか軌道修正しなければ・・・!
翠:「いいこと思いついたですぅ。おい、アホにんげ・・・」
マ:「お馬さんごっこだよ! 蒼星石!」
   俺は咄嗟に翠星石の言葉を遮って声を上げた。
蒼:「お馬さんごっこ?」
マ:「う、うん!そうだよ!」
   お馬さんごっこ・・・アットホームな家庭でお父さんが小さいお子さんにしてあげるあれだ。
   これなら俺が四つん這いな状態なのも納得いくはず・・・。
蒼:「その首輪はなんなのかな?」
   うっ・・・!
   俺の首輪を凝視する蒼星石。
   同じお馬さんごっこでも馬役が首輪をしてるのとしてないのでは意味合いが全然違ってくる。
マ:「ファ・・・ファッションだよ! 蒼星石! 今、パリでは犬の首輪をするのが若者の間で流行ってるんだよ!?」
   もう我ながら何を言ってるのかわからん。
金:「なんだか必死かしら・・・。」
   ・・必死だよぉ。
蒼:「そ、そうなの?」
マ:「そうなんだよ!」
   蒼星石、君とは清純な関係でいたいんだ・・・!
   俺はチラリと翠星石を見やる。
翠:「そうです、お馬さんごっこですよ。今誰が一番最初に乗るかで揉めてたんですぅ。」
   俺の必死さが伝わったのか?
蒼:「な、なんだあ。僕てっきり・・・。」
   蒼星石が何かホッとしてる。
   てっきり? てっきりなに?
雛:「ヒナ、お馬さんに乗るの~!」
   雛苺が俺の背中に乗ってきた。
翠:「めんどうだから三人一緒に乗るですぅ。ほら、金糸雀も!」
金:「わ、わかったかしら!」
   翠星石と金糸雀も乗ってきた。
   いや、いいんだけどその前に首輪外させてくれよ!
マ:「・・・・。」
   俺はもうヤケクソでそのまま徘徊する。
   この屈辱、どう贖ってくれようか・・・。
蒼:「なんかマスター、凄く辛そうに見えるんだけど・・・。」
真:「そうね。」
   そんな時、翠星石の懐から写真がハラリと・・・・。
   宙を舞いそのまま蒼星石の元に落ちる写真・・・。
   あ、あああ・・。そ、その写真は・・・!
   駄目、見ちゃ駄目!
蒼:「なに、この写真?」
   俺の必死の願いも空しく蒼星石がそれを拾い上げる。
蒼:「こ、これは・・・マスター・・・。」
マ:「み、見るな、蒼星石!」
   真紅も横から写真を覗く。
   俺は思わず立ち上がっていた。
金:「いた!」
翠:「きゃ!」
雛:「うにゅ!」
   背中の三人がずり落ちたがそんなこと気にしてられない。
蒼:「マスター、どうしてこんなことしてるの?」
   蒼星石が写真から俺に視線を移し、聞いて来た。
マ:「い、いや、それは、あのその。」
真:「でもよく見ると可愛いわね。」
蒼:「うん、可愛いね。」
   なっ!? 可愛い・・・?
   ・・・死のう・・・・・。
   蒼星石に見られた挙句『可愛い』だなんて・・・もう生きていけない・・・。
蒼:「マスター、これって腹芸ってやつでしょ?」
マ:「へ?」
   俺は蒼星石から写真を見せてもらう。
   これは、いつだったか宴会用の一発芸のために仕込んでいた腹芸の練習風景ではないか・・・。
蒼:「おじいさんがお酒を飲んで酔っちゃった時にやってるのを見たことあるよ。
   そのあとおばあさんがやってきておじいさんをどこかに連れてっちゃったけど。」
   あ、あの爺さん、蒼星石に何てもん見せてんだ!
   しかし・・・、なんだ、腹芸か・・・。
   たしかに恥ずかしいことは恥ずかしいが、あれに比べたら・・・。
真:「このお腹に描いてる絵ってあなたが描いたの?」
マ:「あ、ああ。」
真:「なかなか可愛く描けてるわね。」
マ:「ど、どうも。」
蒼:「マスター、顔真っ赤にしちゃって、ふふ。」
   あーーー、やっぱ恥ずかしいわぁ!
   いや、恥ずかしさ以上に・・・。
   俺は首輪を引きちぎった。
   翠星石、金糸雀、雛苺を睨みつける。
マ:「お~ま~え~ら~! よくもここまで俺を散々コケにしてくれたな・・・!
   蒼星石にももうバレちまったぞ・・・!」
   ゴゴゴゴゴゴゴゴ!
金:「こ、ここは逃げるかしら~!」
翠:「逃げるですぅ~!」
雛:「逃げるの~!」
マ:「あ、待て!」
   三人は一目散に二階へ逃げていってしまった。なんだか逃げ慣れてる・・・。
蒼:「どうかしたの、マスター?」
   まだ事態がよく飲み込めてない蒼星石と真紅が怪訝そうな表情を浮かべている。
マ:「いやな、恥ずかしい話なんだが実は・・・。」
   もう隠してもしょうがない。俺は二人に渋々説明した。
   脅されていたこと。犬扱いされたこと。
   蒼星石はカンカンに怒った。
蒼:「ちょっとあの三人を叱ってくるよ!」
マ:「いやいやいや、当事者の俺が話をつけてくるから。」
蒼:「でも!」
マ:「いいから、待ってなさい。」
   なんとか蒼星石をなだめ、廊下に出る。
   んん?
   階段の上の方で翠星石、金糸雀、雛苺が何やらやっている・・・?
   あれは・・・バリケード・・・?
   ダンボールやら小物やらでバリケードらしきものが出来上がってるぞ。
マ:「おーい、なにやってんだ?」
   俺が階段を上がろうとすると
翠:「近づくなですぅ!」
   翠星石がメガホンを使って俺に静止をかけた。
翠:「翠星石、金糸雀、雛苺同盟はアホ人間と徹底抗戦に打って出ることにしたですぅ!」
マ:「はぁ?」
   翠星石の声を聞きつけ蒼星石と真紅が廊下に出てきた。
真:「また騒がしくなってるけど、何事?」
マ:「なんか徹底抗戦とか言ってるよ?」
   俺と蒼星石、真紅は階段上方を見上げる。
蒼:「もう、翠星石、金糸雀、雛苺! いい加減怒るよ!?
   僕のマスターに酷いことしたそうじゃないか!」
   蒼星石がそう叫ぶと、翠星石、金糸雀、雛苺はバリケードの後ろに隠れてしまった。
   なにやら相談してるっぽい。
蒼:「もう、三人とも聞いてるの!?」
   三人が出てきた。   
翠:「蒼星石、真紅。二人ともアホ人間に騙されるなですぅ!」
   !?
金:「カナ達は悪くないかしら!」
雛:「うにゅー食べるの~!」
金:「雛苺、その話は後でかしら!」
   あの、一人思いっきり食べ物に釣られてる方が見受けられるんですが。
翠:「と、とにかく、翠星石達はアホ人間にとりついた悪い心を見破って改心させようとしてたです!」
マ:「おい、悪い心ってなんだよ?」
金:「まさか、写真があのお腹出して踊ってるのだけかと思ってるのかしら?」
マ:「なに!?」
   まだ別のがあるのか!?
翠:「金糸雀、それは言っちゃ駄目ですぅ!」
金:「別に減るものじゃないし、いいかしら。」
翠:「駄目ですぅ! あの写真は広めちゃ駄目なものですぅ!」
   そ、そんなにヤバイものなのか・・・?
   あの翠星石の慌てよう、嘘をついてるとも思えん。なんだ? なんの写真なんだ?
   まさか今日の行き過ぎとも思える翠星石の仕打ちはもしやその写真が原因なのか?
蒼:「もう、マスターが悪い心なんてもってるはずないじゃないか!」
翠:「極悪人ですぅ! 蒼星石は翠星石の言うことが信じられないですか!?」
蒼:「そ、それは・・・。」
   姉の必死の訴えにたじろぐ蒼星石。
   俺は蒼星石を下がらせる。
蒼:「マスター・・?」
マ:「さっきも言ったろ。俺が話をつけると。」
   写真に何が写ってるか確かめねばならん。
   俺は階段を一歩踏む。
蒼:「真紅・・・。」
   蒼星石が心配げに真紅に意見を求める。
真:「そう言ってるんだから任せればいいのだわ。」
   と真紅はリビングの方に行ってしまった。薄情だなぁ。
   まぁ、いい。俺は階段を上る。
   む、何か降ってきた。クレヨン?
翠:「クレヨンの爆撃に沈むですぅ!」
   三人が投下してきたクレヨンが俺に被弾する。
マ:「しゃらくせぇ!」
   俺はクレヨンの弾雨を手で払いながらかまわず進む。
金:「蒼星石のマスターは化け物かしら!?」
マ:「成人男性にこんなもの効くかぁ!」
翠:「金糸雀! なんとか足止めするですよ!」
金:「ローゼンメイデン一の策士、金糸雀に任せるかしら!」
   そう言って金糸雀が取り出したのは・・・カメラ?
   パシャ! パシャシャ! 
マ:「うおっまぶしっ」
   カメラのフラッシュで視界が奪われた。
翠:「効いてるですぅ! 」
   ぐぐぐぐ・・・!
   パシャ! パシャシャ! 
   それでも俺は目に入る光を手で遮りながら上る。
翠:「雛苺!」
雛:「は~いなの。」
   ザザザ~~!
   なんだ?くそ、眩しくてよく見えない。
マ:「! ぐあ! しまった!」
   大量のビーダマが流れてきていた。
   堪らず足をとられ階段から転落してしまう。
マ:「ぐああああ!」
   ゴロンゴロンゴロン
   べちゃっ・・・!
   床に激突する俺。
蒼:「マスター! 大丈夫!?」
   蒼星石が駆け寄って俺を介抱してくれた。
マ:「いてて・・・。」
翠:「いけませんねぇ、アホ人間。足元がお留守ですよ?」
   ぐ・・・人を上から偉そうに・・・神にでもなったつもりか・・・!?
マ:「こんの・・・!」
   調子に乗りおって!
   俺は起き上がろうとしたが
マ:「?」
   左足首に違和感が・・・?
   何かが俺の足首に絡み付いている・・・。
マ:「これは・・・?」
   雛苺の『苺轍』・・・?
翠:「言ったはずですぅ・・・足元がお留守だと・・・。雛苺!」
雛:「は~いなの。」
   いきなり上へ引っ張られた!
マ:「ぐわわああああ!」
   ズリッ! ガッ! ガッ! ガッ!
   いでぇ! 背中が階段と擦れる!
マ:「わあああ!」
   俺はそのままジュン君の部屋に吸い込まれていった。


   一瞬でマスターが消えうせた現場を、呆然と見やる蒼星石。
蒼:「ま、マスターが連れてかれちゃった・・・。」
真:「まるでちょっとしたホラー物のワンシーンね。」
蒼:「た、助けないと!」
真:「大丈夫、殺されはしないわ。」
蒼:「だからって放っておけないよ!」
   蒼星石が階段を駆け出そうとすると雛苺がひょっこり顔を出した。
雛:「近づくとひとじちの命はほしょうできないの~。」
   そう言うとサッとジュンの部屋に戻ってしまった。
蒼:「どうしよう・・。」
真:「どうしようもないわね。あのミーディアム、いったい何されてるんだか。」
   蒼星石と真紅が階段上方を見やる。
蒼:「・・・・。」
真:「・・・・。」
マ:「ア~~~ヒャヒャヒャヒャヒャッ!!」
   ビクッ!
   突然ジュンの部屋からマスターのバカ笑い声が響いた。
真:「・・・・楽しそうね。」


マ:「あひゃ!あひゃひゃ! や、やめてくれ~!」
   両手両足を縛られた俺は抵抗出来ず、されるがままとなっていた。
   翠星石、金糸雀、雛苺に足の裏を羽毛でくすぐられまくっている。
翠:「うるさいですぅ! これは天罰ですぅ!」
マ:「あひゃ、て、天罰って、俺が、いったい、なにを!? あひゃひゃ!」
   突然くすぐりの手が止まった。
マ:「ハァーハァー。」
金:「翠星石が怒ってるのはこの写真かしら。」
   金糸雀が新たな一枚の写真を差し出した。
マ:「こ、これは・・・!?」
   蒼星石と俺がキッスしてる写真じゃねーか!
金:「昨日撮りたてホヤホヤかしらぁ。」
   あー、確かに昨日、蒼星石とチュッチュしたなあ。
   だって蒼星石が『最近してないよね』ってせがむから・・・。
マ:「おいおい~、駄目だよ。こんな場面撮っちゃあ・・・・ブゲ!」
   翠星石に思いっきりハリセンでぶたれた。
翠:「翠星石の可愛い妹がこんなアホに汚されたですぅうう!」
マ:「おい、落ち着け。」
   だから今日こんなに俺に風当たりが強かったのか。
翠:「この口か!この口が蒼星石の唇を奪ったですか!」
   バシ! バシシ!
   口を重点的に引っぱたかれた。
マ:「やめてやめて!」
   チョーさんになっちゃう。
翠:「雛苺、このアホ人間の口を封印するですぅ。」
マ:「え?」
   雛苺がガムテープを俺の顔に近づける。
翠:「厳重に封印ですぅ!」
雛:「ぐ~るぐ~る♪」
マ:「んんんーーー!?」
   口が完全に塞がるよう、何重にもガムテープを巻かれた。
マ:「んん~~! んむんん~~!」


   桜田家、一階の階段付近で蒼星石は困り真紅は紅茶を楽しんでいた。
蒼:「どうしよう。笑い声は止まったみたいだけどこれじゃ埒があかないよ。」
   ギィ・・・。
   ジュンの部屋のドアが開く音がする。
真:「・・・出てきたわ。」
   翠星石、金糸雀、雛苺が姿を現した。
マ:「んん~~! んんんん~~~!」
   ガムテープを何重にも巻かれ猿轡された蒼星石のマスターも姿を現した。
   手足も縛られ、階段の縁に転がされている。
蒼:「マスター!」
真:「ちょっと目に余るわね。」
金:「(翠星石、よっぽどあの写真のことで頭にきてるかしら。)」
雛:「(でも何か翠星石楽しそうなの~。)」
翠:「見るです、蒼星石。このアホ人間の情けない姿を!そして目を覚ますです!」
マ:「んん、んんむんん~。」
蒼:「違う!マスターは優しいから、ただ、されるがままになってるだけだ!」
マ:「んん、んん。」
雛:「(蒼星石、よっぽどマスターさんのこと好きなのよ~。)」
金:「(恋は盲目とはよく言ったものかしら~。)」
   床に転がされた蒼星石のマスターを冷ややかに見やる金糸雀。
翠:「蒼星石、このアホ人間に何か弱みでも握られてるですか!?」
蒼:「バカなこと言わないでよ!」
翠:「姉に向かってバカとはなんですか、バカとは!」
蒼:「翠星石のことを言ったんじゃないよ!」
   双子姉妹の不毛な言い争いは続いた。
マ:「ん~~。」
雛:「ヒナ、お腹空いたの~。」
金:「あたしも・・・。」
   そんな折、玄関から入ってくる者が。
ジ:「ただいま~。苺大福買ってきてやったぞ~。」
   ジュンが図書館から帰ってきたようだ。
ジ:「ん!?」
   階段付近の異様な光景に気付くジュン。 
雛:「うにゅー!?」
金:「苺大福!?」
   雛苺と金糸雀が階段に殺到する。
翠:「きゃ!」
   突き飛ばされる翠星石。
   雛苺と金糸雀もバランスを崩し・・・
   三人はそのまま一緒に階段縁から空中に放り出され・・・
蒼:「!」
真:「!」
ジ:「!」
マ:「ん!」   
   蒼星石のマスターが全身をバネのように跳ばし、空中に放り出された三人の下に滑り込んだ。
   三人を体に乗せ蒼星石のマスターはそのまま階段を滑降する。
   ガガガガ!
   一気に一階まで滑ったところでようやく止まる。
   蒼星石、真紅、ジュンが駆け寄った。
翠:「あ~、びっくりしたです。」
金:「びっくりしたかしら~。」
雛:「びっくりしたの~!」
   三人は無事なようだ。
蒼:「マスター!?」
マ:「んんん・・・。」
   ガムテープの猿轡のせいで満足に呻き声も上げれないようだ。
蒼:「今、とってあげるから!」
マ:「んんん・・・。」
   蒼星石がマスターの口元に巻かれたガムテープの切れ端を掴む。
   そして一気に引いた。ビビビビビビビ!ガムテープの剥がれる音が盛大に響く。

   コキャッ!

真:「あ。」
ジ:「あ。」
翠:「あ。」
金:「あ。」
雛:「?」
   マスターの首からおかしな音がした。
   巻かれたガムテープを一気に引いたため、マスターの頭はコマまわしの要領でねじれたのだった。
マ:「そ、蒼星石・・・(ガムテープを取る時は)優しくな・ぁ・・。ぐふ!」
   蒼星石のマスターは息を引き取った・・・・。
蒼:「ますたぁああああああーーー!!」





   ここはどこだろう・・・? 
   俺はどこかに横たわっているようだ。
   耳を澄ます。この音は・・・草花の風で擦れる音? せせらぎ?
   俺は・・・確か桜田家で・・・いろいろあって・・・・
   首が・・・・
マ:「!?」
   俺は跳ね起きた。
   ここは・・・どこだ?
   目を凝らす。
   花畑? 
   俺は一面の花畑に立っていた。見たこともない紫色の花が咲き誇っている。
マ:「どこだ? ここは。」
   後ろを振り向く。川が流れている。大きな川だ。
   川辺に人が並んでる。
   俺は並んでる人達の先頭の方で、偉そうにしている船頭らしき人物に声を掛ける。
マ:「すいませーん、ここどこでしょう?」
   船頭ははぞんざいに手を振って答える。
船:「あー、いいから列に並びな。」
   いつもの俺なら、こんなぞんざいな態度を取られたらムッとするが、
   なんだかこの船頭の言うことには従わなければならないような・・・
マ:「わかりました。」
   俺は列の最後尾に並ぶ。
船:「舟がきたぞ~~!」
   船頭の言った通り、舟が来たようだ。
   ああ、あれに乗って対岸に向かうんだな・・・。
   列の先頭から着岸した舟にどんどん乗り込んでいく。
マ:「・・・・・。」
   最後尾の俺も、乗り込むため歩を進める。


マ:「・・・・・?」
   不意に、後ろから誰かが俺の服の袖を引っ張った。
マ:「?」
   俺は振り向くが、誰もいない・・・
   いや、いた。下だ。
マ:「・・・ローゼンメイデン・・・?」
   見たこともないドールが立っていた。
マ:「だれだ?」
?:「だれ・・・だ。」
マ:「・・・。」
   無表情なドールだった。変わった眼帯をしている。
マ:「何か用か?」
?:「行っては駄目・・・。」
マ:「?」
?:「こっち・・・。」
   俺の服を引っ張る。
マ:「おい、どこへ?」
   舟と反対方向に歩かされる。
   ドールの行く先に光のトンネルが現れた。
   ドールが俺の服を掴んだまま光のトンネルに飛び込む。
マ:「わわ。」
   次の瞬間、俺とドールは真っ暗な空間に立っていた。
   すぐ横に一軒の西洋風の家が建っている。その家以外何もない。
   その家が占めている空間以外、あとは全部真っ黒だった。
   その家から洩れてくる明りで、何とか自分とドールの姿が確認できる。
マ:「なんだぁ、ここ?」
   俺は家をまじまじと見やる。
マ:「この家は?」
?:「お父様が、仕事をしている・・・。」
マ:「お父様・・・君の?」
   ドールが頷いた。
   お父様・・・ドール・・・。もしや・・・。
マ:「ローゼンか?」
?:「違う。」
   家の方から男の声がした。
   俺がそちらを振り向くと長身の金髪の男が家の扉を開けて立っていた。
?:「お父様・・・。」
   ドールが男の元に駆け寄る。
マ:「あんたは?」
?:「私の名は、・・え
   ここで俺の意識はブラックアウトした。




蒼:「マスター! マスター!」
マ:「ん、むにゃ?」
   ここは・・・。
   蒼星石?
蒼:「よかった・・気がついてくれて・・・。」
翠:「よかったですぅ。」
   俺は上半身を起こし周りを見回す。桜田家のリビングだ。
   俺はソファの上で寝ていたようだ。
   蒼星石、翠星石、真紅、金糸雀、雛苺、ジュン君。
   みんな安堵の表情を浮かべて俺を見やっている。
真:「首は大丈夫?」
マ:「首? 大丈夫だけど?」
   俺は首をグリングリン回す。
   むしろ、いつもより軽い。絶好調だ。
真:「そう、よかったわね。蒼星石。」
蒼:「うん、でも・・。マスター、ごめんなさい・・・。」
   なにが?
ジ:「ほら、翠星石達も謝れよ。」
翠:「ごめんなさいですぅ・・・。」
金:「ごめんなさい・・・。」
雛:「ごめんなさいなの~・・。」
   ん~~。
   なんかだんだん思い出してきたぞ・・・・。
   でもあんまり思い出したくないような。
   俺はほどほどのところで思い出すのを止める。
マ:「うん。謝ってくれたなら、俺はOKだ。」
   俺は颯爽と身を起こす。気分もいい。
   でも、何か変な夢を見ていたような・・・。
マ:「しかし、何で急に謝る気になったんだい?」
   俺は翠星石、金糸雀、雛苺に聞いた。
蒼:「みんなマスターの凄さに気付いたんだよ。」
   蒼星石が嬉しそうに言う。
   ??? 何のことだ?
真:「確かに、あんな目に遭っても尚、『優しく』って、なかなか言えるものじゃないわね。」
蒼:「マスターのその言葉でみんな目が醒めたんだよ。」
   ???? 俺、そんなこと言ったか?
翠:「アホ人間の器の大きさを、少々見くびっていたようですぅ。」
   う~ん・・・?
マ:「・・・・。」
   ま、いっか。


真:「そろそろくんくんが始まる時間なのだわ。」
   真紅がリモコンでテレビを付ける。
蒼:「ジュン君が買ってきた苺大福分けるね。」
雛:「うにゅ~!」

   そうして・・・平穏な桜田家の時が流れ始める・・・・と思いきや、流れないのが桜田家だった。

雛:「うにゅーくれるって言ったのに~!」
翠:「言ってないですぅ~! チビ苺~!」
蒼:「もう、ついさっき喧嘩はしないって言ってたじゃないか!」
真:「やれやれね、静かにしてちょうだい。」
金:「おやつを巡っての喧嘩の風景、頂きかしら。」
   パシャ!パシャシャ!
マ&ジ:「おまえら、いい加減にしろ!」  



                                         終わり