明日は蒼星石とピクニックに行く予定だ。
   そんな楽しみの日に雨が降られては敵わない。
   俺はテレビの天気予報をチェックしていた。
   そんな折、蒼星石が話しかけてきた。

蒼:「あの、マスター。」
マ:「なんだい?」
蒼:「明日、翠星石も一緒に行きたいって言ってるんだけど、いいかな?」
マ:「そりゃ急な話だな。」
蒼:「あ、駄目ならいいんだ、別に。」
マ:「いや、いいよ。」
蒼:「本当!?」
   俺があっさりOKを出したからか、蒼星石は半信半疑のようだ。
マ:「別に困ることも無いし、全然構わんよ。」
   強いて言えば、蒼星石と二人っきりじゃなくなるというのが残念と言えば残念か。
蒼:「ありがとう、じゃあ僕さっそく電話で伝えてくるね。」
マ:「ほいほい。」
   パタパタと電話に方に駆けてく蒼星石。
   ふむ、明日は賑やかになりそうだな。
   天気予報も明日は晴れだと伝えている。


   翌日のピクニック当日、車の運転席に俺、後部座席には蒼星石、翠星石が乗っていた。
翠:「今日は何処行くんですか?」
マ:「秘密。」
蒼:「マスターはいつも行き先教えてくれないんだよ。」
翠:「そうやって、いつか如何わしい所に蒼星石を連れてくつもりなんじゃないですぅ?」
マ:「ケッケッケ、そりゃいいな。」
翠:「このアホ人間!やっぱり蒼星石をそういう目で見てたですか!」
マ:「冗談だ。つーか、俺と蒼星石は恋人同士ですよ?」
翠:「キィイ! まだそんな世迷言を言うですか!」
蒼:「だって本当のことだし・・・。」
翠:「そ、蒼星石まで!」
蒼:「翠星石だって見てたじゃない、僕とマスターの告白。」
翠:「あ、あれは・・・!」
   翠星石が口ごもった。
   認めたくないのは分かるがね~。
翠:「と、とにかく今日、少しでも蒼星石に相応しくない男だとわかったら、
   即刻別れてもらうですぅ!」
マ:「はい?」
蒼:「な、なに言い出すのさ、突然!?」
   むむむ、今日翠星石が参加したがった理由がわかった気がする。
   翠星石は俺を試すつもりのようだな。
蒼:「そ、そんなの認めないよ!」
翠:「翠星石がそう決めたらそうなるのですぅ!」
マ:「いいさ、俺らの仲睦まじさを存分に見せ付けてやろうぜ、蒼星石。」
蒼:「駄目だよ、マスター。こんな口車に乗せられちゃ。
   僕、マスターと別れるなんていやだよ・・・。」
   なんか蒼星石、深刻に考えてるなぁ。
   翠星石にそんな権限あるわけないだろ。
マ:「ははは、大丈夫だって。」
翠:「今日はアホ人間をどんどん査定するですぅ!」
   翠星石はメモ帳とペンを構えて意気込んでいた。
   なんか気合入ってるな。
翠:「とりあえず、さっきの如何わしい所に連れて行くかもしれない発言で、マイナス5点ですぅ。」
   なんか書き込んでる・・・。
   さっきのは冗談って言ったはずだが・・・。
蒼:「マ、マスター!今日はおかしなことしないでよ!」
翠:「普段、おかしなことをしてる・・・マイナス10点ですぅ。」
蒼:「ああ!」
   俺、そんなおかしなことしてるかな~? 時々ヘマはやらかすが。
マ:「なんか、大変なことになっちゃったなぁ・・・。」
   俺は感慨深げに車を走らす。   


   車を走らせること二時間あまり、俺ら一行は高原地帯に入っていた。
マ:「着いたぞ~。」
   俺がそう言い路肩に車を止めると蒼星石と翠星石が車から降りた。
   俺も車から降りてトランクから荷物を引っ張り出す。
蒼:「ここから歩くの?」
マ:「ああ、けどそんなには歩かないよ。」
翠:「じゃ、出発ですぅ~!」
   翠星石が俺を追い越して率先して歩き出す。


   道を下っていき、丈の高い草の集まりを退けると、そこには色とりどりの高原植物による花畑が広がっていた。
蒼:「わぁ・・。」
翠:「・・・。」
   うむ、二人とも感動してるようだな。
マ:「どうだい? いいとこだろ。」
翠:「うむむ、アホ人間にしては気の利いた場所ですね。プラス1点ですぅ。」
   1点かよ。手厳しいなぁ。
蒼:「マスター、この花なんていうの?」
   庭師の蒼星石も高原植物はあまり知らないようだ。
マ:「どれどれ、お、珍しい。ツルアオイじゃねーか。」
翠:「よく知ってるですねぇ。プラス1点。」
   よっしゃ。
蒼:「マスター、これは?」
   俺に花名を当てさせることで得点を稼げることに気付いたのか、蒼星石が次々と訊いてきた。
マ:「ハナハマセンブリだな。」
翠:「プラス1点ですぅ。」
蒼:「マスター、これは?」
マ:「ヒメヤブランだな。」
翠:「プラス1点ですぅ。」
   着実に得点を重ねる俺。
蒼:「マスター、これは?」
マ:「チングルマ。」
翠:「変な名前ですねぇ、プラス0.5点ですぅ。」
   なんじゃそりゃ。
蒼:「マスター、これは?」
マ:「ん、これは・・・?」
   なんだっけな?
マ:「すまん、わかんね。」
翠:「だめですねぇ、マイナス5点。」
   おいおい、採点方法、厳し過ぎね?
   今まで花名で稼いだ分が一気に赤字になってしまった。
   そうやって一頻り花を楽しむ俺ら。


マ:「さて、花もさることながら蝶もたくさん飛んでるだろ。」
蒼:「うん。」
マ:「そこで・・・。」
   俺は荷物からガサゴソとあるものを取り出す。
蒼:「マスター、何それ?」
マ:「虫取り網。」
   俺は折畳み式の虫取り網を二本セットする。
マ:「ほい。」
   それぞれの網を蒼星石と翠星石に渡す。
   翠星石に渡した網は本当は俺が使う予定だったんだけどな。
蒼:「蝶を捕まえるの?」
マ:「ああ、これは虫かごな。
   捕まえた蝶は最後に全部逃がしてやろう。キャッチアンドリリースってやつだ。」
蒼:「うん。わかった。」
   そうしないと蒼星石が蝶が可哀想だと言ってやってくれなさそうだし。
翠:「蝶に対する気遣い、プラス3点ですぅ。」
   やたー(´∀`)
   さっそく、蝶の捕獲に乗り出す翠星石。
   ブンブンと虫取り網を振り回すが蝶はスルスルと網をかいくぐって何処かにいってしまう。
マ:「下手やね。」
翠:「キィイイ!」
   一方、蒼星石は・・・。
蒼:「・・・。」
   一頭の蝶に狙いをつけ、精神を統一してる・・・。
   そして・・・
蒼:「はぁっ!」
   ジャンプして網を一閃! 空中を舞っていた蝶は網の中だった。
マ:「うむ、見事なり。」
   しかし・・・
蒼:「マスタ~、捕まえたけど怖くて触れないよぉ。」
   俺の方を向き、こう言ってきた。
マ:「別に噛みも引っ掻きもしないから大丈夫だって。優しく羽を掴んでごらん。」
   俺にそう言われ、蒼星石は恐る恐る蝶を掴む。
蒼:「触れたよっ、マスター!」
マ:「んじゃ虫かごに入れて。」
蒼:「うん!」
   蝶は虫かごに入れられ、蒼星石はそれを嬉しそうに覗き込む。
   一方、翠星石は・・・。
翠:「全っ然捕まんないですぅ!」
   空中をヒラヒラ舞う蝶を睨みながら癇癪声を上げていた。
翠:「つまんないですぅ! もうやめるですよ!」
マ:「おいおい、まだ始めたばかりだろ。」
翠:「だって翠星石、こんなの初めてですもん・・・。」
マ:「しょうがないなぁ。」
   俺は翠星石を後ろから包み込む。
翠:「な、なにするですか!?」
マ:「コツを教えてやるよ。」
   俺は翠星石の腕を取って手ほどきをしてやる。
マ:「闇雲に網を振り回しちゃ駄目だ。網で優しく蝶を包み込んでやる感じで。」
翠:「蒼星石はそんな感じじゃなかったですよ?」
マ:「蒼星石のやり方は特別だ。ほら、あの蝶狙うぞ。」
翠:「わ、わかったですぅ。」
   俺は巧みに翠星石の腕を操り・・・。
   そうっと蝶を網で捕らえる。
翠:「と、とれたですぅ!」
マ:「こんな感じでやるんだよ。」
   うむ、翠星石も喜んでくれたようだ。
   ん・・・?
   なにか視線が・・・。
   わ、蒼星石がほっぺたを膨らませてこちらを睨んでる!
   もしかして、今の俺と翠星石のやりとりを妬いてるのか・・・?
   意外とヤキモチ焼きなんだよなぁ、蒼星石は。
蒼:「マスター、僕にもマスターの今の捕まえ方、教えてほしいんだけど。」
   おずおずと俺にいう。
マ:「ほいほい。」


   蒼星石にも手ほどきをした後、俺は二人から離れたところに御座を敷いた。
   俺は御座の上に寝っ転がりながら双子の虫取りの様子を眺める。
蒼:「翠星石、そっちにいったよ!」
翠:「どこですか?」
蒼:「あは、翠星石の頭にとまってるよ。」
   ふふ、二人とも熱中してるな。
   しかし、のどかな風景だ・・・。
   高原特有の爽やかな風も時折吹いてくれている。
   上下に揺れる虫取り網二つ。
   本当に、のどかだ・・・。


   数十分後、蒼星石と翠星石がマスターの元に向かう。
マ:「・・・・。」
翠:「アホ人間、寝ちゃってるですね。」
蒼:「うん・・・。」
   大好きなマスターの寝顔を翠星石に見られて、蒼星石の心中は複雑だった。
翠:「丁度いい機会ですぅ。いたずらしちゃうですよ。」
蒼:「ええっ? 駄目だよ、こんなに気持ち良さそうに眠ってるのに。」
翠:「そんなの翠星石の知ったことではないですぅ。」
   そう言うと翠星石はマスターの鼻に草の葉を近づける・・・が
   その手をガシっと寝ていたはずのマスターに掴まれてしまった。
翠:「ひゃ!」


マ:「こぉら~! 俺が寝ているのをいいことに、チョッカイ出そうとしたな!」
翠:「わわ、起きてたですぅ!」
マ:「俺の安眠を妨げた罪は重い! お仕置きだ!」
   俺はそう言うと翠星石を持ち上げてアクロバティックな高い高いをしてやった。
翠:「わ、や、やめるですぅ~!」
マ:「うわははははは!・・・は!?」
   下から何やら視線が・・・。
   蒼星石がほっぺたを膨らませて俺と翠星石をジト~っと見ている・・・。
   もしかして俺と翠星石がイチャイチャしてるように蒼星石には映ったのだろうか。
   俺は手を止め、翠星石を地面に下ろす。
翠:「うう~、クラクラするですぅ。」
マ:「あ、さ、さあ、そろそろ昼飯にしよう!」
   蒼星石の視線が気まずいなぁ・・・。


   御座の上に蒼星石の作ったお弁当が並べられる。
マ:「いっただきまーす。」
蒼:「いただきます。」
翠:「いただきますですぅ!」
   ムシャムシャムシャムシャ!
蒼:「マスター、もっとゆっくり食べなよ。お弁当は逃げないよ?」
   以前、俺は蒼星石の弁当を食いそびれたことがあり、
   それ以来蒼星石の作ってくれた弁当に異様にガッつくようになってしまった。
   まぁ、ただでさえ美味いしね。
翠:「無理もないですぅ。蒼星石の作るお弁当は本当に美味しいですから!」
マ:「うん、美味い。美味いよ。」
   ムシャムシャムシャムシャ!
蒼:「あ、ありがとう。」
翠:「う。」
   む、翠星石、喉が詰まったか?
マ:「あ。」
蒼:「あ。」
   翠星石が俺の冷たいお茶の入った紙コップを奪い取り飲み干してしまった。
翠:「ふぅ~、死ぬかと思ったですぅ~。」
マ:「大丈夫か?」
翠:「翠星石としたことが、アホ人間につられてつい食べ急いでしまったですぅ。」
   俺のせいかよ。
蒼:「マスターと・・・間接キス・・・・。」
   ん? うわ!
   わわわ。蒼星石こわわわわ。
   蒼星石から鬼気迫るものを感じる・・・!
翠:「あ。」
   翠星石も自分の持ってる紙コップが俺のものだと今気付いたようだ。
翠:「なんか気分が悪くなってきたですぅ。」
   紙コップを放り捨て翠星石がゲンナリした声で言った。
   失敬な。
蒼:「翠星石がマスターと間接キス・・・。」
   こわわわわ。
翠:「き、気持ち悪いこと言うなです、蒼星石!」
マ:「しょ、しょうがないだろ? 緊急事態だったんだし。」
蒼:「・・・・。」
   やがて、シュン・・と落ち込み始める蒼星石。
   その後、俺と翠星石は蒼星石の機嫌を直すのに追われた。


   帰りの車中、翠星石を桜田家に送り届けた後も蒼星石の表情は晴れなかった。
マ:「いい加減、機嫌直せって。しょうがないだろ、今日のは。」
   俺は助手席の蒼星石に言う。
蒼:「うん、わかってる。マスターはみんなに優しいから・・・。」
マ:「あ、いや、どうも・・・。」 
   俺が照れてどうする。
蒼:「違うんだ。僕が嫌なのは、実の姉の翠星石にも嫉妬してしまう自分が嫌なんだ・・・。」
マ:「ふ~。」
   蒼星石ネガティブモード全開だな。
蒼:「マスターが他の女の子に優しくしてると、その・・・心の中がモヤモヤして、苦しくなって・・・。
   マスターは全然悪くないのに・・頭ではわかってるんだけど・・・」
   むむむ。
マ:「そりゃ、俺だって逆の立場だったらそうなるぜ?」
蒼:「マスターも?」
マ:「もし蒼星石がジュン君とイチャイチャしてるのを見たら俺はもう居た堪れなくなって
   ジュン君に嫉妬しちゃうね。」
   情けない話を誇らしげに話す俺。
蒼:「僕とジュン君がイチャイチャ? そ、そんなことあるわけないじゃないか。」
マ:「い~や、安心できないね。」
蒼:「そんな・・・。」
マ:「はは。ウソウソ。全然心配してないよ。なぜなら俺は蒼星石を信じてるから。」
蒼:「僕を・・信じる?」
マ:「ああ、蒼星石はしっかりしてるから、信じられるね。
   その点、俺はチャランポランだから信じられないよな。ごめん。」
   蒼星石は少し考えたあと、首を振る。
蒼:「・・・・ううん、そんなことない。信じられる。僕はマスターを信じられるよ。
   マスターはいつも真剣に僕の気持ちを受け止めてくれるから。」
マ:「そうか、ありがとう。」
   俺の心は純粋に嬉しさで満たされた。
蒼:「僕のほうこそありがとう。
   あの、・・・これからは大丈夫だと思う。マスターが他の人に優しくしても。」
マ:「そりゃよかった。翠星石のこと、変わらず好きだろ?」
蒼:「うん。またいつか一緒に行こうね。」
マ:「ああ。」
   やがて自宅が見えてきた。

   ああ、ちなみに翠星石の査定だが、今日のところはギリギリ合格だそうだ。



                                      終わり