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 その日は真夏の面影を思い出させるひどく晴れた日だった。セミの鳴き声こそしないものの、前日の雨の影響で
不快指数はかなりの高ポイントをマークしていた。俺はそんな暑さにうんざりし、書いていた途中の履歴書を力任せに
丸め、ゴミ箱に放った。
 そう、俺は高校もまともに卒業をしなかった職業を持たない若本、もとい若者。世間ではNEETと銘打たれ、社会のゴミだとか
言われている。かの有名人が言ったように人間にクズはいないと思い、育ってきた俺だがまさか自分がそれになるとは思いも
しなかっただろうな。今では親にも見離され、借家で暮らしバイトをしながら青春を無駄にしている。青い鳥がいるとしたら
MY青い鳥はどこにいるのだろうか。
 最も暑い時間帯、2時を回るころ、俺はテレビを点ける気力すらなく、扇風機の生ぬるい風を全身に受けながら放心していた。
こんな日に汗を一滴もかかないやつがいたら俺がそいつをぶっ飛ばす勢いだ。それぐらい暑い。俺は何か飲もうと思い、冷蔵庫の
ある台所へ向かった。廊下に出ると、左の突き当たりに大きな鏡がある。これはもともとこの家にあったものらしい。
意識したわけでもないのに俺の視線が鏡に向かう。何なんだろう、何か胸騒ぎを感じる。俺は右腕を伸ばし、鏡の面に触れた。
すると透き通った冷気が体の中を通り抜けただけで、何も起きなかった。・・・触れた瞬間には。
 安心した俺は右手を鏡から離し、再び台所を目指そうとした瞬間だった。鏡面から眩しいばかりの光が放たれた。俺は突然の
出来事に腕を組んで顔を隠し、防御体制をとる。それから1秒と経たず、鏡から直方体のようなものが出てきて俺のちょうど
腕を組んだ箇所にヒットした。しかし、強すぎる当たりに俺はバランスを崩し、後ろにしりもちをつく形で倒れた。
俺は尻の痛みにひるみながら、自らに備わっている2つの目で何があったのか、それの結論を出すために前方を見つめてみた。
すると俺の足元に茶色を基調とした大きな鞄が落ちていた。これが俺にぶつかったのだろう。鞄はうまく説明できないがアンティーク
というのか?とにかくそんな感じの鞄だった。ただ意識が集中した所といえば真ん中に薔薇の飾りが施されていたことだった。
 俺がその鞄を開けてみようと、手をかけた瞬間。鞄がバコンといい音を出しながら勢いよく開いた。俺が開けたのではない。
開け放たれた鞄から、小さな人間のようなのがすっくと立ち上がったかと思うと、
「こんにちわ」
と一礼したではないか。即座に俺の脳内では思考回路が展開され、現状を把握しようと努力する。しかしそんな俺に鞄から突如出現
した謎の物体(とはいっても人間にしか見えない)が追い討ちをかけてくる。
「あなたが○○(俺の本名)君?これからどうぞよろしく」
 ・・・俺の思考回路がパンクしたのは言うまでもない。

 俺はそいつを居間に案内し、お茶を出してやってから話を聞くことにした。
「僕は未来から来たローゼンメイデン第4ドール、蒼星石です。あらためてよろしく」
「未来?アイアンメイデン?蒼穹のファフナーだと?」
蒼星石と名乗ったそいつは近未来的ではないにしても、意味不明な単語をつなげたようなことを言い始めた。
「未来からとある依頼の基、この時代にやってきました。」
「依頼?」
俺は依頼というものが気になって聞いてみた。しかし大袈裟、というのはどういこうことだろう。
「それは・・・内容は言えないですが・・。大まかに言うとあなたを更生させるためにやってきたんです。」
更生。今の俺の状況を・・・だろうか。他人に人生をとやかく言われたくないのだが。
「今の権限だと僕がいえるのはこれぐらいです。何か質問とかありますか?」
「そうだな・・・さっき第4とかなんとか言ってたけど、ほかにも同じようなのが居るとか?」
「はい。ドール達は僕を入れて全7体です。それのすべては“ローゼン☆カンパニー”という会社で造られました。
 ちなみにその会社の社長の教え子の会社“エンジュ”でもローゼンメイデンの姉妹ドールが造られました。」
なるほど。つまり、こいつ以外にも同じようなのが居て、姉妹というからには女性型なのだろう。
「ちなみに君はロボットか何か?」
「うーん・・・似て非なる・・者かな。前述したように僕たちは“人形”です。」
「人形・・・!?どうみても人間なんだけど・・・」
「“人の形”と書いて人形ですからね」
「こやつめ、ハ――」
俺はハッとした。俺がこいつのペースにいつの間にか合わせられている?小学校時代からクール(単にとっつきにくい性格)だった
俺が人形に!?
「・・まあ、余談はここまでとして。なんで人形が動いたり口聞いたりするんだ?22世紀のびっくりどっきりマジックか?」
「それは“禁則事項”に該当するため答えられません。」
「・・・あっそう。」
――かくして、俺と蒼星石の生活が始まったわけだ。


 蒼星石がやってきた日の翌日。蒼星石は敬語の使用をやめ、ごく普通に俺と接している。
「なあ、蒼星石」
「何?」
俺が訊くと蒼星石は澄み切ったオッドアイで俺の瞳を覗き込む。
「未来から来たならさ・・・ほら。秘密がつく道具とかないのか?」
俺は某漫画と蒼星石とが重なり合ってどうしようもなかった。なので、訊いた。
「あるにはあるよ。・・・見る?」
と蒼星石は読んでいた本にしおりを挟み、すっくと立ち上がりあぐらを掻いている俺の前にトコトコと距離を縮める。
もちろん蒼星石の腹のあたりにポケットなるものは見当たらない。俺は何かを期待していたんだろうな。しかし蒼星石は
俺の期待を思いっきり裏切った。よく覚えている。
「ゲート・オブ・バビロン(ぼそぼそ」
そう一言をつぶやき、指をパチンと鳴らす。すると蒼星石の背後にあった空間がだんだんとオレンジ色に濁りはじめた。
俺の部屋の蒼星石から後ろがオレンジ色の空間に侵食されたかと思うと、今度はそこからあらゆるものが水から這い出してくるように
出てくる。
「これは・・・すごい芸風だな・・・」
「これでよし。四次元ポケットなんてもう時代遅れなんだよ。未来ではね。」
そうなのか。だったら俺の想像する未来よりもっと遠くからの来たのか、蒼星石は。
「マスターもこれに似たことができるようになる方法があるんだけど・・・どう?」
と、蒼星石はニヤニヤしながら俺に訊く。やってみたいようなやってみたくないような・・・。しかし蒼星石ははなっから俺の
気持ちは考慮してくれないようだ。
「行くよ――マスター。・・・死なないでね」
そういう蒼星石の手にはエレキギターなる物が握られているではないか。しかもそれで俺を殴ろうと身構えている。不意を突かれた
俺に防御する暇はなく、蒼星石の一撃を脳天に食らう羽目になった。
ヴィ~ン。そんな音が現実世界と俺の脳内で反響する。俺は意識が半分ぐらい薄れていた。痛みさえも感じない。
「リンク完了。これでマスターはいつでも道具を頭から出せるようになるよ。多分」
意識が半分無い俺に蒼星石は不安げにしてくれる補足をした。そのころ、俺は頭に妙な嫌悪感を感じ始めていた。
「あれ?」
蒼星石が失敗でもしたかのような声を上げる。俺の嫌悪感はどんどん大きくなっていく。蒼星石は「マズい!」と叫ぶと、俺の額
に手をあてた。蒼星石がぐっと手に力をこめると、その手はまるで寒天の中に手を突っ込むかのようにズブズブと額に飲まれていく。
俺はより強くなった嫌悪感と意識の薄さのせいで、どうにかなりそうだった。どんどん奥の中に入っていく感覚の後、手が何かを
掴むような感覚を俺は感じた。すると蒼星石は手を勢いよく俺の額から引き抜いた。手が俺の額からすべて抜け切るとなんか
心地よかった。大便ではよくある感覚だった。気が抜けている俺に休ませる暇もなく、部屋の中で轟音が壁を揺るがす。
俺は正気に戻り、現状理解を最優先して思考を働かせた。すでに意識は元の状態に回復していた。今の状況は、俺の額から
抜かれたブツが蒼星石を襲っている、ということだ。そのブツはロボットアニメで出てくる人型ロボットのような物だった。
2mぐらいあるロボットに身長80cm程度の蒼星石が対抗するのはかなり辛いのか、手も足もでない様子だ。それをただ傍観
している俺って一体?
「マスターっ!」
「は、はい!?」
「援護、お願い!」
「・・・ぇぁ?」
蒼星石が俺に悲願しているようだ。しかし俺には何も力は無いぞ。こんなとき武器があったらなぁ・・・。
 と、そんなことを考えた時だった。不意に俺の頭が重くなる。目を吊り上げて額の様子を見ると、なんと、黒っぽいイチモツが
そこから生えそびえていた。これも蒼星石がギターで俺の頭を殴った影響なのだろうか。そう考えると妙にむなしくなったが、今
することは1つだった。
 俺は額から生えているイチモツを右手で掴み、力を込めて引き抜く。頭にひどい嫌悪感が突っ走る。引き抜いたソレはバール
とそっくりだったが、先端が凶悪なぐらい巨大で、尖っていた。俺はそれを両手で持ち直し、人型ロボットらしき物にがむしゃらに
突っ込んでいった。
「うおおおおおっ!・・・ってうわあああっ!」
俺が武器を振るう前にロボットに先手を取られてしまった。ロボットの平手を食らった俺は壁にたたきつけられる。アニメではありがち
なこのシーンだが、かなりダメージは大きい。
 しかし、俺が殴るためにロボットに隙ができた。それを蒼星石は見逃さなかった。蒼星石はゲート・オブなんとかを展開し、
一振りの異様に大きな鋏を取り出した。
「エクスカ、じゃない!」
蒼星石は鋏を振るうときに決め台詞かなにかを言おうとしたのだろうか。しかし台詞を間違えたため、本来の台詞を言う時間が無く
なったらしい。しかし、それとは関係なしに鋏の刃先は確実にロボットの動力部らしき部分を貫いた。
 次の瞬間、ショートが原因なのかは知らないがお決まりのようにロボットが爆発を遂げる。そんなに大規模じゃなかったのが
俺たちの命を繋ぎ止めてくれたようだ。
「けほっ・・・大丈夫?マスター?」
煙の中から蒼星石が顔を出す。爆発では死ななかったが一酸化炭素中毒になるかもしれない。窓を全開し、煙を逃がしてから俺たち
はそこら辺にちらばったロボットの破片を片付けた。
 片付け終わると、蒼星石がさきほどのことを俺に質問してきた。
「マスター、あの大きいバールなんだけど。どこから出したの?」
「へ?気づいたら頭から出てきたんだが?」
俺はその時のことをそのまま答えた。しかし蒼星石はその事を聞き、考え込みだした。
「実はあのバール、僕は持ってないんだけど。」
持ってないというのはゲートオブなんとかの中に無かったということか。あれ?でも俺の頭から出せるのはゲートオブなんとか
の中にあるだけのではないのか?
「うん。そうだよ。さっきのロボットは僕が昔作ったプラモデルだね。何も考えずにゲートオブバビロンに放り
 込んだのが間違えだったね。」
蒼星石の言うことが本当なら、俺は未来のプラモデルに殺されかけたのか。実に情けない話だ。俺は俺で考えていたが、蒼星石は
何を思ったのか、いきなり立ち上がった。
「そうか!超時空チャンネルの投影応用技術だ!それなら全部納得が行く!」
そう言うや否や、蒼星石は廊下にある鏡に向かって走り出した。
「マスター、ちょっと未来に行って来る。すぐ帰ってくるから心配しないでね。あと晩御飯は冷蔵庫に作っておいてあるから
 レンジで温めてから食べてね。じゃ!」
そう言ってから蒼星石は鏡面に手を触れる。鏡面から光が発せられ、あっという間に蒼星石は居なくなった。
俺は畳の上にごろんと横になり、額に手を当ててみた。もちろん、手がずぶずぶと沈んでいくなんて事は無かった。


  • 補足
蒼星石によると、俺の額から物体を取り出す技術は・・・えっと、名称は忘れた。
人間の右脳と左脳の思考ディファレンスを利用して超空間チャンネルを開く技術、らしい。
しかし、それを可能とする脳の構造を持つ人間は滅多に居ないらしい。蒼星石曰く、
「できるとは思わなかったけど、やってみたらできたんだ。」と言っている。