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「アイルビーバック」
午後三時、俺帰宅。
玄関を開けると、待ち構えていたように蒼星石が俺を出迎えてくれた。
「おかえりなさい、マスター。今日もお疲れ様」
そういって俺から鞄を受け取る蒼星石。
なんだかもじもじとしている。
「あ。そうだそうだ。言ったとおり会社から明後日まで休み貰ってきた」
パッと蒼星石の顔が華やぐ。
「えっ、じゃあ・・・!」
「うん、約束通り、温泉にでも行こうか」


その後からずっと蒼星石は上機嫌だった。
ここまで喜んでもらえるとは、有給取った甲斐があるってもんだ。
出発は明日の朝方だから今日は早めに寝てしまおうか。
とりあえずそれだけ言おうと蒼星石を探す俺。

「ここにいたか、蒼」
蒼星石は庭で草に水遣りをしているようだ。
俺は庭先のサンダルを履いて蒼星石に近づいた。
「うん。今日も蒸したからね、水をあげた方がこの子達にもいいだろうし」
昼時は過ぎたといっても、まだまだ日差しは強い。
蒼星石も日差し対策として麦藁帽子を被っている。
俺は水が掛けられている草を見―
「あ、マスタービックリした?この向日葵、こんなに大きくなったんだよ」
どうやら蒼星石with麦藁帽子の魅力で気づかなかったが、俺の背丈ぐらいある満開の向日葵が何本か立っていた。
流石庭師の蒼星石。これぐらいは朝飯前てやつですか。
「でも大分大きくなりすぎてね、ちょっと僕じゃ世話しにくいかも・・・」
と言って向日葵を見上げる蒼星石。咲いている向日葵はすべて蒼星石の二倍以上の背丈だ。
「確かに蒼にはでか過ぎるな、どれ、俺にホースを貸して御覧なさい」
蒼星石から受け取るとホースで向日葵全体に水を掛ける俺。
流れ出る水が日光をうけて小さな虹を作っている。


庭に出たついでに俺は蒼星石の庭仕事の手伝いをした。
何しろ隅から隅まで徹底して仕事をこなしたもんだから、日はすっかり西日になっていた。
気がついたら俺も蒼星石もドロドロだ。
「ありがとうマスター。お陰で大分仕事がはかどったよ」
「いやいや、礼を言うのはこっちだ。蒼がいなかったらこの庭はこんなに綺麗じゃなかったさ」
そう言いながら向日葵の前に立つ俺達。
「蒼、ちょっと両手挙げてみて」
「な、何急に―・・わわっ!いきなりなんなのさぁ!」
ライオンキングのじじい猿の如く蒼星石を持ち上げる俺。
「ほら、向日葵の花、間近で見ると大きいだろ」
「わあ・・!すごいなあ、僕の顔よりずっと大きいよマスター!」
俺を嬉しそうに振り返ってみる蒼星石。
その笑顔に思わずドキッとしてしまう俺。
ハハハ、君が俺の向日葵で太陽さ
 ・・・なんて、そんな歯がガタガタになって浮くような台詞は心に仕舞う俺。
「そ、そそそうだな。ささ、さもう家に戻ろうか」
「?何赤くなっているのさマスター?」


ひぐらしが鳴いている。
西日が縁側の俺を照らしている。
蒼星石が晩飯の支度をする間は暇なので俺は庭を眺めることにした。
何しろ満開の向日葵を照らす太陽の西日。
眺めて暇を潰すにはもってこいの絵だ。
「えーと、お醤油とお砂糖をスプーンで・・」
台所では忙しく蒼星石が動き回っている。
今日の晩飯はなんだろうな。
珍しくレバニラ炒めじゃないようだし。


ふと、俺は気づく。

何気ない一日。
何気ないこの空間。
蒼星石と共に在る日常。
こういうのを平凡な幸せって言うんだろうか。


「・・・・夢を、見ていました」


あなたと  暮らした夏


それはかけがえのない  永遠の季節のこと


「・・へぇ、マスター意外に歌上手いんだね」
「うひっ!そ、蒼、何時の間に横に?!」
「夕飯のオカズは後煮込むだけだからね、少し涼みにきたんだ」
あぁ、たまげた。
流石に今の歌を聞かれたら恥ずかしいものがある。
「い、今のは腹の音だ!俺が歌ってたわけじゃn」
「嘘 ば っ か し。マスター、今日は只のニラ炒めが気分なのかな?」
意地悪い笑みで俺を見つめる蒼星石。
ええいわかった、俺の負けだ。
「続きを歌えばいいんだろ?」
「えへへ」

「・・・まっすぐに、伸びてゆく・・」


ひまわりのような  人でした


ちらりと蒼星石を見やる俺。
「黄昏に、頬染めて、膝枕・・」


薫る風  風鈴は  子守唄 


いつだって  いつだって


あなたが  そばにいてくれるだけで


それで  よかった


横の蒼星石をギュッと自分に引き寄せる。
「あっ・・ますたぁ・・」
「いいから」


夢を見ていました  あなたと暮らした夏


ふたりのあの夏のように  向日葵が  今咲きました



パチパチパチ
蒼星石の拍手が響く。
「すごいねマスター、本当に歌上手いんだ。見直したよ」
「・・・恥ずかしい。途中飛ばしちまったし」
俺の手を引いて立ち上がる蒼星石。
「ふふっ、もうマスターったら。さあ、ご飯にしようか」






あなたが  そばにいてくれるだけで


それで  よかった





END