時刻は午後二時前、その日で一番気温が高くなる時間帯に俺は仕事を早退して家に戻った。
普通ならクーラーガンガンの職場で働いているはずの俺。だがその所為か、どうにも体調を崩してしまっていたようだ。

昼は雨のち雲りだとか天気予報では言ってたのに。
蝉もまだ鳴き始めてはいないが、太陽は夏の如きハッスルで家路につく俺を照らしに照らしている。
そのくせ汗がだらだら出るくせに俺の鼻はしっかり風邪の症状を示している。
ちくしょ、鼻水か汗か、どっちかを垂れ流しにするかちゃんと決めろ俺の体。


「ただいまー」
流石にこの時間に蒼星石の出迎えはなかった。
部屋で汗にまみれた服を着替えると俺は居間に向かう。
ここにも蒼星石の姿は見当たらない。
「蒼ー?蒼星石さーん?」
ティッシュで鼻栓をしたままざっと家の中を探し回るも、どこにもいない。
おそらく買い物にでも行ってるのだろう、心配することはないかな。
仕方ないので、俺は職場で食うはずの弁当を居間で食うことにした。
 ・・・あまり味を感じない。
鼻が詰まった所為だろうが蒼星石の手料理を美味く食べれないのは非常に残念だ。
ともかく、風邪はあまりいい感じではなさそうだ。
押入れから毛布を一枚引き出すと、俺は居間隣の小部屋で寝ることにした。

「あぢぃ・・」
暑い・・窓から容赦なく太陽が俺に日光を当てる。
毛布も引っ被ってるから余計に蒸してくる。
でも風邪引いてる時は暑くても暖かくしろ、てばっちゃが言ってたから我慢しよう。
気を紛らわすために庭を見る俺。ふと庭のアジサイが咲いているのに気づいた。
多分蒼星石が手入れをしたからだろうが、かなり見ごたえのある立派な花が一株にいくつもついている。
あ、いやアジサイの花らしき部分は{がく}だった気がする。
どっちでもいいか、綺麗だかr・・・

今確かに庭の片隅で何か動いたよな。
思わず身を起こす俺。心拍数もあがっている。
泥棒?
妙な胸騒ぎがする。
と、思ってたら再び庭の植え込みからガサガサと音がした。
ここからは見えない位置からだが、間違いない。誰かが庭にいる。
何という不届き者だろうか、この俺と蒼星石の愛の巣に忍び込むとは。
静かに立ち上がると、俺は武器を持って庭に出た。


足音を立てずに静かにハンティングを開始する俺。
標的は庭の倉庫。そこからずっと物音が聞こえてくる。
抜き足差し足忍び足。
俺は倉庫の前にたどり着いた。未だに音は続いている。
深呼吸をして。俺は閉まっている引き戸に手を掛けた。
「こんの不届きもんがぁぁ!俺ん家にn『レンピカ!』じゃあぁぁ!」
あれ?首に鋏が突きつけられてるよ?
「はぁっ・・はぁっ、何だマスターか・・危なかった・・・」

事情ってことでもないが、話によると蒼星石は庭の手入れをしていたらしい。
日よけの麦藁帽子に長靴手袋の容貌からでも十分それは判った。
俺も早く帰ってきた訳を話した。
「え、マスター風邪引いちゃったのかい?だったらちゃんと寝とかなきゃ!」
無理矢理もとの部屋へ押し戻され寝かされる俺。
仕方ないので、窓ごしに蒼星石の手入れの様子を見ていた。

「ふぅ、疲れたぁ」
俺が寝ている部屋には縁側がついている。
そこに腰を下ろす蒼星石。手入れにも区切りがついたようだ。
「ね、マスター。さっきは何でフライパンを持ってたの?」
「いやてっきり泥棒さんかと思ってね」
寝たまま会話をする俺。下から蒼星石を見上げる形になる。
こうして見ると、蒼星石って結構大人びているな。麦藁帽子被ったままだけど。
「あっ・・雨が・・・」
蒼星石が呟く。
ポツポツ、と数滴落ちてきたかと思うと、雨はそこそこ本格的に降ってきた。
次第に家の周り一帯に雨の音が響き渡っていく。
まるでこの町内には俺達しかいないようだ。
「ねぇ、蒼。今日は麦藁帽子被ったままでいてよ。似合うし可愛いし」
「え、あっ、僕麦藁帽子被ったままだったっけ・・」
えへへ、と照れて笑う蒼星石。まんざらでもなさそうだ。
二人でしばらく雨に濡れる庭を見る。
「何かこう・・風情ってのがあるな」
特にアジサイと雨の組み合わせってのは反則級に和のテイストを醸し出している。
部屋の中にもしっとりした空気が流れ込んできた。
「今マスターが言ったのが、日本の和の心ってやつ?」
「うーん・・詳しくは説明できないけど、こういう情景に美しさを見出すことじゃないかな」
「そうか、うん、何となく解る気がする」
他愛もない会話を続ける俺達。
その間にも雨は家に静寂をもたらしながら降り続いていた。





END