翠「だいぶ物が増えたですねー。」
辺りを見回して翠星石が言う。
数日前に遊びに来た時には無かった、ヌイグルミやら置物やらが部屋に所狭しと置かれている。
蒼「うん、マスターが『誕生日プレゼントだ!』、って…。」
翠「誕生日?」
蒼「この間、誕生日の話になって、いつか分からないよって答えたら…。」
翠「とりあえずの誕生日を決めて買ってきたですかぁ?まあ、あいつにしては良い心がけですかね。」
蒼「それがね…。」
マ「たっだいまーー!!」
翠「むぅ、姉妹水入らずの一時に水を差す不届き物が現れやがったですぅ。」
マ「帰ったよー。おや、お義姉さん、いらしてたんですね。」
翠「ふん!てめえに義姉と呼ばれる筋合いはねえです!」
マ「いやーちょうど良かった。」
そう言いながら何かを取り出す。
マ「はい、ハッピーバースデー!!」
蒼「あ、ありがとうございます、マスター。」
マ「はい、お義姉さんにも。」
翠「……なんで誕生日プレゼントを渡すですか?」
翠星石がきょとんとした表情で訊く。
マ「だって双子だから誕生日は一緒でしょ?」
翠「そうじゃなく!先日プレゼントしたのに何でまた渡してるですかぁ?」
マ「蒼星石の誕生日をお祝いしたいから。」
翠「てめえわざとボケてやがるですかぁ!?」
蒼「落ち着いてよ、翠星石。実はね……。」
そんな双子のやり取りをよそに男は一人で盛り上がっている。
マ「今回はね、夫婦茶碗にしてみましたー♪あ、お義姉さんのは蒼星石のとお揃いですよ。」
翠「366日毎日プレゼントーーー!?」
蒼「マスターがね、『逆に考えるんだ、いつが誕生日か分からないなら毎日プレゼントしちゃえばいいさ、と考えるんだ』って。」
翠「おい、人間。何でそんな事をするですか?」
マ「だって、蒼星石のお誕生日にお祝いをして上げたいじゃん。」
翠「………お前は悪いやつじゃねえとは思いますが、ほんっとうに掛け値無しの大馬鹿者ですねぇ。」
翠星石が呆れたという感じで言う。
マ「あれ、ひょっとして湯呑みじゃ気に入りませんでした?ちゃんと蒼と翠で色違いのお揃いにしたんですけど。」
翠「だーかーらー!そうじゃなく…。」
蒼「もういいよ翠星石。……ねえマスター、もうこんな事はやめようよ。」
マ「え、なんで?」
蒼「ボクのせいでマスターに負担をかけたくないんだ。老後の蓄えだって必要なのにいろいろ買って来てくれるし、
  疲れているはずなのに休日にどこか連れて行ってくれたり、24時間耐久抱っこをしてくれたり……。」
マ「それは僕も嫌じゃないことだし、お金も蒼星石の頑張りおかげでそこまで困ってないし……。
  …もしかして、嬉しいのは僕ばかりで蒼星石には迷惑なだけだったのかな?」
蒼「違うよマスター!マスターの気持ちはとても嬉しいよ。でも……!」
そこまで言って蒼星石は悲痛な面持ちで黙り込んでしまう。
その様子を見ていた翠星石が口を開く。
翠「やい人間!お前は蒼星石のために色々な事をして幸せですかぁ?」
マ「もちろん!決まってるじゃないですか。」
その答えを聞いて翠星石がうなずく。
翠「そうでしょうね。誰かの、特に自分の大切な人に何かをして上げられるというのはとても幸せな事です。
  ですがね、逆に何かをしてもらってばかりというのはひどくつらい事ですよ?相手が大事な存在であればある程。」
マ「でも僕は蒼星石に十分な位いろいろ支えてもらっていますよ。それこそ、こちらの方が申し訳なくなる位に。」
翠「それは嘘でねえでしょうし、確かに真実なのでしょう。……ですが、それはお前にとっての話です。
  蒼星石にとっては自分が何かをしてもらう一方でつらい、というのもまた真実なのですよ。」
マ「………。」
翠「お前の気持ちは確かに間違っちゃいねえと思います。ですがね、そんな事を続けても蒼星石が悲しむだけですよ!」
男はしばらく考え込んでから口を開いた。
マ「……そうですね、蒼星石ごめん。」
蒼「そんな、マスターが謝る事じゃ…。」
マ「お義姉さん、本当にありがとうございました。」
翠「ふん、この中では翠星石が一番の年長者ですからね。当然の事をしたまでですよ。
  さてと、それじゃあ翠星石は夕飯を食べに帰るとしますかね。」
マ「あ、お義姉さん、プレゼントを持っていって下さい。」
翠「けっ、てめえからの施しなんか……まあいいです、今回の件のお詫びの印だということで貰ってやるですよ。
  早速今晩から酷使してやるですからありがたく思えですぅ。」
そうして翠星石は二人に見送られて帰っていった。
マ「蒼星石、本当にすまなかった。君の気持ちを考えず、自己満足な事をしてしまって。」
蒼「ううん、そんな事はないよ。ボクもとても嬉しかったよ。ただ、なんだか申し訳なくって……。」
マ「じゃあさ、これから毎日一つ、僕が蒼星石のお願いを叶えるってのはどうかな?
  それなら蒼星石が気にならない範囲で何かして上げられるでしょ?」
蒼「お願い……?」
マ「うん、こうして欲しいってのでもいいし、こういうのは止めてってのでも何でもいいから。」
蒼「そう言われても……、ボクをマスターのお傍においてほしい。ボクのお願いはそれ一つだけだよ。」
マ「ごめん、それは却下。」
と男は即答した。予想外の反応に蒼星石は
蒼「え…?そう…だよね、マスターだって…いつか素敵な女性と……。
  そうなったらボクは邪魔だもんね……。ごめんね、変な冗談を言っちゃって……。」
と寂しそうな笑みを浮かべて言う。
マ「それは違うよ、蒼星石。」
蒼「え、どういうこと?」
そこで男は何かを取り出す。
マ「実はね…もう一つプレゼントを用意していたんだよ。これを受け取って。」
蒼「これは鉢植えだね?でもなんで今渡すの?」
マ「さっきは義姉さんがいたからね、照れくさくってさ。」
蒼「照れくさい?」
マ「これは今日の誕生花でね、ゼラニウムだよ。」
蒼「ゼラニウム……あっ、もしかして!」
マ「僕の気持ちだよ、ずっと、ずっと傍にいて欲しい、僕自身が君のそばを離れたくない。
  …だから、さっきのじゃお願いを聞いたことにならないんだ。」
蒼「ありがとう、マスター。ボクも……ボクもとても幸せです。」
そのまま二人は抱き締め合う。
やがて蒼星石が口を開いた。
蒼「じゃあさ、マスター。さっきのお願いだけどこう変えればいいかな?」
マ「言ってみて?」
蒼星石が男の目を見据えて言葉をつむぎ出す。
蒼「これからも、ずっとずっとボクだけにマスターを幸せにさせて下さい……。」
マ「ずっと……でいいの?取り消しは無しだよ?」
蒼「うん、ずっとがいい。」
マ「来年以降もずっとだよ?」
蒼「もう、しつこいなあ!」
マ「んぅ!?」
男の唇を蒼星石の唇がふさいだ。
しばらく二人の時が止まる。
蒼「これが……答えだよマスター。」
マ「……はい、…これからも…ずっとよろしくお願いします。」
呆けた感じで男が答える。
ふふっ、と微笑みが交わされる。
二人はそのまま互いのぬくもりを感じあい続けた。



ゼラニウム ……… 6月28日の誕生花、花言葉:君ありて幸福

                                 - Fin -