『ローゼン風桃太郎』はじまり、はじまり。

    あるところに蒼星石お爺さんと翠星石お婆さんがいました。
    翠星石お婆さんが憤慨しています。
翠:「納得いかねぇです! なんで翠星石がおばばで蒼星石がおじじなんですか!」
蒼:「しょうがないよ。そう配役で決まってるんだし。」
翠:「断固抗議するですぅ!」
蒼:「話進まなくなっちゃうよ。」
翠:「ふん!」
蒼:「もう、僕は山に芝刈りに行っちゃうからね。ちゃんと川に洗濯に行くんだよ。」
    蒼星石お爺さんは自前の鋏を持って行ってしまいました。
翠:「川なんか行かなくても『庭師の如雨露』があれば水には困らないですぅ。」
    川に行くのをサボろうとする翠星石お婆さん。
蒼:「ズルは駄目だよ、翠星石。桃を拾ってこなきゃ。
    話終わらないとずっと僕たちお爺さんとお婆さんのままだよ。」
    心配になって戻ってきた蒼星石お爺さんが言いました。
翠:「うー、わかったですぅ。」
    とうとう翠星石お婆さんも観念しました。

    1時間後

翠:「言われた通り、川から桃を拾ってきてやったですぅ。」
蒼:「わぁ、大きな桃だね。」
    感嘆の声を上げる蒼星石お爺さん。
    しかし、翠星石お婆さんはただでさえ大きな桃にさらに『庭師の如雨露』の水を掛けています。
    桃がさらに大きくなってしまいました。
蒼:「わ! 何やってるの翠星石! こんなに大きくして!」
翠:「もっと桃をデカくすればそこそこ育った状態の桃太郎が生まれると思ったですよ。」
蒼:「だからズルしちゃ駄目だって!」
翠:「いいから、桃を斬るですよ蒼星石。」
蒼:「もう、どうなってても知らないよ。」
    蒼星石お爺さんが鋏を構え、桃に狙いをつけます。 
    ズバ! ズバ! ズババ!
    蒼星石お爺さんが鋏を振ると、桃は四等分されました。
    しかし・・・
翠:「あれ、中身カラッポですよ?」
蒼:「え? あ、本当だ。どういうことだろ。」
    二人が不思議がってると眼鏡をかけた男の子が一人家に入ってきました。
    鎧を着て背中には『日本一』の旗を背負い、、
    頭には桃の刺繍が入った鉢巻をして、まるで桃太郎っぽい格好をしています。
蒼:「あの、どちら様・・・?」
ジ:「桃太郎だけど悪いかよ。」
    なんか、ふて腐れた感じの桃太郎でした。
翠:「桃太郎なら桃太郎らしく桃から生まれるですぅ!」
ジ:「どこから登場しようが僕の勝手だろ。」
    桃に入ったまま斬られるのが怖かったから出ていたとは言えませんでした。
蒼:「でも翠星石が言った通り、もう鬼退治に行けそうだね。」
    鬼の存在や悪事の説明が一切なされてませんが、もう鬼退治前提で話は進められていました。
ジ:「本当に僕が行くの~? 僕、家でパソコンしてたいんだけど。」
    桃太郎に引きこもりの相が出ていました。
翠:「文句言ってないでさっさと出発するですぅ!」
ジ:「え~、でもな~。」
    翠星石お婆さんが煮え切らない桃太郎にイライラし始めました。
蒼:「翠星石、きびだんごは?」
翠:「あ、作るの忘れてたですぅ。」
ジ:「おいおい、それじゃ僕にお供無しで鬼が島に行けって言うのか?」
蒼:「そんなことだろうと思って僕が芝刈りの帰りに買ってきたよ。
    きびだんごは売り切れてたから代わりに『苺大福』だけど。」
ジ:「痛むの早そうだなぁ、それ。」
翠:「なら、さっさとお供を見つけるです! ほら、さっさと行くですよ!」
    こうして、桃太郎は半ば無理やり鬼退治に出発させられました。


    ジュン・・じゃなかった、桃太郎が道を進んでると一匹のイヌに出会いました。
    しかし、どう見てもイヌ耳を付けた真紅でした。
真:「わ・・・わん。」
    なにやら照れています。
真:「な、なんでこの私がこんな・・・イヌの真似を・・・わん。」
    この照れ具合は桃太郎にグッとくるものがありました。
    桃太郎はぜひこのイヌ真紅をお供にしたいと思いました。
ジ:「苺大福を上げるから、僕の家来になってくれないかな?」
    イヌ真紅がジュ・・じゃなかった、桃太郎をジロリと一瞥します。
真:「私が、あなたの家来・・・・? あ、わん。」
    律儀に語尾に『わん』を付けるのを忘れないイヌ真紅でした。
真:「まだよく、わかっていないようね・・・わん。」
    イヌ真紅のツインテールが唸りました。
ジ:「ぶっ!」
真:「逆よ。あなたが私の家来なのだわ! 忘れたとは言わせないわ・・・ん。」
ジ:「はい。」
    主従関係の逆転か現状維持なのかよくわかりませんが、桃太郎はそれを快く承諾しました。


    イヌ真紅を先頭に桃太郎が後から付いて来る形で道を進んでると一匹の猿に出会いました。
    しかし猿だと認識できる箇所は尻尾しかありませんでした。
    それ以外はまんま雛苺でした。
雛:「うにゅーの匂いがするの~!」
真:「ちょっと、そういう、匂いがどうとか言うのはイヌ役の私の役目よ・・・わん。」
    しかしサル雛苺は聞いていません。桃太郎が腰にぶら下げた苺大福が入った袋を直視するばかりです。
    家来ゲットのチャンスに桃太郎の目が光りました。
ジ:「苺大福を上げるから、僕の家来に・・・。」
真:「苺大福を上げるから、私の家来になるのだわ・・・ん。」
    桃太郎の声はイヌ真紅の声にかき消されました。
雛:「うん、ヒナわかったの~♪」
    こうしてイヌ真紅に家来ができました。
    桃太郎は少し凹みました。



    イヌ真紅を先頭にサル雛苺、次に桃太郎の順で道を進んでいました。
    このことから、どうやらイヌ真紅にとっての家来としての信頼度はサル雛苺>桃太郎のようでした。
    桃太郎は凹みました。
金:「楽してズルしていただきかしら!」
    上空から声が聞こえてきました。
    桃太郎がボンヤリ上を見上げようとするとイヌ真紅に突き飛ばされました。
ジ:「こ、こら何するんだ!」
真:「あなたの苺大福、狙われてるわ・・・ん。」
ジ:「え?」
金:「く、失敗したかしら!」
真:「何者?・・・わん」
    傘でフワフワ浮いている黄色い女の子がいました。
金:「鳥類界1の策士、キジ金糸雀かしら!」
ジ:「鳥類界1?」
真:「ようするに『三歩歩けば忘れる鳥頭ナンバーワン』ってことでしょ・・・わん。」
金:「く~! 失礼かしら~!」
真:「まずキジなのかカナリアなのかハッキリして欲しいところだけどめんどくさいわ・・ん。
    いきましょ・・・わん。」
    スタスタ歩き出す三人。
金:「く~~! さらに失礼かしら~!」
    激昂したキジ金糸雀がまた上空から強襲してきました。
真:「雛苺。」
    イヌ真紅がそう言うとサル雛苺が苺わだちを伸ばしキジ金糸雀を捕捉しました。
金:「きゃあ!」
    傘による飛行はあまり融通が利かないらしく、あっけなく捕らえられました。
金:「ゆ、油断したかしら~!」
真:「彼女の空を飛ぶ能力、便利そうね・・・わん。」
    イヌ真紅がキジ金糸雀に交渉を持ちかけます。
真:「どう? 仲間になれば今のことは水に流すし苺大福も食べさせてあげるわ・・・ん。」
ジ:「あのう、僕の意見とかは聞かないのかな・・・? 一応主人公なんだけど。」
金:「く、しょうがないかしら。」
    こうしてキジ金糸雀が仲間になりました。
真:「さ、鬼が島まであと少しよ。」



    一方、鬼が島では鬼の親分がヒマを持て余していました。

マ:「はやくこないかな~。今ならRPGのラスボスの気持ちがよくわかる。」
蒼:「もうマスター・・・じゃなかった親分、不謹慎だよ。」
マ:「やっぱり『親分』はしっくりこないな、『マスター』でいいよ蒼星石。」
蒼:「うん、マスター。」
マ:「うむ。」
翠:「ちょっとアホ親分オニ。」
マ:「翠星石はちゃんと『親分』と呼びなさい。」
翠:「じゃかしいですぅ。それよりも何で『おじじ』『おばば』役してた
    翠星石と蒼星石が鬼が島で鬼役やってるですか!?」
マ:「だって人足りないんだもん。」
蒼:「のりさん、巴さん、みっちゃんさんは?」
マ:「こっちにいるよ。」
    親分オニが案内した先は牢屋でした。
    牢屋の中で、のり、巴、みっちゃんが座ってトランプのスピードをしていました。
マ:「人質の村娘役してもらってます。」
蒼:「牢屋なんかに閉じ込めたら可哀想だよ。」
マ:「トイレ、浴室、冷暖房完備でそこらへんのホテルの部屋にはヒケをとらない牢屋だから大丈夫だよ。
    奥には娯楽室、フィットネスルームとかもあるよ。」
翠:「それはもはや牢屋じゃねぇですぅ。」
蒼:「僕もスピードやりたいな。」
翠:「翠星石もこれなら牢屋の中がいいですぅ。」
マ:「だ~め。まずは桃太郎一行をボコしてから。」
    しょんぼりする二人。


    イヌ真紅一行は鬼が島まで舟に乗って向かっていました。
    桃太郎が一人で舟を漕いでます。
金:「鬼が島が見えてきたかしら~。」
    上空のキジ金糸雀から報告がありました。
真:「ジュ・・じゃないわね、桃太郎、準備はいい?・・わん。」
ジ:「ああ、ここまできたらもう覚悟はできたよ。」
真:「そう、いい子ね・・・わん。」
    サル雛苺はモグモグと最後の苺大福を頬張っていました。


マ:「おい、どうやらそろそろ桃太郎来るぞ。」
翠:「どうしてわかるです?」
マ:「オンライン画像監視システムが桃太郎一行を捕捉したんだ。」
翠:「・・・。」
マ:「ほら、蒼星石と翠星石も頭に角付けて。鬼なんだから。」
蒼:「マスター、僕は帽子かぶるから角隠れちゃうよ。」
マ:「じゃあ帽子に角つけなさい。」
翠:「なんか、ここってナンデモアリですぅ・・。」
    親分オニがチャキっと何かゴテゴテした機械を構えて標準合わせをしています。
蒼:「マスター、それ何?」
マ:「ん。対桃太郎戦用に購入したMCR。」
翠:「なんですぅ、MCRって?」
マ:「マグネットコイルレールガン。」
    オニ蒼星石とオニ翠星石には相変わらずよくわかりませんでしたが
    MCRの試し撃ちで目の前の岩石が消滅したことからとんでもない代物だということはわかりました。
    オニ蒼星石はMCRを没収しました。
マ:「んじゃグレードはグッと下がるけどコルト・ガヴァメントもってこ。」
    明らかに拳銃でした。
翠:「いい加減にするですぅ!」


    そして、ついに対決の時がきました。

マ:「ハッハッハ! よ~くきたな~、桃太郎よ~!」
ジ:「このオニどもめ! この桃太郎が成敗するぞ!」
雛:「ねぇねぇ?」
真:「なに、雛苺?・・・わん。」
雛:「この角付けた人たちって悪い人なの~?」
真:「・・・・。」
金:「・・・・。」
ジ:「そういえば何で鬼退治って話になったんだっけ?」
マ:「安心しろ、ちゃんと悪事は働いといた。村娘をさらっておいたから。」
ジ:「よ、よし! 覚悟しろ、オニども!」
真:「ときにオニの親分さん。あなた、武器もってないの?・・・わん」
金:「丸腰かしら。」
マ:「全部没収されちゃった。」
蒼:「全部危ないんだもん。」
    明らかに危なすごるであろう大鋏を構えたオニ蒼星石が言いました。
マ:「せめて金棒ぐらい持ってもいいよなぁ。」
ジ:「問答無用! えい!」
    桃太郎が刀を振りかぶってきました。
マ:「わわ!」
蒼:「危ない、マスター!」
    オニ蒼星石が間に入り、鋏で受け止めます。
マ:「これがキレる若者ってやつか。」
翠:「アホ親分オニはもう喋らないほうがいいですぅ。」
マ:「ひどい・・・。」
    その時、のり、巴、みっちゃんが歩いてきました。
マ:「あ、あれ!?」
の:「真紅ちゃん、翠星石ちゃん、ジュン君、もう帰るわよ~。」
巴:「雛苺、もう帰りましょ~。」
み:「カナ~、ご飯の時間だから帰るよ~。」
蒼:「ま、マスター、ちゃんと牢屋の鍵掛けたよね?」
マ:「確かに、掛けたはずだが・・・。」
    親分オニがおずおずと人質だったのりに訊きます。
マ:「あの、どこから出てこられました?」
の:「非常口からですけど?」
マ:「しまった!その手があったか!」
    人質を除く全員が親分オニを寒い目で見ています。
マ:「いや、だって非常口設けないと建築法違反になっちゃうんだぜ?」
    蒼星石以外、みんなバカらしくなって帰ってしまいました。
蒼:「マスター。」
    蒼星石は悲しい目で親分オニを見つめます。
マ:「やはり、争いからは何も生み出さないな・・・。」
    こうして親分オニは改心し、鬼が島をリゾートホテルとして運営、末永く蒼星石と幸せに暮らしましたとさ。




                                         めでたしめでたし。