―恐くて震えていた夜があった
 もう駄目だと全てが嫌になって
 逃げ出そうとした時も
 想い出せばこうしてたくさんの
 支えの中で歩いて来た

「マスター、今日のご飯、レバニラ炒めでいい?いいよね?」
「ぬふぅ、それ五日連続だぞ。まぁ、蒼星石のはおいしいから許す」
「おだててもデザートはプルーン以外でないよ」
蒼星石とマスターが会った時から2ヶ月後のとある1日だった。彼は連続レバニラ炒めに顔色を変えず、
元気に食べていた。

―悲しみや苦しみの先に それぞれの光がある
 さあ行こう 振り返らず走り出せばいい
 希望に満ちた空へ…

「マスター!ごっ、ごごゴキブリが!」
「何ぃ!どこだ?俺がひねりつぶしてやる!」
「あっ、マスターの背中についてる!」
「え?ってうわああ!!」
ある日の朝。台所でゴキブリを見た蒼星石はマスターに助けを求めるも、マスター撃沈。
結局蒼星石自身で追い払った。

―誰にも見せない泪があった
 人知れず流した泪があった

「うっ・・・あうっ・・・」
「どうした?泣いてるのか?」
「いや・・・なんでもないよ・・・うぅっ」
冬で寒い夜のこと。タマネギをみじん切りにしたが、タマネギの作用で涙する蒼星石。
結局マスターには隠し切れずに涙を拭ってもらった。

―いくつもの日々を越えて
 辿り着いた今がある
 だからもう迷わずに進めばいい
 栄光の架橋へと…
 終わらないその旅へと
 君の心へ続く架橋へと…



「マスター・・・」
「どうしたです?蒼星石?」
ホームシックに順ずる何かになりかけている蒼星石に、翠星石がたずねた。
「いや・・なんでもないよ。」
冷静を装う蒼星石。しかし姉の翠星石は蒼星石の頬を舐め・・・ぐっとつまむと、少し引っ張って見せた。
「これは嘘をついてるほっぺたの硬さですぅ。蒼星石!」
双子の特権により、蒼星石は嘘をつけないと悟った。前マスター(俺)との思い出を振り返っていたことを翠星石に
話した。
「ふうん・・・。そのミーディアムはよっぽどいい人なんですね。姉として嬉しいことですぅ。
 ・・・でも考えてて悲しくはならないですか?」
「うん。もう泣かない事に決めたし、これからもずっと契約はしないって決めたんだ。」
淡々と話していた蒼星石。翠星石には以前にもまして蒼星石が成長したことを、その背中を見て直感した。
「本当に契約はしないですか?」
「うん、しない。僕のマスターはあの人だけなんだ。たとえ記憶を失ってもマスターはマスター。
 今も昔も、そしてこれからも彼は僕のマスターだよ。」
そのとき蒼星石は不意にマスターの声が聞こえた気がしてあたりを見回した。
そして数回首を捻って彼の姿を探した後、フッ、と笑い、言った。
「おかえり、マスター」
「・・・ただいま、蒼星石。」