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目の前に緊張した面持ちの少女が座っている。
この子の名は蒼星石。今日から僕はこの子の『マスター』になった。
しかしどんな関係であれ、一緒に暮らす以上は互いに尊重しなければいけない部分が必ずある。
そこで親睦を深めるのも兼ねて、お互いに自分がどのように生活していきたいかを話し合うことにしたのだ。

「ボクはマスターのお世話をさせていただければ十分です。
 マスターがボクの料理を食べて、それで時々構って頂ければ満足です」
ときわめて冷静な表情で彼女が言う。
ふむ、僕は考え込む。一つ屋根の下、こんなたおやかな少女が自分の世話をしてくれると言うのだ。
だったら男としてするべき事は決まっている。
「……じゃあさ、時々でもいいから僕にやらせて欲しい」
「ヤラっ……!?」
彼女は真っ青になって硬直した。
おお、名前のとおり見事な蒼さ!ってなんだこの不安そうな反応は。
「大丈夫、こう見えても腕には自信があるんだ」
彼女の不安を消すように優しく言う。
「そんなに経験豊富なんですか?」
なぜかあきれ気味の彼女。さては信じてないな。
「ああ、これでも学生時代は毎日欠かさずやってたからね。自分であれこれ工夫もしたし」
「よくそんなに頻繁に出来ますね……」
「まあこぼしたりして失敗しても自分ひとりでやってることだからね。
 平日は朝・夜、休日は朝・昼・晩としっかり別々のオカズを用意したもんだ」
「一人で空しくないんですか」
彼女は悲しげに言った。
「そりゃ寂しいこともあったから、そういった時は友人達を呼んだりもしてさ。
 まあ男だけだからその辺の目に付いたものを適当にブチ込んで、かき混ぜて、それでフィニッシュだけど」
「ウホッ!?……病気になりますよ!?」
「一応病気にならないように気をつけてたよ。外で買ってすませて終わり、とかはしなかったし」
と、驚いた表情の彼女に言う。
「そんなの…と、当然です!」
「君もいつも一人でやるんじゃ大変だろうからさ、二人でやっていこうよ。
 なんなら傍でちょっと道具の出し入れを手伝うだけとかでもいいからやらせてくれない?」
「な、何を言ってるんです!?そんな事するわけ無いでしょう!!」
いきなり怒られてしまった。少なくとも親睦が深まっていると言う感じは全然しない。
「そういうのに興味がある男って変かな?」
「……程度の問題じゃないですか?」
おかしい、まるっきり心を開いてもらえない。それどころか話す前よりよそよそしさが増してきてる気さえする。
「それなら今夜一回だけでいいからお試しで僕に全てを任せてくれないかい?」
「え?」
「今夜僕のを味わってもらって、こんなの喉を通らないって言うのなら諦めるから」
「いきなり喉ですか…」
「どうしても駄目?」
「………そういうのは愛情が無いと」
今度は少し照れくさそうな顔を見せる。
「今の僕に込められるだけ込めるよ。やっぱり愛情は料理の隠し味だからね」
「そう愛情が隠し味。って、…料理?」
そう言うと彼女はポカンとした顔をする。
「うん、たまには僕にも料理ぐらいはやらせて欲しい。なんなら洗濯や掃除だって手伝うよ?」
「あは、あはは、あはははははh…」
彼女はいきなり笑い出す。
彼女のコロコロと変わる表情がどこか愉快でつられてくすくす笑う。
あ、今度はなんか憮然とした。女心というのはよく分からん。


「…ター、マスター、食べないと冷めちゃうよ」
「ああ、ごめんごめん。初めて会った日の話し合いのことを思い出しててね」
「……もう、そんな事思い出さないでよ」
なぜか照れたような蒼星石。
「これ美味しく出来たね」
「初めて作った料理だけど、マスターと二人で協力して作ったからかな?」
「きっとそうだと思うよ。僕と蒼星石の分で愛情も2倍入るわけだし」
「そ、そうだね、二人の愛情入りだもんね…」
「ああ、これからも愛を育んでいこうね……」
この先もずっとずっと蒼星石と支えあって生きていきたい。
そう、いつか自分の命が尽きてしまうその時まで……。
「どうしたのマスター、なんだか元気が無いよ?」
「うん、僕が蒼星石よりも先に逝くのを想像したらなんだか悔しくてね」
「イクっ……!?」
蒼星石は真っ赤になって硬直した。

蒼星石は相変わらず愉快な反応を見せてくれる。
これからもこうした二人のずっと変わらぬ関係が続いて欲しいと心の中で願った。