真:「特に異議がないのなら、これでいくわよ?」
    皆ゆっくり頷いた。
    かくして、ドール達による蒼星石のマスター救出作戦が始まった。
    まずのりとみっちゃんは警察に連絡するためその場を離れる。
    ジュンと巴と雛苺は外部から待機、何かあればベリーベルを使って連絡・・・のはずだったが
ジ:「やっぱり僕も行くよ。お前らばっかり危険な目に合わせられないからな。」
真:「ジュン・・・。」
    しばし向かい合う二人。
金:「いいからさっさと行くかしら!」
    大事の前にのろけだす二人に金糸雀がイライラした口調で促す。
    翠星石と蒼星石はすでに建物の近くまで接近していた。
    黒服の男が二人、入り口付近に居座っている。恐らく見張りだろう。
    まずはこの見張りをなんとかしなくてはいけない。
蒼:「レンピカ。」
翠:「スィドリーム。」
    見張りに気付かれないよう空から人工精霊を見張りの頭上に降下させる。
    見張り二人は二体の人工精霊に無理やり夢の扉をこじ開けられ、あっけなく昏倒する。
翠:「ちょろいもんですぅ♪」
    見張り二人を口元に笑みを浮かべ心底バカにした目で見下ろす翠星石。
蒼:「行くよ。」
    蒼星石は倒れた二人に一瞥も与えず建物の扉の前まで進む。
    すると扉を鋏でぶったぎり、一人でズカズカと進入してしまった。
翠:「ああ、待つですよ、蒼星石!」
金:「す、蒼星石、ちょっと・・・いえ、かなり、こ、怖いかしら・・・!」
真:「あの子、マスターが絡むと人が変わるのは相変わらずね。」
    追いついた真紅が半ば呆れた表情で言う。
翠:「あの変わりようは半端ねぇですぅ。おじじの時だってあんな顔しなかったですぅ・・・!」
ジ:「そりゃ恋人のピンチだからなぁ。」
    翠星石がジュンを睨む。
    その目は『誰が蒼星石の恋人だぁ!? あのアホ人間がかぁ!? ゴラァ!』
    という感じのものだった。
真:「さ、はやく蒼星石を追うわよ。」
    ジュンと三体のドールも蒼星石の後に続く。



    傷の男は俺に言う。 俺はくんくんの着ぐるみを着たままだ。
傷:「若、探しましたぜ・・・。」
    ??? 若?
    俺はとりあえずくんくんの頭を外した。
    傷の男は俺の顔を見て感慨深そうに目を細める。
傷:「ご無事で何よりです。
    久方ぶりの再会を喜びたいところですが時間がありません。
    ご存知無いかと思いますが今、若の命が狙われてるのです。」
マ:「・・・・。」
傷:「突然のことでさぞ驚かれてると存じますが、本当です。
    護衛を待機させてます。さ、組の方へ戻りましょう。」
マ:「・・・・。」
傷:「どうしました? さ、はやく。」
    『若』に『組』ねぇ・・・しかもこの男のこの風体。
    黒服達のことといい、どうやら俺はその筋の人らの抗争かなんかに巻き込まれてるっぽいな。
マ:「人違いだ。」
    俺はもうバカバカしくなってゾンザイに返事をした。
    どうやら一日に何回も他人と間違われると、自己のアイデンティティーを否定
    されてるようで精神が荒んでくるようだ。
    もうヤクザやら何やらが絡んでようが知ったことか。
    それにいいかげん蒼星石達と合流したい。こんなとこで油を売ってる暇はない。
傷:「まさか、私の今の話、信じておられないのですか?」
マ:「人違いだ。」
    俺は傷の男に目もくれず着ぐるみを脱ぎにかかる。
    おや、チャックどこだっけ、これ。
傷:「若、もしや組に戻りたくないばかりに・・・人違いなどと嘘を・・・。」
マ:「知らんっつーの。」
    背中のチャックを探す俺。くそ、どこだ。急がないと・・・!
    ああ、この着ぐるみ着る時はスタッフがほとんどやってくれたからなぁ。
傷:「若、三代目の気持ちも考えて下さいよ。大喧嘩の末あんな別れ方をしたのに・・・
    それなのに若の危機を知った途端、私らに草の根を分けても若を探し出し、守ってくれと・・・。」
    俺は背中のチャックが見つからず、イライラして声を荒げた。
マ:「知らんっつの! だから人違いだって!」 
傷:「そうですか・・・それならしょうがありません。
    私らも若にこんな乱暴なことはしたくはないんですか・・・。」
マ:「ん?」
傷:「お前ら! 入って来い!」
    なんかヤバいパターンの予感・・・!
    ズカズカと屈強な紺色のスーツを着た男五人が室内に入ってきた。
傷:「若を丁重に送って差し上げろ。」
    紺服の男達が俺の周囲を取り囲んだ。
マ:「わー! 待て待て待て! ここは冷静に話し合おう、な?」
傷:「時間がありません。ご無礼を許して下さい。」
    紺服の男達が俺を捕らえようと襲い掛かってきた。
    あああああ!
    ちくしょうめが! ああ、もういい・・我慢の限界だ。 俺を怒らせたことを後悔させてやるよ! 
    迎撃するためくんくんの頭を手放そうとした刹那、
    また別の紺色のスーツの男が室内に飛び込んできた。
    慌てた口調で傷の男に報告をする。
紺:「若の行方がわかりました! D地区エリアにて監禁されているそうです!」
    室内の男達の動きが止まる。
    俺のそっくりさん、何やら大変なことになってんじゃねーの?
傷:「何を言ってる? 若ならあそこだ。」
    傷の男は俺を指し示す。だから違うっつーの。
    どうしたら信じてくれるもんかな。なんか悲しくなってきた。
紺:「えぇ・・?」
    今飛び込んできたやつも俺を見て驚いてるし。
傷:「む。」
    傷の男に電話がきたようだ。携帯電話に出る傷の男。
傷:『三代目! とうとう若を見つけましたよ!』
    だから違うっつーの。
傷:『え・・・、えぇ!? ほ、本当ですか!?』
    ん?
傷:『いえ、私の目の前に若が・・・』
    傷の男が顔に汗を滲ませながら恐る恐る俺の顔を見ている。
傷:『うぅ! すみません! わかりました。し、至急向かいます!』
    慌てて電話を切る傷の男。何かあったんだろうか。
    気付いたら俺を取り囲んでる男達がじりじりと間合いを詰めていた。あ、こいつらのこと忘れてた。
傷:「お前達! やめろ!」
    おや、どしたんでしょ。傷の男は俺を見据える。
傷:「もしかして本当に人違い・・・なのか?」
マ:「だからそう言ってるだろが!」
    紺色のスーツの男達も
    『そう言えば声が違うような・・・』『ホクロがない・・』『雰囲気が違う・・・』
    などと言い始めた。
    おお、わかってくれそうな雰囲気! ここで一押しだ。
マ:「俺はあんたらの言う若とかいう奴に間違われて迷惑してんの! 
    黒服に追い掛け回されたり、くんくんショーの主役やらされたり!」
    そのせいで蒼星石と離れ離れになって・・・ちくしょう・・・
    握手会の時の蒼星石の悲しそうな顔を思い出した。俺の顔が歪む。体がわなわな震える。
    傷の男が俺の尋常じゃない様子を見て信じてくれたんだろうか、先ほど飛び込んできた男に言う。
傷:「若が監禁されてるD地区エリアに早く案内しろ。」
紺:「へい。 あと一つ報告したいことが。」
傷:「なんだ?」
紺:「若の監禁場所なんですが、そこに子供が数人入っていったそうです。」
傷:「子供だとぉ?」
    子供ぉ・・・?
紺:「へい、金髪の子や緑色の子が・・・。一人はでかい鋏を持っていたとか。
    あまりに奇妙なんで報告しときやす。」
    おいィ!? それって蒼星石達じゃないの!? なに勝手に突入してるわけ?
    まさか若とかいう人物と俺を間違えて・・・!? いや、きっとそうに違いない・・・!
    ぐぐぐぐ・・・!
    俺はくんくんの着ぐるみを脱ぐのも忘れ、楽屋から飛び出した。紺色の男達も続く。
    俺と紺色のスーツの男達はD地区の監禁場所へ向けて全速力で走る。
    はやまんな~~! ドール達~! そこにいるのは俺じゃねぇええええ!



    建物に侵入し、出会った黒服は全て片っ端から蒼星石と翠星石が眠らせてしまった。
    やがて通路の突き当たりの扉に辿り着く。
真:「どうやらこの扉の向こうの部屋に、蒼星石のマスターが捕らわれてるようね。」
    扉の先の部屋から複数の人間の気配と、男の声がする。
    すかさず扉に切りかかろうと身構える蒼星石を皆が慌てて止める。
ジ:(待て、待てって蒼星石! 闇雲に突っ込んじゃ駄目だ!)
    扉の先の人間達に気付かれないよう、ジュンがなるべく押し殺した声で蒼星石に言う。
蒼:「マスター! マスター!」
    聞いちゃいない。
金:(蒼星石を置いて雛苺を連れてきたほうが良かったかしら。)
    さすがに金糸雀も蒼星石のこの有様には呆れ気味だ。
真:(まぁいいわ。金糸雀、準備はいいわね?)
金:(まかせてかしら!)
真:(ではジュン、扉を開けて頂戴。翠星石は蒼星石を頼むわよ。)
ジ:(わかった。)
翠:(わかったですぅ。)
    ジュンが扉を開けると間髪入れず金糸雀のヴァイオリンによる暴風攻撃。
    暴風に真紅の薔薇の花弁も乗せて威力倍増。
    部屋にいた黒服達は堪らず壁に叩きつけられ昏倒、気絶する。
    それでも起き上がってくる者はスィドリームが寝かしつけた。
    もう室内に立っている人間はいない。あっという間の出来事だった。
真:「制圧完了なのだわ。」
ジ:(すげぇ・・・。)
    ゴクリと喉を鳴らすジュン。
ジ:(こいつら本気になったら、銀行強盗でも簡単にやってのけるんじゃないか?)
    目隠しに猿ぐつわをされている金髪の男が、ピクピク体を痙攣させながら倒れている。
    暴風攻撃は敵味方関係なく威力を及ぼすようだ。
    金糸雀曰く「しょうがないことかしらー。」
蒼:「マスタァー!」
    暴走しないよう翠星石に抑えられていた蒼星石が、翠星石の手を振り解き、
    床に倒れてる金髪の男に駆け寄る。
    蒼星石は男から目隠しと猿ぐつわを取ってやる。
蒼:「マスター、しっかりして!」
翠:「ほら、さっさと起きやがるです!」
    金髪の男はしこたま頭を打ったのか、うーんと唸るばかりで一向に目覚めない。
翠:「しょうがない奴ですぅ。」
    翠星石が男の頬に平手を振りかぶろうとした瞬間
蒼:「あ・・ち、違う! この人、マスターじゃない!」
    蒼星石はそう叫ぶと金髪の男から後退る。
翠:「へ?」
    翠星石を始め他のドールやジュンも蒼星石の様子にポカンとする。
翠:「なに言ってるですか? 蒼星石。このアホ人間がどうかしたですか?」
蒼:「違うよ! 全然違う! この人はマスターじゃない!」
真:「ちょっと落ち着きなさい。蒼星石。」
ジ:「どうやら・・蒼星石の言っていることは本当みたいだな。」
    ジュンが金髪の男の手を指し示す。
    蒼星石を除くドール三体があっと息を呑む。その手の指には『契約の指輪』が無かった。
真:「じゃあ、この人はいったい・・・?」
金:「蒼星石、別人だってよく見抜けたかしら。」
蒼:「そ、それは・・・!」
    蒼星石の頬にうっすらと紅が刺す。
    それは日頃の付き合いに加え、昨晩たくさんマスターと
    チュッチュッチュッチュしたからである。(遊園地へ行こう3参照)
    特にマスターの唇の形は鮮明に覚えていた。 
蒼:(そ、それにマスターはもっとかっこいいし・・・。)
翠:「なに赤くなってるですか、蒼星石?」
蒼:「な、なんでもないよ!」
ジ:「? これは。」
    ジュンが床に転がっている機械に気付いた。
    それは先ほどまで黒服側と紺服側との間の交渉に使われていた
    テレビ電話であったがジュンは知るよしもなかった。
    機械に近づくジュン。だが、気絶して倒れていたと思われた黒服の男にいきなり足を掴まれた。
ジ:「!?」
    そのまま引っ張られる。
ジ:「わ、うわぁああ。」
    ジュンの足を捕らえた黒服の男はそのままジュンを引き込みながら起き上がり、叫ぶ
黒:「う、動くなテメェら! 動いたらコイツの命はねぇ!」
    黒服の男はひどく錯乱状態のようだった。
    ジュンを助けようと駆け寄ろうとしたドール達を真紅が制した。
    ジュンのこめかみに拳銃が突きつけられたのである。
黒:「て、てめぇら何者だぁ!? いったい何したんだ!?」
    男が錯乱するのも無理はなかった。
    いきなり突風が室内に巻き起こったかと思うと薔薇の花弁で視界を奪われ
    そのまま壁にしこたま打ち付けられ、そして目を覚ますと子供が五人。内一人は中学生だが。
真:(まずいわね、はやくここから脱出しないと他の男達も目を覚ましてしまうのだわ。)
    ジュンを片手で拘束しつつ部屋の隅に後退る黒服の男。
    夢の扉をこじ開けようとレンピカを忍び寄らせていた蒼星石だったが
黒:「な、なんだこの光ってるのは!?」
    室内が仇になり気付かれた。黒服の男が人工精霊に発砲する。発砲音があたりに響く。
黒:「ち、近寄るな! 近寄るとコイツを殺す!」
    口から泡を撒きちらしながら人工精霊を恫喝する黒服の男。
    そしてジュンのこめかみに銃を突きつけなおす。
    これ以上人工精霊を近づけると本当にジュンを撃ち殺してしまいそうだ。
黒:「手に持ってるものを捨てろ!」
    錯乱している割には的確に指示を飛ばす黒服の男。
    各々手に持っている武器を捨てるドール達。
真:(まずいわ、時間がない・・・!)
    そんなとき、部屋全体が激しく揺れた。
    全員が何が起きたかと驚く。
    それと同時に部屋に飛び込んでくる者がいた。その者は・・・
    ドール達が一斉に叫ぶ。
ド:「くんくん!」


    はい、くんくんですよ! なんて言ってる暇はねぇな。
    俺は間髪入れずジュン君を拘束してる黒服の男にドタドタと特攻をしかけた。
    突然の『建物の揺れ』と『くんくんの着ぐるみ』の登場で黒服の男は完全にパニック状態だ。
    それでもなんとか俺に向けて銃を撃とうとする。が、ジュン君が男の腕に噛み付いた。
    男はたまらずジュン君を突き飛ばす。ベタだがナイスだぞ、ジュン君!
    俺はそのまま黒服に体当たりする。吹っ飛ぶ黒服。
マ:(ジュン君、逃げるぞ。)
    俺はジュン君にだけ聞こえるよう着ぐるみの中から小声で脱出を促す。
ジ:「え?」
    俺の声に驚いてるようだ。無理もないが、今は急いでいる。
マ:(ドール達にも脱出するよう言ってくれ。)
ジ:「みんな、脱出するぞ!」
    俺は鋏を拾っている蒼星石と如雨露を拾っている翠星石をそれぞれ片手で抱え込む。
    ジュン君も俺に倣って金糸雀と真紅を抱え込む。が、真紅が抵抗する。
真:「もっと丁寧に抱きなさい! あ、くんくん・・・。」
    俺がジィっと睨むとしおらしくなった。
    部屋の扉に向かうと雛苺が待機してる。俺が屈むと雛苺は背中にピョンと飛び乗る。いい子だ。
    そのまま俺とジュン君は建物の外へダッシュする。
    入れ替わりに紺色の男達がズカズカと入ってきた。
    外に出ても俺は止まらない。
ジ:「どこへ!?」
    ジュン君が走りながら訊いてきたが俺は構わず走り続ける。
    ドール達も訳が分からずといった感じだ。
    そのまま少し進むとのりちゃんみっちゃん巴ちゃんが見えてきた。
    三人の元に辿り着くと俺は抱えていた蒼星石と翠星石を降ろし、背中の雛苺を巴ちゃんに託す。
真:「あ、くんくん、お待ちになって・・・!」
    俺は真紅の言葉に耳を貸さず再び走り出す。


    さて、あの絶妙なタイミングだった『建物の揺れ』と俺の登場を説明しとこうか。
    まず俺は蒼星石達が侵入した建物に向かっている際に、巴ちゃんと雛苺を発見した。
    くんくんの格好した俺を、始めは警戒していた巴ちゃんだったが、雛苺にバレないよう
    (『あ、あそこからうにゅーの匂いが、くんくん!』と言って雛苺の気を逸らした。)
    顔を一瞬明かすと巴ちゃんは驚きながらも俺と認めてくれた。
    そして巴ちゃんから事情を手短に聞き、建物の中を様子を知るため、雛苺と人工精霊のベリーベルについて来て
    もらうことにした。
    俺は次に傷の男とその部下の紺のスーツの男達に、俺が突入するから隙を作ってくれと頼んだ。
    さすがに戸惑う傷の男だったが「そこらの重機で建物に体当たりしろ。
    タイミングは携帯電話で知らせる。」
    と言い、携帯の番号を教えてもらう。ヤクザと番号交換したわけだな俺は。
    また、ここは工事中のエリアだったので重機には事欠かなかった。
    キーも刺さったままだったし。無用心だが助かった。
    そして俺は雛苺とベリーベルとともに建物に侵入。
    蒼星石達がいると思われる部屋の様子をベリーベルを介して雛苺に教えてもらう。
    雛苺と喋っている間俺はずっとくんくんの声色を使って正体をバレないようにした。
    こんな非常事態でもドールの純真な心を砕くまいと努力する俺は正直どうなんだろう?と思ったが、
    まぁ、気にしないでおこう。
    雛苺のベリーベルの報告から、どうやら黒服一人を除いてドール達が皆
    やっつけてしまったことがわかった。
    しかしジュン君が人質になっていると・・・
    そして銃声がした。俺は間髪入れず電話で傷の男に合図する。
    重機による『建物の揺れ』を確認し、俺は特攻を仕掛けたというわけだ。
    しかし、上手くいったものだ。二、三発の被弾は覚悟したんだが。
    よほど『建物の揺れ』と『着ぐるみ』
    に驚いたんだろう、虚を突かれた黒服の男は銃を撃つタイミングを完全に失ったわけだ。


    俺は蒼星石達から離れた場所でくんくんの着ぐるみを脱ぐ。
    背中のファスナーが相変わらず見つからない。ええい、めんどくさい。
    俺はビリビリとファスナーを無視して両手で着ぐるみを破いた。遊園地の美術スタッフの人ごめんね。
    くんくんの着ぐるみを脱ぎ捨て、俺は蒼星石達の元に急ぐ。
    突入前に、ちゃんと巴ちゃんに先ほどの場所で待っててもらうよう頼んである。
    ん、携帯がブルっている。傷の男からだった。
マ:『おいすー。』
傷:『おかげで若を無事救出できた。礼を言う。』
マ:『それはいいが、俺達のことはくれぐれも外部に漏らすなよ?』
傷:『ああ、分かっているよ。だが・・・あんたは一体何者なんだ?』
マ:『わかんね。』
    俺はそう言うと電話を切った。


マ:「おーい!」
蒼:「マスター!」
    蒼星石が駆け寄ってくる。俺はしゃがんで駆け寄ってきた蒼星石を抱き締める。
蒼:「あぁ、マスター! 偽者なんかじゃない、僕の本当のマスター・・・!」
マ:「心配掛けてごめんなぁ。なんか黒服の男に変なとこに閉じ込められてなぁ。
    たった今くんくんに助け出してもらったんだよ。」
    我ながら嘘をつくのが下手だなぁ。
    蒼星石が俺の顔を見つめる。
蒼:「マスター、なんかやつれてない・・? それに上着は・・・?」
    そりゃ昼食からハードスケジュールだったからなぁ。
    黒服と鬼ごっこしたり、着ぐるみ着たまま動き回ったり。
マ:「あーー、気にしない気にしない。」
    咄嗟の嘘が思いつかん。
翠:「よくもまぁ、ノコノコと戻ってこれるもんですぅ。」
真:「くんくんは私達の危機に駆けつけてくれたのに・・それにひきかえあなたは・・。」
金:「絶対ヒーローにはなれないタイプかしらー。」
雛:「くんくんかっこよかったけど、蒼星石のマスターは駄目駄目なの~。」
    俺はドール達の手厚い迎えの言葉に泣きそうになった。
    ジュン君や巴ちゃんは苦笑いしてる。
蒼:「僕は、マスターが無事に戻ってきてくれたのなら、僕はそれだけで・・・。」
    蒼星石が俺の胸に顔をうずめる。
    ? もしかして、泣いているのか。
蒼:「すごく、怖かったんだ。こんなに人がいっぱいいて、
    こんなに広いところでマスターだけがいなくなって・・・。」
マ:「・・・・。」
蒼:「マスターは知らないかもしれないけど、僕たち、マスターのために頑張ったんだよ?
    だけど僕たちの勘違いで、マスターだと思った人がマスターじゃなくて・・・。」
    蒼星石の体が震える。
    知っている。俺のために蒼星石達が危ない目にあったのも、全部知っている。
    俺は本当に、さっきのドール達が言ったとおりの男だ。俺は蒼星石を泣かせてばかりだ。
マ:「ごめんな。」
    俺は蒼星石の涙を拭い去り、優しく頭を撫でてやる。
蒼:「あ・・。」
    この埋め合わせは、必ずする。


    のりちゃんとみっちゃんが通報して駆けつけた警官に事情を話している間、
    遊園地の休憩所にて俺は弁当の残りをつつきながら溜息つきっぱなしだった。
    ちなみに弁当の残りは真紅の作ったものしか残ってなかった。うううう。
    おそらく今日はもう遊園地は閉鎖されてしまうだろう。
    はぁ~~~、俺の完璧な計画が・・・今日はもう散々だ。
    のりちゃんとみっちゃんが戻ってきた。事情聴取とかはもういいらしい。
マ:「んじゃ、そろそろ帰るぞ~。」
    もう夕方近くだしな。
蒼:「マスター。」
マ:「なんじゃらほい。」
蒼:「あの、僕、最後にあれに乗りたい。」
    蒼星石が指し示したのは観覧車だった。
    観覧車か、遊園地が閉鎖するまで時間もあるだろうし、ゆったりまったり回るか。
マ:「よし、乗ろう。」


    観覧車乗り場に着いた我ら一行。
    まず、みっちゃん&金糸雀ペアがゴンドラに乗り込む。
    次に巴ちゃん&雛苺ペアが乗り込む。
    ジュン君&真紅&翠星石&のりちゃんグループもゴンドラに乗り込んだ。
    俺と蒼星石は最後に乗り込む。
    席に着く俺。蒼星石は俺の隣に寄り添うように座った。
蒼:「やっと二人っきりになれたね、マスター。」
マ:「あ、ああ。」
蒼:「ねぇ、マスター。」
マ:「ん?」
蒼:「僕、今までくんくんを見てきた中で、今日のくんくんが一番好きだよ。」
マ:「あ、そ、そうか! やはり生のくんくんは一味違うか! あ、あはあはあは。」
    ま、まさかバレてないよな?
蒼:「うん、全然違うよ・・・。」
マ:「それは良かったなぁ。あはあはは。」
蒼:「ふふ。」
    そんなやり取りをしてるとゴンドラが頂上近くまできた。
    けっこう高い高度なのに、蒼星石のテンションはあまり変わっていない。
マ:「あ。もしかして普段から鞄で空飛んでるから、そんなに新鮮な眺めじゃなかったりするか?」
蒼:「ううん、とっても新鮮だよ。マスターと一緒に見てるから。」
    下界を見下ろす蒼星石。俺は蒼星石の横から同じ場所を眺める。
    夕日がゴンドラ内に差し込んできた。
    ふと、蒼星石の横顔を見ると、夕日に包まれた蒼星石の顔がそこにあった。
    あまりにも綺麗でドキっとしてしまう俺。
    少しの間見とれてしまった。
    蒼星石は下界を見下ろしたまま不意に俺に話しかける。
蒼:「ねぇ、マスター。」
マ:「な、なに!?」
    なにをドギマギしてんだ、俺は!
蒼:「僕たち、恋人同士なんだよね。」
マ:「あ、ああ・・!」
    昨晩、そうなったはずだ。うん、間違いない!
    蒼星石がこちらを向き、瞳を閉じた。
    え? これはあの、KISS・・・の催促ですか?
    あう、あうう。こんなに俺をドギマギさせておいて・・・!
    だが、乙女に恥をかかせてはいけないよな。すぐ実行に移らねば。
    やわらかな夕日に包まれながら、俺と蒼星石はキスをする・・・。
蒼:「ん・・・。」
    蒼星石が俺の腕をぎゅっと掴む。
    時の感覚がおかしくなる、それは何時間にも、一瞬にも感じられるようなキスだった。
蒼:「はぁ・・ますたぁ・・・。もう離さないから。」
    むむむ、蒼星石の声が熱っぽい。
蒼:「昼食の時にマスターが僕に言ったこと、忘れてないよね・・・?」
    ん? あ・・・。あああああ!
蒼:「僕を『食べたい』だなんて・・・、いけないマスター・・・。」
    誤解だよぉ!
    俺は慌てふためく。
マ:「あ、あれは違う! 俺はただ蒼星石のお弁当を・・・!」
蒼:「クスクスクス、言い間違えたんでしょ、わかってるよ、マスター♪」
    蒼星石はしてやったりと言った顔だ。ぐぐぐ、この子は~!
    なんか蒼星石には全てを見透かされてる気がするぞ。
    まさか、蒼星石、あの時俺が蒼星石の弁当を食べたいのをわかった上で
    わざと俺にのりちゃんやみっちゃんの作ったものを勧め・・・
蒼:「でも、いつか・・・・。」
    ん、うまく聞き取れなかった。
マ:「なんだ?」
蒼:「ふふ、なんでもないよ。僕のマスター♪」
    う~~~ん、なんか色々と腑に落ちないが・・ま、いっか。



                                      遊園地へ行こう 終わり