なんでこんなことになったんだっけか。
   今、ジュン君の部屋の床に胡坐をかきながら俺は、
   ベッドの上にて紅茶を優雅に味わっている真紅を見据えている。
   部屋に真紅と俺二人っきり、なかなか珍しい取り合わせだ。
   しかし・・なんか空気が重いな。こころなしか真紅からピリピリした雰囲気が伝わってくる。
   怒ってるのか? だとすると誰に対して? まさか俺じゃあないだろな?
真:「よくきたわね。」
   真紅はティーカップに注がれてた紅茶の液面を見つめながら、こう切り出した。
マ:「あ、ああ。」
   事態が良く飲み込めず間の抜けた返事をする俺。
   俺は早朝、真紅直々に電話で呼び出され、やってきたのだ。
真:「蒼星石とは仲良くやっているようね。」
マ:「はぁ、おかげさんで。」
   ??? 
   なんだ? 真紅は他愛無い世間話をするために俺を呼んだのか?
   話し相手なら他にもっと適役がいると思うが。
   ここまで真紅はティーカップを眺めるばかりで、一回も俺と目を合わせてくれてない。
マ:「あの~、ジュン君は外出中かな?」
真:「そうね。」
   そう答えた時、わずかに真紅の目が揺れた。はは~ん。
マ:「・・・ジュン君と喧嘩でもしたのかい?」
真:「どうしてわかったの?」
   ハッと俺の方を向く真紅。初めて真紅は俺の顔を見てくれた。
   この子も存外、わかりやすいな。
マ:「勘で。」
真:「・・・。
   ジュンは、分からず屋なのだわ。」
   はー、やれやれ。
   さて、ほんの少し状況が掴めてきた・・・
   しかし、また新たな疑問が生まれる。
   ジュン君と喧嘩して、なぜ俺を呼ぶんだ? 
   とりあえず喧嘩について訊こうと口を開けた刹那、真紅が逼迫した声で俺に言った。
真:「もう頼れるのは、あなたしかいないのだわ・・・!」
マ:「あう?」
   口を開けようとした瞬間に突拍子も無いことを言われたため、俺はワン公みたいな受け応えをしてしまった。
   な、なんだなんだ? 一体どうした?


   俺は真紅から一枚のチラシを手渡された。
   ここから一番近場の遊園地の宣伝用のチラシのようだ。これがどうかしたのだろうか?
真:「裏を見て頂戴。」
   俺はチラシを裏返す。裏もばっちりとカラー印刷がされていた。
   デカくてカラフルな文字が紙面に躍っている。なになに、
  『この春、あの名探偵くんくんがやってくる! ぜひ家族みんなであの名推理を楽しもう!』
   どうやら遊園地で、期間限定で行われる名探偵くんくんを題材にした着ぐるみショーが行われるらしい。
マ:「・・・・。」
   まさか。
真:「これに連れてって頂戴。」
マ:「マジすか?」
   真紅の目は真剣そのものだった。
マ:「も、もしかしてジュン君と喧嘩したのも・・・?」
真:「ふん、レディの一人も遊園地にエスコートできないだなんて、とんだ家来なのだわ。」
   そりゃ断られるだろうよ。俺だって断るよ。
   確かにローゼンメイデンのドール達は人間そっくりだ。
   だが悲しいかな、その極めて整い過ぎた容姿が人間離れしている。
   遊園地なんて人がごった返してる所に行ったら、たちまち注目され人形であることがバレて
   えらいことになってしまうんではないか?
   俺はパニックになる遊園地、そしてその後、ぜひ生きた人形を捕獲しようと
   どっかの白衣着た研究者や黒服に追い掛け回されるドール達まで想像してしまった。
マ:「悪いけど真紅、俺も・・・」
真:「ときにあなた、ご存知かしら?」
マ:「あい?」
真:「私、先日蒼星石にお呼ばれして、あなたの家に行ったのよ。あなたが仕事で出かけてる間に。」
マ:「はぁ、ご存知無かったけどそれがなにか?」
真:「なぜ私があなたの家に呼ばれたかというとね・・・。」
   と真紅が言った瞬間、
   ドン バタン
   ん、おい、なんか部屋の隅で音がしたぞ。
   俺が音のした部屋の隅の方に目を向けると、ドール達のカバンが三個整列して置かれている。
真:「きっと鼠か何かでしょう。気にしないで頂戴。」
   鼠? 鼠平気なのか真紅は。
真:「それで、なぜ家に呼ばれたかというとね。
   実は蒼星石が一人でキッチンで洗い物をしてた時、あの黒くて不気味な虫を見てしまったとかで
   驚いて鋏をぶんぶん振り回したのだわ。」
   鋏?あの異様にでかい鋏、台所で振り回したのか。
   黒くて不気味な虫っていうのは恐らくゴキブリのことだろうな。
真:「キッチンはもう滅茶苦茶。その後始末に私が呼ばれたというわけよ。」
   へぇ、真紅が後片付けをねぇ。雑巾がけとかしてくれたのかな。想像つかないが。
真:「蒼星石ったら、流し台を一刀両断ですものねぇ。」
マ:「へ?」
真:「食卓もバラバラ、戸棚もボロボロ。元に『復元』するのにかなり骨が折れたのだわ。」
マ:「復元?」
真:「あらご存知なかったかしら?」
   なんのことだ?
   すると真紅はジュン君の机の方へ移動し、机の上の鉛筆を取ると先端を机に押し付け
   芯をへし折ってしまった。
マ:「んん?」
   俺は折れた鉛筆の先をまじまじと見やる。いったい何やってんだ?
真:「ホーリエ。」
   と真紅が言うと部屋の隅のカバンの一つがわずかに開き、中から赤い発光体が現れた。
   これは、真紅の人工精霊だな。
   その人工精霊ホーリエが真紅の手に持った鉛筆の周囲を旋回すると、へし折れた鉛筆の芯が
   たちまち元通りに復元されてしまった。
マ:「おお、すげぇ。」
   なるほど、復元だ。
真:「この復元作業、とても疲れるのよ。台所で暴れた蒼星石のおかげでその日はクタクタになったのだわ。」
マ:「へぇ~。それはウチの蒼星石がすまなかったね。」
   俺のこの受け応えに、真紅の目がキラリと光った。
真:「あなた、今謝ったわね? つまり自分の蒼星石に対する監督不行き届きを認めるわけね?」
   あれあれ、なんか真紅が急に俺に非があるようなこと言ってるぞ。
   その唐突さは真紅からある種の必死さを感じさせた。
真:「私はあなたの監督不行き届きの尻拭いをしたのだわ。だから何か私に恩を返すべきじゃなくて?」
   ・・・で、くんくん見るため遊園地連れてけ、ってわけですかい。凄いこじ付けですなぁ。
   まぁ、それだけ必死になるってことは、それだけ切羽詰まってるってことだろうかね。
   遊園地のチラシに目を落とすと、ショーは今週の日曜で最終日と書いてあった。  
真:「さぁ、どうなの!?」
   どうなの!?って言われても、そう必死にこられると連れてってやりたいのはやまやまなんだが。
真:「まさか、あなたもレディの一人、遊園地にエスコートすることもできないの?
   さすが満足に蒼星石の躾もできないマスターなのだわ。」
   躾って・・・。俺がいよいよ呆れ始めたその時、
   いきなりカバンの開く音がした。先ほどの部屋の隅にあった三個のカバンの内の一つだ。
蒼:「酷いや、真紅! マスターは関係ないじゃないか!」
   なんと開いたカバンから蒼星石が出てきて叫んでいる。
   あれ、ウチで留守番してるはずでは? 
真:「関係あるわ。」
   突然の蒼星石の登場に平然と応じる真紅。さては知っていたか。
真:「ミーディアムとそのドールはいわば運命共同体よ。当然、連帯責任なのだわ。」
   ジュン君と喧嘩中なのによくもまぁそんなこと言えるなぁ。
蒼:「たとえそうだとしても! あのことは、・・マスターには絶対秘密って言ったじゃないかあ!」
真:「そんなこと言われたかしら。」
蒼:「言ったよ! 絶対言った!」
マ:「あー、取り込み中すまんが一ついいかな?」
   と俺は控えめに片手を挙げながら言った。
   真紅と蒼星石が俺の方に顔を向ける。
マ:「なぁ、蒼星石。」
   俺は蒼星石の顔をまっすぐ見据えた。
蒼:「な、なに、マスター?」
マ:「本当にウチの台所ぶったぎったの?」
   俺がそう訊くと途端に蒼星石の顔がカァ~~と赤くなった。
蒼:「・・・・。」
   まじか・・・。ちとオテンバが過ぎないか蒼星石。
蒼:「だ、だって、いきなり・・・飛んできたんだもん・・・。」
   あー、あの虫が飛んでくるのは、確かにキツイわなぁ。
蒼:「・・・黙っててごめんなさい・・・・・。」
   あら、あらら。蒼星石、目に涙がたまっちゃってない?
   恐らく、飛びかかられた場面を思い出した怖さ、台所をえらいことにした恥ずかしさ、
   俺に今まで黙ってた罪悪感がいっぺんにきちゃったんだろうな。
蒼:「う、うぅ・・・ぐす・・・うぅ・・・・・・。」
   ああ、とうとう泣き出してしまった。
   俺はいたたまれず蒼星石を抱っこしてやった。真紅が見てるが気にしない。
   俺は蒼星石の背中をさすりながらあやしてやる。
マ:「泣くなって。俺全然怒ってないから。ちゃんと元に戻したんなら全く問題無いよ。
   どこも怪我しなかったか?」
   ふと、台所を滅茶苦茶にし、青くなって慌てて真紅を呼んでいる蒼星石の姿が思い浮かんだ。
蒼:「うう、ますたぁああ!」
   ああ、俺の腕の中でさらに泣き出してしまった。こんな時どうすればいいのだ?
   俺はすっかり困ってしまって堪らず真紅の方に目で助けを求めた。が、
真:「そう、私が元に戻したのよ。だから遊園地に連れて行きなさい。」
   鬼ですか、あんたは。
マ:「なぁ、ところで、何で蒼星石がここにいるんだ?」
   と俺は真紅に訊いた。
   家から出る時、たしかに蒼星石に「いってらっしゃい、マスター」って言われたはずだが。
蒼:「昨日、真紅から、話を聞いて・・僕もくんくんの、ショーを、見に行きたかった、から・・・ぐす。」
   俺は真紅に訊いたのだが、抱っこされた蒼星石が俯きながら答えた。もう泣き止みそうだ。
真:「先回りして、私と一緒にあなたを説得しようとしたのよ。」
マ:「それでどうしてカバンの中に?」
真:「それは・・・。」
   なぜか言い淀む真紅。
蒼:「もういいよ。」
真:「蒼星石?」
蒼:「マスター、僕もう一つマスターを騙してたんだ・・・。」
真:「駄目よ、蒼星石!」
蒼:「真紅、もう僕耐えられないよ・・・」
   あら~? ま~た、なんか雲行きが怪しくなってきたぞ・・・・
蒼:「マスター、僕、僕・・・!」
   また蒼星石の何かが爆発しそうだ・・・
   ぐ~~~~~~~~!
マ:「だ~~! わかった! わかったから!」
   とうとう俺が爆発した。
真:「何が、わかったのかしら?」
マ:「連れてく! 遊園地連れてくよ!」
蒼:「え・・・?」
   これ以上蒼星石が傷つくのは耐えられない。
   はぁああ、だが、勢いで承知してしまった・・・
   まぁ大人しい、真紅と蒼星石の二人だけなら何とかなるかな。なんて思った矢先だった。
真:「みんな、もういいわよ。」
   真紅が目を閉じながらポツリと言った。
   みんなだって・・?
   部屋の隅からカバンの開く音が・・・
翠:「・・・・・。」
   怒っている、凄まじく怒っている翠星石が現れた!
   は!? ベッドの下がもぞもぞ動いてる!
雛:「うにゅー!ゆうえんち~! ゆうえんち~!」
   ベッドの下から雛苺が現れた!
   は!? 窓がガラっと開いた!
金:「ちょっとヒヤヒヤしたかしらー!」
   窓から金糸雀が現れた!
マ:「え? え?」
真:「じゃあ、よろしく頼むわね。」
蒼:「マスター、ごめんなさい。真紅以外、みんなで隠れてたんだ・・・。
   みんなでいっぺんにお願いしたら絶対断られるって真紅が言ったから・・・。」
真:「そうでもしないとみんなで行けないでしょう?」
   嵌められた? 俺、嵌められたの? ドール達にたちまち包囲された俺。
   は!? ま、まさか、蒼星石の涙も・・・嘘!?
真:「言っておくけど、蒼星石の涙は本物よ。誤解しないで頂戴。」
   え?
翠:「アホ人間~、まったく、あれほど蒼星石を泣かすなと言ったのに~!死んで詫びるですぅ!」
マ:「うご!」 
   向こう脛思いっきり蹴られた!
翠:「この! この!」
マ:「~~~~~!」
蒼:「わぁ! やめてよ翠星石!」
雛:「わ~、ヒナも!ヒナも~!」
金:「遊園地楽しみかしら~♪」
真:「ああ、くんくん、待っていて・・・!」
   あああああああ!


                                  「遊園地に行こう2」へ続く