蒼星石とか言う人形が家に来てもう1ヶ月を過ぎる。
蒼「マスター、もう4月なんだし、セーターはやめたほうが」
俺「いやだ、寒い」
蒼「…全く。妙なところで頑固なマスターだ…」
俺「いやだ、寒いのは嫌いだ」
蒼「…はいはい、でもこたつはそろそろしまった方がいいですよ」
俺「いやだ、寒い」
蒼「…ふぅ」

溜息を一つついたあと、またテキパキと家事などをしてくれる後ろ姿を見て俺は不適な笑みを浮かべた。
そうだ。と思い立った俺は、蒼星石を虐待することにしたのだ。

まず、大きくて運ぶのも辛そうな掃除機の電源をコンセントから無理矢理抜き、
蒼「マスター!」
そう驚いているところを有無を言わずに手を引っ張ってセーターの中につっこむ。
蒼「ぷはっ、くるしっ、ってマ、マ、マ、マスター!?」
そうとう驚いているようだ。
蒼「………」
蒼星石は黙り込んでしまった。これはそうとう効いているようだ。
更にここでもう一つ追い打ちをかけようと思う。
俺「今日はもう休んでていい、後は俺がする」

そう、蒼星石の日課である家事全般を全て奪うのだ。

蒼「!」
蒼星石は驚いて声も出ないようだ。完璧だ。
蒼「ますたぁ…」
蒼星石が甘えた声を出してきたが、そんな乞いは無視することにした。
そして、暖かくて蒼星石をぎゅっと抱きしめた。

更に夕方になると俺が食事を作ってくれると思っているらしい。俺もそこまで考えた上での計画だ。
まずは食材を買いに行くと称して、近くの高級料理店で予約しておいたステーキとかいう肉の塊をただ焼いただけのものを取りにいく。
無論、こんな体に悪そうなものを食べさせられると思ってはいないだろう。しめたものだ。
更に寿司も頼んでおく。洋食と和食、この組み合わせは最低だ。高い店の寿司は脂がのっていると言うから、出来るだけ高い店で頼む。

蒼星石はいつも俺の子供の頃の服や、最初に会ったときの服ばかり来ている。
蒼星石は女だ、俺は気づいて無いと思っているらしいが俺の目は節穴ではない。
購入を決めていたフリルのついた服や女の子っぽい服をすぐさま購入しラッピングして貰う。
これでプレゼントだと思っていたら…というガッカリを狙うという魂胆だ。

その帰り、肉の塊を受け取り、家に帰るとすぐに寿司が届いた。
これで地獄の夕餉の始まりだ…。

夕食が始めると驚愕の声を上げた。
それもそうだろう、俺は今まで健康を気遣って出来るだけ自炊、それも健康食を作ることを決めていたもんだ。

食事が始まると肉を頬張る。味は悪くない。
蒼星石を見ると、実に嬉しそうな顔をしている。だが、俺は騙されない。
しかし少し俺も困惑している。順序が分からない。肉を食べて、寿司を食べる…というのは微妙だ。
これはうかつだった、相手を陥れるつもりが自分が陥ってしまった。

…何だかんだで食事は終わる。少し失敗もしたが何とか終わった。
蒼星石はうっとりとしている。だが俺は心を休める時間も与えるつもりはない。
そこに買ってきた服を渡す。

蒼「何、これプレゼント!?」
…相当驚いているようだ。嬉々と包みを剥がすと出てきた服をみてまた驚く
蒼「…マ、マスター…コレ」
俺「ああ、いつもおさがりか同じ服を着ているみたいだからな。たまには新品もいいだろ」

これはかなり効いたようだ。俺も心の中で自分の計画の抜け目の無さに驚嘆した。
まずは蒼星石の性格から断れないはずだ、それに俺の演技もなかなかの出来だった。

蒼星石は風呂に入ってるようだ。珍しく浴場からは鼻歌なんかが聞こえてくる。
俺の虐待で精神を老衰しているのだろうか?ならば成功だ。
音楽で気を紛らわそうだなんて、まだまだ甘い。俺はそこにさらに追い打ちをかけることにしよう。

ほぼ裸になって浴場に突入する。
蒼「ま、マスターっ!!」
驚きの声は今日で何回聞くだろうか。いつ聞いても素晴らしいものだ。
蒼「すっ、すぐあがるから!」
そういう蒼星石に俺は追撃する。
俺「まだ体が温まってないだろ、まだ入ってていいぞ」
そうやって更に恥辱する。

すると蒼星石が何かつぶやいた
蒼「…その、背中を…」
俺は聞き逃さない。ここは断る、という手もあるが次に繋げるために快く承諾しよう
俺「ああ、頼む」
蒼「マスターっ!?」
俺「背中を流してくれるんだろ?」

蒼「どう…かな?」
ああ、気持ちいい、これは良い、素晴らしすぎる。
俺「ああ…気持ちいいよ蒼星石」
蒼「っ、そ、そんなに言われると嬉しいな」
…無意識だったがどうやら俺はセクハラ発言をしていたようだ。うむ流石、俺。無意識下で完璧だ。
俺「じゃあ、今度は俺が」
蒼「まっ、まっっ、ますたぁ!ボクもう体を洗ったからっ…」
予想外の切り返しに戸惑う蒼星石を無視して体を洗い始める。
誇り高いローゼンメイデンがいくら契約関係にあるとは言え、素肌を触られる事は最大の屈辱の筈だ。

そうやって風呂が終わると芯まであたたかくなっていた。
ふと蒼星石に目をやると、地肌もそうとう赤くなっている。
買ってきたばかりのパジャマに着替えさせ、浴室を出ようとする蒼星石はかなりふらついていた。
ここで俺は思いつくとすぐに実行に移した。蒼星石をかかえ込むように抱く。
世間一般でいう「お姫様ダッコ」とかいう奴だ。
あんな料理を食べた後に、歩かせないことによって不健康にさせるというワケだ。
とっさに思いついたにしては素晴らしい出来。自分自身に惚れ惚れしそうだ。
もう蒼星石は黙って体をゆだねている。今日一日で、抵抗はムダと分かったのか。
ふむ、少しは勉強したようだ。そうやってそのままベットに運ぶ。
いつもはこの後、家事などがあるが俺がするためにそのまま眠りにつかせる。

蒼「マスターっ!ボクは、鞄の中でっ!」
分かっている。だからこそベットに運んできたのだ。
俺「…たまには、蒼星石と一緒に寝たい…だめか?」
これを蒼星石が断れる筈がない。

そうやって蒼星石と一緒に布団に入る。
蒼星石は離れていたが抱き寄せる。これで布団の中でまで自由を奪うのだ。

蒼「えへへ、マスター暖かい」
蒼星石はそうつぶやくと瞼を閉じた。
俺も蒼星石の寝息を確認してから眠りにつくことにした。

男とベッドに一緒に寝るという事は蒼星石は少し期待しているのだろうが、あえて何もしないことで期待を裏切る。

…夢の中で蒼星石が出てきた。
蒼「マスター、いつもありがとう」
声を出そうとしても何故か出ない、こっちの声は届かないらしい。
はっと目が覚めた。何か良い夢を見た気がする。横を見ると蒼星石が寝ている、安心した。
服を着替えると朝食の準備をする。それから手紙を書く。自慢では無いが俺の字は汚い。
時として読解自体に難を要すくらいだ。そんな俺の文字で
「出会って一ヶ月だが、今までありがとう、これからもよろしくな。」とだけ書いておく。
蒼星石に読むことができるだろうか、頭を悩ませる姿を思い浮かべて顔がついほころんでしまう。
それから朝食とは思えない量の料理を準備してから蒼星石を起こしに行く。
ベッドに蒼星石の姿がない。俺は慌てた。
蒼星石が、居なくなってる…?
考えられないこと。頭の中が真っ白になる。蒼星石はもはや俺の生活の一部なんだ。
鳩時計が時刻を知らせる。その音で我に返った。今は…9時。
いくら目覚まし時計の力を使っているとはいえ元々早起きな蒼星石が9時まで静かに眠っている筈がない。
うかつだった。とにかく慌てて玄関に駆ける。いてもたってもいられない、こんな狭い家で見失うことはない。
…とすれば、外。

靴を履いて出ようとした時、玄関が開く。

蒼「マスターっ!?…どうしたんです?そんなに慌てて」
蒼星石の姿が見える。

物凄く安心した。そのまま壁にもたれ掛かりズルズルと座り込む。ああ、これが安心して力が抜けるという奴だろう。
そんな事を考えていると蒼星石が駆け寄ってくる
蒼「マスター?大丈夫?」
ここで心配をかけてはいけない。それに何かおきたわけじゃない。
俺「大丈夫だ、蒼星石が無事と分かって、安心しただけだから」
ポンポンと頭を撫でる。
蒼「…?」
蒼星石はよくわからない、という顔をしている。まぁそれもそうだろうな。

ふと蒼星石の手元を見ると赤い花を持っている。
俺「…それは花…?」
俺がそう訊ねると蒼星石は慌てて花を隠したが、もう見えてしまったものはしょうがない。
蒼「その…朝ご飯で恩返ししようと思ったんだけど、 もうマスターが準備してたし…
 その、順番は変になっちゃったけど、感謝の気持ちです、マスター」
俺の家の庭に花なんか生えてない、けれど庭師の力なのか。赤くて綺麗な花束。

      ―――、小さな花束。心のこもった本当に小さな花束。

蒼「マスター、いつもありがとう」
そういうと蒼星石は座り込んだ俺の頬にキスをした。
蒼「えへへ、それじゃあマスターが準備してくれた、朝ご飯にしましょう」
…ほっぺたが少しだけ、あったかい。