最近、蒼星石が俺を避けているような気がする。
俺と距離を置いてテレビを見るし、寝る時間も早い。朝も起こしに来ないし、目が合っても慌ててすぐそらす。
それにどこかよそよそしい。
何か悪いことをしたのだろうか?思い当たることは…、ないわけではないが、どれも些細なことだ。
ここまで、避けられるようなことは決してしていない!…はずだ。
今日、ちゃんと聞いてみよう。
そんなことを思いながら俺は帰宅した。

「ただいまー蒼ー。」
…返答がない。避けているように感じたときも、ただいまはちゃんと言ってくれていたのに。
「蒼ー?いないのかー?」
家出でもしたか?そんなことを思いながら、リビングに入って見たものは…。
「ううっ…マ、マスター…?」
うずくまって苦しそうにしている蒼星石がいた。ひどくうなっていた。
俺はすぐに駆け寄ろうとした。
「蒼!どうしt…」「来ないで!!」
あまりの必死の声に俺の足は止まってしまった。
「おい…どうしたんだ蒼…」
「うぅ…。マ、マスターを見ると…血が…血が欲しくなって…、喉が疼くんだ」
血が欲しくなる?それじゃまるで吸血鬼じゃないか!?
恐る恐る蒼星石の顔を覗き込むとちいさな牙らしきものが二本生えていた。
いったいどうしたっていうんだ!蒼星石に何があったんだ?
「い、いつから、そんなことになったんだ?」
「たぶん…マスターの…傷口を舐めたとき…からだ…と思う…。」
あれは、確か、2ヶ月位前だったか?俺が不注意で指を切って、それを見た蒼星石が興味本位で傷口を舐めたんだったな…。
「初めは軽かったんだけど…、どんどんひどくなって…。マスターに迷惑かけたくなくて…」
それで、俺を避けていたのか…。
何故だ?人の血がドールの体に影響を及ぼしたのか?
ええい!そんなことは今はどうでもいい!今は蒼星石を何とかするんだ!
「よし…」俺は覚悟を決めた。そして、蒼星石に近づく。
「!!来ないで!!マスター!!」
蒼星石は必死で叫んだが、俺はもう止まらない。
俺の身がどうなるかはわからないという恐怖よりも、蒼星石へ思いが勝っていたからだ。
「こ、来ないで…、我慢できなくなっちゃうよ…」
そうつぶやく蒼星石を俺は抱きしめた。
「我慢するな。それで蒼が楽になるなら、俺は喜んで血をあげるさ。」
「うぅ…ごめ…んなさい……マスターーー!」
蒼星石はそう叫び、俺の首筋に噛み付いた。
カプッ!!
「うっ!!」
血を吸われていくのを感じた。すごい勢いで吸われていく。意識が遠のいてきた…。
「蒼…」そうつぶやいて、俺は意識を失った…。

次に意識を取り戻したのは病院のベットの上だった。
先生に聞くと俺は救急車で運ばれてきたらしい。極度の貧血だったという。
そうか…蒼星石が連絡してくれたのか…。
そうだ!蒼星石は!?
俺は首の傷のことなどは適当にごまかして最低限の治療だけをしてもらい、急いで家に戻った。
「蒼ーー!」
家に入ると、俺は蒼星石を探した。
…が、どこにもいない…。
「どこに行ったんだ…」
耳を澄ますとどこからか、僅かだが声が聞こえる…。
俺はその声する方をたどっていった。
どうやら押入れの方からだ。開けてみると、そこには蒼星石の鞄があった。
声はその中から聞こえる。
「蒼…いるのか…?」
鞄を開けようとしたその時。
「開けないで!!」
中から蒼星石の必死の声が聞こえた。
「どうしたんだ?、出て来いよ…。」
「嫌だ!」「何でだよ!」
蒼星石の声に負けないくらいの声で俺は言った。すると、関を切ったように蒼星石は話し始めた。
「僕はマスターに迷惑かけっぱなしで…、それなのにマスターは笑って許してくれる。
そんなマスターの優しさに僕は甘えていたけど…。もうこれ以上マスターに迷惑をかけたくないんだ!
出て行こうかとも考えたけど…僕はドールだからマスターがいないといけないし…何よりも離れたくなくて…
こんなわがまま僕がもう嫌なんだよ!」
「…言いたいことはそれだけか…」
「そ、そうだよ…だから、僕は鞄の中で過ごすことにしたんだ…。」
「あのな…」
俺は一息置いて言った。
「他人に迷惑をかけない人間なんていない。それはドールだって同じだ。それに俺は蒼のマスターになったんだ。
それなのに共に過ごせないなんてつらすぎるぞ。蒼と俺の関係は力を与える媒体とだけしかなくなってしまうし…
それとも、蒼は俺との関係をそれだけにしたいのか?」
「そ、そうじゃないよ!」
「なら、出て来い。出てきて話をしよう。」
少し間があって、ゆっくり鞄が開いた。ゆっくりと蒼星石が出てきた。だが、蒼星石は俺の顔を見ようとしない。
俺は、蒼星石を抱きしめた。
「マ、マスター…」
「こうゆうこともできなくなるんだぞ。」
「でも…」
「俺は蒼が好きだ。好きな人のことはどんなことをしても許せるし、どんなときでも一緒にいたいんだ。蒼はどうなんだ?」
「…ぼくも…マスターが好きです…」
「なら、離れたくないのはわがままじゃないぞ。自然なことさ。だから、もう鞄の中に閉じこもるなんて事を二度としないでくれ。」
「…ごめんなさい…。ありがとうマスター…」

落ち着いた後、蒼星石からいろいろ話を聞いた。
救急車を呼んで、俺を送った後、ずっと鞄に閉じこもっていたらしい。
あと、血を吸った後は喉の疼きはおさまり、牙も引っ込んでいたそうだ。
そして、これからはお互い体の異変や心の悩みなど、隠さずに話していこうと約束した。
お互いに幸せな生活を送るために…
そして、数ヵ月後。
俺の体は何も異常は起きずに済んだようだった。
そして、蒼星石は…。
「マスター…。また、お願いできますか?」
「ん、そろそろそんな時期か。いいぞ、ほれ。」
「いつもごめんなさい…。いただきます…。」
そう言って蒼星石は俺の首に優しく噛み付く。
カプっ…
「もう、この感じも慣れたな。」
ゴクン
「んっ…ごちそうさまでした。」
「おいしかった?」
「うん…何よりマスターの血だし…」
「へへ、それはよかった。」
あれから、2~3週間に一回のペースで、俺は蒼星石に血を与えている。
長い間我慢していた時よりも、一回に飲む量は減っているので、意識がなくなることはないし、生活に支障は出なくなった。
少し疲れるけど…。まあ、それぐらいなら大丈夫だ。
何で、蒼星石にこういう症状出ているのかはわからない。医者に相談するわけにはいかないし。
まあ、一応こういう形でおさまっているのでいいかと思った。
それと、俺の首にはかわいい愛の証がいつもついているようになった。


~END~

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最終更新:2006年04月28日 01:49