マ「(な、ナース服だと!?)」

  知らず知らずの内にマスターはその店のコアなコーナーに迷い込んでしまったらしい。
  だが、ナース服を凝視するばかりのマスターはそのことにまったく気付いていないようだ。
  固まったまま動かない。

マ「(こんなのまであるのか・・・)」

  ナース服の隣には白衣まで・・・

マ「(ここで蒼星石とお医者さんプレイを想像したら俺の負けだ・・・!)」

  頭を振って次に展示されてる服に目を移らせる。

マ「(ボ、ボンテージだと!?)」

  ご丁寧にドールサイズのSMグッズまである。

俺は

  1.駄目だった。ボンテージ姿の蒼星石とそのシチュが勝手に脳内で再生された。

  2.蒼星石でそんな想像してはイカーン! 自分の中のふしだらな自分に喝をいれた。

rァ  3.僕、子供だからよくわかんないや。


マ「僕、子供だからよくわかんないや」

  華麗にスルーするマスター。

マ「(蒼星石はそういうのじゃなく、もっとこう、ファンシーなものを喜んでくれるはずだ)」

  何かが吹っ切れたのか、マスターは慣れない店内の雰囲気で狭まっていた視野が開けた気がした。

マ「む、あれは・・」

  また何かマスターの気を引くものが見つかったようだ。

マ「人形の着る、着ぐるみだと・・・?」

  どういう心理で人形に着ぐるみを着せたいと思うのだろうか。
  マスターは試しに、今目の前にある猫の着ぐるみを頭の中で蒼星石に着せてみた。

猫蒼「にゃ~ん♪」

マ「いい・・・」

  なんという規格外の可愛さ。マスターは恍惚とした表情を浮かべた。
  他にも犬やらペンギンやら色んな着ぐるみがある。

  特にこのペンギンの着ぐるみは乙レデスも着れそうなサイズまで揃っている。
  マスターは蒼星石と乙レデス二人揃ってペンギンの着ぐるみを着ているところを想像した。

マ「可愛い・・・」

  可愛いあの子に着ぐるみ・・マスターは何か、とてつもない大発見をしたような軽い昂ぶりを覚えた。
  そのとき、不意にポンっと肩を叩かれた。

俺の肩を叩いたのは・・・

rァ1.レイ・チャールズのような格好いい黒人の爺ちゃん

 2.身なりのいい白人?の婆さん

 3.眼鏡をかけた若い男性店員


マ「???」

  いきなり見知らぬ黒人の爺さんに肩を叩かれ、マスターは目を白黒させた。

爺「ペラペラペラ」

  マスターの驚いてる様子も構わず爺さんはマスターに上機嫌にしゃべり始めた。

マ「(うお、英語か!?)」

俺は

 1.「な、ないすとぅみーとぅー」拙過ぎる英語だが何とかコミュニケーションしようと努めた。

 2.「そ、そ~り~!」 わからん! その場から逃げることにした。

rァ3.「み、みっちゃ~ん! たっけて~」助け舟を求めた。


マ「み、みっちゃ~ん! たっけて~」

  外人慣れしてないマスターは堪らず助け舟を求めた。
  かなり情けない。

み「ニヤニヤ」
マ「(はぐおう、高見の見物かよ!)」
爺「ぺらぺーら、ぺらぺーら」

  黒人の爺さんは上機嫌に喋くるばかりだ。
  英語が喋れないことをなんとか伝えなければとマスターは意を決して言った。

マ「あ、アイキャントスピーク、イ、イングリッシュ」
爺「あ、そうなの?」
マ「日本語喋れるのかよ!」
爺「いや~、失敬失敬。あんまり嬉しいもんだからついつい英語でまくしたてちゃったね。
  いやね、日本の男の人でこういうドールに興味のある人ってなかなかいないから
  つい嬉しくなってね。かくいう私もこの美しいドールたちに大いに魅了されてもう何年になるかな。
  長年色んなドールを見てきたけれど、特に日本の着物を着たドールのその美しさといったらないよね。
  来日してはちょくちょくドールショップを見て回ってるんだ」
マ「は、はぁ。日本語ペラペラですねぇ」
爺「HAHAHAHAHAHA 日本語くらいわけないさ。ところで、君もドールに着せる服を買いにきたんだろう?
  あんなに熱心に眺めていたんだからな」
マ「そ、そんなとこです」

爺「うんうん。お人形は色んな服を着ておしゃれするのが大好きだからね。君のドールは幸せだな。うん」
マ「(うう、今まで蒼星石に服を買ってあげたことなんて無かったなぁ・・)」
爺「さっき誰か人を呼んでいたようだけれど、連れの方がいるのかな?」
マ「ええ、あちらのほうに・・・」

  マスターがみっちゃんの方へ視線を向けた。

爺「おお、夫婦でドール好きなのかい。
  いいなぁ、私の妻はドール収集について全然興味を示してくれないというのに・・」
マ「いえ、夫婦じゃないですっ」
爺「そうか、結婚はまだか。いやいや、なんにせよ好き合うもの同士が同じ趣味を持つことはとてもいいことだよ」
マ「は、ははは(完全にカップルにされちゃったよ・・・まぁ、今はそうなんだけど・・)」
爺「ところで・・・君は人形についてけっこう詳しかったりするかい?」


俺は

rァ1.「いえ、とんと・・・」
 2.「それなりに・・・」
 3.「けっこう詳しいですよ」


一方そのころ・・・

翠「ふぅふぅ、ただっ広い建物ですねぇ」
蒼「マスターたち見つかった?」
翠「こう広いとそう簡単に見つからんですよ」

マスターとみっちゃんを追ってビルに侵入した双子だったが完全に二人を見失ってしまったようだ。
ちなみに他の通行人に姿がバレないよう、二人で一つのダンボールを被って進んでいる。先頭は翠星石だ。

翠「こっち行ってみるですぅ」
蒼「うん」
翠「うう~~、いないですぅ。あっち行ってみるですぅ」
蒼「うん」
翠「ああ、人が来たです! 止まるです」
蒼「うん」
翠「・・・・」
蒼「・・・・」
翠「行ったみたいです・・・」
蒼「ふぅ」
翠「じゃあ、今度はそっち行ってみるですぅ」
蒼「うん」

先頭の翠星石の指示の元、ビル内をえっちらほっちらダンボールを被って右往左往する双子だったが
全然マスターたちの元へ辿り着けそそうな気配がない。

蒼「ねぇ、翠星石。一旦外に戻った方がよくないかな? 
  こんなに探して見つからないんじゃ、もしかしたらもうマスターたち出て行っちゃったのかもしれないし」
翠「そうですねぇ・・・ ああ!!」
蒼「どうしたの!?」
翠「帰り道、わかんなくなったですぅ~。てへ」
蒼「えぇ~!」

  えへへ、いっけね~とでも言わんばかりに翠星石は舌を出して照れた。

蒼「そんな、今さら言われても僕も覚えてないよ。ずっと後ろを付いていっただけだし・・・」
翠「ん~、困ったですねぇ」
蒼「どうしよう、どうしよう」


一方そのころ・・・

金「はぁ~~、みっちゃんたちうまくやってるかしら。心配かしら」
乙「にゅぅ~~~」

  金糸雀は乙レデスの両ほっぺたをびよよ~~んと伸ばしながらマスター二人の
  デートの行く末を案じていた。

雛「金糸雀、乙レデスいじめちゃだめなの~~!」
金「別にいじめてないかしら! ほら、レデスも全然痛がってないかしら」
乙「にゅ~~ん」

  乙レデスは無表情のまま、金糸雀にいいようにされている。

雛「乙レデス、痛くないの?」
乙「ふぁんへ(なんで)?」
金「神経無いのかしら」

  乙レデスのほっぺたは餅のようにすべすべで尚且つでたらめに伸びる特性を持ってる。

乙「くん!? くんくん・・・いいにおいする・・」

  乙レデスは急に鼻をヒクつかせると、上体を起こして
  金糸雀のポシェットをまさぐりはじめた。

金「あ、ちょ、ちょっと、なにしてるのかしら!」
乙「じゅる・・たまごやきのにおいがする」
金「な、これは駄目かしら! みっちゃんがカナのために焼いてくれた玉子焼きかしら!」
乙「たべる・・・」

  ぐきゅるるる・・・

金「駄目! 絶対にあげないかしら!」
乙「たべたい・・・」
金「駄目ったら駄目かしら! ぜっ~~たいに駄目かしら!」
乙「ん~~。しょぼ~~ん」
雛「あ~、金糸雀、けちんぼさんなの~~!」
乙「ひなおねえちゃ~ん」
雛「よしよし、可愛そうな乙レデスなの~、なでなで。金糸雀はけちんぼさんだからね~」
乙「けちんぼ~」
雛「けちんぼ~」

金「ふ、ふん・・・・」
乙「おなかすいた・・・」
雛「いま、巴がうにゅーを買ってきてくれるの
  あんな玉子焼きよりも巴が買ってきてくれるうにゅーの方がずっとずっと美味しいのよ~♪」
金「ぴく・・・」
乙「そうなの?」
雛「そうよ~、うにゅーの方がず~~とふわふわでむにゅ~~ってしてるんだから!」

  わなわなわな・・・!

金「ちょ~~~っと聞き捨てならないかしらぁ~~!」
雛「うにゅ?」
金「みっちゃんの玉子焼きよりも美味しい食べ物なんてこの世にあるわけないのかしら~!」
乙「そうなの?」
金「ふふん、乙レデスも一度食べてみればわかるかしら!
  あのふわふわっとした玉子の食感! 香ばしい焼き目の舌触り! あれこそ至高の美味かしら~♪」
乙「じゅるる・・」
雛「ふんなの!けちんぼさん。どうせ食べさせてくれなきゃ意味無いの!
  どうせ食べてもうにゅーの方が美味しいに決まってるの~」
金「むか~~! 玉子焼きの方が美味しいかしら!」
雛「うにゅーの方が美味しいの!」

  いがみ合う金糸雀と雛苺を交互に見ながら両腕をピコピコ上下に動かす乙レデスだった。



マ「いえ、とんと・・・」
爺「む、もしやこの道に入ってまだ日が浅いとか?」
マ「そんなとこです。はは」
爺「そうか・・・。この道はな、奥が深い。深すぎるんじゃ。
  それこそ生半可な覚悟ではうんたらかんたら・・・」
マ「は、はは・・・」

  老人の話が無駄に長いのは万国共通なのだろうか。
  話の腰を折ることもできずにマスターは愛想笑いを浮かべるだけで
  精一杯だった。

爺「ところで、君には娘・・・なんてのはいないのかな?」
マ「え・・は、あ、むすめ?」

  突然、人形となんら関係の無い問いがきた。
  むすめ・・・むすね・・・娘ねぇ・・蒼星石は・・・妻だ・・・乙レデスは・・・

俺は

rァ1.「いますよ」
 2.「いませんよ」
 3.「どうしてそんなこと訊くんです?」

マ「いますよ」

  マスターにとって、乙レデスは娘のような存在だった。

爺「ほほう・・名前は?」
マ「え・・」

  名前・・・乙レデス・・・とても日本人の名前とはいい難い。

俺は

 1.「乙レデスといいます」別にいいか
rァ2.「え、えーと、お、乙子といいますっ」
 3.「実はいません。結婚はまだって言ったでしょう。ははは」

マ「え、えーと、お、乙子といいますっ」
爺「乙子?」

  爺さんの目が一瞬険しくなった。が、

爺「あー、乙子ちゃんねー、可愛らしい名前だねぇ」
マ「は、はぁ・・」
爺「それはきっと、お人形さんのように可愛いのだろうねぇ・・・」
マ「は・・はは(なんだ?)」
爺「それじゃあ、そろそろ私は行くかな。そうだ、名刺を渡しておこう。
  何か人形のことでわからないことがあれば遠慮無く電話をよこしなさい」
マ「あ、どうも・・・」
爺「では、娘さんと奥さんを、くれぐれも大事にね」
マ「はい・・」

  いったいあの黒人の爺さん何者だったのだろう。
  マスターはさっそく交換した名刺に目を通した。
  名刺の字面は全て英字だったが、難しい英単語を除いて簡単な英単語くらいは読めた。

マ「アイアン・・ワークス? 会社名か?」

  ま、自分にはもう縁の無い話だな、とマスターは名刺を財布の隅に放り込んだ。

マ「みっちゃんもいつまで店員さんと話してるんだ?」

み「くすくす」

  みっちゃんが笑いながら近づいてきた。

マ「な、なんだよ」
み「あの外国人のお爺ちゃんに話かけられたマスターさん、とっても面白かったわよ。
  あんなに慌てふためいちゃって。みっちゃん、たっけて~なんて、くすくすくす」
マ「うう」
み「それに、お爺ちゃんが日本語を話せるわかったときのマスターさんのホッとした顔・・ぷ・・ははっ」
マ「う、うるさいやいっ。高見の見物しやがって・・・」
み「ふふ、ごめんなさいねぇ。ところで、もうあたしは用済ませたわよ。ほら」

  みっちゃんが嬉しそうに包みを掲げた。

マ「なんだい、それ」

み「なにって、もちろんカナに着せるお洋服に決まってるじゃない!
  丁度注文してたのが今日お店に届いたのよ。他にもいろいろ買っちゃったっ」
マ「それはそれは・・・(いったいいくらつぎ込んでるんだろ)
み「マスターさんも何か買わないの?」
マ「え、あ・・そうだ」

  蒼星石のおみやげを買うんだった。
  さて、どうしよう?

マ「ちょっと、待って」

  マスターは慌てて商品棚に目をやった。

み「はいはい、いくらでも待つわよ~。ゆっくり選んでね」
マ「ん~~」

俺は悩んだ末・・・

rァ1.蒼星石、乙レデスお揃いのペンギンの着ぐるみをおみやげにした。計10000円
 2.少々値が張るが人形用の着物をおみやげにした。18000円
 3.女の子だったら何を喜んでくれるかみっちゃんに尋ねてみた。
 4.おみやげは買わないことにした。




の「あらあら、どうしたの。二人とも喧嘩はだめよ~」

  激しく張り合う金糸雀と雛苺の声を聞きつけてのりがやってきた。

雛「ふんなの!」
金「ふんかしら!」
の「いったいどうしたの~?」

  あたふたするのりのスカートの裾を乙レデスがクイクイと引っ張った。

乙「あのね、どっちもおいしーんだって」
の「???」

  ピンポーン

雛「トモエ!」

  待ってましたとばかりに雛苺は飛び上がり、一目散に玄関へ向かった。
  少し遅れてのりも向かう。


金「さぁて、邪魔者が消えた今のうちに玉子焼きを食べようかしら~」
乙「じーーー」
金「ふ、ふん。あげないかしら!」

  乙レデスと目を合わせないようにし、ポシェットからお弁当箱を取り出す金糸雀。

金「なんだか今日のお弁当はいつもよりもたくさん入ってるかしら♪ ・・・・あら?」

  包みを解いた弁当箱の上に手紙が乗っていた。

金「なにかしら?」

  きょうはいつもよりたくさんやきました。みんなでなかよくたべてね。

                              みっちゃんより

  文書の横にはにこにこ顔のみっちゃんの似顔絵も添えられていた。

金「みっちゃん・・・」
乙「どうしたの?」

雛「トゥモェ~!」

  雛苺は勢いよくジャンプして巴に抱きついた。

巴「あら、今日の雛苺はいつも以上に積極的ね」
雛「うんとね、金糸雀がうにゅーなんかより玉子焼きの方が美味しいなんていうの!
  だから、金糸雀の前でうにゅーをおいし~~く食べてるところを見せてあげるの!」
の「まぁ、だからさっきあんなに言い争ってたのねぇ」
巴「雛苺、駄目よ。そんなことで喧嘩しちゃ」
雛「ううん! あんなこと言う金糸雀にはうにゅー食べさせてあげないの!」
巴「雛苺、そんな寂しいこといわないで」
雛「うゆ?」
巴「私はね、皆と仲良くお菓子を食べる雛苺の笑顔がとっても好きなの。
  誰かを除け者にしてお菓子を食べる雛苺なんて見たくないわ」
雛「うゆ・・・」
巴「ね? 金糸雀ちゃんと仲直りして?」
雛「うん・・ヒナも・・巴の悲しい顔見るの嫌なの・・・。わかったの・・」
巴「ありがとう、雛苺」

  巴は愛しそうに雛苺の頭を撫でた。

金「あの、雛苺・・」
雛「うゆ・・金糸雀・・」
金「やっぱり・・皆一緒に食べるかしら・・・さっきはごめんね」
雛「金糸雀も一緒にうみゅー食べるの・・さっきはごめんなの」
の「よかった・・・。仲直りね」
巴「ええ」
乙「はぐはぐ、うん! どっちもとってもおいしいよ!」

  一足先に左手に苺大福、右手に玉子焼きを持って乙レデスは舌鼓を打っていた。

金&雛「あーーーー!!」
金「ずるいかしらーー!」
雛「ずるいのーー!」

無事仲直りできた金糸雀と雛苺。
一方、ビル内で迷子になってしまった双子は・・・

翠「と、とにかくこういうときはですねぇ!」
蒼「こういうときは?」
翠「左手の法則ですぅ!
  こう、左手を壁につけてですね。壁伝いに進めばどんな迷路も出口に辿り着くんですよ!」
蒼「それって、『くんくん探偵と麦畑のラビリンス』でくんくんが言ってた方法だよね?」
翠「そ、そうです。とにかく進むですぅ! くんくんの言うことに間違いはないのです!」

忠実に壁に左手をつけて進む双子。
時折人の気配が近づいてきてはダンボールを被ってやり過ごす。
注意深く、注意深く・・・

翠「ひゃ!」
蒼「どうしたの!?」
翠「か、壁がひとりでにひらいたですぅ!」

  翠星石が触っていたのはセンサー感知式の自動ドアだった。
  この時代に疎い双子にはセンサーが云々などわからない。
  ましてや身長の小さい二人には勝手に扉が移動しているようにしか見えない。
  センサー感知式の自動ドアは、とあるお店の入り口だった。

翠「こ、この場合はどうするですか?」

  左手を伝っていた壁は消失してしまった。これは予想外の事態である。

蒼「落ち着いて翠星石。この場合は・・・少し下がってもう一度壁伝いに進もう」
翠「う、うん。わかったです・・・」

  後退さる双子。

  ウィーン

翠「ひっ」
蒼「これは・・!?」
翠「か、壁が元通りに戻ったですぅ!」
蒼「いちいち驚かないで、翠星石。この時代は僕達の知らないことだらけなんだから」
翠「うううう、この場合はどうすればいいですぅ・・?」
蒼「もし、また壁が動いても・・・そのまま進むしかないね。左手の法則に従うのなら・・」
翠「うう、もうどうしていいかわからんです・・・」

  それでも蒼星石が進むしかないと言うのなら、翠星石はそのまま進むしかなかった。

  虎穴入らずんば虎子を得ず・・・かくして双子は入店した。
  店の看板は・・・『わくわくペットランド ソースケ』

翠「何か・・犬の鳴き声がするですよ・・?」
蒼「鳥や猫の鳴き声もするね・・・」

  恐る恐る左手の壁を頼りに店内を進む双子。

翠「ひっ!」

  明らかに怯えた声を翠星石は漏らした。

蒼「ど、どうしたの!?」
翠「お、大きな犬が睨んでるですぅ!」

  ガラス越しにシベリアンハスキーがこちらを見ていた。

蒼「もしかして、ここは・・・ベット屋さん・・・?」

  自分たちがどこに迷い込んだのか察したようだ。

翠「ど、どうするですぅ、蒼星石?」

  左手の法則に則るにはこの犬のガラスケースに手を触れなければならない。
  だがしかし犬は大型犬のシベリアンハスキーだ。

翠「こ、怖いですぅ」
蒼「大丈夫だよ、翠星石。犬とはガラスで隔ててあるんだから」
翠「そ、そんなこと言っても・・

  恐々と手をガラスに触れさせようとするが、その翠星石の手を嗅ごうと犬が鼻を
  近づかせてくる。

翠「うう」
蒼「待って、翠星石。僕が代わるよ。僕が先頭になる」
翠「え、いいのですか?」
蒼「うん、僕は平気だから」

  悠然と翠星石の前に進み出る蒼星石だったが、翠星石には内心葛藤するものがあった。

翠「(また、守られてるですぅ・・)

  このままではいけない。
  いつも守られてばかりで・・・
  一度アリスゲームで妹を失って、決意したのに・・今度は自分が蒼星石を守ると。

翠「や、やっぱり翠星石が先頭になるですぅ!」
蒼「翠星石?」
翠「こ、こんなワンコロ、全然へっちゃらですから」
蒼「無理しなくていいんだよ?」
翠「む、無理なんぞしてねぇです」
蒼「なら、いいけど・・」

  こう突っぱねる姉に何を言っても無駄なことを、長い付き合いで蒼星石にはわかっていた。
  翠星石はガラスに手を近づけた。
犬「くーん」
翠「(ひ・・)」

  強がってみせたもののやっぱり怖いものは怖い。
  だが、もう妹に頼りっぱなしではいられない。
  翠星石は意を決してガラスケースに手を触れた。

翠「さ・・さ、行くですよ」
蒼「うん」

  だが

翠「(人が近づいてきたですぅ!)」

  慌ててダンボールに潜む双子。

店「あんれぇー、誰もいないんかぁ? 確かに声したのに」

  奥のほうで作業していた店の人が戻ってきたようだ。

翠「・・・」
蒼「・・・」
店「ん、なんだ、このダンボール?」

  不自然に置かれたダンボール箱。箱にプリントされてる銘柄は『うまい棒 ねるねるねるね夢のコラボ味』
  どう見ても店のものではない。

翠「(み、見つかるですぅ・・・!)」

  店員の手が双子の潜むダンボールに掛かった。



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