「はぁ…今年もこの季節がやってきたか…」

 帰宅の途中の町並みを見て溜息を吐く俺
 この時期になると何処もかしこもクリスマスの色一色に染まっていた

「ケッ!クリスマスなんて無宗教徒の俺には関係ないやい!」

 幸せそうなカップルをよそに聞いてる方が悲しくなるような言い訳をする俺

「はぁ~…ガキの頃はあんなに楽しみだったクリスマスがこんなに憂鬱な日になるとは…」

 通りすがりの人に聞こえてしまう程大きな独り言を言いながら帰宅する俺
 一応言っておくが俺には彼女と呼ばれるような存在は居ない
 この季節は主に二組のグループに分けられる
 街中でイチャイチャしてる忌々しいカップルと俺みたいに一人で過ごす淋しい人間だ
 しかし、クリスマスに恋人がイチャつくなんて腹が立つ風習を一体誰が考えたのだろう…

「サンタさんとやらも俺の家には来ないし、何で神様の誕生日をイベントにしたんだか…」

 と明らかに卑屈になってる俺
 クリスマスイブというだけなのに、
 街中をうろついてるカップルから哀れむような視線を浴びせられる事が気に入らない
 これ以上この空気に毒されてはいけないと涙目になりそうなのを必死に堪えながら
 無事家にたどり着いた

「ふぅ、ただいまっと」

 誰も居ない部屋に「ただいま」の声が広がる
 返事が帰ってくるわけがないのに誰かが居るのではないかと淡い期待を抱いてたりする
 しかし、その淡い期待も一瞬にして砕け散ってしまった

「返事が返ってこないと分かってるけど虚しいよなぁ…」

 そんな事をぶつぶつ言いながら適当に食事を済ませようとすると
 机の上に見慣れない紙が置いてあることに気が付いた

「ん?何だこの紙はって…怪しい広告じゃないか…こんな日にまでご苦労な事だ」

 『幸運の人形』だとか、『値段は一切掛からない』だとかそんな事ばかり書いてある。
 こんな怪しい物にサインする人なんて居るのだろうか…
 だが何故か、この『幸運の人形』に妙な魅力を感じてしまった。
 そして俺は手紙の一番下にある『まきますか?』の項目にチェックを入れ
 とりあえず机の引き出しの中にしまっておく事にした。

「ふぅ…今日は色々あったから疲れたからもう寝よう…」

 まるで吸い込まれるかの様にベッドに入る俺
 そしてクリスマス当日…

「よし、昨日の鬱になった分今日は遊んで鬱憤を晴らすか」

 そう意気込んで、家を出ようと玄関に行くと
 見たことも無い年代物の様な鞄があった。

「ん?何だこの鞄は…一応中身を確認しておこうか…」

 そう言って鞄を開ける俺

「なあっ!?」

 鞄の中身を見て俺は驚愕した
 なんと小学生か、あるいはそれよりも幼いと思われる少女が眠っていた

「おいおい…なんでこんな物が家に送られて来るんだ?それより、とりあえず起こさないと…」

 とりあえず鞄の中に居る少女を鞄から出して起こそうとした時、
 鞄の中にゼンマイがあるのを見つけた

「そっか、この子はからくり人形なのか…って事はこのゼンマイを入れる穴が…あった!」

 人形の少女を立たせて、背中にある穴にゼンマイを入れ回してみる

「これでどうかな…?」

 ゼンマイを巻き終え、床に立たせてみるすると、少女の目が開き動き出した

「おぉ、動いた!最近のからくり人形って良く出来てるなぁ」

 俺が感心してると、空耳か少女の方から声が聞こえて来た

「あの…ひょっとしてあなたが僕のネジを巻いたのですか…?」
「へ…?」

 しばらく唖然とする俺、俺はこの少女の事を
 よく絵本とかで出てくるような玩具の兵隊と同じ類の物だと思っていた。
 しかし、その人形の彼女が自らの意思で喋るとは到底思えない
 だが、ゼンマイを巻いた時に、隅々と調べたが何処にもスピーカーのような物は一切無かった
 と言う事は出てくる結論は一つ、『彼女が自らの口で喋った。』
 しかし、それはどう考えてもあり得ない、そんな事を考えながら彼女を観察していると

「僕の顔に何かついています…?」

 彼女が口を動かして喋る。
 間違いない、テープを流している等ではなく彼女は自らの意思で喋っている。
 色々考えるより、本人から話を聞くのが一番早いので
 俺は彼女に質問してみた

「いや、何もついてないんだけど…君は一体何者なの?」
「自己紹介が遅れてしまいましたね、僕はローゼンメイデン第4ドールの蒼星石です」

 ロ、ローゼ…?何の事だか全然分からない。
 ただ、自らドールと言っているので彼女が人形だという事だけ分かった。

「あ、あの…何から説明したら宜しいですか?」
「えっと…それじゃあローゼ…ン?って何?」
「ローゼンメイデンとは至高の少女『アリス』を目指して作られた7体のドールの事で…」  

 その後も延々と彼女の父親が至高の少女アリスを求めて居る事や
 契約する事で様々な力を得られる事、『アリスゲーム』についてなど色々聞いた

「もう質問は無いですか?」
「うん、もう大丈夫だよ」
「そうですか、じゃあこの薔薇の指輪に誓って頂けますか?」
「誓う…のはいいんだけど…どうやって…?」
「この薔薇の指輪に口付けして頂くだけで結構です」

 そう言って手を差し出す蒼星石

「じゃあ少し失礼して…」

 彼女の手をそっと包み込んで指輪にそっと口をつける俺
 すると、辺りが蒼い光に包まれる
 そして俺の薬指に何か熱い感覚が走る。
 すると、彼女の指にあったはずの指輪が俺の薬指に嵌っていた。

「はい、これであなたは僕のマスターです。これから宜しく御願いしますね。」
「こちらこそ、これから宜しくね。」


「マスター!マスター!ほら、早く出かけようよ!」
「ははは、焦るなって急がなくてもネズミーランドは逃げないから」

 あれから丁度一年の月日が経った、
 最初はただ無表情で俺の命令を聞くだけだった蒼星石が
 ここ数ヶ月になって様々な表情を見せる様になった
 彼女は変わった、最初に見た時とは印象が随分と違うように思える
 俺自信も、彼女に出会って少しずつ変化してると思う
 だから、彼女に出会えた去年のクリスマスは最高の一日だった
 そして、蒼星石にとって俺、俺にとっての彼女は最高のクリスマスプレゼントだろう…