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「卵とうにゅー 前篇」(2007/11/05 (月) 02:10:55) の最新版変更点
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秋が深まり、うすら寒い風が吹き始めるころ……ここは桜田家のリビング。昼食を終えたドールたちはくんくん
DVD『悪魔の双生児が棲む八つ墓村の首くくりの家 ~くんくん絶体絶命~ 第一巻』を鑑賞していた。
もちろんみんなで見るはずだったのだが……
真紅「きょ、今日は本を読みたい気分なの。残念だけどまたの機会にするわ」
翠星石「さ、さーてたまにはスコーンでも作りましょうかね。腕がなまっちゃいけませんしね」
タイトルを見たとたんに二人は態度を変え、目を泳がせながらそう言うとすたこら出て行ってしまった。
ジュンは図書館へ勉強しに行ってるし、のりは学校。一人になった雛苺は不満で頬をふくらませたが、庭に
いた金糸雀を捕まえて鑑賞を共にすることにした。923回の失敗を生かして侵入を成し遂げるつもりが
野良猫に襲われ、死闘を演じていたところを見つかったのだった。
雛苺「怖そうねーどきどきするのー」
金糸雀「ま、まあなかなかの演出ね。でもカナはこれくらいじゃ怖がらないのかしら」
雛「一人目死んじゃったの」
金「スプラッター……」
雛「今度は二人同時に……」
金「凄惨……かしら……」
雛「窓から仮面をつけた男が……」
金「ひぃぃ……」
互いにしがみつきながら見る二人。そしてラストシーンに差し掛かる。
雛「く、くんくんが!」
金「ああ!」
「「きゃぁぁ――!!」」
響き渡る絶叫とともに第一巻は終了した。それでも雛苺は楽しそうな笑みを浮かべて、余裕そうである。無邪気な
この娘は純真にスリルを楽しんだようだ。しかしもう一方は痙攣かと思うくらいに体を震わせている。眼には
こぼれそうなほど涙がたまっているが、表面張力がそれを何とか押しとどめている。
雛「かなりあ大丈夫?泣きそうなの」
金「こ、怖がってなんかいないわ。なかなかの作品だったけど、怖くなんて」
雛「でも震えてるの」
金「そそそそんなことないかしら」
雛苺は首をかしげていたが、金糸雀の否定に納得したのか、こう切り出した。
雛「じゃあ明日も一緒にみるのー」
金「ひ?お、同じのを見てもしょうがないかしら」
雛「これは巴から借りたやつだから明日返すの。その時に第二巻をかりるわ」
金「え、その、明日は…」
視線を落として口ごもる。雛苺はそれを見ていたずらっぽく笑った。
雛「やっぱり怖いのね」
金「な!何を言ってるのかしら!次女で策士たるこの金糸雀が……」
雛「かなりあ怖がりさんなの~」
金「ちがうー!」
……翌日、日曜日。太陽が中天を過ぎたころ……
雛「いってきまーす、なのー」
ジュン「どこか行くのか?昼飯食ったばっかなのに」
雛「巴にでーぶいでー返しに行くの。ねこさんと一緒だから大丈夫よ」
真紅「ね、猫ですって?」
猫という単語に目を白黒させる真紅をよそに、雛苺は元気よく家を出た。
その姿を見つめる影が一つ…
金「昨日はよくも馬鹿にしてくれたかしら雛苺!カナはぜったいぜったい怖くなんてなかったわ!
仕返しに、そして姉としての威厳を示すために、みっちゃんから借りたこのスケキヨのマスクで
たっぷりおどかしてやるかしら!」
決意を秘めた目でそう言った金糸雀は、雛苺のうしろに10メートルほどの距離をとり尾行の態勢をとっていた。
唐獅子模様の頬被りを鼻の下で結んだその姿はステレオタイプな泥棒にしか見えない。
金「猫に乗ってるわね……。一人になって、孤独感が不安をあおる時こそがチャンスなのに……
昨日に引き続いてまたカナの邪魔をするのかしらっ」
ターゲットは猫の上で揺られながら歌を歌い、ゆっくりと進んでいる。機を待つがごとく後ろを追いかけていると
「何やってるのぉ、金糸雀。変な格好……」
小さなハンターは驚きで肝をつぶし、飛び跳ねた勢いで塀に顔をぶつけてしまった。地面にうずくまり足を
バタバタさせる金糸雀の周りを、人工精霊が心配そうに飛び回る。
水銀燈「……大丈夫ぅ?」
金「モウマンタイかしら……、じゃなくって!急に脅かさないでほしいわ!」
銀「声をかけただけじゃなぁい」
羽を広げ、塀の上あたりを飛んでいた水銀燈は、呆れたようにそう言うと前の道に目をやった。
銀「雛苺と遊びたいのぉ?まあお似合いの組み合わせね。どっちもガキだしぃ」
金「違うかしら!これは姉の尊厳にかかわる問題よ!」
事情を説明する金糸雀。
金「というわけで、くんくんDVDを返しに行く今が好機かしら」
銀「く、くんくん……?」
今まで興味なさそうだった眼が一瞬で色を変えた。それはまさに狩人の目。
銀「てことはぁ、雛苺は今DVDを持っているわけねぇ……」
どうかしたのか、とでも言いたげな疑問の表情を向ける金糸雀。水銀燈はそれに不敵な笑みで答える。
銀「金糸雀、手伝ってあげてもいいわよ」
金「え!それは嬉しいけど……いったいどうしてかしら」
銀「姉の尊厳と聞けば黙ってられないわぁ」
もちろん黒衣の天使の目的は別、雛苺の混乱に乗じたDVD強奪である。薔薇乙女を凶行に駆り立てるほどの
魅力を持つ男、くんくん。彼はいったい何者なのだろう。
ここに長女と次女の共同戦線が結成された。
雛「ねこさんもういいわ。ここからはひとりで行けるの。ありがとうなのー」
何個目かのT字路で雛苺は猫と別れた。去りゆく猫にひとしきり手を振った後、スキップを踏んで再び歩き出す。
やっと一人になったターゲットに二人のハンターの目が光る。
銀「今こそ決行のとき!行くわよ」
金「おう!かしらー!」
マスクをかぶった金糸雀は飛んでいる水銀燈に両足をつかまれ、宙づり状態になる。そのまま雛苺に近づく二人。
銀「雛苺ぉ……」
雛「その声は水銀と……」
目の前には逆さのスケキヨのアップ。
金「母さん。僕です。スケキヨかしら」
雛「きゃぁぁぁぁぁ――!」
金「ぶはっ!ちょっ、痛っ!?」
雛苺は恐怖のあまりポシェットを振り回して攻撃する。思わぬ行動に慌てるスケキヨ。
銀「今よぉ!」
水銀燈は金糸雀を離すと、雛苺のポシェットに手を伸ばす。頭から落ちるスケカナ。
金「あだっ……何するのかしら!」
雛「水銀燈?それは駄目ー!」
銀「いいからよこしなさぁい!」
もみ合う三人。くんくんへの執念ゆえか、やっと水銀燈がDVDを手にする。
銀「もらっちゃったぁもらっちゃったぁ……あら?」
金「うう……」
雛「くすん……」
二人は悔しそうに目をうるませている。
銀「なによぉ、泣くことない……」
雛「雛のうにゅー……ポシェットに貯金しておいたのに……後で食べようと……」
金「卵焼き……みっちゃんがお弁当に作ってくれたのに……」
地面をみると、おそらくはさっきのもみ合いのせいだろう、つぶれた苺大福とひっくり返った弁当箱があった。
雛「水銀燈が変なことするから……」
金「水銀燈が急に落とすからかしら……」
銀「え、わ、私?」
雛「長女のくせに……水銀燈のせいで……真紅と翠星石に言いつけるの」
金「お姉さんなのに……水銀燈が……みっちゃんにちくってやるのかしら」
そこまで言うと我慢できなくなったのか、二人は大声で泣き出した。
銀「私のせいだって言うのぉ?子供ねぇ、食べ物くらいで……」
だがここで考える。真紅と翠星石、あの二人に言いつけられたら……
『妹を泣かせるなんて最低です!許さんです!デストロイしてやるです!』
『あなた、堕ちるところまで堕ちたわね。決着をつけさせてもらうわ…妹のために!』
自分のことを棚に上げて(特に緑)そんなことを言いかねない。ただでさえ悪い評判に追い打ちをかけるのは……。
それに金糸雀のマスター……会ったことはないけれど、聞くところによるとかなり偏執的に金糸雀に入れ込んでいるらしい。怒らせてはまずい。
銀「あ、そ、その、な、泣かないでぇ二人とも……」笑顔を作りながらもうろたえる長女。
銀「ほら雛苺、DVDは返すから……」
銀「か、金糸雀、落として悪かったわ。ほら泣きやんで……」
雛金「「うえぇーんえぇーん、水銀燈の馬鹿ぁーえーん」」
銀「うう、どうしよぉ……」なすすべもなくオロオロする。失った食べ物を食べさせればいいのかしら……
でもどこで……。思案する長女の頭にある家が浮かび上がった。
銀「ふ、二人とも!うにゅー?と卵焼き、食べさせてあげるからこっちにいらっしゃぁい?」
二人はしゃくりあげながら水銀燈についていくのだった……
『前篇』完
秋が深まり、うすら寒い風が吹き始めるころ……ここは桜田家のリビング。昼食を終えたドールたちはくんくん
DVD『悪魔の双生児が棲む八つ墓村の首くくりの家 ~くんくん絶体絶命~ 第一巻』を鑑賞していた。
もちろんみんなで見るはずだったのだが……
真紅「きょ、今日は本を読みたい気分なの。残念だけどまたの機会にするわ」
翠星石「さ、さーてたまにはスコーンでも作りましょうかね。腕がなまっちゃいけませんしね」
タイトルを見たとたんに二人は態度を変え、目を泳がせながらそう言うとすたこら出て行ってしまった。
ジュンは図書館へ勉強しに行ってるし、のりは学校。一人になった雛苺は不満で頬をふくらませたが、庭に
いた金糸雀を捕まえて鑑賞を共にすることにした。923回の失敗を生かして侵入を成し遂げるつもりが
野良猫に襲われ、死闘を演じていたところを見つかったのだった。
雛苺「怖そうねーどきどきするのー」
金糸雀「ま、まあなかなかの演出ね。でもカナはこれくらいじゃ怖がらないのかしら」
雛「一人目死んじゃったの」
金「スプラッター……」
雛「今度は二人同時に……」
金「凄惨……かしら……」
雛「窓から仮面をつけた男が……」
金「ひぃぃ……」
互いにしがみつきながら見る二人。そしてラストシーンに差し掛かる。
雛「く、くんくんが!」
金「ああ!」
「「きゃぁぁ――!!」」
響き渡る絶叫とともに第一巻は終了した。それでも雛苺は楽しそうな笑みを浮かべて、余裕そうである。無邪気な
この娘は純真にスリルを楽しんだようだ。しかしもう一方は痙攣かと思うくらいに体を震わせている。眼には
こぼれそうなほど涙がたまっているが、表面張力がそれを何とか押しとどめている。
雛「かなりあ大丈夫?泣きそうなの」
金「こ、怖がってなんかいないわ。なかなかの作品だったけど、怖くなんて」
雛「でも震えてるの」
金「そそそそんなことないかしら」
雛苺は首をかしげていたが、金糸雀の否定に納得したのか、こう切り出した。
雛「じゃあ明日も一緒にみるのー」
金「ひ?お、同じのを見てもしょうがないかしら」
雛「これは巴から借りたやつだから明日返すの。その時に第二巻をかりるわ」
金「え、その、明日は…」
視線を落として口ごもる。雛苺はそれを見ていたずらっぽく笑った。
雛「やっぱり怖いのね」
金「な!何を言ってるのかしら!次女で策士たるこの金糸雀が……」
雛「かなりあ怖がりさんなの~」
金「ちがうー!」
……翌日、日曜日。太陽が中天を過ぎたころ……
雛「いってきまーす、なのー」
ジュン「どこか行くのか?昼飯食ったばっかなのに」
雛「巴にでーぶいでー返しに行くの。ねこさんと一緒だから大丈夫よ」
真紅「ね、猫ですって?」
猫という単語に目を白黒させる真紅をよそに、雛苺は元気よく家を出た。
その姿を見つめる影が一つ…
金「昨日はよくも馬鹿にしてくれたかしら雛苺!カナはぜったいぜったい怖くなんてなかったわ!
仕返しに、そして姉としての威厳を示すために、みっちゃんから借りたこのスケキヨのマスクで
たっぷりおどかしてやるかしら!」
決意を秘めた目でそう言った金糸雀は、雛苺のうしろに10メートルほどの距離をとり尾行の態勢をとっていた。
唐獅子模様の頬被りを鼻の下で結んだその姿はステレオタイプな泥棒にしか見えない。
金「猫に乗ってるわね……。一人になって、孤独感が不安をあおる時こそがチャンスなのに……
昨日に引き続いてまたカナの邪魔をするのかしらっ」
ターゲットは猫の上で揺られながら歌を歌い、ゆっくりと進んでいる。機を待つがごとく後ろを追いかけていると
「何やってるのぉ、金糸雀。変な格好……」
小さなハンターは驚きで肝をつぶし、飛び跳ねた勢いで塀に顔をぶつけてしまった。地面にうずくまり足を
バタバタさせる金糸雀の周りを、人工精霊が心配そうに飛び回る。
水銀燈「……大丈夫ぅ?」
金「モウマンタイかしら……、じゃなくって!急に脅かさないでほしいわ!」
銀「声をかけただけじゃなぁい」
羽を広げ、塀の上あたりを飛んでいた水銀燈は、呆れたようにそう言うと前の道に目をやった。
銀「雛苺と遊びたいのぉ?まあお似合いの組み合わせね。どっちもガキだしぃ」
金「違うかしら!これは姉の尊厳にかかわる問題よ!」
事情を説明する金糸雀。
金「というわけで、くんくんDVDを返しに行く今が好機かしら」
銀「く、くんくん……?」
今まで興味なさそうだった眼が一瞬で色を変えた。それはまさに狩人の目。
銀「てことはぁ、雛苺は今DVDを持っているわけねぇ……」
どうかしたのか、とでも言いたげな疑問の表情を向ける金糸雀。水銀燈はそれに不敵な笑みで答える。
銀「金糸雀、手伝ってあげてもいいわよ」
金「え!それは嬉しいけど……いったいどうしてかしら」
銀「姉の尊厳と聞けば黙ってられないわぁ」
もちろん黒衣の天使の目的は別、雛苺の混乱に乗じたDVD強奪である。薔薇乙女を凶行に駆り立てるほどの
魅力を持つ男、くんくん。彼はいったい何者なのだろう。
ここに長女と次女の共同戦線が結成された。
雛「ねこさんもういいわ。ここからはひとりで行けるの。ありがとうなのー」
何個目かのT字路で雛苺は猫と別れた。去りゆく猫にひとしきり手を振った後、スキップを踏んで再び歩き出す。
やっと一人になったターゲットに二人のハンターの目が光る。
銀「今こそ決行のとき!行くわよ」
金「おう!かしらー!」
マスクをかぶった金糸雀は飛んでいる水銀燈に両足をつかまれ、宙づり状態になる。
そのまま雛苺に近づく二人。
銀「雛苺ぉ……」
雛「その声は水銀と……」
目の前には逆さのスケキヨのアップ。
金「母さん。僕です。スケキヨかしら」
雛「きゃぁぁぁぁぁ――!」
金「ぶはっ!ちょっ、痛っ!?」
雛苺は恐怖のあまりポシェットを振り回して攻撃する。思わぬ行動に慌てるスケキヨ。
銀「今よぉ!」
水銀燈は金糸雀を離すと、雛苺のポシェットに手を伸ばす。頭から落ちるスケカナ。
金「あだっ……何するのかしら!」
雛「水銀燈?それは駄目ー!」
銀「いいからよこしなさぁい!」
もみ合う三人。くんくんへの執念ゆえか、やっと水銀燈がDVDを手にする。
銀「もらっちゃったぁもらっちゃったぁ……あら?」
金「うう……」
雛「くすん……」
二人は悔しそうに目をうるませている。
銀「なによぉ、泣くことない……」
雛「雛のうにゅー……ポシェットに貯金しておいたのに……後で食べようと……」
金「卵焼き……みっちゃんがお弁当に作ってくれたのに……」
地面をみると、おそらくはさっきのもみ合いのせいだろう、つぶれた苺大福とひっくり返った弁当箱があった。
雛「水銀燈が変なことするから……」
金「水銀燈が急に落とすからかしら……」
銀「え、わ、私?」
雛「長女のくせに……水銀燈のせいで……真紅と翠星石に言いつけるの」
金「お姉さんなのに……水銀燈が……みっちゃんにちくってやるのかしら」
そこまで言うと我慢できなくなったのか、二人は大声で泣き出した。
銀「私のせいだって言うのぉ?子供ねぇ、食べ物くらいで……」
だがここで考える。真紅と翠星石、あの二人に言いつけられたら……
『妹を泣かせるなんて最低です!許さんです!デストロイしてやるです!』
『あなた、堕ちるところまで堕ちたわね。決着をつけさせてもらうわ…妹のために!』
自分のことを棚に上げて(特に緑)そんなことを言いかねない。
ただでさえ悪い評判に追い打ちをかけるのは……。
それに金糸雀のマスター……会ったことはないけれど、聞くところによるとかなり偏執的に金糸雀に入れ込んでいるらしい。怒らせてはまずい。
銀「あ、そ、その、な、泣かないでぇ二人とも……」笑顔を作りながらもうろたえる長女。
銀「ほら雛苺、DVDは返すから……」
銀「か、金糸雀、落として悪かったわ。ほら泣きやんで……」
雛金「「うえぇーんえぇーん、水銀燈の馬鹿ぁーえーん」」
銀「うう、どうしよぉ……」なすすべもなくオロオロする。失った食べ物を食べさせればいいのかしら……
でもどこで……。思案する長女の頭にある家が浮かび上がった。
銀「ふ、二人とも!うにゅー?と卵焼き、食べさせてあげるからこっちにいらっしゃぁい?」
二人はしゃくりあげながら水銀燈についていくのだった……
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