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双子のマスター:はじまり」(2007/09/23 (日) 22:09:44) の最新版変更点

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 翠「マスターはまだ寝てるんですか?」  蒼「そうみたいだね。まあ昨晩は遅くまで飲んで帰って来たみたいだし。」  翠「だからと言って寝かしっ放しはどうかと思いますがね。」  蒼「そうだね、生活のリズムが崩れちゃうし。」  翠「じゃあ二人で起こしに・・・ちょっと待ったです。」  蒼「どうしたの?」   ゆさゆさと大きな体が二人がかりで揺すぶられる。  マ「・・・ん・・・・・・」  翠「ほら、起きて下さいよ。」  蒼「ご飯できてるよ。」  マ「・・・はい。」   まだ覚醒していないようでのそのそと体を起こす。  マ「ん、おはよう・・・翠星石、と蒼星石も。」   寝ぼけ眼でぼんやりとしながらも、一人一人の顔を見て挨拶をする。 翠・蒼「・・・・・・。」  マ「どうしたの?」   帽子を被った方が口を開いた。  翠「へぇ、驚きました。」  マ「何に?」  翠「いえね、カッコを変えたら起き抜けだから引っかかるかなって・・・。」  マ「まさか、じゃあ着替えるからテーブルで待っててね。」   マスターが着替えて食卓に現れると、双子も普段通りの服装に戻っていた。  マ「しかしまあ、そんな事のためにわざわざ着替えたの?」  蒼「帽子と上着だけだけどね。」  翠「でもホントによく分かりましたよね。」  マ「だから二人を間違える訳ないでしょ。」  翠「ふふっ、あの時の事はお忘れですか?」  マ「あの時?」  翠「そう。翠星石と契約したときの事ですよ。」  マ「あっ!!・・・あの時はさ、正直想定外の存在だったし。」   マスターが気恥ずかしそうにマグカップに口をつける。  蒼「なんだか懐かしいね、それにあの時は結構大変だったよね。」  マ「嫌な事件だったね。」  翠「そうですね、あの日もフリーのローゼンメイデン翠星石はここへと向かっていました。」  蒼「えーと、巻いてくれたおばあさんが高齢で契約しなかったんだよね。」  翠「はい。体力的な不安があって契約はしませんでしたが、夢の庭師として心身のケアに努めていたのです。」  マ「そしてここにもちょくちょく顔を出してはあれこれちょっかいを出していただいたっけ。」  翠「う・・・それは言いっこ無しで。」  蒼「最初は犬猿の仲って感じでさ、本当どうなるかと思ったよ。」  マ「犬猿と言うよりもトムとジェリーとでも言うか・・・一方的だった気もする。」  翠「あはは、まあそれは水に流すとしましょう。さっきのとおあいこって事で。」  マ「そりゃあ、もう気にしちゃいないけどさ。」  翠「では・・・あの日・・・そう、その日もここへ来ていて、その時にあの一件が起きたんですよね。」  翠「ふふふ、今夜こそあの人間の魔の手から蒼星石を救い出してやるです!」   ―― どうするの?  翠「あいつの夢でいかに下劣で破廉恥な本性かを暴いて蒼星石に見せてやります。」   ―― へえ、面白そう。  翠「じゃあ早速、スィドリーム!!」   ―― でも、それは私にやらせてぇ。  翠「ええい、さっきからお前はだ・・・れっ!?」   翠星石の背後から黒い翼が伸びてきて羽交い絞めに捕らえる。  翠「お、お前は・・・」   なんとか首をひねる。   左後ろにかすかに顔が見えた。  銀「ちょうどいいところに来てくれたわねぇ。」  翠「す、水銀燈・・・ちょうどいいって・・・」  銀「蒼星石にお返ししてあげたかったんだけど、あなたのおかげでもーっと面白い趣向を凝らせようよぉ?」  翠「な・・・ふざけるなです!翠星石を利用して蒼星石に危害を加えさせは・・・ぐっ!」   翼の締め付けが強くなり翠星石の言葉が途切れた。  蒼「翠星石、マスターの夢の扉を開いていったい何を・・・!?」   急ぎやって来た蒼星石が眼前の光景に目を見張る。  銀「お久し振りねぇ。」  蒼「君は・・・翠星石を離せ!!」  銀「いいわよぉ。ただ、こういう場合って、持ちつ持たれつよねぇ?」  蒼「交換条件か、言ってみろ!」  銀「あなたのレンピカ貸してぇ?」  蒼「!?」  翠「だ、駄目です!!そんな事したら、丸腰じゃあ蒼星石もやられちまうです。」  銀「あんたは黙っててぇ。」  翠「あぐっ!!」   翼が蠢くと翠星石が短い悲鳴を上げた。  蒼「やめろ!」  銀「だったら早くしなさぁい。」  翠「蒼星石、やめろです!翠星石なら大丈夫です。    たとえ水銀燈に倒されたってそれはアリスゲームに参加している以上は覚悟の上です!    ですが、翠星石のローザミスティカは意地でも蒼星石に渡してやります!!それで水銀燈に勝って下さい。」  銀「あらあら、麗しい姉妹の愛ねぇ。でも安心してぇ、あなたは倒さないから。」  翠「・・・え?」  銀「両腕をもいで、そのまま放置してあげる。」 翠・蒼「なっ!?」  銀「ジャンクとして、庭師としての務めも果たせず醜く動き続けるの。    私は倒してあげなぁい。蒼星石が倒してくれればいいけど・・・あの子にできるかしら?」  蒼「やめろ!それだけは・・・やめてくれ。」  銀「これが最後よぉ、レンピカを貸して。サービスで両足もつけたら即決してくれる?」  蒼「・・・分かった。」   蒼星石の手から放たれた蒼い光球が水銀燈の方へと移動し、そのまま周囲を飛び回る。  銀「ふふっ、おりこうさぁん。」  翠「蒼星石、すみません。翠星石のせいで・・・」  蒼「君が無事ならそれでいい、それよりも・・・」  翠「そうです!水銀燈、お前はいったい何を企んで・・・!!」   少し拘束が緩み、正面から水銀燈を睨みつけた翠星石が息を呑む。  銀「何を?決まってるでしょう、蒼星石とそのマスターに受けた屈辱、ただ倒すだけじゃ晴れない。    苦しめて、追い詰めて、壊してあげてようやく晴れるのよぉ!!」   銀『おしまいね、寂しくない様にあなたの後ろのマスターさんも一緒に真っ二つにしてあげようかしら?』   蒼『くっ!』    剣と鋏の鍔迫り合い、蒼星石がじわじわと押し込まれている。    その後ろには蒼星石のマスターが横たわっていた。    既に戦いの中で消耗し、今も力を供給し続け余力も無いのだろう。    と、マスターの指輪の輝きが落ちた。   蒼『早く!それならなんとか動けるはず。だから早く逃げて!!僕だけの力じゃ、もうもたない!!』    剣が押し込まれる速度が増す。    マスターが鈍い動きではようやく身を起こした。   蒼『良かった・・・マスターだけでもどうか無事で・・・』    そしてついに剣が蒼星石に肉薄した。   蒼『えっ!?』    蒼星石が驚愕の声を挙げる。   蒼『マスター、何を?』   マ『蒼星石を置いて、逃げたくない。』    力なき両腕が、蒼星石の手に添えられた。   蒼『・・・今のマスターの力じゃ足しにはならないよ。だから早く逃げて。そうすれば僕も逃げられる。』   マ『嘘だ!まだ短い付き合いだけど・・・蒼星石は逃げるつもりは無い。     戦いの宿命に殉じ、そして・・・僕を逃がすための時間稼ぎをするつもりでいる。』   蒼『・・・・・・分かってるなら、逃げて。僕を・・・困らせないで・・・』   マ『嫌だ・・・短い付き合いだけど、蒼星石を裏切って自分だけ逃げたくない、蒼星石に倒れて欲しくない。     だったら、力及ばずとも最後まで相手のために全力を尽くしたい。・・・多分、蒼星石と同じ気持ちだ。』   蒼『マスター・・・』   銀『ふふっ、あなた達お得意の絆って奴ね。いいわぁ、だったらその絆ごと、私が断ち切ってあげる!!』   蒼『させるもんか・・・絶対にさせない!!』    その瞬間、薔薇の指輪が今までに無い輝きを放った。   銀『な、何よ、この力・・・』    ピシ・・・ピシ・・・と乾いた音が聞こえる。   蒼『今はまだ、ほんの弱い繋がりかもしれないけれど・・・』    水銀燈の手にした剣に、鋏の刃と接触した所から少しずつ細かいひびが入る。   蒼『きっと立派に育んでみせる!その芽を・・・君に・・・摘まれてたまるかぁぁぁ!!』    ざくっという音とともに、切断されて飛んだ剣の切っ先が地面に刺さった。   蒼『はぁ・・・はぁ・・・。』   銀『・・・・・・これは・・・。』    呆然と三人が佇む中、水銀燈が何かに気づきハッとする。   銀『よくも・・・この借り・・・絶対に返してあげる。後悔させて・・・絶望させてあげる・・・。     たとえこの場であんた達を縊り殺しても気は晴れない・・・もっと深い絶望を・・・あんた達にも!』    わなわなと怒りと絶望に身を震わせた水銀燈がそう宣告して去っていった。  銀「そしてついに、復讐を果たす時が来たのよぉ。」  翠「あ、あ・・・」  銀「さあ、あなたのスィドリームも借りるわよ。拒んだら、あそこに居る蒼星石がどうなるか・・・分かるわよね?」  翠「・・・分かりました。」   水銀燈の周囲を翠と蒼の二色の人工精霊が飛び回る。  銀「もうすぐ、もうすぐ・・・この恨みを晴らせる!!」   二色の光が、水銀燈の右頬に未だ深く刻まれた醜い傷を照らし上げた。  蒼「恨みがあるのは僕だけで翠星石は無関係のはずだ。彼女はもう解放してくれ。」  銀「だめよぉ。」  蒼「なぜだ!もう僕らには君に対抗する力は無い。だから、せめて翠星石は・・・」  銀「この翠星石はあなたにとってそれだけ大事な存在なのよねぇ?    だからこそ、小道具として最高な訳ぇ。まだまだ利用させてもらうわぁ。」  蒼「くっ・・・。」  銀「じゃあ始めましょう。さあ、スィドリーム、レンピカ、夢の扉を開きなさい!!」   その呼びかけに応え、マスターの夢へとつながる扉が開かれた。  蒼「何を・・・する気だ!」  翠「ま、まさか心の樹を・・・。」  銀「違うわぁ。それじゃあつまらない、もっと、もっと、心を痛めつけてジャンクにしてあげないと・・・。」   狂気の笑みを浮かべた水銀燈が夢の扉へと向かう。  蒼「待て!!」  銀「待て?それは違うわぁ。あなたも一緒に来なさい。そうじゃないと幕が上がらないの。」  蒼「・・・分かった。」   そして三人の姿が夢の扉の中へと消えた。  銀「見ぃつけたぁ。あれが夢の中のマスターさんね。」  翠「何をする気ですか!」  蒼「マスターに危害を加えるのは許さないぞ。」  銀「あらあら、防ぐ術も無いくせに勇敢ね。大丈夫よぉ、私が危害は加える事はないわ。」  蒼「本当か?」  銀「ええ。」  翠「そんなの信じられません!夢の庭師としてお前にそんな事させは・・・」  銀「忘れたのぉ?今の私はあなた達を夢の中に閉じ込める事も出来るのよ?    無駄な抵抗をしたら、あなただけじゃなく蒼星石達にも累が及ぶのよ。」  翠「くっ・・・。すみません蒼星石、翠星石が軽率だったから・・・。」  蒼「今はそんな事を言っている時じゃない、悔しいけれど彼女に従おう。」  銀「姉と違って聞き分けのいい子ね、でも気が変わって邪魔されたら困るわね。    スィドリーム、庭師の如雨露をよこしなさい。」   水銀燈の手の周りをスィドリームが舞う。   すると翠の光の軌跡から庭師の如雨露が現れた。  銀「さあ、あなたはそこで一部始終を見物してなさい。」   そう言って庭師の如雨露が振るわれ、伸びた植物が蒼星石の全身を捕らえる。  銀「これであなたは私が能力を解くまで傍観するしか出来ない・・・ふふっ。」  翠「やい!何をする気か知りませんが、蒼星石に手荒な事はするなです!!」  銀「本当、あなたって聞き分けが無いのね。」  翠「ぐぶっ!」   水銀燈の膝が翠星石の腹に突き刺さり、翠星石の目が見開かれ、そして力無く閉じた。  蒼「やめろ!!」  銀「安心しなさい、手加減してあるわぁ。まだ倒れられちゃ困るから。    それにこの子のおかげであなた達により深い絶望を与えられるんだもの、感謝しなきゃ。」  マ「・・・ここは・・・どこだろう。」   周りを見回すが、もやに囲まれたようで何から何まではっきりしない。   遠くも見渡せなければ、遠くの音も聞き取れない。   とにかく曖昧とした、そんな中でぽつんと立っていた。   「マスター。」   そんな中、声と共に一人のドールが姿を現した。  マ「蒼星石?ここは一体どこなの?」   「ここはマスターの夢の中、マスターの望みが何でも叶う世界。」  マ「なんでも・・・それにしてもえらく殺風景だけど・・・。」   「そして・・・僕が何でも望みを叶えてあげられる世界。」  マ「どういう事?」   それには答えず、代わりとばかりにマスターに抱きつく。  マ「な、何?」   「ずっと一緒に居よう?僕はあなたが望む存在でありたい。」  マ「望む存在って、今のままでも・・・」   「本当?ドールだから出来ない事もいろいろとあるんじゃないの?」  マ「それは・・・」   「あるでしょ?マスターの心からの望み、せめて夢の中でだけでもそれを叶えてあげたい。」  マ「無くは・・・でも・・・」   「遠慮しないで、それが僕の望みでもあるから・・・」    そこまで言って体を離すと、すたすたと歩き出す。   「・・・ただ、それには一つだけ障害があるんだ・・・。」  マ「障害?」   「そう、障害。僕とあなたの間に立ち塞がる・・・彼女の存在。」   そう言った彼女の隣でどさりと何かが倒れる。  マ「・・・翠星石!」   もやの中から現れたそれは猿轡を咬まされ、手足を拘束された翠星石だった。   ご丁寧にも足の拘束は地に繋がれて逃げられないようになっている。   「彼女、困っちゃうよね。いつもいつもやって来ては突っかかってきて。    マスターもほとほと嫌気が差してるんでしょ?」  マ「え、いや、そんな・・・。」   「だからさ、翠星石にはご退場願う事にしたんだ。    二度とマスターとの間に邪魔に入らないように。」  マ「でも、双子の・・・ずっと一緒で仲良く過ごした・・・」   「そう、だから流石に止めまでは刺せなかった。    アリスゲームでいつかは倒さないといけないと頭では分かっていてもね。」  マ「じゃあ今すぐ翠星石を・・・」   「そうだね、今すぐに・・・レンピカ!」   カラン、と二人の間の地面に庭師の鋏が現れた。  マ「ま、まさか本気で!」   「さあ、それを手に取って。そして・・・翠星石の首を刎ねて。」   さっきまでよりもいささか緊張した面持ちでそう告げた。  マ「なっ!?」   「その状態ならマスターでも簡単に出来る、さあお願い。」  マ「・・・本気で言ってるの?」   「本気だよ。彼女さえ居なくなれば、マスターとの間に障害は無い。    気にしないでくれていい、翠星石よりもあなたの方が大事ってだけなんだから。」  マ「翠星石を・・・この手で?」   「さあ、お願い・・・。」   煮え切らない態度のマスターの後ろに回り込み一歩踏み出させる。、   「ほら、鋏を手に取って。」   促されるまま、しゃがみ込んで鋏を手にしてしまう。  マ「でも・・・でも・・・」   「さあ早く。あなたがいいんだ、信頼を寄せるあなただからこそ。」   しゃがみんだところに背後から腕を絡める。   耳元で囁くと髪がふわりとゆれ、マスターの鼻腔をくすぐった。  翠「・・・!?んーっ!んぐーーっ!!」   その時、翠星石が目を覚ました。   必死になって何事かをわめくが猿轡のせいで言葉にならない。   「ほら、彼女もあんなに怯えちゃってる。可哀想だから早く楽にしてあげて。」   マスターに絡めた手が、心の隙間に付け込むように胸元で妖しく蠢く。  翠「んーーっ!!んっ、んーー!!」   マスターの背後で残忍な笑みを浮かべる双子の妹の姿を見て翠星石の目が恐怖に見開かれた。  マ「分かった・・・。」   「ありがとう、じゃあお願い・・・。」  マ「それじゃあちょっと離れてもらえる?」   「うん。」   答えて二、三歩間合いを取る。   マスターがゆっくりと鋏を振り上げた。  翠(駄目です!やめるです!水銀燈に騙されたら、蒼星石も、お前も傷つく事に・・・水銀燈の思惑通りに!!)   マスターが、庭師の鋏を振り向きながら背後に振るった。   「きゃぁっ!!」  翠「!?」   大きく跳び退ったソレが正体を現す。  マ「・・・水銀燈だったのか!」  銀「あ・・・あぁ・・・。」   水銀燈が膝をついてがくがくと震えている間に翠星石のいましめを解く。  翠「はぁはぁ・・・そっくりに化けてやがったのによく分かりましたね。」  マ「ふふん、似てる部分に目が行くのは所詮は素人さんさ。」  翠「はあ?」  マ「僕くらいの愛情があれば、むしろどれだけ似てようとも違う部分が気になってしまうのさ。    表情、喋り方、肌触り、香り・・・その他微妙なところも全て。愛の力だ!!」  翠「・・・馬鹿な事を言ってないで早く手足の方も解いてくれです。」  マ「それがさ、結構固くって。」   悪戦苦闘しているそばで、水銀燈がゆっくりと立ち上がった。  翠「げっ、水銀燈が気を取り直しましたよ!」  銀「よくも・・・醜態を晒させてくれたわね。もう小細工は要らないわ。    二人とも仲良くくたばりなさい!!」   怒りに震える水銀燈が無数の羽根を飛ばして来た。  翠「あ、足がまだ・・・お前は早く・・・」  マ「間に合わない!!」  翠「ひゃっ!?」   マスターが翠星石の上に覆いかぶさった。  翠「馬鹿!そんな事したらお前が・・・」   しかし羽根が一向に飛んで来る気配は無い。  マ「・・・?あ・・・!」   振り向くとそこには庭師の鋏を手にした蒼星石が立っていた。  銀「あんた・・・なんでここに・・・。」  蒼「君がうろたえて能力が解除されたおかげでね。そうそう、人工精霊も返してもらったよ。」   蒼星石の周りを翠蒼の光球が舞っていた。  銀「ふん!そいつらは用済みよ。もう面倒な事はせずに真っ向から潰してあげるわ!!」  蒼「マスターはここから逃げて!!」  マ「え、でも・・・。」  翠「お前が居たところで役には立ちません!お邪魔ですし、それに・・・蒼星石が苦しむだけです。」  マ「・・・分かった、二人ともどうか無事で。」   マスターが大急ぎで距離を取る。  銀「まずはあんた達からよ!全員仲良くジャンクにしてあげるわぁ!!」   水銀燈の右の翼が竜と化して襲い掛かる。  蒼「そうはいくか!!」   蒼星石の鋏が翼を斬り裂いた。  銀「あらぁ、忘れたの?翼は左右一対で二つあるのよ。」   鋏を振るった後の隙に、わずかに遅れて反対側から口を開いた竜が迫ってくる。  蒼「君こそ忘れたのかい?僕は一人じゃない!既に手足のいましめは斬っておいたよ。」   蒼星石に接近した竜が地面から伸びた植物に顎を突き上げられた。   蒼星石はそれを斬り捨てつつ水銀燈へ一気に迫る。  銀「くっ!」   蒼星石の繰り出す一撃を受け止めるために水銀燈の手に剣が握られ、しかしすぐに消えた。  蒼「・・・受けずに逃げたか、好戦的な君にしては意外だね。」  銀「はぁ・・・はぁ・・・。そんな・・・私が・・・許さない、絶対に・・・。」  蒼「・・・・・・。」  銀「私は・・・不完全であってはいけないのよ!!」  蒼「何やらだいぶ参っているようだけど、続ける気かい?」   蒼星石が庭師の鋏を突きつけると水銀燈がたじろぐ様に一歩引いた。  銀「この次は・・・こうはいかないわ。」   離れたところで荒い息をしていた水銀燈は夢の扉へと消えて行った。  翠「なんだかやけにあっさりと退きましたね。まさかどこかで待ち伏せしてるとか・・・。」  蒼「いや、多分それは無いと思う。・・・おそらくは・・・トラウマってやつだろうね。」  マ「二人とも無事だった!?」  蒼「あ、マスター!おかげさまで。マスターの方は?」  マ「無事だよ。蒼星石が助けてくれたし。」  翠「本当に、蒼星石が居なかったらお前は水銀燈にやられてましたよ。    さっさと逃げてれば足を引っ張らないのにわざわざ残ろうとするし。」  マ「うぅ・・・そりゃあ戦力にはならないかもしれないけど・・・。」  蒼「翠星石、そんな言い方は無いだろ!」  翠「本当に無力で困りますよ。でも・・・そのくせに翠星石を守ろうとしてくれたんですよね。」  マ「え、まあ咄嗟だったし。」  翠「・・・・・・ぁ、ありがとぅ・・・です。」  マ「・・・えっ!?あ、どういたしまして。」  翠「さて、それじゃあ翠星石達は帰りますか。」  蒼「そうだね。・・・それじゃあマスター、よい夢を見て下さい。」  マ「・・・ん?・・・・・・ぐぅ・・・」  翠「ふふっ、ゆっくりと休みやがれです。」  蒼「マスター、気持ち良さそうに寝てるね。」  翠「そうですね。」  蒼「それにしても驚いたよ、まさか翠星石がマスターにお礼を言うなんてね。」  翠「まあ不本意ですが感謝すべきなのは確かですしね。    翠星石はその辺を弁えた、しっかりとした大人なんですよ。」  蒼「あはは、偉いね。」  翠「ですが、蒼星石は良いマスターに巡り会えたのかもしれませんね。    翠星石も、そういった人間にこの指輪を託せるでしょうか。    そうやって・・・蒼星石とは別の、己の道を歩み出せるのでしょうかね。」   翠星石が自分の左手の指輪を見つめる。  蒼「翠星石・・・でもさ、別の道を歩んでいてもお別れじゃない。また道も交わるさ。」  翠「・・・そうですね、無理してバラバラになる必要もありませんものね。」  蒼「さて、そろそろ朝ごはんの用意でもするかな。翠星石もせっかくだし食べて・・・何してんの?」   蒼星石が振り向くと、翠星石は寝ているマスターの胸の上にまたがっていた。  翠「ん?いえね、もう翠星石も帰りますし、最後に挨拶しておこうかと。」  蒼「気持ちはありがたいけど寝かせておいてあげて。また消耗しているはずだし。」  翠「大丈夫です、むしろ起きられちゃ困るんですよ。」  蒼「あっ!」   振り向いた翠星石の右手にはマジックが握られていた。  翠「ひっひっひ、後で鏡を見てメッセージを受け取れです。」  蒼「こら!それって油性で極太のじゃないか。」  マ「・・・・・・んん?」   二人で騒いだためかマスターが目を覚ましたようだ。   眠そうな表情でむっくりと上体を起こす。  マ「んーーー?」  翠「あ、いや、これは・・・。」   翠星石がしどろもどろになりながらも小声で弁解しようとしているといきなりマスターが抱きついた。  マ「蒼星石ーー!!」  翠「ひぇっ!?」  蒼「なぁっ!?」  マ「こんな風に起こしてくれるなんて初めてだね!うーん、ふかふかだー!いいにおいだー!!」  翠「な、なな・・・。」   突然の出来事に翠星石も硬直している。  マ「なんかさー、怖い夢見ちゃったみたいなんだ。ついでにちゅっちゅって慰めてよ。    あれ・・・なんだか覚えのある感触とにおいの気はするがこれは蒼星石とはちが・・・」  翠「おーまーえーとーいーうーやーつーはー!!」  マ「おろ?・・・げえっ!翠星石!?」  翠「この破廉恥人間が・・・隙あらば蒼星石にこんな事をしようと・・・。」  マ「ごめんなさい!誤解です!冗談だったから!!蒼星石にもこんな事した事は無かったから!!」  翠「このケダモノぉ!!」  マ「ぐへぁ!!」   翠星石の左ストレートが炸裂した。   と、その瞬間、一同の視界を翠の光が支配する。  マ「な、何?」  蒼「翠星石、今のはもしかして・・・。」  翠「・・・契約・・・しちまったです・・・。」  マ「はぁ!?」  翠「し、仕方ねぇです!これから厄介になるですっ!!」  マ「はぁ・・・。」  翠「なーんて事があったんですよね。」  マ「・・・思い返してみるとものすごくしょうも無い話だなあ。」  翠「縁なんてそんなものですよ。」  マ「縁ね、翠星石を巻いたっていうおばあさんに事情を説明に行ったら実の祖母だったしさ。    あの時は心底たまげましたよ。」  蒼「案外世の中って狭いよね。」  マ「いくらなんでも狭すぎでしょ。」  翠「それも縁ですよ。それに人格的な影響も受けやすいでしょうしね。波長も似るってもんです。」  マ「まあ翠星石のおかげでちょっとした時間に会いに行けるようになった訳だけどさ。」  蒼「でもその後しばらくは大変だったよね。」  マ「そうそう、蒼星石と居るとあんなケダモノと二人っきりにさせると危ない!    一人で居る時も何か企んでそうだから自分が見張る!    ・・・そんな風に四六時中つきまとわれてさ。」  翠「そ、それは!その・・・。」  蒼「マスターの事を知って、自分の事を知ってもらって距離を縮めようとしてたんだよね。    それなりに面識はあったとはいえ、人見知りの翠星石があんな風にするなんて驚いたよ。」  マ「今なら分かるけどね。当時はまだ苦手意識が強かったから戸惑ったよ。」  蒼「そうそう、なんだかしばらくはマスターがくたびれてたのを覚えてるよ。」  翠「ううっ、そういう蒼星石だって。」  蒼「僕?僕がどうかしたの?」  翠「翠星石が来てからはなんだか不機嫌そうでしたよ。」  蒼「そうだった?」  マ「うーん、なんかしばらく余所余所しかった様な・・・口調とか。」  蒼「あ、そういえば・・・そうだったかも。」  翠「蒼星石は淡白なようで嫉妬深いところがありますからね。」  マ「なのに翠星石に対してはいつも通りに見えたので、    寝惚けて翠星石にしたことが原因で嫌われたのかともうハラハラしてました。」  蒼「それは違うよ。翠星石の目があるから恥ずかしいのと、翠星石が早く打ち解けるようにってのはあったけど。    むしろ、僕より先に翠星石にあんな事したのがくやし・・・なんでもない・・・。」  翠「何はともあれ、今この時が良ければノープロブレムですよ。」  マ「まあね。」  蒼「そうだね、僕も翠星石もマスターからいろいろなものをもらえた。    今こうしていられる事がどんなに幸せか・・・。夢の庭師なんて言いながらお返しも出来ないけれど。」  マ「いやいや、こちらこそだよ。庭師の能力とか関係無しに二人が僕の心を豊かにしてくれた。    そのおかげで人間としていろいろと成長できたと思う。本当にありがとう。」  翠「どういたしまして、と言うかそれこそこちらこそですよ。」  蒼「うん。マスターが僕達に伝えてくれた事、ずっと大事にするからね。」  翠「はい、とてもすばらしいものを伝えてもらいましたからね。」  マ「そっか、本当に・・・ありがとう。」   三人が互いの心に伝えたものの恩恵を噛み締めながら、幸せなひと時を過ごすのだった。   確かに人の心に何かを伝えるというのはすばらしい事・・・。   だが時として『残滓』が残る・・・『恨み』という残滓が・・・。  銀「今度こそ・・・今度こそあいつらに地獄を・・・」   「・・・・・・」  銀「ふふっ、力を借りるわよ。私と一緒にあいつらをぶちのめすのぉ。」   「私の・・・力・・・」  銀「くくっ、あーっはっはっはぁ!」   水銀燈はただただ哄笑を上げ続けているだけだった。   三人はそんな事を知る由も無く、幸せなひと時に浸っていた。

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