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真夏のキッチン」(2007/09/03 (月) 18:58:07) の最新版変更点

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真夏のキッチン ある休日のお話 今日は休みだったので、昼食を食べたのち蒼星石に留守番を頼んで買い物へ行くことにした。 夕飯の材料の買い物も請け負い、夕方までには帰ると一言付け加え家を出た。 まず自分の目的であった趣味の雑誌を手に取り、続けて書店で料理の本を探す。 最近熱心に料理番組を見ているようで、どうやら新しい料理に挑戦してみたいらしい。 何か手伝えることはないかと聞いたが、マスターの心遣いだけでも有り難いです、と笑顔で言った。 健気な娘よの、と一人呟きながらわかりやすそうで種類も豊富な物を選び、まとめてレジに向かう。 ぶあつめの本だったのでちょっぴり財布に痛手を被ったのはここだけの内緒だ。 早めに家に帰ると蒼星石がさっきまで見ていたという料理番組の話をする。 いつもながらいろいろ考えているうちにレシピが追いつかなくなってしまったという。 そこで、ほら、と先ほど買った本を蒼星石に手渡す。 受け取った瞬間、ズシリとした感触に一瞬顔が強張ったがみるみるうちに笑顔に変わってゆく。 蒼星石による感謝感激の雨あられ、こっぱずかしくなった俺はぶっきらぼうに夕飯の材料を渡した。 そのまま彼女は台所へすっ飛んで行き、今日は張り切るから、とかなんとか言いながら夕飯の支度にとりかかった。 いくらなんでも早いんじゃないかと思いつつ、蒼星石の可愛い一面が見られて一人顔を綻ばせながら自分の部屋へ向かい荷物を片付ける。 居間へ戻り、蒼星石に時間の早さを指摘すると、仕込から徹底的に愛情をこめて作ってくれるそうな。 なるほど、いつもと買う材料が違うというのはこういうことだったのか。 プレゼント関係なしに今日は料理に力を入れるつもりだったのだろう。やはり俺は幸せ者だった。 再び部屋へ帰り、雑誌に手を伸ばす。と、同時に聞こえてきた悲鳴。 慌てて飛び起き、雑誌を放り投げ蒼星石のいる台所へ向かう。 腰が抜けたまま必死で逃げたのか、台所から少し離れた場所でへたり込んでいる蒼星石。 俺の姿を確認し、よちよちとこちらへすがりついてきた。 そしてその蒼星石の背後に見える黒い影。 でかい。 これはやばい。 でかい。 まじでやばい、5cmはある。 それは他でもない夏の悪魔であった。そして何を隠そう俺もこの昆虫が苦手でいた。 二人して恐慌状態に陥りながら武器になるものを探す。いや、鋏はやめてくれ。 八月に入る前に凍殺ジェットを買ったことを思い出し、すぐに取りに行こうと――。 こける。 蒼星石がジーンズの裾を掴んで離さない。訳を話しても離さない。 どうやら動けないから置いて行かないでほしいらしい。しょうがないから血の出る右の鼻孔を抑えつつ蒼星石を片腕で担ぐ。やはり女の子、軽い。 居間に蒼星石を下ろし、凍殺ジェットを探す。戸棚の横にそれを見つけ、素早く手に取り台所へ向かう。 いない。 やられた、完璧に見失った。どうやら奴も馬鹿ではないようだ。 と、足に何かが這い登る。 危険危険危険危険危険危険危険危険危険危険。 全身を激しく動かし、まるでへたくそなダンスを踊るようにしながら凍殺ジェットを乱射する。 時を忘れて暴れていると、気づけば蒼星石が必死に俺を止めてきた。 我に帰って周りを見渡せば、見事に命中したらしい奴の死骸と、燃え盛る火炎。 しまった。やってしまった。ここは台所だった。 蒼星石は急いで翠星石を呼びに行き、俺は消火活動に徹する。 慌てて駆け付けた翠星石、帰ってきた蒼星石がともに消火に回り、火はたちどころに消えていった。 俺は翠星石にこっぴどく叱られ、蒼星石は安心感やら疲れやら恐怖やらで泣き出し、さんざんたるものだった。 結果夕飯はいつもより質素になり、気まずい空気を味わうこととなった。 翌日、ふと気になった俺は蒼星石になぜゴキブリを恐れるのか聞いてみた。 蒼星石ならやすやすと退治しそうなイメージがあったのだが。 すると蒼星石は暗い顔をしたが最後まで話してくれた。 翠星石から聞いたということ。ほかのドール、真紅や雛苺、金糸雀も同じように言ったということ。 ミーディアムたち、JUMやのり、みっちゃんも口を揃えてこう言ったらしい。 ゴキブリは人間、ドール問わずに食い尽くし、疫病を撒き散らかす最凶の生物であるということ、だった。 俺は遂に笑いを堪えられなくなり、近所の迷惑も考えずに爆笑を轟かせた。 蒼星石は怒り、俺自身も恐怖でパニックに陥っていたことを指摘し、さらに一家全焼の危機にまで瀕したものが笑うなと正座をさせられた。 その日の夕飯は前日のそれよりさらに貧相なものとなったのは、説教に3時間かけた蒼星石と俺ともどもに足を痺れさせたからであった。 そして凍殺ジェットが回収処置を行ったのはこれより数日後の話である。 おしまい

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