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「富士山」(2007/07/06 (金) 00:14:41) の最新版変更点
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7月になったばかりの初夏。
オレと蒼星石は、テレビのニュースを眺めながらお茶をすすっていた。
すると、ニュースで富士山の山開きが報道されていた。
マ「おぉ、今年も富士山の山開きの時期になったか。」
蒼「ふじさん・・・?」
マ「そっか、蒼星石にとって、日本人のマスターはオレが最初だったんだな。」
蒼「昔、倭とかジパングとか聞いた事はありましたが・・・」
マ「それが普通の反応だ。富士山ってのは、日本を代表する山さ。」
蒼「僕は日本に関しては、よく分からないんですよ。」
マ「ま、それもしゃあないさ・・・」
と話していると、遠方から富士山の山頂を映している、ニュースではおなじみの風景が流れた。
が、蒼星石は、その風景に興味津々のようだった。
蒼「うわぁ・・・こんな美しいシルエットを映し出すなんて・・・山頂の積雪がかえって風情を出してるんだぁ・・・」
蒼星石の瞳が輝いている。
そう、この輝く瞳にオレはノックアウトされたんだよな・・・
マ「蒼星石。」
蒼「はい?」
マ「富士山・・・登ってみるか?」
蒼「え!?」
マ「あのな蒼星石、日本では(一富士二鷹三茄子)って言われる程、富士山は縁起の良い象徴なんだ。」
蒼「そうなんですか。」
マ「そして富士山は、日本一の標高を誇る山だ。そこから見る日の出は絶景だろうぜ。」
蒼星石の瞳の輝きが一段と増した。
普段はクールを装ってても、やっぱり根本は女の子なんだな。
マ「とは言え、まがりなりにも3000mを越す高山だ。事前計画はしっかりとせんとあかんから、実際登るのはちぃとばかり後になるやろな。」
蒼「是非、その日の出を見てみたいです!マスター!!」
マ「ぐぇ・・・わーったわーった!何とかすっから首を絞めんな!!死ぬ!!!死ぬ!!!!」
蒼「あ・・・ごめんなさい。僕とした事が、はしゃいでしまって・・・」
いや、蒼星石に悪気が無いのは分かるのだが・・・
はしゃいで抱きついた時にチョークスリーパーになるのは勘弁して欲しいモノである。
さて、最近では富士山の登山に関する情報はネット上にごまんと氾濫しているから、調べるのにそう苦労はしないだろう。だが、流石に蒼星石のような人形が高山に行った時の情報なんか、そうそうある筈も無い。
マ「蒼星石。薔薇乙女達は、高所の気圧の薄い場所に耐えれるのか?」
蒼「どうでしょうね・・・ただ、翠星石の昔のマスターは、翠星石を連れてエベレストに登山した事があるらしいですよ。」
マ「なら、とりあえず高所に耐えうる事は出来るんだな。」
蒼「だと思います。」
しかし一つ問題があった。
マ「流石に山中とは言え、蒼星石が大手を振って外を歩く訳にもいかないだろ・・・」
蒼「ですよね―」
マ「とは言え、鞄を持って登山ってのも逆に怪しいよな・・・あ!そうだ!!!」
するとマスターは、登山時の装備を装った。
蒼「何か名案でもあったのですか?」
マ「おうよ、名案中の名案だ。」
そう言うと、僕を抱え上げ、懐に放り込むマスター
いきなり放り込まれてビックリした。
けど、ジャケットの内側のポケットが足場代わりになって、ちょうど首より上がジャケットから出る形になっていた。
マ「これなら、周りからはオレが人形ヲタに見られるだけで、他には怪しまれんだろ。」
蒼「・・・」
マ「ん?不満か?」
蒼「・・・いえ、これで行きましょう。」
蒼「(正直嬉しいです。マスターの温もりを、こんな近くで感じれるなんて・・・しかも自分の悪評を気にせず、僕の事を考えてくれてるのが・・・)」
2007/07/27(Fri) 21:30
オレと蒼星石は、富士宮口の5合目に居た。
マ「予定では、AM3:00頃には山頂に着ける筈だ。」
蒼「日の出がAM5:00前でしたよね。」
マ「んだ。ただネット上の情報とオレの体力を同一視なんざ出来んからな。ちょい余裕持たせてみた。」
蒼「でも、夏場にこんな重装備が必要なんですか?正直、懐に入ってる僕も暑いのですが・・・」
マ「そう言ってられんのも今の内だぜ蒼星石。翠星石もおそらくそうやって鷹括ってたんだろうがな―」
翠「くしゅん!」
真「あら翠星石、風邪かしら?」
翠「おそらく翠星石の噂をしてる奴が居るのですぅ!」
雛「きっと蒼星石のマスターが噂してるの~」
蒼星石とそのマスターが、今まさに日本の最高峰に登ろうとしてる事など知る由も無く、桜田家の夜は過ぎて行った。
2007/07/27(Fri)23:45
オレ達は8合目に到達しようとして居た。
この辺になると、蒼星石も重装備の意味を理解し始めたようだ。
蒼「結構寒いですね。」
マ「だから言わんこっちゃない。いくら夏場とは言え、高所の気温は地表の冬並みに低い。」
蒼「それでこんな重装備なんですね。」
マ「んだ。(・・・まさか蒼星石とくっついて居たいなんて裏事情、話せる訳も無いよな)」
蒼「(・・・でもそのおかげで、こうやってマスターとくっついて居られるんですね・・・幸せです)」
2007/07/28(Sat)02:40
8合目以降は、砂礫の多い道になり、登るのもまた一苦労だ。
オレ達は、9合5勺の山小屋に何とか辿りついた。
マ「ふぅ・・・」
オレは、周囲に人が居ない事を確認して蒼星石に話しかけようとした。
しかし・・・
蒼星石はオレの懐で眠っていた。
ドールとは言え、中身は普通にボーイッシュな女の子。
しかもこんな環境だ。疲れ切って寝てしまうのも無理はない。
2007/07/28(Sat)03:35
オレは蒼星石を起こさないように、慎重に登山を進めた。
本来の予定なら、既に山頂に居るだろうが、やはり蒼星石の事を思うと慎重にならざるを得ない。
2007/07/28(Sat)04:10
予定より1時間遅れではあるが、何とか山頂に到達。
既に地平線の彼方から、日が差す兆候が見られた。
マ「蒼星石、起きろ。」
蒼「ふにゃ・・・マスター・・・大好き・・・」
マ「どんな夢見てんだ・・・おい蒼星石、起きろ!」
蒼「・・・はっ」
マ「ほら見ろ、これが日本最高峰から見る日の出だ。」
半眠の蒼星石が見たのは、普段は見上げてる雲が目線より下にもうもうと敷き詰められ、そこから太陽が上がってくる風景だった。
日本人が「御来光」としあやかる光景が今、オレと蒼星石の前に広がっている。
周りには誰も居ない。オレと蒼星石は、今日本で最も高い所に居るんだ・・・
蒼「・・・」
蒼星石は、ただひたすら、その光景に見入っていた。
マ「(全く・・・オレもお人よしだな。もう二度と登るまいと思ってた富士山に、蒼星石の為にまた登るなんて・・・)」
蒼「マスター・・・本当は登りたくなかったのを、僕の為に・・・」
マ「な・・・何を言うよ―」
蒼「一度マスターの心を覗いたんです。そうしたら本心を見てしまって・・・」
マ「・・・」
蒼「でもマスターは、僕の為にその本心に逆らって・・・」
マ「それ以上言うな、蒼星石。」
そう言うと、僕の口を塞いだ。
マ「確かに二度と登るまいと思っていた。それは本心だ。だがな・・・」
一呼吸置いて、マスターが言葉を発した。
マ「蒼星石が望むなら、その本心を殺す事も出来る・・・これもまた、本心だ。」
蒼「マスター・・・」
マ「ま、辛気臭い話は後だ。今はこの御来光をその目と心に焼き付けておこうぜ。」
蒼「相変わらず、切り替わりが早いですね。」
マ「ほっとけ。」
蒼「楽天的で、難しい事は考えず、でもお人好し・・・マスターはそんな人ですからね。」
マ「おいおい・・・褒めてんのか貶してんのか、分からんぞ―」
蒼「両方ですよ。」
マ「両方か―っはっはっは、違い無ぇや。」
僕とマスターは、山頂での日の出を眺めながら大笑いしていた。
-おまけ-
2日後・・・
マ「い・・・痛ててて・・・」
蒼「大丈夫ですか?」
マ「あんま大丈夫じゃねぇ・・・」
蒼「全く・・・山頂であんなにカッコ良く決めた人の姿とは思えませんよ・・・」
そこには、筋肉痛で唸りまくるマスターの姿があった。
マ「っるせぇ・・・くっそ、日頃の不摂生がモロに出たわ・・・」
蒼「これを期に、少しは日常生活見直しましょうよ。」
マ「それが出来りゃ、苦労はs・・・痛ってぇぇぇぇ!!!」
蒼「はぁ・・・」