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「スノーレジャー その1」(2007/03/13 (火) 20:11:19) の最新版変更点
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ガタン…ゴトン…
早朝。ここは列車の中。
いつだったか蒼星石のマスターが買ってきた地味な服を着込んだドール五体と、
それぞれ私服に身を包んだミーディアム達が各自、めいめいに車両座席に座っている。
マ:「くかーくかーくかー……」
翠:「無防備な姿晒して眠りこけてますねぇ」
蒼:「マスター、この日のために無理やりお仕事終わらせてきたんだって。
徹夜続きだったから、疲れてるのも無理ないよ」
マ:「くうーくうーくうー……」
蒼星石のマスターは、気持ちよさそうに座席で眠りこけている。
対面座席に座る翠星石がマスターにチョッカイを出そうとしたが
蒼星石に睨まれて慌てて手を引っ込めた。
金:「みっちゃん、あとどれぐらいで着くかしら?」
み:「ま~だまだよ。あと三時間てとこかな」
みな朝一番の列車に乗り込むため、早起きしてきたので眠そうである。
乗り込んだ当初は全員はしゃいでいたのだが。
み:「眠いんだったら、だっこしててあげるわよ?」
金:「お願いするかしら…」
眠そうに目をこすりながら金糸雀はみっちゃんの腕の中へ移動した。
雛苺も巴の腕の中に収まった。
蒼星石は眠りにつく金糸雀と雛苺を見比べ、次に同じく眠りについてるマスターを見た。
ちょっとの間考え込み、やがてマスターに寄りかかるように身を寄せ、目を閉じた。
そんな蒼星石の様子に翠星石が不満げに何か言おうとしたが
の:「駄目よ。あのままで、ね」
連日夜遅く仕事から帰ってくるマスターのことが心配で、蒼星石が寝不足で疲れ気味なのを、のりは気付いていた。
翠:「つまんないですぅ」
蒼星石のマスター、蒼星石、雛苺、金糸雀。
格好の話し(いじめ)相手が次々に眠りの世界に赴き、不満げに口を尖らす翠星石。
が、
翠:「…!」
後ろの座席に廻ってみると、そこでジュンがうつらうつらと俯き加減に頭を揺らしているではないか。
翠星石はサササーっとジュンの隣に移動すると、身を寄せ、満足そうに目を閉じた。
の:「真紅ちゃんは眠くないの?」
真:「べつに、眠くないわよ」
さすが日頃から早寝早起きを心掛けてるだけあってか平然としている。
真:「外の景色を見たいわ。のり、ちょっと抱っこしてちょうだい」
の:「はい、真紅ちゃん」
それから二時間あまり経過……
マ:「ふあ……」
小さく欠伸をこいて俺は目覚めた。
ん~。
左の腰辺りに温もり感じる。見てみると蒼星石がすうすうと可愛い寝息を立てながら眠っていた。
毛布代わりにジャンパーを被り、俺に身を預けている。
軽く周囲を見回すと、みんな寝入っているようだ。
無用心だなぁ。今さっきまで寝てた俺が言えた柄じゃないが。
しかし、行きの列車だってのに、なんつー閉塞感だ。
まるで帰りの列車みたいだな。
さて、時間は……
降車駅まであと一時間ちょっとってとこか。
蒼:「ん……」
むむ、起こしてしまったか?
蒼星石が目を擦りながら俺を見上げた。
蒼:「ふぁ…ますたぁ…? あ…、れ、僕?」
きょろきょろと辺りを見回している。
マ:「おはよう、蒼星石」
蒼:「あ、お、おはよう、マスター」
目を瞬かせている。
蒼:「あの、今、…何時かな?」
マ:「八時過ぎだ」
蒼:「え、あ…、そうなんだ。僕、そんなに寝入るつもりじゃなかったんだけどな……。
マスターは眠れた……?」
マ:「ああ、眠った眠った。眠ったさ。俺も丁度今起きたとこだ」
蒼:「そう、眠れたんだ。よかった」
心底安心したように蒼星石は微笑んだ。
蒼:「ねぇ、マスター、膝の上…乗っていい? 景色を見たいんだ」
マ:「ほいほい」
俺は蒼星石を膝の上に乗せた。
蒼:「ありがと、マスター」
さっそく外の景色を眺める蒼星石。
他の皆はまだ目覚める気配は無い。
うーむ。
マ:「なぁ、蒼星石。みんな眠っちまってるが、今回の旅行あんまし楽しみでねぇのかな?」
一応、今回の旅行の主催者として、参加してる皆のテンションが気になる。
一泊二日の短い旅行だがこの日のために死ぬ気で仕事を終わらせてきたのだ。
いい旅行にしたいという意気込みで俺の精神は滾っている。
蒼:「なんで?」
マ:「いや、みんなして寝ちゃってるし。退屈なのかね」
蒼:「そんなことないよ。きっと今は眠って力を蓄えてるんだよ。後で思いっきり遊ぶために」
マ:「ううむ、そうかねぇ」
蒼:「少なくとも僕は今とってもウキウキしてるよ」
膝の上の蒼星石はポフっと体を俺に預けてきた。
蒼星石の背と俺の胸が密着する。
蒼:「心配いらないよ。みんな楽しみにしてたんだから、今回の旅行」
俺はにっこりと微笑み、蒼星石の頭を撫でた。
それから数分後。
マ:「………」
こう皆が寝入っていると、騒ぐこともできず、やれることがない。暇だ。
俺は車両全体を見回した。
ガラガラだ。俺ら一行しか乗っていない。
ま、借り切ったんだから当たり前だわな。ちなみにこのことは皆には秘密だ。
蒼:「………」
蒼星石は相変わらず景色を見やっている。
と、ここで蒼星石の白いうなじが目に入った。
ショートカットの子はうなじがよく見えてにんともかんとも。
マ:「………」
俺は顔を蒼星石の首筋に近づけた。
蒼:「マスター?」
蒼星石が俺の様子に気付いてわずかに振り返る。
俺は構わずそのまま蒼星石の首筋にキスをした。
蒼:「ひゃ」
最近、仕事が忙しくて蒼星石と触れ合う機会が無かった。
今ぐらい、ちょっとイチャイチャしたところで罰は当たらんだろう。
蒼:「ど、どうしたの?」
蒼星石が戸惑いの視線を投げかける。
マ:「どうしたもんかねぇ」
きつい仕事が片付いたことからくる解放感か、蒼星石とみんなで旅行という高揚感からか、
どうも俺の気持ちは昂ぶりつつあるらしい。
なぜかこの時に限って自制が利かない。
蒼:「あ……」
俺は蒼星石の耳朶を唇の先で甘く噛んだ。
蒼星石は身を捩じらせる。
蒼:「(あ、んん。駄目、駄目だよ。みんな起きちゃう……!)」
周りに悟られぬよう、小さな声で蒼星石は抗議した。
無理も無い。今、目の前の向かい座席には真紅とのりちゃんが座っている。
他の連中もすぐ傍に座っている。
しかし皆、今は夢の中だ。
俺は甘噛みをしつつ、そっと囁く。
マ:「平気だって。蒼星石が騒がなければさ」
蒼:「えっ……」
そんな……と言いたげに、蒼星石は不安げに顔をこわばらせた。
しかし俺は構わず甘噛みを続ける。
蒼:「ん、んん……」
時折、チロチロと耳たぶを舌先でなぶってみたりする。
蒼:「はぅう……」
うっすらと蒼星石の頬が紅潮してきた。
甘噛みを止め、俺は蒼星石の体の向きを変えた。
俺と膝の上の蒼星石は向かい合う形になる。
マ:「(イチャイチャ続けていいか?)」
俺の問いに、蒼星石は視線を斜め下に逸らし、さんざ迷ったみたいだが
蒼:「(……う…ん…)」
弱々しく頷いた。
蒼:「(だけど、静かに、お願い……みんな起きちゃうから)」
蒼星石の哀願に、俺は苦笑交じりの溜め息をつく。そして、
マ:「(わかってるって)」
有無を言わさず蒼星石をぎゅうっと体全体で包み込むように抱きしめる。
しばらくそのまま。
蒼:「………」
マ:「………」
俺は蒼星石に頬擦りしだした。
すりすりすり……
ううむ、この感触…柔らかくて、すべすべで……
蒼:「ん…」
蒼星石の小さな唇から微かに漏れる甘い吐息が、俺の鼻孔をやさしくくすぐる。
マ:「………」
みんながいる手前、そう大それたことはしないつもりでいたのだが……
蒼:「(ますたぁ…、……んん…)」
消え入りそうな、か細い声で、蒼星石は切なげに呟いた。
それを耳にした途端、俺の思考回路はより激しいショート状態に陥った。
マ:「………」
無意識に、俺の唇は蒼星石の唇を目指していた。
蒼星石は瞳を閉じている。
ゆっくりと、互いの唇が近づいていく。
あと少し……
蒼:「………」
マ:「………」
翠:「………」
マ:「!?」
静かな殺気を感じて、俺は慌てて視線を上に向けた。
翠:「………」
げげ!
す、翠星石が、向かい座席の反対側から、背もたれの縁に顔だけを覗かせ、
こちらを凝視している!
翠:「………」
翠星石、なんて虚ろな顔をしているのだろう。
激怒で顔を歪ませた表情よりも数倍怖かった。
蒼:「(どうしたの、マスター?)」
蒼星石が片目を開けて訊く。
だが俺は答えることができなかった。
マ:「(うわわ……)」
見られた。見られてしまった。あの暴君姉君に…
翠星石は相変わらず飢えた猛禽類のような目で俺を睨み付けていた。
マ:「………!」
俺は翠星石から目を逸らすことができなかった。
逸らしたら……、今にも飛び掛ってきそうだ。殺られる。
蒼:「…?」
不意に蒼星石が後ろを振り向いた。
だが、間髪いれず翠星石は首を引っ込めてしまう。
蒼:「?」
蒼星石にはスヤスヤと寝息をたててる真紅とのりちゃんしか視界に入らない。
蒼星石は再び俺に視線を戻し、訝しげに囁く。
蒼:「(ねぇ、どうしたの、マスター? お顔が真っ青だよ?)」
マ:「(なんでもない……)」
これは、困ったことになった。
翠星石、ギャアギャアと騒ぎにならなかっただけマシと言えるが、あの氷のような表情。
今思い出しただけでもゾッとする。
蒼:「?」
そして依然、俺を不思議そうに見上げる蒼星石。
その表情は、キス、止めちゃうの? とも取れる。
ううむ、蒼星石とイチャイチャを続けたいが、さすがに自重せざるをえないか。
そんなことを考えてると、
真:「んん…」
真紅が目覚めたようだ。
蒼星石は慌てて密着してた俺から体を離し、居住まいを正す。
真:「私としたことが、いつの間にやら眠ってしまったようね」
マ:「お、おはようさん」
蒼:「お、おはよう、真紅」
ぎこちない笑みを湛えながら、俺と蒼星石は真紅におはようの挨拶を繰り出した。
真:「……ええ、おはよう」
俺と蒼星石を不審気に見やる真紅。
そして真紅の目覚めがまるで合図だったかのように、残りのメンツも次々に起き出した。
みんなよく眠れたようで、溌剌とした表情を湛えている。
俺は改めて蒼星石を見やった。
蒼:「……」
俺の視線に気付き、蒼星石は頬を赤らめ、ちょっと困った顔をした。
先程の大胆なスキンシップを非難してるのか、それともあっけなく終わって残念だったのか。
まぁとにかく、これで当分、蒼星石とイチャイチャできる機会はお預けだ。
一方その頃、翠星石は……
翠星石は激怒した。
必ず、かの邪智暴虐のアホ人間を除かなければならぬと決意した。
翠星石には蒼星石とマスターとの愛がわからぬ。翠星石は、蒼星石の双子の姉である。
如雨露を振り、雛苺を苛め遊んで暮して來た。
けれども自分を差し置いて妹とイチャイチャしやがる不逞の輩に対しては、人一倍に敏感であった。
翠:「(あああ、あんなの見せつけやがってぇ! ただでは! ただでは済まさんですぅうう……!)
怒りにわななく翠星石。
ジ:「どうしたんだ? 震えて。もしかして寒いのか?」
いつの間にやら起きていたジュンに訝しげに尋ねられ、翠星石は慌てて首を振った。
翠:「あ、な、なんでもないですぅ」
咄嗟に、表情を悟られないよう後ろを向く。
ジ:「?」
翠:「(よくも、よくも我が愛しの妹の耳たぶを、ほっぺたを、唇を…!)」
最近は蒼星石とマスターの仲を認めつつあった翠星石であったが、
さすがにあんな光景を実際に目の当たりにしてしまうと、心中穏やかではいられなかった。
どうにも腹の虫が収まらない。
精神衛生上、早急にこの憤りを何かにぶつける必要があると翠星石は判断した。
翠:「(さあて、どう贖ってもらおうですかねぇ。アホ人間。ふ、ひひ、いひひひひひっ)」
いつしか翠星石の心には、赤い『復讐』の二文字が彩られていた。
一方その頃、蒼星石は……
の:「はい」
蒼:「ありがとうございます」
のりさんが注いでくれたお茶を受け取り、僕は一口啜った。
の:「マスターさんもどうです?」
マ:「いや、いらないよ。どうもね」
マスターはそう言うと窓の景色に視線を戻した。
何やらぼんやりと考え込んでるようにも見える。
蒼:「………」
それにしても……、マスター、いったいどうしたんだろ?
みんな寝てたからって、あんな大胆なことをするなんて。
もしかして、欲求不満が溜まってるのかな?
お仕事忙しかったみたいだし……。
うーん……
マ:「(翠星石やっぱ怒ってるよなぁ。どう取り繕うべか…)」
翠:「(ひっひっひ……、ただでは済まさんですよぉ、アホ人間…)
蒼:「(僕どうすればいいのかなぁ…)」
の:「(さっきは思わず狸寝入りしちゃったけど、やっぱりこの二人って凄いアツアツなのねぇ~……)」
真:「(はしたないのだわ)」
様々な思惑を乗せ、列車はひた走る。
「スノーレジャー その2」に続く