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一日目~登別・12:25~(Zwei)」の最新版変更点

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 「な…なぜ君がここに…?」
 「それはこっちのセリフだ…」
 開演前、俺はちらりと見えた人影を追ってくんくんショーの舞台裏に来た。そこで俺は、そこに居るはずのない人物を目撃した。
 その人物とは、家の近所のドールショップの店主であり、真紅達と激戦を繰り広げたドール・薔薇水晶の『お父様』でもある――
 ――槐、その人だった。
 そのあと何度か会っており、もう蒼星石達に危害を加えようとする様子はないようだが、登別にいるはずはない。
 まさか、また何かたくらんでいるのか…?
 「で、何でここにいんの?」
 「…さっきまでの重いモノローグは何だったんだ?」
 「おっと会話の成り立たないアホがひとり登場~質問文に対し質問文で答えるとテスト0点なの知ってたか?マヌケ」
 「…ひどい言われようだな…君がここに居るということは、蒼星石も一緒か?…いや、ひょっとして他のドール達も…?」
 「質問を質問で返すなあーっ!!疑問文には疑問文で答えろと学校で教えているのか?俺が『なぜここにいるのか』と聞いているんだッ!」
 「い、いや…ちょ、ちょっと仕事でな…」
 乗ってくれないのかよ。
 「では今度は僕が質問するぞ。君はなぜここにいるんだ?」
 「修学旅行だよ。蒼星石もドールズも一緒だ。…そういえば薔薇水晶は?そして、あんたは何でそんな格好してるんだ?」
 『そんな格好』――
 今俺の目の前にいる槐は、やけにざらざらした質感の妙な灰色っぽい着ぐるみを着ているのだ。
 「…なあ、蒼星石のマスター君。君に――いや、君達に一つ頼みがあるんだが…聞いてくれないか?」
 さっきまでの困惑した表情から、突然悲痛な表情に変わる槐。心なしか声も震えている。
 「…やだ」
-「Why!?聞いてくれてもいいだろ!!」
+「Why!?聞いてくれてもいいだろ!!」
 「…何かたくらんでそうだしな」
 「たくらんでないたくらんでない!天地神明と薔薇水晶に誓って何もたくらんでない!」
 「必死なのが怪しい」
 「いや、今回は本当に何もたくらんでない。聞くだけ聞いてくれ」
 「しかたないな…何だよ」
 ちょっと気になったので話を聞くことにした。まあ、怪しかったら断ればいいよな。
 「ああ、あそこなんだがな…」
 そう言うと槐は観客席をのぞき見て、その最前列を指さした。
 
 ▲§▽
 
 「12時20分からか…あと10分もあるんだ…」
 僕は翠星石に頼まれて『名探偵くんくん・海底王国の罠~Submarin Konigreich Schlinge~』の開演時間を確かめるために、
 ニクス広場に置いてあった開演時間が書いてある看板を見に来ていた。
 「…それにしても…」
 さっき、マスターは飲み物を買ってくるって言ってたけど…
 どことなく、様子がおかしかった。そわそわして、飲み物を買ってくるって言ってたわりには、舞台のほうばかり見ていた。
 いま考えてみると、飲み物を買ってくるって言う前に、マスターは何かに気付いたような顔をしていた。
 どうしたんだろう?
 気付いたって、何に?
 まさか…
 「…ううん」
 僕は疑念を振り払って、会場へ戻ることにした。
 
 △§▼
 
 「あれは…」
 槐が指さした先には、独りぼっちで最前席に座っている薔薇水晶の姿があった。
 「…なんで薔薇水晶が独りであんなとこに?」
 俺が訊ねると、槐は一層悲痛な顔――と言うよりもはや泣きそうな顔――でわけを説明し始めた。
 「…僕が北海道なんかに来たのは仕事だからだ、ということは言ったな?」
 北海道なんかってか。よくもまあ北海道人の目の前でそんなことが言えるものだ。
 だが、槐はそんなことを気にする様子もなく続ける。
 「本当は、ここの館長が注文していたドールを届けに来ただけだったんだ」
 「…白崎に行かせればよかったのに」
 「それはそうなんだが、白崎の奴、頼むたびに何かと理由をつけて断ってきてな…誰とデートするつもりなんだ、兎頭のくせに…」
 デートねぇ…嘘だって分かるなら、無理やり行かせればいいのに…
 「それで、薔薇水晶を連れて登別まで来て、館長にそのドールを渡したまではよかったのだが…」
 槐の顔に怒りの色が生じる。
 「…あの館長、二人きりになると突然…」
 まさか、その館長が梅岡だったって言うんじゃなかろうな…『かんちょう』だけに。
 …いや、俺の場合は梅岡でも、槐の場合は梅岡じゃないのかもしれない。
 槐の場合はだれだ?ローゼンか?
 「くんくんショーの役者が足りないからといって、僕にショーに出ろといってきたんだ」
 ちっ、面白くない野郎だ…
 あっ、俺は蒼星石でいいからね?梅岡はいらないからね?
 「…薔薇水晶も僕とショーを見るのを楽しみにしていたのに…」
 ばらしーもくんくん好きなのか…くんくんから電波でも出ているのだろうか。
 「…一緒に行けないと言ったときの薔薇水晶の顔が、いまでも忘れられない。…くそっ、ばらしーとは一時でも離れていたくないのにッ…」
 「前は一人で行動させてたくせに」
 「その『前』で懲りた。もしばらしーが一人でいるときにあんな事になったらと思うと…」
 『あんな事』というのは、ばらしーがローザミスティカの力に耐え切れずに槐と一緒に消滅した事を言ってるのだろう。
 「…そういや何で大丈夫だったの?」
 「愛の力に決まってるだろ」
 そんな事をこともなげに言われると、危うく信じてしまいそうになる。本当なら俺と蒼星石がああなっても戻って来れるな。
 「…で?」
 「で、でって君はあれを見てなんとも思わないのか!?」
 俺の問いかけに、焦った様に薔薇水晶を指さす槐。
 「いや、かわいそうだとかさびしそうだとかってのはあるけどさ…俺にどうしろと?」
 「…君、状況把握能力が低いって言われたことない?」
 この野郎、何で俺の通知表に書いてあった事を知ってやがる。
 「質問文に質問文で答えるなって言ってるのに…はいはい、どうせ俺は状況把握能力が低いですよ」
 「頼みというのは――」
 突然頼みが何なのか説明し始めた。さっきからいまいち俺と話がかみ合わないのには何か理由があるのだろうか。
 「――『薔薇水晶と僕も修学旅行に同行させて欲しい』というものだ」
-…What?
+…What?
 「…何で?」
 「修学旅行というからには、ここ以外の所にも行くんだろう?薔薇水晶にも、色々な事を体験させてやりたいからな」
 「…やだよ」
-「Warum!?」
+「Warum!?」
 「あんたは今ひとつ信用ならん」
 「信用してくれよ!なんか最近ばらしーが淋しそうなんだよ!他のドール達と一緒にいさせてやりたいんだよ!」
 年下の俺の足にすがりついて懇願する槐。
 さすがの俺もかわいそうになってきたので、蒼星石達に手を出さないという証明書を書かせた上で承諾することにした。
 「ところで、そのきぐるみは何ていうキャラなんだ?」
 「これか?『海底王国メガマウス国王』らしいが」
 「…メガマウス?」
 俺はそれから少しの間槐と話していたが、これ以上ここにいると開演時間に間にあわなくなるので、観客席に戻ることにした。
 
 ほどなくして観客席に戻って来た俺。
 おかしい。
 「…蒼星石はどこだ?」
 俺の問いかけに涙目になった翠星石が俺に答える。
 「大変です、蒼星石がラプラスの魔と雪華綺晶に連れて行かれて…!」
 瞬間、俺の身体から血の気が引く。
 「…どこに行った?」
 「わかりません、でもまだここの近くにいると…」
 俺は走り出した。蒼星石をさがしだして、助けるために。
 
 ▲§▽
 
 「…あれ?」
 僕が会場に戻ろうとしていると、会場の方からマスターが走ってきた。
 それも、鬼のような表情で辺りを見回しながら。
 「何か探してるのかな…?」
 マスターが何を探しているのか気になった僕は、ばれないように気を付けながらマスターについて行ってみることにした。
 
 相変わらずの鬼の形相で走り回っていたマスターが入ったのは、『清掃中』の札が掛けてある男子トイレだった。
 「トイレ行きたかったのかな…?」
 しかし、それは違うようだった。
 男子トイレに入ったマスターは、掃除用具入れから個室まで、全てを開けて中を調べている。
 さっきまで探していた場所も総じて人気がないところだった。どうも探し物は人が少ない所にあるらしい。
 どうやら探し物は見つからなかったらしく、端の個室を調べ終わった後、すばやくこちらを振り向いた。
 「…ぅぁれ?」
 僕を見つけたマスターはよほど驚いたらしく、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で妙な声を上げた。
 「蒼?何でここにいるの?大丈夫だったのか?」
 「え?何が?何のこと?別になんともないけど…マスターこそ何やってたの?」
 会話がかみ合わない。
 少しの沈黙の後、マスターが口を開いた。
 「…ラプラスの魔と雪華綺晶に連れて行かれたって翠星石が…」
 「…僕は翠星石に開演時間を見てきてくれって頼まれて、戻ろうとしてた時にマスターを見つけて…」
 また沈黙。き、気まずい…
 そんな沈黙を再び破ったのは、やはりマスターだった。
 「…まさか、俺は騙されたのか…?」
 「そんな、まさか…第一理由がないでしょ」
 「いや、蒼星石が俺を見つけなかったら、ショーが始まったとき俺は蒼星石を探してていないし、蒼星石は開演時間を見てきて会場に戻ってきてる。
  翠星石にとって見れば、邪魔者を排して蒼星石と一緒にくんくんを見ることができる。…あんにゃろ、そういうことか…」
 「まさか、翠星石がそんなこと…」
 …しないとも限らないな…
 「…とりあえず、蒼は大丈夫なんだな?」
 「うん、この通り――って、マ、マスター!?」
 僕の言葉が終わる前に、マスターは僕を抱きしめていた。
 「心配したぞー…本当に…また…いなくなるんじゃないかと思って…」
 「マスター…」
 さっきまで僕は、マスターを疑っていた。僕に嘘をついて、だれか他の女の人と一緒にいるんじゃないかと。
 マスターは、僕がいらなくなったんじゃないかと。
 でも、マスターは僕をあんなに一生懸命に探してくれていた。
 今、こうして抱きしめてくれている。
 「…僕、マスターと一緒にいてもいいのかな…?マスターを疑ってしまうような僕でも、マスターの近くにいていいの…?」
 「ばーか、駄目なはずないだろ?一緒にいないと俺がおかしくなっちまうよ。
  だいたい、人を疑うのなんて当たり前のことだ。一度も他人を疑わずに生きていける人なんていないさ。
  一回疑われたぐらいで相手を嫌うような奴は、相手のことを本当に好きじゃないんだ。本当に好きならそれぐらい許すのが普通だからな。
  …それに、他の人と一緒にいたっていうのはあってるんだ。…まあ、男だけどな…嘘ついてごめん。」
 「ううん、気にしないで。…だって、一度も嘘をつかないで生きていける人もいないでしょ?」
 「…はは、ま、そうだな」
 そういって僕たちは、しばらく笑いあっていた。
 
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