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ソウデレラ その8」(2006/12/05 (火) 03:33:31) の最新版変更点

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男:「さぁ、その子をこちらに・・・。」    貴族の男が手を差し出して近づいてきました。 マ:「・・・・。」 マ:「止まれ。」    硬い声でマスターが言いました。 男:「?」    貴族の男が歩みを止めます。 マ:「この子をどうするつもりだ?」 男:「別に。ただ王子の元に連れ戻すだけですよ。」    貴族の男が再び近づいてきます。 男:「ささ、王子がお待ちです。」 マ:「止まれといったはずだ・・・。」    マスターが鬼気を漲らせました。 男:「・・・・!」    マスターの鬼気に気圧され、貴族の男の顔が凍りつきました。    周りの男達も顔を引きつらせています。    マスターは蒼デレラからそっと体を離しました。 蒼:「マスター・・・?」    そしてマスターは徐に蒼デレラの背中に手を回し、しゃがみ込みながら    もう片方の手を蒼デレラの膝の裏に当てて・・・持ち上げました。 蒼:「え? ・・・マスター?」    俗に言う「お姫様抱っこ」です。    蒼デレラは不安げにマスターの顔を覗きこみました。    マスターは前方の貴族の男を見据えたまま、黙っています。 男:「ど、どういうことですかな・・?」    冷や汗混じりに貴族の男が口を開きました。 マ:「見ての通りだ。邪魔だからさっさとどけ。」 男:「手柄を、独り占めする気か・・・?」 マ:「そうだ。さぁ、どけ。」 男:「ぐぬぬ・・・。」 マ:「早くしろ。邪魔するやつはぶっ倒すぞ。」    現に、マスターの足元には髭の男が倒れています。    その状況と、相次ぐ挑発の言葉に、だんだんとマスターを取り囲む男達から怒気が沸き起こりました。       貴族の男など顔がもう真っ赤です。そしてついに・・ 男:「この賊を・・・、捕らえろぉお!」    周りの男達が一斉に襲い掛かってきました。 蒼:「・・・!!」    それと同時にマスターは片足を上げて、一気に踏み降ろしました。    すると、踏み降ろされた地点から大きな波紋が沸き起こります。    まるで水面のように石畳がぐにゃりと歪み、輪の形に波が地面へ伝わっていきました。    「ぎゃ!?」    「!?」    「うわ!?」    波に足をとられ、マスターを襲い掛かっていた男達はみな堪らず地べたに倒れ込んでしまいました。 マ:「ジナラシノジュツだ。」    その倒れ込んだ男達の上を、蒼星石をお姫様抱っこしたマスターが走り抜けます。    マスターは広大な中庭の一区画に建てられた時計塔を目指しました。    高さ100メートル弱はあるでしょうか、古めかしい時計塔でした。 蒼:「マスター! 壁! ぶつかっちゃう!」    マスターは全くスピードを緩めず、時計塔の壁に向かって走ります。 マ:「大丈夫、しっかり掴まってろ。」    マスターはそのまま時計塔の壁を垂直に駆け上がりました。 蒼:「・・・!」    そして、30メートルほど駆け上がったところで、    壁に対して垂直なまま立ち止まり、首を下に巡らせて地上を見下ろしました。    誰も追ってきてないようです。 マ:「逃亡成功だな。」 蒼:「ま、マスター! 落ちないの!?」 マ:「カベバシリノジュツ。東の国で修行した、靴の裏が壁にくっつくだけのチンケな魔法だ。油断すると落ちるかも。」 蒼:「!」    お姫様抱っこされてる蒼デレラはマスターの腕の中で縮こまりました。 マ:「はは、嘘だって。絶対落とさないから安心しろ。」 蒼:「・・・うん。」    マスターは上昇を開始しました。テクテクと壁を垂直に歩いていきます。 マ:「寒くないか?」    時計塔上方には冷たい風が吹いていました。 蒼:「ううん。僕は平気だよ。マスターの腕の中あったかいから。」    やがて、二人は時計塔の屋根に到着しました。 マ:「綺麗な月だな。」    月明かりが二人を照らします。    マスターは蒼デレラを屋根に降ろすと、上着を脱いで蒼デレラの肩に被せました。 蒼:「ありがとう・・。」 マ:「さて、ここなら落ち着いて話せるな。」 蒼:「・・・・。」 マ:「今ならまだ引き返せるぞ。」   蒼:「・・・どこに・・?」 マ:「今ならまだ城に戻れる。」 蒼:「え・・、何を言ってるの?」 マ:「王子とは、仲良くやってたんだろ?」 蒼:「う・・うん。」 マ:「じゃあ戻ろう。」 蒼:「いやだ。戻りたくないよ。」 マ:「大勢の人間に追われて、怖い思いをしたからか?」 蒼:「・・・・。」    蒼デレラは俯いたまま黙っています。 マ:「この国の人らは王族の結婚ごとに異様に熱心らしいが、他はそうでもない。あんなのは多分、これっきりだ。」 蒼:「・・・・。」 マ:「王子はいいやつだ。きっと君を幸せにしてくれるぞ。」 蒼:「僕は、まだ結婚とか・・・そんなの考えたことないよ。なんで皆、僕の意思を無視して、勝手に・・・。」 マ:「それは・・・。」    マスター一瞬言葉が詰まり、観念したように言いました。 マ:「受付の時に、俺が渡した青い薔薇のブローチあるだろ?」    そう言われ、蒼デレラは胸に付けた青い薔薇のブローチを見やりました。 マ:「それ、王子の嫁を立候補する意思表示の印なんだよ。」 蒼:「ええ!?」 マ:「だから、王子が君を気に入れば、あとはトントン拍子でゴールインさ。」 蒼:「・・そんな、酷いや! 僕そんなこと全然知らされてないよ!」 マ:「悪かった。」    蒼デレラは肩を震わせて怒りました。 蒼:「なんで、なんでそんな余計なことするの!? 僕に断りもなく!」 マ:「ただ、君の幸せを願って・・・。」 蒼:「・・・!」 マ:「王子と君が結ばれれば、もう義理の家族にコキ使われることもなくなるだろうし、    毎日、美味しいものを好きなだけ食べられる。フカフカのベッドにだって寝られる。    そのチャンスの糸口になればと思って・・・・。」 蒼:「・・・・。」 マ:「なぁ、よく考えるんだ。こんなチャンス滅多にないぞ。王子は君のことを好いている。」 蒼:「・・・・。」 マ:「今日だって、舞踏会あんなに楽しんでたじゃないか。お城の生活はきっと楽しいぞ。」 蒼:「・・・・。」 マ:「幸せを掴むんだ、蒼デレラ。」 蒼:「・・僕の、幸せ・・・。」 マ:「ああ。遠慮するな。君には権利がある。」    蒼デレラはゆらりとマスターの目の前に立ちました。 マ:「・・・?」    そして、ぽふっとマスターのお腹に顔をうずめ、抱きつきました。 マ:「???」 蒼:「これが・・・僕の幸せだよ・・・。」 マ:「な、んだ・・と・・・。」 蒼:「とても安心するんだ。あなたといると・・・。」 マ:「蒼デレラ・・・。」 蒼:「僕は、舞踏会、マスターがいてくれたから、楽しかったんだ。    マスターがいなかったら、多分僕はずっと会場の隅っこに隠れてじっとしてたと思う。」 マ:「・・・・。」 蒼:「マスターは、舞踏会楽しかった?」 マ:「・・・ああ。」    マスターは蒼デレラを抱きしめました。 マ:「楽しかった。君がいてくれたから、楽しかった。」 蒼:「よかった・・、とても嬉しい。」 マ:「くそっ! 君には幸せになってもらいたいのに・・・! ちくしょう・・・。」   蒼:「ふふ、僕は今、幸せだよ・・・。」    月明かりの照らされながら、二人はより一層強く抱きしめあいました。    バタバタバタガタガタガタ・・・ マ:「!」 蒼:「!」    時計塔内部を駆け上がってくる複数の足音が聞こえました。 マ:「もうきやがったか。」    マスターは蒼デレラから体を離し、屋根の縁から下を覗きました。    大時計の隣に設けられた扉から男が数人出てくるのが見えました。    扉の横には屋根に通じる梯子が設置されています。   「ぜぇぜぇっ」    どの男も時計塔を一気に駆け上がってきたため、息が上がってます。    そして、我先にと梯子に殺到しました。相当頭に血が昇ってるようです。   「俺が先だ!」   「お、押すな!」   「わ、わっばか!」 マ:「げ!」    押し合い圧し合いの末、男が一人落下してしまいました。    マスターは屋根から下へ身を乗り出し、壁を垂直に走りながら落下した男を追いかけます。 マ:「ぬおりゃああああ!」    凄まじい脚力を見せ、落下した男に追いつくと両手で男の足を掴みました。    そして、カベバシリノジュツで壁にくっつけた足の裏を頼りに、踏ん張って堪えます。    ザザザーーーーー         マスターの靴の裏と壁の擦れる音が数秒続きました。 マ:「ぬおお、足の裏がマサチューセッツ!」    なんとか落下は止まりました。落下した男は気絶してグッタリしてます。    しかし、マスターが息をつく暇も無く、 蒼:「マスター、助けて!」    蒼デレラの切迫した声が。    屋根の上で蒼デレラが男に追い詰められていました。    縁の方まで追い詰められ、もう後がありません。 マ:「忙しいなぁ、おい。」    マスターは一人呟くと、両手で支えてる男を時計塔のすぐそばに植えられている背の高い樹木のほうへ放り投げました。    そして上を向いて叫びます。 マ:「飛び降りるんだ! 絶対受け止める!」 蒼:「はい!」    蒼デレラは何の躊躇も無く飛び降りました。 マ:「ちょ! 飛び降りんのはや!」    マスターは慌てて蒼デレラの落下するポイントへダッシュします。 マ:「うおっと!」    蒼デレラを両手で受け止めるマスター。再びお姫様抱っこの形になりました。 マ:「ちょっとは躊躇うもんだろ! 思い切り良すぎだ!」    自分で蒼デレラに落ちるよう言っておいて怒り出すマスター。 蒼:「ごめんなさい・・・。」    そんなマスターにも蒼デレラは素直に謝りました。 マ:「あ、いや、こちらこそすまん・・。」     マ:「さて、どう脱するか・・・。」    今、蒼デレラとマスターは時計塔の中腹あたりで立ち往生しています。    上にも下にも城の男達が待ち構えていました。 マ:「どこかにホウキとか落ちてないかな。絨毯でもいいんだが・・・。」    下を見下ろしながら、マスターは魔法で空を飛ぶのに使えそうな道具が落ちてないか探しました。    しかし、それらしきものは見つかりません。 マ:「(蒼デレラがいるからあまり無茶な逃げ方はできんし・・・。って、今も相当無茶してるか。) 蒼:「マスター、あのまま僕たち屋根にいたら、どうやって逃げるつもりだったの?」 マ:「隣の見張り台に飛び移るつもりだった。屋根の縁からなら余裕で届く距離なんだが。」    マスターは少し考えた後、蒼デレラの顔を覗きこみました。 マ:「怖いか?」 蒼:「ううん。怖くないよ。マスターがいるから。」 マ:「そうか・・。じゃあ、強行突破するなら上と下、どちらがいい?」 蒼:「強行突破・・・?」 マ:「ああ、それしか手が無い。(誰も死なずに、という条件ならな。)」 蒼:「・・・じゃあ、下で・・。上だとまた誰か落っこちちゃうかもしれないし・・・。」 マ:「わかった。じゃあ強く掴まってて。    舌噛むといけないから口は閉じとくこと。怖かったら目を閉じててもいい。」 蒼:「うん・・。」        ぎゅ・・・    マスターは下へ歩み始めました。   「降りてきたぞー!」   「こっちにきたー!」             時計塔の下で待機してた男達が口々に叫びました。 マ:「じゃ、行くぞ!」    地面まで残り十数メートルというところで、マスターはダッシュをかけました。    そして、地面まであと数メートルというところで大きくジャンプします。    下の男達の頭上を飛び越え、地面に着地しました。    そして間髪いれず走り出します。 マ:「どけぇええ!」    疾風怒濤の勢いで石畳を疾走し、時には生け垣を飛び越え、中庭に面した城壁を目指します。    途中、城の男達が立ちはだかることもありましたが、マスターは走りの中にフェイントを交えて    やり過ごしました。 マ:「(思ったより、人が少ない。いける!)」    そして、城壁にたどり着くとそのまま駆け上がり、城の外へ出ることに成功しました。 マ:「ぜぇーぜぇーぜぇー・・・蒼デレラ・・平気かぁ・・?」 蒼:「うん、平気だよ。」 マ:「よ・・し、ぜぇーぜぇーぜぇー・・・馬車はどこだぁ・・?」    マスターはもうヨレヨレでした。    蒼デレラはマスターの腕から降り、 蒼:「こっちだよ、マスターッ。」    マスターの手を引いて先導しました。        馬車を留めた路地裏の道に入った蒼デレラとマスター。    もう馬車は目と鼻の先です。    そこへ馬の蹄の足音が近づいてきました。       「そこの二人、止まれ!」    城下を巡回警備する騎兵に見つかってしまったようです。    蒼デレラとマスターの情報は耳に入っているでしょう。 マ:「ちっ。」    マスターは舌打ちすると蒼デレラを抱き上げました。    そして馬車を目指して走り出します。 馬1:「おかえり、大将。楽しめたかい?」 マ:「いいから、早く出せ!」    蒼デレラを馬車に乗り込ませながらマスターが叫びました。   「止まれぇー!」       騎兵が叫びながら迫ってきます。よく見ると抜刀してるではありませんか。 馬1:「!」 馬3:「!」 マ:「早く出ろ!」 馬2:「え、なになになに!?」    事態が飲み込めず、馬2が混乱しました。 馬3:「慮れ! 行くぞ!」 馬1:「グズグズすんじゃねぇ!」    馬1と馬3に促され、馬2はよくわかりませんでしたが走り出しました。    馬三頭(その実体は鼠ですが)の必死の走りでどうにか騎兵をまく事ができました。 馬1:「ゼーハーゼーハー・・・」 馬2:「ヒィヒィ・・・」 馬3:「フゥーフゥー・・・」 マ:「ふぅ、お疲れ。」    マスターも必死に手綱を操ってたせいで体が休まず、クタクタのようです。 蒼:「みんな、大丈夫?」    御者台に通じる小窓から蒼デレラが声を掛けました。 マ:「大丈夫だ。」    しっかりした声でマスターが応えました。 馬1:「いったい何やらかしたんだい、大将?」 マ:「別に、大したことじゃない。」 蒼:「マスター。」 マ:「うお!?」    いつの間にやら御者台に蒼デレラが移っていました。    馬車の扉からこちらに伝ってやってきたようです。 マ:「落ちたら危ないだろっ。」    馬車は夜間走行中です。確かに危険な行為でした。 蒼:「ごめんなさい。」    蒼デレラそう言いながら、マスターの隣に腰掛けて体を寄り添わせます。 マ:「・・・・。」 蒼:「・・・・。」    誰も言葉を発することなく時が過ぎました。    パカラ・・・パカラ・・・パカラ・・・    しばらくして、マスターは蒼デレラが眠りについていることに気付きました。    マスターよりも、蒼デレラの方がよっぽど疲れていたのです。    マスターは小さく溜め息をつきました。 マ:「これから、どうするか・・・・。」    まだまだあどけなさが残る蒼デレラの寝顔。 マ:「(この子の幸せ・・・か。・・・よし!)」    マスターは一人決意しました。    そして、馬車のスピードを速めました。                                  ソウデレラ 終わり   

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