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ソウデレラ その4」(2006/11/20 (月) 09:54:46) の最新版変更点

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←「[[ソウデレラ その3]]」へ    トテトテトテトテ・・・パタパタパタパタ・・・「ふぅふぅっ」 トテトテトテトテ・・・パタパタパタ・・        髪の長い少女が使い終えた食器をかかえて舞踏会と厨房を繋ぐ廊下をせわしなく行ったりきたりしています。    やがて少女は周りに人がいなくなったのを確認すると、両手を振り回し ?:「まったく、なんで宮廷お抱えの庭師が貴族の宴会の手伝いしなきゃならないですか!」    と何も無い空間に向かって罵り声を上げました。 女給:「今夜の舞踏会は特別だからねぇ。いつもより規模が大きくて大変だよ。」    予期せぬ相槌に、少女はビクっと体を震わせ、後ろを振り返ると曲がり角から年配の女給が現れました。    少女の見知っている顔です。少女はホッと軽く安堵の息をつきました。 ?:「『特別』ってなんのことですかぁ?」 女給:「おや、聞いてなかったかい? 今夜の舞踏会の目的はなんでも王子の結婚相手を見つけるための・・・」    その時、厨房から   「おーい、皿洗いの手が足りないっ。誰かきとくれー!」 女給:「翠ーセ、行っておいで。あとはアタシが運んどくから。」 翠:「わかったですぅ。」    翠ーセと呼ばれた少女は駆け足で厨房のほうに消えていきました。    蒼デレラとマスターは城門をくぐり、宮殿に入ってまた暫く歩くと舞踏会場の受付に辿り着きました。    辺りは人だらけです。    ドレスやタキシードを優雅に着飾った貴族たち、毅然と立つ警備兵、    料理を忙しそうに運んだりしている給仕や女給たち。    蒼デレラはこんなに人が集まる場所にきたことがないのでおっかなびっくり辺りを見回しっぱなしです。    マスターはそんな蒼デレラの様子を見て口元を少し緩めると、受付の係員の方を向き、招待状を差し出しました。 係:「拝見いたします。」    受付の係員は恭しく招待状を受け取り、書面に目を通します。    その間、 蒼:「(大丈夫かな・・・?)」    自分の招待状は本物ですが、マスターの招待状は魔法で拵えた偽物です。    バレてしまわないかと蒼デレラは気が気でいられませんでした。勝手に胸がドキドキしてしまいます。    一方、マスターのほうは涼しい顔で係員の許可を待っていました。 蒼:「(もし・・もし偽物だってバレてしまったらどうしよう・・・!?)」    不安に駆られた蒼デレラは無意識にマスターに体を寄り添わせました。 係:「ようこそいらっしゃいました。どうぞ。」 マ:「どうも。」 蒼:「・・・!」    マスターは蒼デレラに顔を向けウインクしてみせました。    蒼デレラはホッと一安心です。    そして、揚々と歩き出した二人でしたが 係:「あ、お待ちを!」    数メートル歩いたところで急に、先ほど招待状の確認をした係員に呼び止められました。 マ:「・・・なにか?」    マスターが振り向いて応対します。 蒼:「(やっぱり、バレちゃった・・・!?)」    鎮まったばかりだった蒼デレラの胸は再び高鳴り始めました。 マ:「ちょっと待っててくれ。」    蒼デレラを残し、マスターは係員のところまで歩いていきます。 蒼:「(どうしよう・・・。)」    蒼デレラが遠くから心配そうに見守るなか、マスターと係が話し込んでいます。    やがて話を終えたマスターが蒼デレラの元に戻ってきました。 蒼:「マスター・・。」 マ:「蒼デレラ、胸のあたりにこれを付けといてだと。なんでも今夜の舞踏会の規則でそう決まってるらしい。」    蒼デレラがマスターから手渡されたのは、青い薔薇のブローチでした。 マ:「じゃ、行こう。」 蒼:「え、それだけ・・・?」 マ:「ああ、それだけだ。」 蒼:「ほ・・・。」    またしても安堵の溜め息をつき、蒼デレラはブローチをつけてマスターと舞踏会場に向かいました。    舞踏会場に足を踏み入れると、 蒼:「わぁ・・・。」    広大なダンスホールに優美な音楽に合わせてダンスに興じる若い男女達が蒼デレラの目に飛び込んできました。 マ:「蒼デレラ、さっきから驚きっぱなしじゃないかい? 城の近くにきた時も城を見上げながら驚いてたよな。」    その時の様子を思い出したのか、マスターは含み笑いしながら蒼デレラに言いました。 蒼:「だ、だって初めてみるものばかりだから。」 マ:「でも、あんまりキョロキョロしてると田舎者だと思われるぜ?」 蒼:「い、田舎者だもん・・・。」    この、娘の世間慣れしてないさまに、マスターは少しの間ぼうっとしてしまいました。 マ:「あ・・・さ、さ。どこか空いてるテーブルに陣取ろう。エスコートするよ。」 蒼:「え、ええエ、エスコート?」    まさか自分が男性にエスコートされるなんて、と蒼デレラは戸惑いました。 マ:「? さっきも手を繋いでここまでエスコートしただろ?」    確かにそうです。 蒼:「ぁ・・・・!」    今、マスターに言われるまで蒼デレラは自分がエスコートされてることを自覚していませんでした。 マ:「この広さだ。迷子にならないように、腕を組もう。」    マスターが腕を少し曲げて蒼デレラが組んでくるのを待ちます。    その時、蒼デレラは脇のテーブルのグラスに、自分の姿が映っているのが目に入りました。    ドレスを纏い、頭にはリボンをつけた自分の姿を。    今日まで久しく女の子扱いされることのなかった蒼デレラ。 マ:「参りましょう、お嬢さん?」    そして今の状況。 蒼:「ぁ・・ぅ・・・」 マ:「?」    断る理由は、ありません。ですが、 蒼:「あの、僕とマスターだと背の高さが全然違うから、その、腕を組むのはちょっと無理があると思います。    だから、・・・さっきみたいに手を繋ぐのは・・駄目、かな・・・?」    この蒼デレラの申し出にマスターは一瞬だけ考え込みましたが、すぐに マ:「かしこまりました。さぁ、どうぞ。」    快く手を蒼デレラに差し伸べました。 蒼:「・・お願い、します・・・。」    多少ギクシャクしながらも、蒼デレラは自分の手の平をマスターの手の平に重ねました。 マ:「どれ、ここでいいかな?」    適当に空いてる席を見つけ、マスターは蒼デレラが座れるよう椅子を引きました。 蒼:「は、はい。ありがとう。」    慣れない環境で緊張しきりの蒼デレラ。 マ:「リラックスしなよ、これから踊るんだぜ? コチコチじゃ困るよ。」 蒼:「お、踊る・・・!? 僕が?」 マ:「そうだよ。いったい何しにきたんだ?」 蒼:「・・・・。」    初め蒼デレラは、舞踏会という響きとくんくん王子にただ憧れて、舞踏会に行くことを望んでいたのですが、    いつの間にやらそんな思いはどこかに霧散していました。 マ:「まーだポロネーズやってんな。そろそろ終わるかな?」    マスターが貴族たちの踊ってるほうを見ながら呟きました。 蒼:「ポロネーズ?」 マ:「今みんなが踊ってる踊りだよ。」    蒼デレラがマスターの視線に合わせて舞踊場のほうを見ると、若い男女のペア数組が輪になるよう並んで    音楽に合わせてステップを踏みながら閉じたり開いたりしています。 蒼:「・・・・。」    一糸乱れぬその様を蒼デレラはしばし唖然と眺めました。    やがて音楽が止み、男女のペア達の動きが止まると会場中から拍手が沸き起こりました。 蒼:「・・・・。」    蒼デレラはただただその模様に圧倒されてしまいました。 マ:「みんな上手いもんだねぇ。」    マスターがテーブルに盛られたオードブルのカナッペをパクつきながら感心しました。 蒼:「(そんな・・あんなに上手く踊れないよ・・。)」    今まで蒼デレラはダンスの経験がありません。    いきなり整然としたボロネーズを見せられてすっかりしり込みしてしまいました。 蒼:「(やっぱり、僕みたいな世間知らずが来るところじゃなかったんだ・・・。)」    とうとう舞踏会に来たことを後悔しだす蒼デレラ。 マ:「では次のダンス、一緒に踊りましょう、お嬢さん。」 蒼:「え?」    俯き気味だった蒼デレラが顔を上げるといつのまにかマスターが蒼デレラに手を差し伸べていました。 蒼:「・・僕には無理です・・・。あんなに上手く踊れません・・。」 マ:「大丈夫だよ。曲に合わせて適当にステップ踏んでればいいのさ。」 蒼:「でも、いきなりは・・・。」 マ:「ああもう、次の曲目始まっちまうぜ。」    マスターはテーブルに飾ってあったガラスの置物を引っつかむと椅子に座っている蒼デレラの足元に置きました。 蒼:「あ、あの、何を?」 マ:「おまじない。」    マスターは周りに注意した後、ガラスの置物と蒼デレラの足の中間辺りに手をかざしました。    煙が上がり、やがてそれが晴れると、蒼デレラの履いていた靴は革製のそれからガラスの靴に変わっていました。 マ:「さ、これで君は一流ダンサーの仲間入りだ。」 蒼:「え、この靴?」    マスターは自信たっぷりにウインクしてみせました。 マ:「さ、行こう。」 蒼:「で、でも。」 マ:「魔法の靴を信じなさい。」    マスターは蒼デレラの手をとり、舞踏場の方へ招きました。        蒼デレラとマスターは舞踏場の壁寄りの一角に陣取りました。    両手を繋ぎ、曲の演奏を待ちます。 蒼:「・・・・。」    蒼デレラの心臓ははちきれんばかりに高鳴っていました。 マ:「そう緊張しないで。」 蒼:「でも・・・。」    果たして自分は上手く踊れるのだろうか、蒼デレラは心配でたまりませんでした。 マ:「要は楽しめばいいんだよ。」 蒼:「・・・・。」    指揮者がステージの壇上に上がりました。いよいよ始まります。    蒼デレラは不安げに自分の履いているガラスの靴を見つめました。    今はこの靴を信じるほかありません。 マ:「ほら、顔上げて。」    曲がスタートしました。    曲に合わせて恐る恐るステップを踏み出す蒼デレラ。    マスターもそれに合わせてステップを踏みます。    曲は先程のボロネーズのものと違い、アップテンポの軽快な曲調でした。 蒼:「あ、とっ・・!」    慣れない足の運びにバランスを崩しかけた蒼デレラでしたがマスターが素早く重心を移動させて    転ばないように支えてあげました。 蒼:「すみません・・。」    申し訳なさそうに謝る蒼デレラでしたが マ:「気にしない。フォローしてあげるからその調子で踊って。」    再びステップを踏み出す蒼デレラ。    ぎこちない蒼デレラの動きとは対照的にマスターは軽やかにステップを刻んでいきます。 蒼:「(この人って、いったい何者なんだろう?)」    魔法使いの人って踊りが上手いものなのかな?、そんな風にマスターの動きに蒼デレラが気をとられていると、 蒼:「あっ!」    自分の左足を右足に引っ掛けてしまいました。途端にバランスを崩して両足が宙に浮きます。 マ:「よっと。」    マスターが蒼デレラのつんのめった方向に体を移動させて受け止めました。    ぽふっ・・・。    その拍子にマスターに思わず抱きついてしまう蒼デレラ。 蒼:「ご、ごめんなさい!」    蒼デレラは慌てて体を離しました。 マ:「気にしないで踊りを続けて・・・」    とマスターが言ったところで、急にまた蒼デレラが抱きついてきました。 マ:「・・?」 蒼:「家の、人が・・・。」    マスターの体に顔を隠すように蒼デレラは言いました。    マスターが辺りを見回すと夫婦とその娘と思われる三人がすました顔で舞踏場のすぐ横を歩いていました。 マ:「今横を歩いてる三人かい?」 蒼:「はい・・・。」 マ:「(震えてる・・・)」    密着してる蒼デレラから微かに震えが伝わってくるのを感じました。 マ:「・・・・。」    マスターは蒼デレラの義理の家族を、少しだけ眉根を寄せて目で追いました。    そして、自分に体を預けている蒼デレラに視線を移します。    マスターは蒼デレラの背中に手を回すと、そのままゆっくり踊り始めました。 マ:「何も怖くないよ。俺がついてる。」 蒼:「・・・・。」        ぎゅっ・・・    マスターはより一層強く、蒼デレラに抱きつかれるのを感じました。                                                              「ソウデレラ その5」に続く
←「[[ソウデレラ その3]]」へ    トテトテトテトテ・・・パタパタパタパタ・・・「ふぅふぅっ」 トテトテトテトテ・・・パタパタパタ・・        髪の長い少女が使い終えた食器をかかえて舞踏会と厨房を繋ぐ廊下をせわしなく行ったりきたりしています。    やがて少女は周りに人がいなくなったのを確認すると、両手を振り回し ?:「まったく、なんで宮廷お抱えの庭師が貴族の宴会の手伝いしなきゃならないですか!」    と何も無い空間に向かって罵り声を上げました。 女給:「今夜の舞踏会は特別だからねぇ。いつもより規模が大きくて大変だよ。」    予期せぬ相槌に、少女はビクっと体を震わせ、後ろを振り返ると曲がり角から年配の女給が現れました。    少女の見知っている顔です。少女はホッと軽く安堵の息をつきました。 ?:「『特別』ってなんのことですかぁ?」 女給:「おや、聞いてなかったかい? 今夜の舞踏会の目的はなんでも王子の結婚相手を見つけるための・・・」    その時、厨房から   「おーい、皿洗いの手が足りないっ。誰かきとくれー!」 女給:「翠ーセ、行っておいで。あとはアタシが運んどくから。」 翠:「わかったですぅ。」    翠ーセと呼ばれた少女は駆け足で厨房のほうに消えていきました。    蒼デレラとマスターは城門をくぐり、宮殿に入ってまた暫く歩くと舞踏会場の受付に辿り着きました。    辺りは人だらけです。    ドレスやタキシードを優雅に着飾った貴族たち、毅然と立つ警備兵、    料理を忙しそうに運んだりしている給仕や女給たち。    蒼デレラはこんなに人が集まる場所にきたことがないのでおっかなびっくり辺りを見回しっぱなしです。    マスターはそんな蒼デレラの様子を見て口元を少し緩めると、受付の係員の方を向き、招待状を差し出しました。 係:「拝見いたします。」    受付の係員は恭しく招待状を受け取り、書面に目を通します。    その間、 蒼:「(大丈夫かな・・・?)」    自分の招待状は本物ですが、マスターの招待状は魔法で拵えた偽物です。    バレてしまわないかと蒼デレラは気が気でいられませんでした。勝手に胸がドキドキしてしまいます。    一方、マスターのほうは涼しい顔で係員の許可を待っていました。 蒼:「(もし・・もし偽物だってバレてしまったらどうしよう・・・!?)」    不安に駆られた蒼デレラは無意識にマスターに体を寄り添わせました。 係:「ようこそいらっしゃいました。どうぞ。」 マ:「どうも。」 蒼:「・・・!」    マスターは蒼デレラに顔を向けウインクしてみせました。    蒼デレラはホッと一安心です。    そして、揚々と歩き出した二人でしたが 係:「あ、お待ちを!」    数メートル歩いたところで急に、先ほど招待状の確認をした係員に呼び止められました。 マ:「・・・なにか?」    マスターが振り向いて応対します。 蒼:「(やっぱり、バレちゃった・・・!?)」    鎮まったばかりだった蒼デレラの胸は再び高鳴り始めました。 マ:「ちょっと待っててくれ。」    蒼デレラを残し、マスターは係員のところまで歩いていきます。 蒼:「(どうしよう・・・。)」    蒼デレラが遠くから心配そうに見守るなか、マスターと係が話し込んでいます。    やがて話を終えたマスターが蒼デレラの元に戻ってきました。 蒼:「マスター・・。」 マ:「蒼デレラ、胸のあたりにこれを付けといてだと。なんでも今夜の舞踏会の規則でそう決まってるらしい。」    蒼デレラがマスターから手渡されたのは、青い薔薇のブローチでした。 マ:「じゃ、行こう。」 蒼:「え、それだけ・・・?」 マ:「ああ、それだけだ。」 蒼:「ほ・・・。」    またしても安堵の溜め息をつき、蒼デレラはブローチをつけてマスターと舞踏会場に向かいました。    舞踏会場に足を踏み入れると、 蒼:「わぁ・・・。」    広大なダンスホールに優美な音楽に合わせてダンスに興じる若い男女達が蒼デレラの目に飛び込んできました。 マ:「蒼デレラ、さっきから驚きっぱなしじゃないかい? 城の近くにきた時も城を見上げながら驚いてたよな。」    その時の様子を思い出したのか、マスターは含み笑いしながら蒼デレラに言いました。 蒼:「だ、だって初めてみるものばかりだから。」 マ:「でも、あんまりキョロキョロしてると田舎者だと思われるぜ?」 蒼:「い、田舎者だもん・・・。」    この、娘の世間慣れしてないさまに、マスターは少しの間ぼうっとしてしまいました。 マ:「あ・・・さ、さ。どこか空いてるテーブルに陣取ろう。エスコートするよ。」 蒼:「え、ええエ、エスコート?」    まさか自分が男性にエスコートされるなんて、と蒼デレラは戸惑いました。 マ:「? さっきも手を繋いでここまでエスコートしただろ?」    確かにそうです。 蒼:「ぁ・・・・!」    今、マスターに言われるまで蒼デレラは自分がエスコートされてることを自覚していませんでした。 マ:「この広さだ。迷子にならないように、腕を組もう。」    マスターが腕を少し曲げて蒼デレラが組んでくるのを待ちます。    その時、蒼デレラは脇のテーブルのグラスに、自分の姿が映っているのが目に入りました。    ドレスを纏い、頭にはリボンをつけた自分の姿を。    今日まで久しく女の子扱いされることのなかった蒼デレラ。 マ:「参りましょう、お嬢さん?」    そして今の状況。 蒼:「ぁ・・ぅ・・・」 マ:「?」    断る理由は、ありません。ですが、 蒼:「あの、僕とマスターだと背の高さが全然違うから、その、腕を組むのはちょっと無理があると思います。    だから、・・・さっきみたいに手を繋ぐのは・・駄目、かな・・・?」    この蒼デレラの申し出にマスターは一瞬だけ考え込みましたが、すぐに マ:「かしこまりました。さぁ、どうぞ。」    快く手を蒼デレラに差し伸べました。 蒼:「・・お願い、します・・・。」    多少ギクシャクしながらも、蒼デレラは自分の手の平をマスターの手の平に重ねました。 マ:「どれ、ここでいいかな?」    適当に空いてる席を見つけ、マスターは蒼デレラが座れるよう椅子を引きました。 蒼:「は、はい。ありがとう。」    慣れない環境で緊張しきりの蒼デレラ。 マ:「リラックスしなよ、これから踊るんだぜ? コチコチじゃ困るよ。」 蒼:「お、踊る・・・!? 僕が?」 マ:「そうだよ。いったい何しにきたんだ?」 蒼:「・・・・。」    初め蒼デレラは、舞踏会という響きとくんくん王子にただ憧れて、舞踏会に行くことを望んでいたのですが、    いつの間にやらそんな思いはどこかに霧散していました。 マ:「まーだポロネーズやってんな。そろそろ終わるかな?」    マスターが貴族たちの踊ってるほうを見ながら呟きました。 蒼:「ポロネーズ?」 マ:「今みんなが踊ってる踊りだよ。」    蒼デレラがマスターの視線に合わせて舞踊場のほうを見ると、若い男女のペア数組が輪になるよう並んで    音楽に合わせてステップを踏みながら閉じたり開いたりしています。 蒼:「・・・・。」    一糸乱れぬその様を蒼デレラはしばし唖然と眺めました。    やがて音楽が止み、男女のペア達の動きが止まると会場中から拍手が沸き起こりました。 蒼:「・・・・。」    蒼デレラはただただその模様に圧倒されてしまいました。 マ:「みんな上手いもんだねぇ。」    マスターがテーブルに盛られたオードブルのカナッペをパクつきながら感心しました。 蒼:「(そんな・・あんなに上手く踊れないよ・・。)」    今まで蒼デレラはダンスの経験がありません。    いきなり整然としたボロネーズを見せられてすっかりしり込みしてしまいました。 蒼:「(やっぱり、僕みたいな世間知らずが来るところじゃなかったんだ・・・。)」    とうとう舞踏会に来たことを後悔しだす蒼デレラ。 マ:「では次のダンス、一緒に踊りましょう、お嬢さん。」 蒼:「え?」    俯き気味だった蒼デレラが顔を上げるといつのまにかマスターが蒼デレラに手を差し伸べていました。 蒼:「・・僕には無理です・・・。あんなに上手く踊れません・・。」 マ:「大丈夫だよ。曲に合わせて適当にステップ踏んでればいいのさ。」 蒼:「でも、いきなりは・・・。」 マ:「ああもう、次の曲目始まっちまうぜ。」    マスターはテーブルに飾ってあったガラスの置物を引っつかむと椅子に座っている蒼デレラの足元に置きました。 蒼:「あ、あの、何を?」 マ:「おまじない。」    マスターは周りに注意した後、ガラスの置物と蒼デレラの足の中間辺りに手をかざしました。    煙が上がり、やがてそれが晴れると、蒼デレラの履いていた靴は革製のそれからガラスの靴に変わっていました。 マ:「さ、これで君は一流ダンサーの仲間入りだ。」 蒼:「え、この靴?」    マスターは自信たっぷりにウインクしてみせました。 マ:「さ、行こう。」 蒼:「で、でも。」 マ:「魔法の靴を信じなさい。」    マスターは蒼デレラの手をとり、舞踏場の方へ招きました。        蒼デレラとマスターは舞踏場の壁寄りの一角に陣取りました。    両手を繋ぎ、曲の演奏を待ちます。 蒼:「・・・・。」    蒼デレラの心臓ははちきれんばかりに高鳴っていました。 マ:「そう緊張しないで。」 蒼:「でも・・・。」    果たして自分は上手く踊れるのだろうか、蒼デレラは心配でたまりませんでした。 マ:「要は楽しめばいいんだよ。」 蒼:「・・・・。」    指揮者がステージの壇上に上がりました。いよいよ始まります。    蒼デレラは不安げに自分の履いているガラスの靴を見つめました。    今はこの靴を信じるほかありません。 マ:「ほら、顔上げて。」    曲がスタートしました。    曲に合わせて恐る恐るステップを踏み出す蒼デレラ。    マスターもそれに合わせてステップを踏みます。    曲は先程のボロネーズのものと違い、アップテンポの軽快な曲調でした。 蒼:「あ、とっ・・!」    慣れない足の運びにバランスを崩しかけた蒼デレラでしたがマスターが素早く重心を移動させて    転ばないように支えてあげました。 蒼:「すみません・・。」    申し訳なさそうに謝る蒼デレラでしたが マ:「気にしない。フォローしてあげるからその調子で踊って。」    再びステップを踏み出す蒼デレラ。    ぎこちない蒼デレラの動きとは対照的にマスターは軽やかにステップを刻んでいきます。 蒼:「(この人って、いったい何者なんだろう?)」    魔法使いの人って踊りが上手いものなのかな?、そんな風にマスターの動きに蒼デレラが気をとられていると、 蒼:「あっ!」    自分の左足を右足に引っ掛けてしまいました。途端にバランスを崩して両足が宙に浮きます。 マ:「よっと。」    マスターが蒼デレラのつんのめった方向に体を移動させて受け止めました。    ぽふっ・・・。    その拍子にマスターに思わず抱きついてしまう蒼デレラ。 蒼:「ご、ごめんなさい!」    蒼デレラは慌てて体を離しました。 マ:「気にしないで踊りを続けて・・・」    とマスターが言ったところで、急にまた蒼デレラが抱きついてきました。 マ:「・・?」 蒼:「家の、人が・・・。」    マスターの体に顔を隠すように蒼デレラは言いました。    マスターが辺りを見回すと夫婦とその娘と思われる三人がすました顔で舞踏場のすぐ横を歩いていました。 マ:「今横を歩いてる三人かい?」 蒼:「はい・・・。」 マ:「(震えてる・・・)」    密着してる蒼デレラから微かに震えが伝わってくるのを感じました。 マ:「・・・・。」    マスターは蒼デレラの義理の家族を、少しだけ眉根を寄せて目で追いました。    そして、自分に体を預けている蒼デレラに視線を移します。    マスターは蒼デレラの背中に手を回すと、そのままゆっくり踊り始めました。 マ:「何も怖くないよ。俺がついてる。」 蒼:「・・・・。」        ぎゅっ・・・    マスターはより一層強く、蒼デレラに抱きつかれるのを感じました。                                                              「[[ソウデレラ その5]]」に続く

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