「ソウデレラ その3」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

ソウデレラ その3」(2006/11/13 (月) 15:06:53) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

←「[[ソウデレラ その2]]」へ マ:「出発するぞ、いざ行かん! 城へ!」 蒼:「はいっ、マスター!」        パカラッパカラッパカラッ・・・    馬車が走り出してから間もなく、夕闇が辺りを包み始めました。    疾走する馬車の中から猛スピードで流れる外の景色を眺めていると、あることに気付きました。       さすが魔法使いの拵えた馬車だからでしょうか、どんなあぜ道を通ってもまったく振動がありません。    蒼デレラは御者台に一番近い座席に移動し、御者台に通じる小窓を開けました。 マ:「退屈かい?」    蒼デレラが口を開くより早く、御者台のマスターが振り向かず前方を向いたまま訊いてきました。 蒼:「いえっ・・・。」    馬三頭が引く巨大な馬車。綺麗なドレスに身を包んだ自分。夜間外出。    いずれも自分には経験したどころか想像すらしていなかったことばかり。    否応でも胸が高鳴って、退屈になる要素なんて一つもありませんでした。    ただそれらのこと以上に、この魔法使いに対する好奇心が蒼デレラの中で芽生え始めていたのでした。 蒼:「あ、あの、凄いんですねっ、魔法って。」 マ:「そうかい?」    マスターは前方を向いたままです。 蒼:「凄いです。だって、野菜からこんな大きな馬車を作っちゃうし、鼠さん達を駿馬に変えてしまったし・・・!」    今まで次々起こった信じられない出来事を口に出して確認することで、蒼デレラは改め胸が高鳴る実感が伴ってきました。 マ:「俺も内心驚いてるよ。」 蒼:「・・?  何をですか?」 マ:「君が素直についてきてくれたこと。」 蒼:「あ・・・。」 マ:「蒼デレラ、俺が分身して見せたらさ、あんなに怖がって。それなのに、よくもまぁホイホイついてきてくれたもんだ。」    マスターのことを泥棒だと思い込んだ蒼デレラの誤解を解くために、マスターが蒼デレラに見せた魔法。    急に六人に増えたマスターを見て蒼デレラはすっかり怯えてしまったのでした。 蒼:「あ、あの時は別に、ただ僕・・ビックリしてしまって・・・。」 マ:「あの時は怯えさせちゃって悪かったよ。」 蒼:「いえ・・・。」    マ:「で・・・なんで、素直についてきてくれたんだい?」 蒼:「それは・・・」    なぜだろう? いつの間にかマスターのペースに乗せられてたというか・・・    蒼デレラが答えるのに手間取ってると マ:「やっぱり、正座と土下座が効いたかねぇ。」    マスターが呟きました。 蒼:「正座って、あの変な座り方のことですか?」 マ:「ああ。・・確かにまぁ・・・変だな。」 蒼:「魔法使いのかたって、よくああいう座り方をするんですか?」」 マ:「いやいや、しないよ。正座っつうのはな、ここからずうっと東に行った国、ジパングって言うんだが、    その国ではその座り方が普通なんだよ。」 蒼:「へぇ・・・。」 マ:「なかなか面白い国だったな、ジパングは。」 蒼:「行ったことあるんですか?」 マ:「ああ、つい最近までそこにいた。」    それからマスターは蒼デレラにジパングで体験した面白い話を聞かせました。    サムライ・・・チョンマゲ・・・ハラキリ・・・ニンジャ・・・ゲイシャサン・・・などなど。    どれも蒼デレラにとっては新鮮で珍しい話ばかりでした。 蒼:「へぇー、いつか僕も行ってみたいなぁ。」 マ:「めちゃくちゃ遠いぜ、生半可な気持ちじゃ行けないよ。」 蒼:「ならマスターはどうしてジパングに行かれたんですか?」 マ:「んー、それはなぁ、魔法研究の一環でな。こう見えても魔法ってのはなかなか不便な面があってね。    それをなんとかできないかと色んなところの魔法を見てまわったのさ。」 蒼:「魔法が、不便なんですか?」 マ:「ああ、魔法ってのは決して万能じゃないんだよ。まず、『人にかけることができない。』    生物を含めて万物には元来、魔法抵抗力というものが備わっていてな。特に人間ってのはその抵抗力がメチャクチャ高いわけだ。    だから人間に魔法をかけるのは基本的には無理なんだよ。    逆に魔法抵抗力が低いものもあって、たとえば『ホウキ』なんてのはその最たるものだ。    魔女がよく空を飛ぶのに使ってるだろ?魔法がかかりやすいのさ。」 蒼:「は、はぁ・・・。」 マ:「でな、魔力っていう魔法を使うための力があって・・・」    突然、魔法に関するレクチャーを始めたマスターに蒼デレラはあっけにとられてしまいました。    マスターもどうやらそんな蒼デレラの様子に気付いたようです。 マ:「あ、いや、すまん。なんか俺一人でペラペラ喋り過ぎたな。」 蒼:「いえ、別に気にしないで下さい。」 マ:「・・・・。」 蒼:「・・・・。」    急に黙り込む二人。 マ:「(おかしい・・・俺ってこんなにお喋りだったけか・・・?)」    マスターが一瞬、蒼デレラの方を振り向きました。蒼デレラと目が合います。    きょとんとした表情の蒼デレラ。マスターは慌てて視線を前方に戻しました。    なんだかマスターの顔が赤いです。    そんな二人の様子と会話を伺っていた馬三頭(正確には鼠三匹)はヒソヒソ話をし始めました。 馬1:「(魔法が人に効かないだって? あの魔法使い、とんだ大ボラ吹いてるな。)」 馬2:「(え、どういうこと? ほんとは効くの?)」 馬1:「(へへ、気付いてないのさ、あの魔法使い。蒼デレラに魔法をかけられちゃってること。)」 馬2:「(え、蒼デレラって魔女だったの!?)」 馬1:「(ちがうちがう、世の女の子達が知らず知らずの内に使うあれさ。)」 馬3:「(恋の・・・魔法か?)」 馬達:「「「ヒッヒッヒッッヒ、ヒ~~~ン!」」」 マ:「おい、鼠さんがた、なにを笑ってんだ?」 馬1:「いえ、なんでもありやせん、大将っ。」 マ&蒼:「?」    やがて馬車は城下に着きました。    マスターはひと気の無い路地裏に馬車を停車させました。 マ:「蒼デレラ。」    マスターは小窓から蒼デレラに一枚の紙を手渡しました。 蒼:「これは?」 マ:「招待状。君の分だ。家のゴミ箱に捨ててあったよ。」 蒼:「え・・。」 マ:「酷いね、君の家族。ちゃんと君の分の招待状届いてたのに。」 蒼:「・・・・。」    蒼デレラは渡された手紙に視線を落としたまま、じっと俯きました。    そんな様子の蒼デレラを見つめるマスターは マ:「まったくもって血も涙も無い家族だな。」    と吐き捨てるように続けました。    しかし蒼デレラが俯いたまま言いました。 蒼:「・・・義理の家族だけど、僕のかけがえの無い家族なんです。悪く言わないで。」 マ:「・・・そうだな、すまない。悪かった。」    マスターは素直に自分の非を認め、謝りました。    蒼デレラは俯いたままです。 マ:「さ、楽しんでおいで。」    城のほうを指差し、蒼デレラを促しました。 蒼:「一緒に、行ってくださらないんですか・・?」 マ:「招待状は君の分の一枚しかないからね。」    蒼デレラは躊躇いましたが 蒼:「・・・わかりました。」    暗い表情のまま、蒼デレラがお城へ向かって歩いていくのをマスターは見送りました。    やがて蒼デレラの姿が見えなくなると馬の一頭がマスターに言いました。 馬1:「大将、あんたもなかなか、分からねえ人だな。」 マ:「なにがだ?」    マスターは一瞬なんのことかわからないでいましたが、ふと思いついたように マ:「ああ。例え義理の家族だとしても家族を貶すなんてな。配慮が足りなかった。」 馬1:「そういうことじゃない。なんであの子を一人で行かせたんだ? え?」    なんだか怒ってるような口調です。 マ:「招待状が無いからな。」 馬3:「魔法使いのあなたなら、そんなものどうとでもなったんじゃないですか?」 マ:「・・・・俺は一緒に行くべきじゃないんだよ。」 馬2:「なんで?」 マ:「なんでって、俺は魔法使いだからな。表舞台に出ちゃいけないのさ。あくまで影で支えるのが正しい魔法使いのあり方だ。」    マスターは自分に言い聞かせるように言いました。    一方、このマスターの言い分に、馬三頭は一斉にため息をつきました。 馬1:「あーあ、この分じゃあの子がどんな気持ちで城に向かったかわかってねえな。」 マ:「・・・俺の気持ちも誰もわからんだろう。」 馬達:「・・・?」    それから数分後。 マ:「・・・・。」    マスターは従者スタイルからいつもの野暮ったい服装に戻し、    馬車の屋根の上に寝転がりながらじっと、まばらに煌く星ぼしを眺めていました。 蒼:「マスター、マスター、どこ?」 マ:「ん?」    馬車の下から蒼デレラの声が聞こえてきました。    馬車の屋根上から顔を覗かせるマスター。 マ:「どうした? 舞踏会に向かったんじゃなかったのか?」 蒼:「それが、あの、女の子一人で入っちゃ駄目だって受付の人に言われて・・・」 マ:「招待状は見せたんだろう?」 蒼:「はい。それでも駄目だって・・・。」 マ:「よっと。」    マスターは屋根から蒼デレラの目の前に着地しました。 マ:「まったく、融通が利かないな、役人どもは。」    そして後頭部をさすりながら マ:「さて、どうするか・・・。」    と考え込みました。 マ:「ん?」    マスターは蒼デレラがじっと自分を見つめてるのに気が付きました。 マ:「言っておくが、俺は・・」 蒼:「あ、あのっ。」    蒼デレラの声がマスターの声を遮りました。 マ:「?」 蒼:「やっぱり、一緒に来てくださいっ。」    なにか意を決したように、蒼デレラは言い放ちました。    マスターはそんな蒼デレラを見つめます。すると蒼デレラはなぜか咄嗟に視線を下に逸らしてしまいました。 蒼:「だ、だって、一人じゃ不安だしっ、そ、それに知らない人がたくさんいて怖いし・・・でも舞踏会に行ってみたい。だから・・」    語尾がどんどん消え入るように小さくなっていきました。 マ:「・・・・。」    でもマスターはただじっと蒼デレラを見つめるばかりでした。 蒼:「お願いです。」    蒼デレラはすがるようにマスターを見上げました。 蒼:「マスター・・・。」    蒼デレラの瞳がかすかに潤んできました。    マスターは目を閉じ、軽く息を吐きました。まるで胸につかえている何かを吐露するように。    そして マ:「かしこまりました。お嬢さん。」    恭しく礼をしながらマスターは応えました。    それを聞いた蒼デレラの表情がぱぁっと明るくなります。 マ:「で、俺の分の舞踏会の招待状はどうしましょう?」 蒼:「・・・その、どうにもならないですか? マスターでも・・・。やっぱり・・。」    それを聞いたマスター、顎に手をあてて少しばかり考え込み、 マ:「なんとかしてみよう。ちょっと蒼デレラの招待状貸してごらん。」 蒼:「はい。」    蒼デレラから招待状を手渡されると、マスターはすぐそばの街路樹の方へ歩きだしました。    そして地面に肩膝を付き、片手に持った招待状と地面の街路樹の落ち葉を交互に見やります。    そして目を瞑り、精神を集中させ、落ち葉に手を振りかざしました。    すると白い煙が上がり、やがて煙が晴れると・・・落ち葉が招待状に変化していました。    しかしマスターは出来上がった招待状の文面を覗き込み、眉根を寄せ、不満げな声を上げました。 マ:「うーん、字がよれてるな・・。」    作ったの招待状を破り捨て、もう一回チャレンジするマスター。    先程と同じように落ち葉を招待状に変化させます。 マ:「これも駄目だな。字が掠れてる。」    蒼デレラもマスターのこさえた招待状を見てみました。確かに字がイビツです。 マ:「元々俺は字が汚いからなぁ。」    イビツな文字を指でなぞりながら マ:「そういうところが魔法に反映されちまうわけだ。」    と釈明しました。    そうして何回か招待状の作成を続けますが上手くいきません。 マ:「まいったな・・・。」    蒼デレラも傍らから不安げにマスターを見つめてます。    ゴーン ゴーン ゴーン    城の時計台から夜の七時を告げる鐘の音が響きました。 マ:「やべ。チンタラしてらんねえな。」    鐘の音が響いてくる方向に顔を向けながらマスターが焦りの色を見せました。 マ:「蒼デレラ、字は上手か?」 蒼:「え、僕ですか? 僕は・・・どうだろう。一応字は書けますけど・・・。」    なんで自分に訊くんだろう、蒼デレラは疑問に思いました。 マ:「じゃ蒼デレラ、招待状返すからそれ持ってじっと見つめて。さ、早く。」    マスターから招待状を手渡され、わけもわからぬままに蒼デレラは素直にそれに応じました。    そして、急にマスターが蒼デレラの手を握りました。 蒼:「!」 マ:「蒼デレラのイメージを借りるよ。」    マスターが真剣な面持ちで目を瞑り精神を集中させました。    そんなマスターを見て蒼デレラも真剣に招待状を見つめます。       マスターは枯葉に手を振りかざしました。そこに出来た招待状は・・・ マ:「よし、完璧だ。」    蒼デレラから手を離し、出来上がった招待状を拾い上げ、満足そうにマスターは言いました。    蒼デレラにも見せてあげます。    たしかに文字も整然として文句無しでした。 マ:「公文書偽造も楽じゃねえや。」    ふうっと息をついて蒼デレラの方を向き、ニヤリと笑いました。 蒼:「あ、あは。」    蒼デレラもつられて笑ってしまいました、が 蒼:「でも、・・これって犯罪じゃ・・・?」 マ:「気にしない、気にしない。さ、着替えるから後ろ向いてて。」    とマスターが自分の服に手を掛けながら蒼デレラに言いました 蒼:「え、あ、はい。」    蒼デレラは慌てて後ろを向きかけ・・・ 蒼:「って誤魔化さないで下さい!」    再びマスターの方を向きましたが    マ:「残念、着替えはもう終了しました。」    ちょっと目を離した隙にマスターはタキシードに着替え終えていました。 マ:「着替え見たければ見たいって素直に言えばいいのに。」 蒼:「ち、ちがいます!」 マ:「さ、さ。行こうぜっ。」    マスターは蒼デレラの手をとり、城の方へ歩き始めました。 蒼:「あ、ちょっとっ・・・」    マスターはかまわず歩を進めます。    蒼デレラはもう何も言えなくなってしまいました。 蒼:「(うう、僕って流されやすいのかなぁ・・・)」    と星空を仰いだ蒼デレラですが、すぐにマスターと繋いだ手に視線を移し 蒼:「(でも、この人の手・・・大きくて、とってもあったかいや・・・)」    木枯らしが吹いてくる季節でしたが、今の蒼デレラは不思議な暖かみを、手の平と胸の奥に感じていました。                                           「ソウデレラ その4」に続く
←「[[ソウデレラ その2]]」へ マ:「出発するぞ、いざ行かん! 城へ!」 蒼:「はいっ、マスター!」        パカラッパカラッパカラッ・・・    馬車が走り出してから間もなく、夕闇が辺りを包み始めました。    疾走する馬車の中から猛スピードで流れる外の景色を眺めていると、あることに気付きました。       さすが魔法使いの拵えた馬車だからでしょうか、どんなあぜ道を通ってもまったく振動がありません。    蒼デレラは御者台に一番近い座席に移動し、御者台に通じる小窓を開けました。 マ:「退屈かい?」    蒼デレラが口を開くより早く、御者台のマスターが振り向かず前方を向いたまま訊いてきました。 蒼:「いえっ・・・。」    馬三頭が引く巨大な馬車。綺麗なドレスに身を包んだ自分。夜間外出。    いずれも自分には経験したどころか想像すらしていなかったことばかり。    否応でも胸が高鳴って、退屈になる要素なんて一つもありませんでした。    ただそれらのこと以上に、この魔法使いに対する好奇心が蒼デレラの中で芽生え始めていたのでした。 蒼:「あ、あの、凄いんですねっ、魔法って。」 マ:「そうかい?」    マスターは前方を向いたままです。 蒼:「凄いです。だって、野菜からこんな大きな馬車を作っちゃうし、鼠さん達を駿馬に変えてしまったし・・・!」    今まで次々起こった信じられない出来事を口に出して確認することで、蒼デレラは改め胸が高鳴る実感が伴ってきました。 マ:「俺も内心驚いてるよ。」 蒼:「・・?  何をですか?」 マ:「君が素直についてきてくれたこと。」 蒼:「あ・・・。」 マ:「蒼デレラ、俺が分身して見せたらさ、あんなに怖がって。それなのに、よくもまぁホイホイついてきてくれたもんだ。」    マスターのことを泥棒だと思い込んだ蒼デレラの誤解を解くために、マスターが蒼デレラに見せた魔法。    急に六人に増えたマスターを見て蒼デレラはすっかり怯えてしまったのでした。 蒼:「あ、あの時は別に、ただ僕・・ビックリしてしまって・・・。」 マ:「あの時は怯えさせちゃって悪かったよ。」 蒼:「いえ・・・。」    マ:「で・・・なんで、素直についてきてくれたんだい?」 蒼:「それは・・・」    なぜだろう? いつの間にかマスターのペースに乗せられてたというか・・・    蒼デレラが答えるのに手間取ってると マ:「やっぱり、正座と土下座が効いたかねぇ。」    マスターが呟きました。 蒼:「正座って、あの変な座り方のことですか?」 マ:「ああ。・・確かにまぁ・・・変だな。」 蒼:「魔法使いのかたって、よくああいう座り方をするんですか?」」 マ:「いやいや、しないよ。正座っつうのはな、ここからずうっと東に行った国、ジパングって言うんだが、    その国ではその座り方が普通なんだよ。」 蒼:「へぇ・・・。」 マ:「なかなか面白い国だったな、ジパングは。」 蒼:「行ったことあるんですか?」 マ:「ああ、つい最近までそこにいた。」    それからマスターは蒼デレラにジパングで体験した面白い話を聞かせました。    サムライ・・・チョンマゲ・・・ハラキリ・・・ニンジャ・・・ゲイシャサン・・・などなど。    どれも蒼デレラにとっては新鮮で珍しい話ばかりでした。 蒼:「へぇー、いつか僕も行ってみたいなぁ。」 マ:「めちゃくちゃ遠いぜ、生半可な気持ちじゃ行けないよ。」 蒼:「ならマスターはどうしてジパングに行かれたんですか?」 マ:「んー、それはなぁ、魔法研究の一環でな。こう見えても魔法ってのはなかなか不便な面があってね。    それをなんとかできないかと色んなところの魔法を見てまわったのさ。」 蒼:「魔法が、不便なんですか?」 マ:「ああ、魔法ってのは決して万能じゃないんだよ。まず、『人にかけることができない。』    生物を含めて万物には元来、魔法抵抗力というものが備わっていてな。特に人間ってのはその抵抗力がメチャクチャ高いわけだ。    だから人間に魔法をかけるのは基本的には無理なんだよ。    逆に魔法抵抗力が低いものもあって、たとえば『ホウキ』なんてのはその最たるものだ。    魔女がよく空を飛ぶのに使ってるだろ?魔法がかかりやすいのさ。」 蒼:「は、はぁ・・・。」 マ:「でな、魔力っていう魔法を使うための力があって・・・」    突然、魔法に関するレクチャーを始めたマスターに蒼デレラはあっけにとられてしまいました。    マスターもどうやらそんな蒼デレラの様子に気付いたようです。 マ:「あ、いや、すまん。なんか俺一人でペラペラ喋り過ぎたな。」 蒼:「いえ、別に気にしないで下さい。」 マ:「・・・・。」 蒼:「・・・・。」    急に黙り込む二人。 マ:「(おかしい・・・俺ってこんなにお喋りだったけか・・・?)」    マスターが一瞬、蒼デレラの方を振り向きました。蒼デレラと目が合います。    きょとんとした表情の蒼デレラ。マスターは慌てて視線を前方に戻しました。    なんだかマスターの顔が赤いです。    そんな二人の様子と会話を伺っていた馬三頭(正確には鼠三匹)はヒソヒソ話をし始めました。 馬1:「(魔法が人に効かないだって? あの魔法使い、とんだ大ボラ吹いてるな。)」 馬2:「(え、どういうこと? ほんとは効くの?)」 馬1:「(へへ、気付いてないのさ、あの魔法使い。蒼デレラに魔法をかけられちゃってること。)」 馬2:「(え、蒼デレラって魔女だったの!?)」 馬1:「(ちがうちがう、世の女の子達が知らず知らずの内に使うあれさ。)」 馬3:「(恋の・・・魔法か?)」 馬達:「「「ヒッヒッヒッッヒ、ヒ~~~ン!」」」 マ:「おい、鼠さんがた、なにを笑ってんだ?」 馬1:「いえ、なんでもありやせん、大将っ。」 マ&蒼:「?」    やがて馬車は城下に着きました。    マスターはひと気の無い路地裏に馬車を停車させました。 マ:「蒼デレラ。」    マスターは小窓から蒼デレラに一枚の紙を手渡しました。 蒼:「これは?」 マ:「招待状。君の分だ。家のゴミ箱に捨ててあったよ。」 蒼:「え・・。」 マ:「酷いね、君の家族。ちゃんと君の分の招待状届いてたのに。」 蒼:「・・・・。」    蒼デレラは渡された手紙に視線を落としたまま、じっと俯きました。    そんな様子の蒼デレラを見つめるマスターは マ:「まったくもって血も涙も無い家族だな。」    と吐き捨てるように続けました。    しかし蒼デレラが俯いたまま言いました。 蒼:「・・・義理の家族だけど、僕のかけがえの無い家族なんです。悪く言わないで。」 マ:「・・・そうだな、すまない。悪かった。」    マスターは素直に自分の非を認め、謝りました。    蒼デレラは俯いたままです。 マ:「さ、楽しんでおいで。」    城のほうを指差し、蒼デレラを促しました。 蒼:「一緒に、行ってくださらないんですか・・?」 マ:「招待状は君の分の一枚しかないからね。」    蒼デレラは躊躇いましたが 蒼:「・・・わかりました。」    暗い表情のまま、蒼デレラがお城へ向かって歩いていくのをマスターは見送りました。    やがて蒼デレラの姿が見えなくなると馬の一頭がマスターに言いました。 馬1:「大将、あんたもなかなか、分からねえ人だな。」 マ:「なにがだ?」    マスターは一瞬なんのことかわからないでいましたが、ふと思いついたように マ:「ああ。例え義理の家族だとしても家族を貶すなんてな。配慮が足りなかった。」 馬1:「そういうことじゃない。なんであの子を一人で行かせたんだ? え?」    なんだか怒ってるような口調です。 マ:「招待状が無いからな。」 馬3:「魔法使いのあなたなら、そんなものどうとでもなったんじゃないですか?」 マ:「・・・・俺は一緒に行くべきじゃないんだよ。」 馬2:「なんで?」 マ:「なんでって、俺は魔法使いだからな。表舞台に出ちゃいけないのさ。あくまで影で支えるのが正しい魔法使いのあり方だ。」    マスターは自分に言い聞かせるように言いました。    一方、このマスターの言い分に、馬三頭は一斉にため息をつきました。 馬1:「あーあ、この分じゃあの子がどんな気持ちで城に向かったかわかってねえな。」 マ:「・・・俺の気持ちも誰もわからんだろう。」 馬達:「・・・?」    それから数分後。 マ:「・・・・。」    マスターは従者スタイルからいつもの野暮ったい服装に戻し、    馬車の屋根の上に寝転がりながらじっと、まばらに煌く星ぼしを眺めていました。 蒼:「マスター、マスター、どこ?」 マ:「ん?」    馬車の下から蒼デレラの声が聞こえてきました。    馬車の屋根上から顔を覗かせるマスター。 マ:「どうした? 舞踏会に向かったんじゃなかったのか?」 蒼:「それが、あの、女の子一人で入っちゃ駄目だって受付の人に言われて・・・」 マ:「招待状は見せたんだろう?」 蒼:「はい。それでも駄目だって・・・。」 マ:「よっと。」    マスターは屋根から蒼デレラの目の前に着地しました。 マ:「まったく、融通が利かないな、役人どもは。」    そして後頭部をさすりながら マ:「さて、どうするか・・・。」    と考え込みました。 マ:「ん?」    マスターは蒼デレラがじっと自分を見つめてるのに気が付きました。 マ:「言っておくが、俺は・・」 蒼:「あ、あのっ。」    蒼デレラの声がマスターの声を遮りました。 マ:「?」 蒼:「やっぱり、一緒に来てくださいっ。」    なにか意を決したように、蒼デレラは言い放ちました。    マスターはそんな蒼デレラを見つめます。すると蒼デレラはなぜか咄嗟に視線を下に逸らしてしまいました。 蒼:「だ、だって、一人じゃ不安だしっ、そ、それに知らない人がたくさんいて怖いし・・・でも舞踏会に行ってみたい。だから・・」    語尾がどんどん消え入るように小さくなっていきました。 マ:「・・・・。」    でもマスターはただじっと蒼デレラを見つめるばかりでした。 蒼:「お願いです。」    蒼デレラはすがるようにマスターを見上げました。 蒼:「マスター・・・。」    蒼デレラの瞳がかすかに潤んできました。    マスターは目を閉じ、軽く息を吐きました。まるで胸につかえている何かを吐露するように。    そして マ:「かしこまりました。お嬢さん。」    恭しく礼をしながらマスターは応えました。    それを聞いた蒼デレラの表情がぱぁっと明るくなります。 マ:「で、俺の分の舞踏会の招待状はどうしましょう?」 蒼:「・・・その、どうにもならないですか? マスターでも・・・。やっぱり・・。」    それを聞いたマスター、顎に手をあてて少しばかり考え込み、 マ:「なんとかしてみよう。ちょっと蒼デレラの招待状貸してごらん。」 蒼:「はい。」    蒼デレラから招待状を手渡されると、マスターはすぐそばの街路樹の方へ歩きだしました。    そして地面に肩膝を付き、片手に持った招待状と地面の街路樹の落ち葉を交互に見やります。    そして目を瞑り、精神を集中させ、落ち葉に手を振りかざしました。    すると白い煙が上がり、やがて煙が晴れると・・・落ち葉が招待状に変化していました。    しかしマスターは出来上がった招待状の文面を覗き込み、眉根を寄せ、不満げな声を上げました。 マ:「うーん、字がよれてるな・・。」    作ったの招待状を破り捨て、もう一回チャレンジするマスター。    先程と同じように落ち葉を招待状に変化させます。 マ:「これも駄目だな。字が掠れてる。」    蒼デレラもマスターのこさえた招待状を見てみました。確かに字がイビツです。 マ:「元々俺は字が汚いからなぁ。」    イビツな文字を指でなぞりながら マ:「そういうところが魔法に反映されちまうわけだ。」    と釈明しました。    そうして何回か招待状の作成を続けますが上手くいきません。 マ:「まいったな・・・。」    蒼デレラも傍らから不安げにマスターを見つめてます。    ゴーン ゴーン ゴーン    城の時計台から夜の七時を告げる鐘の音が響きました。 マ:「やべ。チンタラしてらんねえな。」    鐘の音が響いてくる方向に顔を向けながらマスターが焦りの色を見せました。 マ:「蒼デレラ、字は上手か?」 蒼:「え、僕ですか? 僕は・・・どうだろう。一応字は書けますけど・・・。」    なんで自分に訊くんだろう、蒼デレラは疑問に思いました。 マ:「じゃ蒼デレラ、招待状返すからそれ持ってじっと見つめて。さ、早く。」    マスターから招待状を手渡され、わけもわからぬままに蒼デレラは素直にそれに応じました。    そして、急にマスターが蒼デレラの手を握りました。 蒼:「!」 マ:「蒼デレラのイメージを借りるよ。」    マスターが真剣な面持ちで目を瞑り精神を集中させました。    そんなマスターを見て蒼デレラも真剣に招待状を見つめます。       マスターは枯葉に手を振りかざしました。そこに出来た招待状は・・・ マ:「よし、完璧だ。」    蒼デレラから手を離し、出来上がった招待状を拾い上げ、満足そうにマスターは言いました。    蒼デレラにも見せてあげます。    たしかに文字も整然として文句無しでした。 マ:「公文書偽造も楽じゃねえや。」    ふうっと息をついて蒼デレラの方を向き、ニヤリと笑いました。 蒼:「あ、あは。」    蒼デレラもつられて笑ってしまいました、が 蒼:「でも、・・これって犯罪じゃ・・・?」 マ:「気にしない、気にしない。さ、着替えるから後ろ向いてて。」    とマスターが自分の服に手を掛けながら蒼デレラに言いました 蒼:「え、あ、はい。」    蒼デレラは慌てて後ろを向きかけ・・・ 蒼:「って誤魔化さないで下さい!」    再びマスターの方を向きましたが    マ:「残念、着替えはもう終了しました。」    ちょっと目を離した隙にマスターはタキシードに着替え終えていました。 マ:「着替え見たければ見たいって素直に言えばいいのに。」 蒼:「ち、ちがいます!」 マ:「さ、さ。行こうぜっ。」    マスターは蒼デレラの手をとり、城の方へ歩き始めました。 蒼:「あ、ちょっとっ・・・」    マスターはかまわず歩を進めます。    蒼デレラはもう何も言えなくなってしまいました。 蒼:「(うう、僕って流されやすいのかなぁ・・・)」    と星空を仰いだ蒼デレラですが、すぐにマスターと繋いだ手に視線を移し 蒼:「(でも、この人の手・・・大きくて、とってもあったかいや・・・)」    木枯らしが吹いてくる季節でしたが、今の蒼デレラは不思議な暖かみを、手の平と胸の奥に感じていました。                                           「[[ソウデレラ その4]]」に続く

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: