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車を降りて辺りをうろついてみる。
建物の裏手の方に休憩用の椅子とテーブルが設置されていた。
見晴らしも良い場所なのに穴場なのか人気もない、理想的なロケーションだった。
マ「ここがいいね。」
二人で食べるために朝一緒に作ったお弁当を開く。
マ「はい、おしぼりをどうぞ。」
紙のおしぼりを取り出して手を拭く。
蒼「マスター、いくらなんでもさっきのさ・・・。」
マ「あ・・・ごめん、あんな風にムキになっちゃって。
恥ずかしながら・・・なんでか分からないけど絶対に渡したくないって気持ちになっちゃって。」
蒼「・・・それはむしろ嬉しいんだけどさ、手だけでなくおで・・・。」
ガサッ・・・
マ「しっ!誰か来た。話は後でね。」
梅「あ・・・青木さん。奇遇ですね。」
マ「桜花さんも景色をご覧に?」
梅「・・・ええ、まあそんなところかしらね。」
桜花さんが広げたお弁当を覗き込んでくる。
梅「そのお弁当って手作り?」
マ「ええ、まあ。」
梅「結構たくさんあるのね。」
マ「恥ずかしながら・・・。」
二人分も用意してあるからかなりの大喰らいと思われたことだろう。
梅「健康的でいいじゃない。それよりもマメなのね。買うなりイートインを使うなりあったでしょうに。」
マ「でもお弁当箱さえ使い捨てのなら荷物にもならないですし、安上がりですからね。」
というのは建前である。
実際のところは買ったものは保存料や何やらが気になるし、イートインでは蒼星石がお食事できないからだ。
梅「へえ、でもお箸なんて持ち歩いてるんだ。割り箸なら捨てちゃえたのに。」
目ざとく食いついてきた。さっきの件もあってか、話の種でも探そうとして観察されているようで落ち着かない。
マ「ええ、特に理由もない習慣みたいなものなんですけど、常に食事はこのお箸でいただいてるんです・・・。」
これは本当だ。
蒼星石がいつもお弁当を持たせてくれるからだ。
お弁当用に新しいお箸を買うのももったいない気がして家で使うお箸を常に持ち歩く事にしたのだ。
そしてなぜか知らないが今ではお箸が変わると落ち着かなくなってしまった。
梅「外食なんかでも?」
マ「ええ。」
梅「ふうん、まあエコやら何やらでそういう人も結構いるわよね。」
そんな事を話していたらまた一人やってきた。
山「あら、お二人さんここにいたの。あの、よろしかったら一緒にお昼しません?」
マ「中のイートインでですか?」
山「ええ、そのつもりですけど。」
マ「えーと、すみませんが自分はちょっと・・・お弁当ですし。もう広げちゃいましたし。」
ならここで食べるといわれたら困るがそうなったら諦めるほかない。
山「あらあら。じゃあえーと・・・。」
梅「あ、桜花。梅桃桜花です。」
山「桜花さんか。じゃあ一緒に食べましょう。」
梅「いえ、でもちょっと・・・」
山「ほらほら、急がないと時間がなくなっちゃいますよ。」
なにやら反論しかける桜花さんを山田さんが半ば強引に引っ張って行った。
相性なのかなんなのか、あの押しの強そうな桜花さんを有無を言わさず連行するとはすごいものだ。
マ「・・・お待たせ。さて、それじゃあいただこうか。」
蒼「うん、いただきます。マスターさ、なんかモテモテだね。」
マ「女同士だと思われてるからねえ。女の人って団体行動が好きそうだし。」
蒼「じゃあまた誰か来るかも・・・。なんだか落ち着かないや。」
マ「確かに。言い方は悪いけれど桜花さんにはなんか付きまとわれ気味だしな。
ここは人気はないけど・・・また誰か来るかもしれないなあ。
蒼星石が自分で食べているとこを誰かに見られたらまずいから用心して僕が食べさせるね。」
蒼「え、そういうことでなくって・・・。」
マ「まあまあ、これなら僕がディープな人だと思われるだけだからさ。はい、あーん。」
蒼「・・・まあ、いいか。ありがとう。」
その後は邪魔が入らずに二人でお弁当を食べる事が出来た。
お弁当も食べ終わり、腹ごなしも兼ねて辺りを散策してから車に戻るとちょっとした騒ぎが起きていた。
マ「どうしたんです?」
そばにいた“白崎さん”に聞く。
白「いやあね、さっき黒崎さんと食事してたら桜花さんが血相を変えてやって来て・・・。
なんでも大事なハンドバッグを失くしたとかで。探すのも手伝ったんですが見つからなくって。
忘れ物等で確認を取っても出てこないそうで、置き引きかもしれないと。いやあ、世知辛いですね。」
黒「あー、あ・・・あの、その・・・結局見つからなかったんですが。つ、通報・・・しましょうか・・・?」
ただでさえどもりがちなのに軽いパニックがそれに輪をかけている模様だ。
梅「・・・いいえ、せっかくの旅行なのに警察なんて呼んでいたら時間も取られて台無しになってしまうわ。
ここはそのまま行きましょう。不幸中の幸いで貴重品も入っていませんでしたし・・・。」
黒「そうですか?しかし・・・。」
梅「いいんです。あんなものよりも皆さんとの思い出の方が大切ですから。」
黒「あ、あ、はい・・・。そうですか、そこまでおっしゃるのでしたらこのままで行ってしまいますが。」
とんでもない事に、ホントにそのまま何事もなかったかのように出発しようとする。
全員が席に着き、車にエンジンがかかる。
やはり気になり桜花さんに問い質す。
マ「本当にこのままで良いんですか?大事なものがあったんじゃ・・・。」
さっき聞いた話では大事なバッグだったそうなのに。
梅「まあ・・・ね。でもね、わたしこうしてワイワイやるのが好きなの。
だけどこういう風に誰かと旅行するなんて滅多に出来ないから。
他の人に迷惑なのもあるけど、何よりも私にとって、どっちも大事かもしれないけれど、こっちの方がより大事なのよ。」
気丈にもそうは言うが、やはりショックは大きかったのも確かなのだろう。
さっきまでの陽気さは影をひそめてしまい、どことなく落ち着かないようで、様子が変だった。
マ「あの・・・大丈夫ですか?体調が悪いとか、気分が悪いとか・・・。」
梅「ええ、大丈夫よ。・・・ありがとう。」
結局、そのまま発車してしまった。
その後の桜花さんはそれまでの活発さが嘘のようになりを潜めてしまい、ずっと黙ったままだった。
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車を降りて辺りをうろついてみる。
建物の裏手の方に休憩用の椅子とテーブルが設置されていた。
見晴らしも良い場所なのに穴場なのか人気もない、理想的なロケーションだった。
マ「ここがいいね。」
二人で食べるために朝一緒に作ったお弁当を開く。
マ「はい、おしぼりをどうぞ。」
紙のおしぼりを取り出して手を拭く。
蒼「マスター、いくらなんでもさっきのさ・・・。」
マ「あ・・・ごめん、あんな風にムキになっちゃって。
恥ずかしながら・・・なんでか分からないけど絶対に渡したくないって気持ちになっちゃって。」
蒼「・・・それはむしろ嬉しいんだけどさ、手だけでなくおで・・・。」
ガサッ・・・
マ「しっ!誰か来た。話は後でね。」
梅「あ・・・青木さん。奇遇ですね。」
マ「桜花さんも景色をご覧に?」
梅「・・・ええ、まあそんなところかしらね。」
桜花さんが広げたお弁当を覗き込んでくる。
梅「そのお弁当って手作り?」
マ「ええ、まあ。」
梅「結構たくさんあるのね。」
マ「恥ずかしながら・・・。」
二人分も用意してあるからかなりの大喰らいと思われたことだろう。
梅「健康的でいいじゃない。それよりもマメなのね。買うなりイートインを使うなりあったでしょうに。」
マ「でもお弁当箱さえ使い捨てのなら荷物にもならないですし、安上がりですからね。」
というのは建前である。
実際のところは買ったものは保存料や何やらが気になるし、イートインでは蒼星石がお食事できないからだ。
梅「へえ、でもお箸なんて持ち歩いてるんだ。割り箸なら捨てちゃえたのに。」
目ざとく食いついてきた。さっきの件もあってか、話の種でも探そうとして観察されているようで落ち着かない。
マ「ええ、特に理由もない習慣みたいなものなんですけど、常に食事はこのお箸でいただいてるんです・・・。」
これは本当だ。
蒼星石がいつもお弁当を持たせてくれるからだ。
お弁当用に新しいお箸を買うのももったいない気がして家で使うお箸を常に持ち歩く事にしたのだ。
そしてなぜか知らないが今ではお箸が変わると落ち着かなくなってしまった。
梅「外食なんかでも?」
マ「ええ。」
梅「ふうん、まあエコやら何やらでそういう人も結構いるわよね。」
そんな事を話していたらまた一人やってきた。
山「あら、お二人さんここにいたの。あの、よろしかったら一緒にお昼しません?」
マ「中のイートインでですか?」
山「ええ、そのつもりですけど。」
マ「えーと、すみませんが自分はちょっと・・・お弁当ですし。もう広げちゃいましたし。」
ならここで食べるといわれたら困るがそうなったら諦めるほかない。
山「あらあら。じゃあえーと・・・。」
梅「あ、桜花。梅桃桜花です。」
山「桜花さんか。じゃあ一緒に食べましょう。」
梅「いえ、でもちょっと・・・」
山「ほらほら、急がないと時間がなくなっちゃいますよ。」
なにやら反論しかける桜花さんを山田さんが半ば強引に引っ張って行った。
相性なのかなんなのか、あの押しの強そうな桜花さんを有無を言わさず連行するとはすごいものだ。
マ「・・・お待たせ。さて、それじゃあいただこうか。」
蒼「うん、いただきます。マスターさ、なんかモテモテだね。」
マ「女同士だと思われてるからねえ。女の人って団体行動が好きそうだし。」
蒼「じゃあまた誰か来るかも・・・。なんだか落ち着かないや。」
マ「確かに。言い方は悪いけれど桜花さんにはなんか付きまとわれ気味だしな。
ここは人気はないけど・・・また誰か来るかもしれないなあ。
蒼星石が自分で食べているとこを誰かに見られたらまずいから用心して僕が食べさせるね。」
蒼「え、そういうことでなくって・・・。」
マ「まあまあ、これなら僕がディープな人だと思われるだけだからさ。はい、あーん。」
蒼「・・・まあ、いいか。ありがとう。」
その後は邪魔が入らずに二人でお弁当を食べる事が出来た。
お弁当も食べ終わり、腹ごなしも兼ねて辺りを散策してから車に戻るとちょっとした騒ぎが起きていた。
マ「どうしたんです?」
そばにいた“白崎さん”に聞く。
白「いやあね、さっき黒崎さんと食事してたら桜花さんが血相を変えてやって来て・・・。
なんでも大事なハンドバッグを失くしたとかで。探すのも手伝ったんですが見つからなくって。
忘れ物等で確認を取っても出てこないそうで、置き引きかもしれないと。いやあ、世知辛いですね。」
黒「あー、あ・・・あの、その・・・結局見つからなかったんですが。つ、通報・・・しましょうか・・・?」
ただでさえどもりがちなのに軽いパニックがそれに輪をかけている模様だ。
梅「・・・いいえ、せっかくの旅行なのに警察なんて呼んでいたら時間も取られて台無しになってしまうわ。
ここはそのまま行きましょう。不幸中の幸いで貴重品も入っていませんでしたし・・・。」
黒「そうですか?しかし・・・。」
梅「いいんです。あんなものよりも皆さんとの思い出の方が大切ですから。」
黒「あ、あ、はい・・・。そうですか、そこまでおっしゃるのでしたらこのままで行ってしまいますが。」
とんでもない事に、ホントにそのまま何事もなかったかのように出発しようとする。
全員が席に着き、車にエンジンがかかる。
やはり気になり桜花さんに問い質す。
マ「本当にこのままで良いんですか?大事なものがあったんじゃ・・・。」
さっき聞いた話では大事なバッグだったそうなのに。
梅「まあ・・・ね。でもね、わたしこうしてワイワイやるのが好きなの。
だけどこういう風に誰かと旅行するなんて滅多に出来ないから。
他の人に迷惑なのもあるけど、何よりも私にとって、どっちも大事かもしれないけれど、こっちの方がより大事なのよ。」
気丈にもそうは言うが、やはりショックは大きかったのも確かなのだろう。
さっきまでの陽気さは影をひそめてしまい、どことなく落ち着かないようで、様子が変だった。
マ「あの・・・大丈夫ですか?体調が悪いとか、気分が悪いとか・・・。」
梅「ええ、大丈夫よ。・・・ありがとう。」
結局、そのまま発車してしまった。
その後の桜花さんはそれまでの活発さが嘘のようになりを潜めてしまい、ずっと黙ったままだった。
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