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ソウデレラ その2」(2006/11/05 (日) 01:28:42) の最新版変更点

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←「[[ソウデレラ その1]]」へ戻る ?:「マスター・オブ・ウィザードということで『マスター』とでも呼んでくれ。」 蒼:「マス・・ター・・・?」    なんだ、この泥棒?    呆気にとられるばかりの蒼デレラ。 マ:「でだ。何を泣いてなすった、お嬢さん?」    部屋に侵入してきて、いきなりわけのわからないことを言い出す男に呆然となった蒼デレラですが    すぐに我に返るとすかさず男に鋏を突きつけ、追い出すために躍起になりました。 蒼:「あ、の・・・ど、泥棒め! 今すぐ出て行けと言ったはずだ!」 マ:「だから俺は泥棒なんかじゃないって。魔法使いだ。」 蒼:「嘘を付くな! 僕が小さいからってバカにして!」 マ:「いやいや、嘘じゃねぇって。」 蒼:「今時、魔法使いだなんて、子供騙しもいいところだよ!」 マ:「いやいやいや、子供騙しじゃねぇって、現に隣国じゃ魔女狩りが社会問題になってて・・・」 蒼:「うるさい! 賊の言うことなんかに訊く耳持たない!」 マ:「まいったね、こりゃ。」 蒼:「出ていかないと言うんなら・・・・」    チョッキン・・・チョッキン・・・・    大柄な鋏の刃を開閉させ威嚇する蒼デレラ。本当はこの得体の知れない男が怖くて今にも逃げ出したいのですが、    この家の留守を預かる身として一歩も引いてはならないと自分に言い聞かせました。    マスターと名乗った男の方はというと、そんな様子の蒼デレラを見て困った風に人差し指でこめかみを掻きはじめました。    ポリポリポリ・・・ マ:「・・・んじゃ俺が魔法使いっていう証拠を見せよう。これを見ればもう子供騙しなんて言えまい・・・?」    男はそう言うと片手を体の後ろに回しました。そして再び片手が前に出されると、その手には木でできた杖が握られていました。 蒼:「!?」 マ:「じゃ、いくぜ。」    杖を手にし、もう片方の空いてる手はジャンケンのチョキで突き出す二本の指を閉じたような形にして眉間に構えました。    明らかに周りの空気が変わりました。なにか、張り詰めたような。 蒼:「わわわ!」    なんと男の背後から マB:「マスターBです。」 マC:「マスターCです。」 マD:「マスターDです。」 マE:「マスターEです。」 マF:「マスターFです。」    次々と、目の前のマスターと名乗った男とまったく同じ姿の男が五人、スライドして現れました。 マ:「俺はマスターAになるわけだな。」    と元からいたマスターが言いました。 マ:「「「「「「どうだ、遠い東の国で会得した魔法だ。すごいだろう?」」」」」」    全く同じ外見の男六人に同時に言われ、蒼デレラは凍りつきました。 蒼:「す、すごいというか・・・異様・・・。」    蒼デレラは完全に引いてます。    期待した通りのリアクションが返ってこなかったからか、六人のマスターは同時に眉をひそめました。 マ:「「「「「「もっと夢のある魔法が良かったか?」」」」」」    六人のマスターが同時に顎に手をやり、考え始めました。 蒼:「あ、あの、怖いです・・・。」 マA:「戻れ。」    残り五人がスライドして先頭のマスターの後ろに隠れました。    蒼デレラがそうっとマスターの後ろを伺いましたが、そこにはもう誰もいませんでした。 蒼:「あ、あの、僕・・・。」 マ:「ん?」 蒼:「お金も持ってないし・・・目ぼしいものも持ってません・・・。こ、この家には何もありません。だから・・・。」 マ:「んん?」 蒼:「あの、その、ええと・・・だから出て行って下さい。」 マ:「だが断る。」 蒼:「・・・・!」 マ:「まだ君が泣いていた理由を訊いていない。」 蒼:「え・・それは・・・。」 マ:「うら若き乙女の涙を放っておいちゃあ、『マスター』の名が廃る。話してみなさい。決して悪いようにはしない。」 蒼:「・・・・。」    蒼デレラがまごまごしてるとマスターは屈んで杖を地面に置き、そのまま正座してしまいました。    正座したままマスターがまっすぐ蒼デレラを見据えます。 マ:「どうだ、この座り方。『正座』というんだが、これでなかなかキツイ座り方なんだ。俺の大の苦手でね。    早く話さないと俺の足がエライことになってしまうぞ。さぁ、話してくれ。」    と大真面目な顔で蒼デレラに喋るよう迫りました。 蒼:「えぇ!?」    な、なにを言ってるんだろ、この人・・・?    そのまま無言で見詰め合うこと数分・・・・ マ:「ああ、もうヤバイ・・・キツイ・・・早く話してくれ。」 蒼:「そ、そんな・・・。」    なんで会ったばかりの見ず知らずの人に自分の弱音を話さないといけないんだ。しかも変な人だし。    そう蒼デレラは思いました。 マ:「あ、足ヤバイ・・・痺れ、痺れた・・・」 蒼:「・・・・。」 マ:「お願いします、話して下さい。」    ついにマスターは蒼デレラに土下座してしまいました。    しかし、この国には土下座なんていう文化はありませんでしたので、蒼デレラにはイマイチ伝わりませんでした。 蒼:「い、嫌です。話したくありません。顔を上げて下さい。」 マ:「いや、話してくれるまで顔を上げません。というかもう足が痺れて動けません・・・。」       早く帰って欲しい。かと言って邪険には扱えない。下手に刺激するとこの魔法使い、何をしでかすかわからない。    蒼デレラはすっかり困ってしまいました。    相変わらずマスターを名乗る男は土下座したままでした。 蒼:「・・・・僕が、泣いてたのは・・・その、お腹が空いてたからです。」 マ:「・・・・。」 蒼:「・・・・。」    困り果てた蒼デレラが咄嗟についた嘘でした。 マ:「この家は、子供にろくすっぽ食事もさせないのか?」    土下座したままマスターが訊きました。 蒼:「あ、いえ・・・違います。僕が・・・その・・・食事を床に落としてしまって・・・」 マ:「落とした食事はどこに?」 蒼:「え・・・あの、その・・・」 マ:「君は嘘が下手だね。顔を見なくてもわかるよ。」    と地に顔を伏せたままマスターは言いました。 マ:「わかった。じゃあこの家の他の住人から訊いてみることにするよ。」 蒼:「え?」 マ:「ん!」    顔を上げて立ち上がろうとしたマスターでしたが マ:「いで、いでででで。足に力が入らねぇ・・・。」    痺れ切った足を辛そうに擦るマスター。 マ:「しょ、しょうがない・・・。」    ズリズリズリ・・・・    とマスターは地を這いつくばって匍匐全身で移動をはじめました。 蒼:「な、なに?」    そしてマスターはそのまま部屋の隅の花瓶を置いてる棚のところまで進み    床を這ったまま壁をコンコンコンと叩き始めました。 蒼:「何をしてるの・・・?」    すると棚の隙間から    ヒョコッ! 鼠:「チューチュー」    鼠が顔を覗かせました。 マ:「ちゅうちゅうちゅ。」 鼠:「チュチュチュチュ、チューチューチュチュチュー。」 マ:「ちゅちゅちゅのちゅー」 鼠:「チュチュチューチュチュチュチューチュー。」 マ:「ちゅ? ・・・ちゅっちゅっちゅっちゅ!」 鼠:「チュッチュッチュッチュ!」    ね、鼠と会話してる・・・!    やっぱりこの人ただものじゃない・・・・! ・・・変な人だけど。    と蒼デレラは思いました。 マ:「ちゅ、ちゅちゅ。」 鼠:「チュチュー。」    鼠が引っ込みました。 マ:「なるほどな・・・ふう・・・。」    足の痺れが取れたのか、体に付いた埃を払いながらようやくマスターは立ち上がりました。 マ:「じゃ、行こうか。」 蒼:「え、どこに?」 マ:「お城に踊りにだよ。」    マスターはステップを踏んでみせました。 蒼:「え、どうして・・・?」 マ:「ここの鼠さんが君の境遇を洗いざらい喋ってくれたよ。義理の家族からだいぶ酷い目に遭わされてるようだね。    でも君はそのことを言わなかった。」 蒼:「・・・。」 マ:「鼠さん方も君のこの家でされてる酷い仕打ちにだいぶ腹が立ってるみたいだな。    ここの義母と義姉のお気に入りのドレスを齧って穴だらけにしたそうだぞ。」 蒼:「え・・・・。」 マ:「鼠さん、君に『頑張れっ、僕らがついてる!』だってさ。どうやら君のファンらしいな、連中。」 蒼:「・・・・・。」    マスターは蒼デレラの傍らに行くと、屈んで頭に手を・・・と一瞬手を引っ込めゴシゴシと服で擦ってから    蒼デレラの頭を優しく撫でました。 マ:「小さなやつらだけど、ずっと見守ってくれてたんだよ。君は一人じゃなかったんだ。・・・そして今俺がきた。」 蒼:「僕は、一人じゃない・・・・?」 マ:「ああ、今までよく頑張った。偉い。」    蒼デレラは戸惑い、とても困った顔をしてしまいました。    どうして、この人は僕にこんな優しい言葉を掛けてくれるんだろう? 優しく撫でてくれるんだろう?    蒼デレラが久しく忘れていた他者からのぬくもりでした。     蒼:「・・ずっと、寂しかったんだ・・誰も・・僕・うっう・・・ぐす・・う・・・・」 マ:「よしよし・・・。」    蒼デレラはマスターに抱きつきました。そして、泣き続けました。    そうして暫く後・・・ マ:「さて、そろそろ泣き止んでくれんと間に合わなくなるぞ。」 蒼:「?」 マ:「忘れたのか、舞踏会。」 蒼:「え、僕・・・。」 マ:「何を怖気づいてるんだ?」 蒼:「その、お留守番頼まれてるから・・・。」 マ:「ハァ~~~~・・・・義理堅過ぎるぞ、おま・・・・ええと、そう言えば名前まだ訊いてなかったな。」 蒼:「蒼デレラと言います。」 マ:「蒼デレラか。蒼デレラ・・・・・・うむ。心配するな、留守番なら・・・・。」    マスターが床を指差しました。    蒼デレラが指差された場所を見ると鼠の一家が勢ぞろいしてました。 マ:「蒼デレラに協力したいってさ。まったく凄いぜ、君に迷惑が掛からないように蚤一匹飼わずに清潔に暮らしてるんだと。    よほど気に入られてるね蒼デレラは。・・・・ちゅちゅちゅー。」    マスターが鼠語で話すと一匹の鼠が前に出ました。メスの鼠です。    杖を構え、もう片方の空いてる手もジャンケンのチョキで突き出す二本の指を閉じたような形にして眉間に構えました。    そして杖を鼠に振りかざすと・・・    ボワンッ    煙が上がり・・・ 蒼:「ああ!」    そこにいつの間にかもう一人の自分が立っていました。 マ:「鼠を君に変化(ヘンゲ)させた。ちゅっちゅちゅ。」 鼠蒼:「チュー!」 マ:「さ、この子に任すから留守番の問題はクリアだ。」 蒼:「で、でも・・・。」 鼠蒼:「チュチュー。」 マ:「気にしないで、だと。」 蒼:「・・・・ありがとう。」 マ:「さて、次は・・・・。」    ジロリと蒼デレラを一瞥するマスター。    蒼デレラは義父に一瞥された後酷いことを言われたのを思い出しました。 マ:「う~ん、君のようなキュートな女性には・・・。」    キュー・・ト・・・え、僕が・・・?    マスターがまた例の構えをとりました。そして杖を蒼デレラに振りかざします。    ボワンッ    蒼デレラが煙に包まれました。やがて煙が晴れると・・・ 蒼:「・・・!」    蒼デレラの庭師の服は可愛らしいピンクのドレスに変化していました。シルクハットはピンクのリボンに。    マスターは懐から手鏡を取り出すと、これもまた杖を振るって両手にすっぽり収まるほどに巨大化させました。    鏡に蒼デレラを映してあげます。 蒼:「これが・・・僕・・・?」 マ:「ああ。」 蒼:「なんか・・・自分じゃないみたいだ・・・。」 マ:「いや、正真正銘君だよ。」 蒼:「・・・あの、せっかくですけれど・・・。」    おずおずと蒼デレラがマスターに言います。 マ:「んん? 気に入らなかった? とても似合ってたが。」 鼠達:「チューチュー!」 マ:「鼠さん方も『ヤッベ、マジヤッベ! 可愛すぎ!』ってフィーバーしとるぞ。」 蒼:「え・・、でも、僕の庭師の服はお父様から頂いて今まで大切に着ていたから・・・元に戻して欲しいです・・・    ごめんなさい、せっかくこんな素敵なドレスにして頂いたのに・・・。」 マ:「ふむふむ、なるほど。でも大丈夫、今夜の零時を過ぎれば魔法が解けるようにしといたから。    魔法ってのは長続きしないもんなんだよ。」 蒼:「・・そうなんですか・・・、ありがとうございます。」 マ:「じゃ外に出よう。」    家の裏庭に出た蒼デレラとマスターと鼠達。 マ:「さて、次は移動手段だが・・・。」    マスターは辺りを見渡しました。 マ:「なかなかいい素材がねぇなあ・・・そうだ、蒼デレラ、台所にカボチャとか無いだろか?    もしあれば、すまんけど取ってきてくれない?」」 蒼:「カボチャですか・・・何に使うんですか?」 マ:「ちょっと馬車の元になる素材に使おうかと・・・。」 蒼:「ちょっと待ってて下さい。」    トテテテ・・・と蒼デレラは家に戻っていきました。    その後姿を暖かく見守るマスター。 マ:「・・・・。ん?」 鼠達:「チューチュー。」 マ:「うるせー、冷やかすな。ちゅちゅー。」 鼠達「チュッチュッチュ!」 マ:「ちっ・・・。」    程なくして蒼デレラが戻ってきました。 蒼:「すみません、こんなのしかありませんでした。」    蒼デレラが抱えている野菜を見やるマスター。 マ:「ズッキーニとは・・これまたマイナーな野菜を持ってきましたな・・・。」      ズッキーニ・・・つる無しカボチャの一種。ナスに似た食感。マスターはマイナーと言ったが            ヨーロッパではわりかしポピュラーな野菜。形的には『育ち過ぎたキュウリ』といった感じ。 蒼:「駄目、でした・・・?」 マ:「あ、いやいや。時間もねぇし、そのズッキーニを地面に置いて。」    それでもなんとかマスターは想像力を働かせ、ズッキーニに魔法を掛けて箱馬車を拵えました。    出来上がった馬車を見て マ:「ちと細長いが、しょうがねぇな。」    ちゃんと曲がれるのかな・・・?    蒼デレラは不安になりましたが今はこの魔法使いを信じる他ありません。 マ:「馬は・・・そこの鼠さん方。」    鼠一家の中からとりわけ元気のいい三匹が選ばれ、魔法を掛けられて馬に変化しました。 マ:「俺も着替えるか・・・。蒼デレラ、ちょっと後ろ向いててくれないか?」 蒼:「はい。」    素直に後ろを向くこと2、3秒。 マ:「いいぞ。」 蒼:「あ・・・。」    振り向くとそこには御者の格好したマスターが立っていました。 マ:「よっしゃ、準備OK。はやいとこ行くぞ。」    蒼デレラに馬車に乗るよう促すマスター。 蒼:「あ、あの。」    しかし蒼デレラは困ったようにマスターの方を向きます。 マ:「どした?」 蒼:「馬車の入り口が高くて乗り込めないです・・・・。」 マ:「ほいほい。」    ヒョイッと蒼デレラはマスターに抱っこされました。 蒼:「あ、あの!?」    マスターは構わずそのまま馬車に乗り込みます。    マスターは座席に蒼デレラを座らせました。 蒼:「あ、ありがとうございます・・・。」 マ:「どういたしまして、お嬢さん。」    ニコッと笑い、御者台に移って手綱をとりました。 馬達:「ヒヒーン!」 マ:「出発するぞ、いざ行かん! 城へ!」 蒼:「はいっ、マスター!」        かくして少女蒼デレラと変な魔法使いマスターの短い旅が始まりました。                                       「[[ソウデレラ その3]]」に続く
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   そのまま無言で見詰め合うこと数分・・・・ マ:「ああ、もうヤバイ・・・キツイ・・・早く話してくれ。」 蒼:「そ、そんな・・・。」    なんで会ったばかりの見ず知らずの人に自分の弱音を話さないといけないんだ。しかも変な人だし。    そう蒼デレラは思いました。 マ:「あ、足ヤバイ・・・痺れ、痺れた・・・」 蒼:「・・・・。」 マ:「お願いします、話して下さい。」    ついにマスターは蒼デレラに土下座してしまいました。    しかし、この国には土下座なんていう文化はありませんでしたので、蒼デレラにはイマイチ伝わりませんでした。 蒼:「い、嫌です。話したくありません。顔を上げて下さい。」 マ:「いや、話してくれるまで顔を上げません。というかもう足が痺れて動けません・・・。」       早く帰って欲しい。かと言って邪険には扱えない。下手に刺激するとこの魔法使い、何をしでかすかわからない。    蒼デレラはすっかり困ってしまいました。    相変わらずマスターを名乗る男は土下座したままでした。 蒼:「・・・・僕が、泣いてたのは・・・その、お腹が空いてたからです。」 マ:「・・・・。」 蒼:「・・・・。」    困り果てた蒼デレラが咄嗟についた嘘でした。 マ:「この家は、子供にろくすっぽ食事もさせないのか?」    土下座したままマスターが訊きました。 蒼:「あ、いえ・・・違います。僕が・・・その・・・食事を床に落としてしまって・・・」 マ:「落とした食事はどこに?」 蒼:「え・・・あの、その・・・」 マ:「君は嘘が下手だね。顔を見なくてもわかるよ。」    と地に顔を伏せたままマスターは言いました。 マ:「わかった。じゃあこの家の他の住人から訊いてみることにするよ。」 蒼:「え?」 マ:「ん!」    顔を上げて立ち上がろうとしたマスターでしたが マ:「いで、いでででで。足に力が入らねぇ・・・。」    痺れ切った足を辛そうに擦るマスター。 マ:「しょ、しょうがない・・・。」    ズリズリズリ・・・・    とマスターは地を這いつくばって匍匐全身で移動をはじめました。 蒼:「な、なに?」    そしてマスターはそのまま部屋の隅の花瓶を置いてる棚のところまで進み    床を這ったまま壁をコンコンコンと叩き始めました。 蒼:「何をしてるの・・・?」    すると棚の隙間から    ヒョコッ! 鼠:「チューチュー」    鼠が顔を覗かせました。 マ:「ちゅうちゅうちゅ。」 鼠:「チュチュチュチュ、チューチューチュチュチュー。」 マ:「ちゅちゅちゅのちゅー」 鼠:「チュチュチューチュチュチュチューチュー。」 マ:「ちゅ? ・・・ちゅっちゅっちゅっちゅ!」 鼠:「チュッチュッチュッチュ!」    ね、鼠と会話してる・・・!    やっぱりこの人ただものじゃない・・・・! ・・・変な人だけど。    と蒼デレラは思いました。 マ:「ちゅ、ちゅちゅ。」 鼠:「チュチュー。」    鼠が引っ込みました。 マ:「なるほどな・・・ふう・・・。」    足の痺れが取れたのか、体に付いた埃を払いながらようやくマスターは立ち上がりました。 マ:「じゃ、行こうか。」 蒼:「え、どこに?」 マ:「お城に踊りにだよ。」    マスターはステップを踏んでみせました。 蒼:「え、どうして・・・?」 マ:「ここの鼠さんが君の境遇を洗いざらい喋ってくれたよ。義理の家族からだいぶ酷い目に遭わされてるようだね。    でも君はそのことを言わなかった。」 蒼:「・・・。」 マ:「鼠さん方も君のこの家でされてる酷い仕打ちにだいぶ腹が立ってるみたいだな。    ここの義母と義姉のお気に入りのドレスを齧って穴だらけにしたそうだぞ。」 蒼:「え・・・・。」 マ:「鼠さん、君に『頑張れっ、僕らがついてる!』だってさ。どうやら君のファンらしいな、連中。」 蒼:「・・・・・。」    マスターは蒼デレラの傍らに行くと、屈んで頭に手を・・・と一瞬手を引っ込めゴシゴシと服で擦ってから    蒼デレラの頭を優しく撫でました。 マ:「小さなやつらだけど、ずっと見守ってくれてたんだよ。君は一人じゃなかったんだ。・・・そして今俺がきた。」 蒼:「僕は、一人じゃない・・・・?」 マ:「ああ、今までよく頑張った。偉い。」    蒼デレラは戸惑い、とても困った顔をしてしまいました。    どうして、この人は僕にこんな優しい言葉を掛けてくれるんだろう? 優しく撫でてくれるんだろう?    蒼デレラが久しく忘れていた他者からのぬくもりでした。     蒼:「・・ずっと、寂しかったんだ・・誰も・・僕・うっう・・・ぐす・・う・・・・」 マ:「よしよし・・・。」    蒼デレラはマスターに抱きつきました。そして、泣き続けました。    そうして暫く後・・・ マ:「さて、そろそろ泣き止んでくれんと間に合わなくなるぞ。」 蒼:「?」 マ:「忘れたのか、舞踏会。」 蒼:「え、僕・・・。」 マ:「何を怖気づいてるんだ?」 蒼:「その、お留守番頼まれてるから・・・。」 マ:「ハァ~~~~・・・・義理堅過ぎるぞ、おま・・・・ええと、そう言えば名前まだ訊いてなかったな。」 蒼:「蒼デレラと言います。」 マ:「蒼デレラか。蒼デレラ・・・・・・うむ。心配するな、留守番なら・・・・。」    マスターが床を指差しました。    蒼デレラが指差された場所を見ると鼠の一家が勢ぞろいしてました。 マ:「蒼デレラに協力したいってさ。まったく凄いぜ、君に迷惑が掛からないように蚤一匹飼わずに清潔に暮らしてるんだと。    よほど気に入られてるね蒼デレラは。・・・・ちゅちゅちゅー。」    マスターが鼠語で話すと一匹の鼠が前に出ました。メスの鼠です。    杖を構え、もう片方の空いてる手もジャンケンのチョキで突き出す二本の指を閉じたような形にして眉間に構えました。    そして杖を鼠に振りかざすと・・・    ボワンッ    煙が上がり・・・ 蒼:「ああ!」    そこにいつの間にかもう一人の自分が立っていました。 マ:「鼠を君に変化(ヘンゲ)させた。ちゅっちゅちゅ。」 鼠蒼:「チュー!」 マ:「さ、この子に任すから留守番の問題はクリアだ。」 蒼:「で、でも・・・。」 鼠蒼:「チュチュー。」 マ:「気にしないで、だと。」 蒼:「・・・・ありがとう。」 マ:「さて、次は・・・・。」    ジロリと蒼デレラを一瞥するマスター。    蒼デレラは義父に一瞥された後酷いことを言われたのを思い出しました。 マ:「う~ん、君のようなキュートな女性には・・・。」    キュー・・ト・・・え、僕が・・・?    マスターがまた例の構えをとりました。そして杖を蒼デレラに振りかざします。    ボワンッ    蒼デレラが煙に包まれました。やがて煙が晴れると・・・ 蒼:「・・・!」    蒼デレラの庭師の服は可愛らしいピンクのドレスに変化していました。シルクハットはピンクのリボンに。    マスターは懐から手鏡を取り出すと、これもまた杖を振るって両手にすっぽり収まるほどに巨大化させました。    鏡に蒼デレラを映してあげます。 蒼:「これが・・・僕・・・?」 マ:「ああ。」 蒼:「なんか・・・自分じゃないみたいだ・・・。」 マ:「いや、正真正銘君だよ。」 蒼:「・・・あの、せっかくですけれど・・・。」    おずおずと蒼デレラがマスターに言います。 マ:「んん? 気に入らなかった? とても似合ってたが。」 鼠達:「チューチュー!」 マ:「鼠さん方も『ヤッベ、マジヤッベ! 可愛すぎ!』ってフィーバーしとるぞ。」 蒼:「え・・、でも、僕の庭師の服はお父様から頂いて今まで大切に着ていたから・・・元に戻して欲しいです・・・    ごめんなさい、せっかくこんな素敵なドレスにして頂いたのに・・・。」 マ:「ふむふむ、なるほど。でも大丈夫、今夜の零時を過ぎれば魔法が解けるようにしといたから。    魔法ってのは長続きしないもんなんだよ。」 蒼:「・・そうなんですか・・・、ありがとうございます。」 マ:「じゃ外に出よう。」    家の裏庭に出た蒼デレラとマスターと鼠達。 マ:「さて、次は移動手段だが・・・。」    マスターは辺りを見渡しました。 マ:「なかなかいい素材がねぇなあ・・・そうだ、蒼デレラ、台所にカボチャとか無いだろか?    もしあれば、すまんけど取ってきてくれない?」」 蒼:「カボチャですか・・・何に使うんですか?」 マ:「ちょっと馬車の元になる素材に使おうかと・・・。」 蒼:「ちょっと待ってて下さい。」    トテテテ・・・と蒼デレラは家に戻っていきました。    その後姿を暖かく見守るマスター。 マ:「・・・・。ん?」 鼠達:「チューチュー。」 マ:「うるせー、冷やかすな。ちゅちゅー。」 鼠達「チュッチュッチュ!」 マ:「ちっ・・・。」    程なくして蒼デレラが戻ってきました。 蒼:「すみません、こんなのしかありませんでした。」    蒼デレラが抱えている野菜を見やるマスター。 マ:「ズッキーニとは・・これまたマイナーな野菜を持ってきましたな・・・。」      ズッキーニ・・・つる無しカボチャの一種。ナスに似た食感。マスターはマイナーと言ったが            ヨーロッパではわりかしポピュラーな野菜。形的には『育ち過ぎたキュウリ』といった感じ。 蒼:「駄目、でした・・・?」 マ:「あ、いやいや。時間もねぇし、そのズッキーニを地面に置いて。」    それでもなんとかマスターは想像力を働かせ、ズッキーニに魔法を掛けて箱馬車を拵えました。    出来上がった馬車を見て マ:「ちと細長いが、しょうがねぇな。」    ちゃんと曲がれるのかな・・・?    蒼デレラは不安になりましたが今はこの魔法使いを信じる他ありません。 マ:「馬は・・・そこの鼠さん方。」    鼠一家の中からとりわけ元気のいい三匹が選ばれ、魔法を掛けられて馬に変化しました。 マ:「俺も着替えるか・・・。蒼デレラ、ちょっと後ろ向いててくれないか?」 蒼:「はい。」    素直に後ろを向くこと2、3秒。 マ:「いいぞ。」 蒼:「あ・・・。」    振り向くとそこには御者の格好したマスターが立っていました。 マ:「よっしゃ、準備OK。はやいとこ行くぞ。」    蒼デレラに馬車に乗るよう促すマスター。 蒼:「あ、あの。」    しかし蒼デレラは困ったようにマスターの方を向きます。 マ:「どした?」 蒼:「馬車の入り口が高くて乗り込めないです・・・・。」 マ:「ほいほい。」    ヒョイッと蒼デレラはマスターに抱っこされました。 蒼:「あ、あの!?」    マスターは構わずそのまま馬車に乗り込みます。    マスターは座席に蒼デレラを座らせました。 蒼:「あ、ありがとうございます・・・。」 マ:「どういたしまして、お嬢さん。」    ニコッと笑い、御者台に移って手綱をとりました。 馬達:「ヒヒーン!」 マ:「出発するぞ、いざ行かん! 城へ!」 蒼:「はいっ、マスター!」        かくして少女蒼デレラと変な魔法使いマスターの短い旅が始まりました。                                       「[[ソウデレラ その3]]」に続く

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