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おれおれ詐欺にご用心」(2006/10/11 (水) 02:57:47) の最新版変更点

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 マ「蒼星石もさ、自分で自由に使えるお金って欲しくない?」   発端は朝出かける前にマスターが言ったそんな一言だった。  蒼「え?でもお金なんて持っていても僕には使う機会なんてないし・・・。」  マ「だけどさ、自分のお小遣いを貯めておけば蒼星石も欲しいものを買えるじゃない。    もちろん僕が代わりに買ってきたり、通信販売でって形にはなるだろうけどね。」  蒼「欲しいものだなんて・・・。僕はマスターさえ喜んでくれていればそれで十分なんだ。    その他にも望むなんて身に余る贅沢だよ。それにお金をきちんと管理できる自信だってないしね。」  マ「蒼星石はしっかりしてるから大丈夫だと思うよ?」  蒼「それはありがとう。だけど世間知らずなところも多いと思うし、そもそも僕にはお金を稼ぐ手立てもないからね。」  マ「それなら毎月のお小遣いだとか、いつもいろいろ働いてもらっているお礼だとかって事でさ。」  蒼「別にいいよ。お小遣いをもらうだなんて立場じゃないし、それに・・・」  マ「それに何?」  蒼「それに、僕がマスターのためにいろいろとさせてもらっているのは見返りが欲しいからじゃないんだ。    だからそれをそうやってお金という形で対価にされてしまうのはなんかさびしいよ・・・。」  マ「あ・・・ご、ごめん。決してそんなつもりじゃ・・・。」   そう言ってマスターは落ち込んでしまう。  蒼「あ、いや、マスターを非難した訳じゃないよ。」  マ「本当にごめんね。・・・行ってきます。」   結局、家を出る時までマスターの表情は暗いままだった。  蒼「はあ・・・僕って駄目だなぁ・・・。」   家事も一段落して一息ついているとどうしても今朝のことが思い出されてしまう。   マスターに悪気など微塵もなかったのは分かり切ってるのにあんな事を言って傷つけてしまった。   可愛げのない奴と思われちゃったかな・・・。  蒼「欲しいもの・・・かあ。」   所在なく通信販売のカタログをめくる。この間翠星石が遊びに来た時に置いていったものだ。   ページごとに様々な商品が並んでいる。おもちゃや服、何に使うのかも見当がつかないようなものまである。   普段ウインドウショッピングなどする機会のない自分たちにとってはこれを見ているだけでも楽しいものだ。   翠星石もあれこれと欲しがっていたっけ。ジュン君にでもおねだりするんだろうな。   うらやましいな・・・そうやって素直に自分を出せるってのは。   中には自分も多少なりとも心惹かれるものだってある。   くんくんの大きなぬいぐるみだとか、あと・・・女の子らしい服。   こんなの僕には似合わないかな?   でも、これならひょっとしたらマスターも少しは女の子らしく可愛いところがあると思ってくれるかもしれない。   ・・・やめておこう、いずれにせよ自分には関係のないことだ。   ただ遠くから眺めて、憧れているだけでいいんだ・・・。   そうやってパラパラとカタログを眺めていると珍しく電話が鳴った。   何か大事な連絡かもしれないし、一応出ておこうか。  「はい、もしもし。どちら様でしょうか?」  『もしもし!俺なんだけど、えらいことになった!』  「え・・・?」   何やらいかにも演技くさい、挙動不審な感じがぷんぷんと漂っている。   どうやら原始的なおれおれ詐欺ってやつのようだ。それもよりによってこっちの虫の居所が悪い時に・・・。   しかしもうちょっと事前調査のようなものはしないのだろうか?   まだ一言二言交わしただけなのにいろいろと突っ込みどころが多すぎるのだが・・・。   まあ滅多にないことだし、ちょっとだけ調子を合わせてお手並み拝見といこうか。  『もしもし、もしもし!聞いてくれてる?』  「う、うん聞いてるよ。」  『えーと、ひょっとして誰なのか分からない?』  「マ・・・カズキくん、だよね。」  『そうそう!実は事故に遭っちゃって、トラブルに巻き込まれちゃったんだ!』   なるほど、電話だと案外相手の声というのははっきりしない。   最初に動揺させられたらいい加減な話にでも意外と引っかかるのかもしれないな。  「それでぼ・・・わたしに何かできる事はあるの?」   今はちょうど暇もあるし、憂さ晴らしがてらこのまま引っかかったふりをしてちょっとからかってやろうか。  『あのね、このままだと逮捕されかねないからね、これから言う口座にね・・・。』  「逮捕!?そんなのダメっ!カズキに何かあったらわたしもう生きていけないよ!」   相手には声しか伝わらず、こちらの顔も素性も分からないというのは気安いものだ。   思いの外大胆なことも出来てしまう。おそらく詐欺を働く側も同じなのだろうな。  『え、ああ、そうなの・・・。だからね、お金をこれか・・・』  「お願い、わたしを一人にしないで!カズキがいないと・・・わたし、もう・・・。」   ちょっとばかり泣き真似なんぞもしてやろう。  『あのね、だからね、お金が・・・。とにかく泣かないで、ね?』   どうやらこちらの予想外の慌てぶりに相手の方が動揺しているようだ。   さて、ではこれからが本番だ。  「・・・・・・・・・。」  『あの、急に黙っちゃったけど、落ち着いて聞いてくれる?』  「あなた一体どういうつもり?」  『え!?』  「わたしとカズキの関係・・・分かってるでしょ?」  『・・・・・・・・・。』   今度は電話の向こうの相手が黙ってしまう。   当然ながらマスターと僕との関係が分かるわけがない。  「カズキ、あなたご主人様にお願いするってのにその態度はないでしょ?」  『ご、ご主人様ぁ!?』  「そうよ。あなたはわたしの下僕でしょ?   それならそれ相応のお願いの仕方ってものがあるんじゃないの?」  『あ、はい。どうかこの卑しい下僕めを助けるためにお力を貸して下さい。』   やはり冷静さを欠くとこんな他愛もない嘘にも引っかかってしまうのだな。   落ち着いて考えればさっきまでの内容との矛盾もあるだろうに。   まあこういった駆け引きも最初に主導権さえ握ってしまえばあとは思いのままに事が運ぶのだろう。   もっとも、電話の向こうの人間にとっては今回は相手が悪かったようだが。  「あら、それだけなの?あなたわたしがいなくなったらどうなるか分かってるの?」  『えーと・・・たぶんもう生きていけません。』  「へえ、たぶんなんだ。ふーん、じゃあ見捨てちゃってもいいのかな?」  『あ、いえ、違います!あなたなしでは間違いなく生きていけません!どうか捨てないで下さい!!』   こんな事をマスターが口にしたら、と想像するとなんだか胸が高鳴ってくる。  「捨てないで欲しい?」  『はい、お願いします。なんでもしますからどうかそれだけは!!』  「じゃあさ、これからは身も心も僕の奴隷になってご奉仕できる?」  『は、はい分かりました。やります!』  「やります?へえ、わざわざやってくれるって事かな?へー・・・。」  『い、いえ、ご主人様のためにぜひぜひやらせて頂きます!!』   ここまで騙されやすいと面白くなってしまう。   だけどもうそろそろお開きにしようか。  『あの、それでお金の方は・・・。』  「はぁ!?何を言っているの?そんなの知らないよ!」  『ええっ、そんな!ここまでしたんですから・・・。』  「あのね、本当は僕とカズキの関係はアツアツの恋人同士なんだよ、分かる?」  『え・・・そうだったの・・・ですか?』  「ふふっ、そうだよ。だからね、騙そうとしたって無駄だよ?ぜーんぶお見通しなんだからね。」  『・・・・・・・・・。』  「まあ、これに懲りたらもうこんな馬鹿な真似からは足を洗うんだね。」  『はい、分かりました・・・・・・・・・・・・ごめんね、蒼星石。』  「!?もしもし、もしもし!!」   だが既に電話は切られていた。   ツーツーという音だけが聞こえる中呆然とする。  マ「・・・ただいま・・・。」   ばつの悪そうな様子でマスターが帰ってきた。  蒼「あ・・・お帰り・・・なさい。」  マ「あの・・・今日はごめんね。あんな事しちゃって。」  蒼「え、いや、その・・・。」   こちらも知らず知らずとはいえ、いろいろととんでもない事をしでかしてしまった。   お互いに相手の顔をまともに見る事ができない。  マ「あのさ、蒼星石がしっかりしてるって確認できたらあのまま打ち明けるつもりだったんだ・・・。    面白半分とかおふざけとかじゃなくって・・・。本当にごめん!試すような事しちゃって・・・。」  蒼「あ、こちらこそ・・・いろいろと失礼な事を言っちゃったり、呼び捨てにしちゃったり・・・ごめんなさい・・・。」   そこで再び気まずい沈黙が流れる。  蒼「・・・でも、なんであんな事をしたの?」   無言でマスターが手に持っていた袋を渡してくる。  蒼「これは?」  マ「その・・・お詫びとお土産と・・・日頃の感謝の印。    もちろんそれだけで普段してもらっていることに釣り合うだなんて思っていないけど。」  蒼「開けていいの?」  マ「うん、開けちゃって。」   はやる気持ちを抑えながら包装をとく。  蒼「あ・・・!」   中に入っていたのは、くんくんのぬいぐるみととっても女の子らしい服。   どちらもあのカタログに載っていたやつだ。  マ「蒼星石、最近よくカタログに見入っていたよね。大体の見当で買ったんだけど・・・あってたかな?」  蒼「う、うん。どっちも・・・あってる。」  マ「蒼星石だって欲しいものくらいあるだろうからね。本当は自分で好きなものを選んで買ってくれればと思ったんだけど。」  蒼「あ・・・それで今朝はあんな事を。」  マ「特に服なんてのはその人の好みだってあるだろうしね。」   そこでふと気づく。   さっきはつい勢いで認めてしまったが、自分がいかにも女の子向けの服を欲しいだなんて変に思われていないだろうか。  蒼「・・・あの、僕がこんな服着たって変なだけだよね・・・。」  マ「そう?きっと似合うと思うし、可愛いだろうと思うけどな。」   その言葉を聞いて、思わず頬が緩む。  蒼「・・・でもマスター、この服って大きめのサイズしかなかったよ?」  マ「・・・あ!!」  蒼「まあいいよ。どうせ僕には必要のないものだしね。」   マスターがさっき言ってくれた事だけでも僕にはもう十分だ。  マ「ははは、そうかもね。」  蒼「どうせ、僕にはこんな可愛いお洋服は似合わないもんね。」マ「何を着ていたって蒼星石は可愛いもんね。」   二人同時に、だが全く逆の内容が口から飛び出てきた。  蒼「も、もうっ!マスターったら思ってもいない事を言ってからかわないでよ!!」  マ「嘘じゃないさ。誰よりも可愛いし、女の子らしいって思ってるよ。」   そのままマスターが僕を抱き上げ、ぎゅっと抱きしめてくれた。  蒼「・・・本当?信じちゃうよ?」  マ「いやだなあ、信じてちょうだいよ。・・・こっちは『あなたなしでは間違いなく生きていけません!』なんだから。」   すっかりいつもの調子に戻ったマスターがニヤニヤしながら言った。  蒼「そ、そんな事をするから信じられないんだよ!」   顔が熱い。もう恥ずかしくて顔を上げていられない。  マ「やだなあ、アツアツの恋人同士なんだから照れなくてもいいじゃない?ね?」   そう言ってマスターが愉快そうにこちらの反応を覗き込んでくる。  蒼「うー・・・。」  マ「あはは、悪い悪い。分かってるよ、アツアツの恋人同士ってのも冗だ・・・」   言いかけたマスターの唇を自分の唇でしっかりとふさぐ。  マ「んっ・・・・・・。」  蒼「・・・本気だよ。」  マ「あ、その・・・え?え!?・・・・・・。」   今度はマスターが真っ赤になってうつむいてしまう番だった。   ・・・こういうのもやはり先に主導権を握ったもの勝ちのようだ。   一旦主導権を握れば、あとはもう思いのまま・・・。

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