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もしもシリーズ 美容師編」(2006/08/29 (火) 23:27:35) の最新版変更点

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 もしも蒼星石のマスターが美容師だったら    蒼星石はいつものように朝一番の大仕事にやってきた。    彼女のマスターはとにかくねぼすけなのだ。   蒼「マスター、早く起きて!このままじゃ今日も遅刻だよ!」   マ「うにゃ、遅刻はしないよ。」   蒼「もう、時計を見てよ!このままじゃご飯抜きでも間に合わないよ。」   マ「だーいじょうぶだって・・・。」   蒼「マスターはいつもだらしなさ過ぎるよ!もっとしゃんとしてよ。」   マ「えっとね・・、俺今日非番。」   蒼「・・・・・。」   マ「アンダスタン?」   蒼「え、と、ごめんなさい!」    そう言って蒼星石は勢いよく頭を下げた。   マ「ま、早く起きたほうがいいのは確かだからさ。別に気にせんといて。」    早く、といっても時間はすでに九時近い。   マ「朝ごはん用意してくれてあるの?」   蒼「それが・・・今日もお仕事だと思ってたから・・・。」    マスターが長い髪を後ろにくくりながら食卓に行くとそこにはかわいらしい大きさのおむすびがあった。    いつもゆっくりと朝食をとれない(とらない)マスターの身を案じて蒼星石が持たせてくれるものだ。   マ「わお!だらしない俺のためにわざわざすまんかったね。」   蒼「あ、さっきはごめんなさい。あんな事をマスターに言って。」   マ「あー・・別に嫌味じゃないからさー。自分でだってだらしないって分かってるし。     だから蒼星石にはとても感謝してんのよ?」   蒼「そんな・・。」   マ「じゃ、これありがたくいただくわ。」    その後、おむすびをきれいに平らげたマスターが言った。   マ「さて、せっかく休日に起きてるんだから何かすっか?」    確かにこの男、休日というと放っておけば8割は寝ていそうである。    蒼星石が何とかそれを阻止してはいるが。   蒼「何って?」   マ「そうだな・・・日帰りでどこか遠出すんのもかったるい気がするし、そもそも何の計画も無いわけだしな・・・。」   蒼「僕のことはいいよ。それよりもマスター自分の髪の手入れでもしたら?だいぶ伸びてきてるよ。」   マ「ん、ああ、そうか髪の手入れか。」    マスターの髪は紺屋の白袴というヤツか、それともただの面倒くさがりかだいぶ伸びていた。    美容師という職業柄、長髪でも特別困りはしないのだが、まあうっとうしいのは確かである。   マ「そうだな前々からチャレンジしたかったんだよな。いい機会だし髪をいじってみるか。じゃあ蒼星石、準備を頼む。」   蒼「はい。」   マ「まず椅子。」   蒼「はい。」   マ「お次に散髪マント。」   蒼「はい。」   マ「鏡。」   蒼「はい。」   マ「じゃあここに座って。」   蒼「はい。・・って、あれ?」    戸惑う蒼星石にマスターは散髪マントを巻いている。   蒼「あれれ?なんで僕が椅子に座ってるの?」   マ「んー、さっき言ったろ。髪をいじるって。商売道具取ってくるから待ってて。」   蒼「で、でも僕の髪は伸びないから切るわけにはいかないし、それに女の子のくせに短いからいじりようがないし・・・。     ・・・マスターみたいに長い髪だったら・・・良かったんだけど。」   マ「まったく、それくらい分かってるって。この俺は人呼んで『自称20世紀に留まり続けるカリスマ美容師』だぜ!     そんくらいなんとでもしてやるって。」   蒼「あのー・・よく分からないけれど全然ほめられてないのは気のせい?」    それを聞いた蒼星石が不安そうにしている。   マ「ま、とにかくだ、プロとして女性の魂を傷つけるようなことはしないから任しとき!」   蒼「分かった・・・マスターのことを信じるよ。」   マ「OK、OK、気に障ったらお前さんの鋏で俺の髪の毛ばっさりやってくれていいよ。」   蒼「そ、そんな事はできないよ・・・。」   マ「ま、そもそも失敗しないから安心して待ってなさいな。」   マ「さて、始めますか!」    マスターは体中に鋏や櫛をずらっと巻きつけている。まるでコマンドーか何かのようだ。   蒼「す、すごいね!美容師さんってそんなに道具を使い分けるんだ!!」    蒼星石が驚きの声を上げる。   マ「いや、ただのハッタリ。なんとなくブラック・ジャックみたいで凄そうっしょ?」   蒼「そんなんだから、あんな呼ばれ方されるんだよ・・・。」   マ「あっはっは、それじゃあ今日は蒼星石に俺の働く姿でも見ていただくとするかな。」    そう言うとマスターは蒼星石の髪を優しく撫で始めた。   蒼「あ・・・。」    蒼星石の口から安堵の吐息が漏れる。   蒼「マスター・・・なんか安心するよ・・・気分が落ち着くんだ・・・。」   マ「ありがとうございます。それでお客さん、本日はどのようにいたしましょうか?」   蒼「えっ、えっ、それは・・・。」    鏡越しによそよそしく話しかけてきたマスターに蒼星石が戸惑う。   マ「いやー、ほんと綺麗な髪ですね。何か特別なお手入れでもされてるんですか?」   蒼「あ、いえ、別に何も・・・。」   マ「ところでお客さん、学生さんですか?ご兄弟とかいらっしゃるんですか?」   蒼「あ、あの、家事手伝い・・かな?あと姉妹が自分を入れて七人います。」   マ「へーっ、お客さんの姉妹だったら皆さんさぞかし美人さんぞろいなんでしょうねえ。」   蒼「あ、あ、・・・もうマスターったら!」    ついに蒼星石が耐え切れなくなった。   蒼「さっきから僕をからかって遊んでるの!?」   マ「あははー、ついセールストークモードになっちゃった。」   蒼「お片付けとかやらなきゃだからもう行くよ?」   マ「まあ、もう少しだけ待って、これからが本番だから。」    そう言ってマスターは自分の鞄から何かを取り出した。   蒼「それは・・・髪の毛?」   マ「そっ、まあ今回のは人工だけどね。エクステンションて言ってね、これをつけて髪形をいじれるんよ。」   蒼「そんなことができるの?」   マ「まあ見てなって。俺が蒼星石をもっとも美しい姿に変身させてやっからさ。」    言い終わると男の顔つきが変わる。さっきまでのおちゃらけたものとは違い真剣そのものだ。    蒼星石の未だ見たことの無い表情で、手にした髪や器具を巧みに繰る。    その動きは繊細かつ華麗で見るものを虜にするようなものを感じさせた。    そう、まるで美しい旋律を奏でているかのように・・・。   マ「さ、とりあえずできたよ。」   蒼「え・・、あっ!」    思わず見とれていた蒼星石が鏡の中を覗き込むと、そこには普段の自分とは違う、長い髪の少女が映っていた。   蒼「これが・・・僕なの?」   マ「どう、ご感想は?」   蒼「すごい・・・まるで・・・まるで・・・」    男がニコニコして次の言葉を待つ。   蒼「・・・翠星石みたいだ。」    男がずっこける。   蒼「どうしたのマスター?」   マ「いや、そりゃ鏡に映った姿は似てるけどね、やっぱり蒼星石にはまだまだ秘められた蒼星石だけの魅力ってもんがあるっしょ?」   蒼「そんなものが・・・僕にあるのかな・・・。」   マ「よーし、それなら俺がそれを証明してやろう。」   蒼「え、でも・・・。」   マ「任せとけ!美容師の本分は相手の美を100%引き出すことだからな!!」    その言葉と共に男は再び蒼星石の髪に手を加え始めた。    それから男はポニーテール、ツインテール、シニヨン、三つ編み、ソバージュ、・・・    さまざまな髪の長さ、思いつく限りの種々のヘアスタイルを試した。    その鬼気迫るとも言える様子に蒼星石はされるがまま見守っていた。    そして、ついにもとの髪型に戻すと、力尽きて座り込んだ。   マ「駄目だ・・・俺にはまだ無理なのか・・・。」   蒼「マスター、そんなに気を落とさないで。いいんだよ、どうせ僕の魅力なんて・・・。」    蒼星石ががっくりとうなだれるマスターを励ますように声をかける。   マ「ああ、俺は魔法使いでも錬金術師でもないからな、無いものは作れない。引き出すことしかできない!」   蒼「ごめんね、僕がこんな風じゃなければ・・・。」   マ「そうじゃない、駄目なんだ、元のままの蒼星石以上に美しさを引き出した姿が見出せない。     俺は・・・まだローゼンに及ばないのか・・・。」   蒼「お父様に?」   マ「ローゼン以上に君の魅力を引き出したい、そうする事でローゼンを超えたかった・・・。」   蒼「なんで・・・そんなにこだわるの?」   マ「え、そ、そりゃあ・・・」    蒼星石に目で促されて口を開く。   マ「俺ってだらしないからさ、なんか一つでも親父さんを超えてなきゃ、『お嫁に来て下さい』って自信を持って言えないからさ・・・。」    ちょっと照れくさそうにそう言った。   蒼「・・・マスターは、僕にそんな魅力があると本気で思っているの?」   マ「もちろんだ。今の俺じゃあ今の蒼星石以上には引き出せないかもしれないけど、     でもいつかは親父さん以上に君の魅力を引き出す!そして、きっと君に・・・!」   蒼「ふうん、じゃあその時を期待して待ってるね。」   マ「え、それってどっちを?」   蒼「うん、何の事かな?まあ、その時が来たら分かるだろうから頑張ってね、マスター。」    そういうと家事をするためにすたすたと行ってしまう。   マ「ちぇーっ、つれないの!」   蒼「・・・マスターなら、きっとやり遂げてくれると信じて待ってるからね。」    蒼星石が振り向かぬままそっとつぶやいた。

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