「或るマスターの愉快な日常」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

或るマスターの愉快な日常」(2006/08/28 (月) 00:03:52) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

  蒼「マスター、起きて、起きてよっ!」    蒼星石は自分の倍以上の身長の男をゆすぶり、必死に起こそうとしている。   マ「うーん・・すまないけどクタクタなんだ。もうちょっとだけ・・」   蒼「そんなこと言って放っておくとずっと寝たままじゃないか。もうご飯できちゃうよ。」   マ「分かった・・。それまでには行くから勘弁・・」   蒼「もう・・遅れたら待たずに食べちゃうからね!」    そう言い残して蒼星石は部屋から出て行った。    男がしばらくまどろんでいたところ、不意に左手に熱を覚えた。見ると薬指の指輪が蒼く光を放っていた。    どこかで蒼星石が力を行使している証だ。   マ「蒼星石、無事かっ!?」    先程までとは打って変わった俊敏な動作で跳ね起き、台所へと向かう。   マ「あれ・・?」    男がそこに見たのは椅子にお行儀よく腰掛け、にこやかな笑みを浮かべた蒼星石だった。   蒼「おはよう、マスター。顔を洗って着替えたらご飯にしようね♪」   マ「もう僕は一杯食わされましたよ・・・」    その一部始終を窓の外の木の上から監視しているものがいた。   金「あの二人が同じ事を繰り返すのもこれで三十六回目かしら~。あの男なら簡単に手玉に取れそうかしら~♪」    ローゼンメイデン第二ドール金糸雀だった。   金「ふっふっふ、これで蒼星石は倒したも同然かしらー!」    そう言うと再び首から提げた双眼鏡を覗き込んだ。   マ「まったく・・次からはもう信用しないからね!」   蒼「ごめんね、マスター。もうしないから許して?」    食事をとりながら、これまでも何度と無く繰り返されたやり取りが行われる。   マ「ところでさ・・あの木のところなんかチカチカしてまぶしくない?」   蒼「あれはもしかして・・・マスターちょっと耳を貸して。」   マ「ん?」    男が蒼星石の顔に自分の顔を近づける。   金「ちょっ、あの二人何をしているのかしら!仮にもアリスを目指すものが朝一からはしたないかしら!」    顔を近づけあう二人の様子を窺おうと金糸雀が身を乗り出す。    そして枝から足を滑らせてしまう。   金「かーしら~!」    間一髪で両手に枝をつかむ。    だが、這い上がるだけの力は無い。   金「も、もうダメかしら。ピチカート、みっちゃんによろしくかしらーー・・・」    ついに力尽き、金糸雀の体が落下を始める。         ぽ ふ っ    予想外に早く、柔らかく落下が終わる。   金「?どうやら助かったのかしらー。」   マ「やれやれ、ぎりぎりナイスキャッチだったな。」    先程の男が自分を抱きとめていた。   金「な、なんでここにいるのがばれたのかしらー!?」   マ「そりゃ、庭先であんだけ大声で騒がれればねえ。」   蒼「やっぱり君は!」   マ「知っているのか、蒼星石!?」   蒼「ローゼンメイデン第二ドール・・・」   マ「カマクラ!か?」   金「違うかしらー、カマクラでもカナガワでもないかしらー!」   蒼「違うよマスター、もっと鳥みたいな・・・オカリナだ!」   金「ちょっと雰囲気は似てるかしらー。でも違うかしらー!」    金糸雀は男の腕から脱出し、ポーズをとると宣言した。   金「私こそがローゼンメイデン随一の策士、その名も華麗な金糸雀かしらー!」   マ「うん、知ってる。」   蒼「ちょっとふざけただけだよ。」   金「ひどいかしらー、謝罪と賠償を要求するかしらー!!」   マ「で、その策士さんが双眼鏡なんか持ってどんな御用で?」   金「打倒蒼星石のために日課の偵察かしらー。」   マ(自称策士が策をぽんぽんとばらしちゃっていいのか?)   蒼(彼女にとってはそれすらも策のうち・・・だったら恐ろしいんだけどねえ。)   マ「で、何か分かったの?」   金「ふふん、蒼星石のマスターは蒼星石にベタ惚れかしら~。」   マ「うおっ、鋭い!!」   金「それを巧妙に利用させてもらうのかしら~。」   マ(だからそういう事を当人たちの前で言っちゃ駄目だろ・・・)   マ「どう利用するつもりなの?」   金「ふっふっふ、みっちゃん秘蔵の写真を持ってきたかしらー!」   マ「おおっ、こ、これは!?」   金「ドールたちのこんなカッコよそではお目にかかれないのかしら~。写真が欲しければ蒼星石の弱点を教えるかしら~。」   マ「ぐっ、懐柔策とは卑怯な・・・分かった、教えよう。」   蒼「早っ!」   金「早く教えてかしらー!!」   マ「実はね・・・ごにょごにょ」   金「な、本当かしらー!全く思いもよらなかったかしらー!!」   マ「じゃあ蒼星石のだけでいいから写真をおくれ。」   金「はいかしら~。」   蒼「ちょっと!その写真を渡してよ!」   マ「やだい、やだい!これは僕が金糸雀からもらったんだい!宝物にするんだい!!」   金「ギブアンドテイクってやつかしら~。」   蒼「くっ!」    蒼星石はぴょこぴょこと跳ねて写真を回収しようとするが男が頭上に掲げてしまっていて届かない。   マ「ところでさ、普段から偵察してたみたいだけどその時の写真は無いの?」   金「写真はあるけれど、普段は情報の無いマスターの方をマークしていたかしら~。」   マ「ナヌ!?」     ジャキン!!    突然現れた鋏が金糸雀の首筋を捕らえる。   蒼「金糸雀、マスターの写真を渡すんだ。君の命とギブアンドテイクといこうか・・・」   金「それって脅迫かしらー。渡すからやめてかしらー!」    涙目の金糸雀から写真を受け取った蒼星石が早速目を通す。   蒼「ふぅん、マスターったら講義中に居眠りはよくないなあ・・・。こっちは先生に叱られちゃってるね、だらしないよ?     でも部活動だと張り切って偉そうに指示を出してるみたいだね・・・くすくす。」   マ「うわぁああぁあ、見ないでくれぇぇぇぇ!!」   蒼「それで一緒にお弁当を食べてるこの女の人は誰?ずいぶん親密そうだけど?」   マ「違うんだあ!誤解しないでくれぇぇぇぇ!!」   金「何はともあれ二人の絆の弱体化には成功したかしらー。蒼星石の弱点を入手したらまた来るかしらー!」    そう言って金糸雀は立ち去った。   蒼「そう言えば、マスターいったい何を吹き込んだの?」   マ「んー?普通だったら絶対に信じないようなこと。」   蒼「普通だったら、か・・・」   マ「まあ、ほうじ茶でも飲んでのんびり待ってましょうか。」   蒼「そうだね、さっきの写真についてじっくりと聞きたいこともあるし・・・」   マ「だから違うんだってばぁああ!」        チ・ チ・ チ・ チ・ チ・ チ・ チ・ チ・ チ・    ただただ時計の針の音がする以外は静寂が支配する空間、時間の感覚ももはや無い。   蒼「・・・マスター?」   マ「は、はい!」    自分は今、母親にお小言をもらうよう子供のような状態で蒼星石の前に正座して小さくなっていた。    二人の間には先程蒼星石が金糸雀から奪い・・・もとい、譲り受けた写真のうちの一枚が置かれていた。   蒼「それで、この女の人は誰?」   マ「だ、だから部活の後輩・・・。」   蒼「用件は?」   マ「部活関係の事務仕事で相談を持ちかけられて・・・。」   蒼「ふうん、お仕事なんだ。・・・でもその割には二人とも笑顔だね?」   マ「そ、そりゃ食事しながらの相談だし、ずっと仏頂面ってわけにもいかないでしょ?」   蒼「そうだね、二人して僕が作ったお弁当を突っついてるね。それもとびっきりの笑顔で。」   マ「・・・・・。」    どうやら蒼星石の怒りは予想以上に深いらしい。   蒼「二人ともなんだか幸せそうだね。僕の前でもこんな風に笑うことはあまり無いよね?」   マ「あの・・それは・・・。」   蒼「マスターのために作ったのに・・・。」   マ「いつも早起きして作ってくれるのに本当にゴメン・・・。」   蒼「違う!マスターは分かってるの!?時間がどうとか、労力の話じゃない。     いつもマスターに食べてもらうものを作る時は僕なりに精一杯心を込めているんだ。     喜んでもらいたい、頑張ってもらいたい、元気になってもらいたい、いろいろと気持ちを込めてるんだ!     それなのに、それなのに、それを他の人に上げてヘラヘラしてるなんて・・・ひどいよ・・・。」    ここに来てやっと蒼星石の気持ちに気づいた。蒼星石は、怒ってもいたかもしれないけれど、それ以上に悲しんでいたんだ。   マ「ごめんよ蒼星石、僕が鈍感だった。でも、聞いて欲しい。決して君を裏切ったつもりは無い。」   蒼「・・・・・。」   マ「たしかに彼女が美味しそうだと言ったからって簡単に分けてしまったのは軽率だった。     ・・でもそれは、蒼星石の料理を誰かに自慢したかったからだし、それと・・・。」   蒼「それと・・・何さ?」   マ「彼女は蒼星石の料理を食べて言ってくれた。『とっても美味しいですね。先輩、愛されてるんですね』って。     誰かにそう言って認めてもらいたかった、自分なんかが蒼星石に愛されてるのか不安だったんだ。」   蒼「・・・それが言い訳?マスターの馬鹿!!」   マ「ごめん・・・。」    しゅんとうつむいていると不意に首に手が回された。   蒼「僕が・・・マスターのことをどう思ってるかくらい他の人に言われないでも分かってよ・・・。」    顔を上げると悩ましげにこちらを見つめる蒼星石の顔がすぐ傍にあった。   マ「蒼星石・・・。」   蒼「それとも、行動で表さないと分からないんだったら、今ここで・・・。」    そのまま蒼星石が顔を近づけてくる・・・。    唇と唇がふれ・・・       ピ ー ン ポ ー ン    インターフォンが鳴り、来訪者がある事を告げる。   金「蒼星石ー、たのもうーかしらー!!」    例のものを手に入れた金糸雀がこれ以上ないであろう絶妙なタイミングで戻ってきた。   蒼「・・・・・・・。」    蒼星石は無表情のまま静かに立ち上がって玄関先へ行った。    こういう時の蒼星石は表には出さないようにしているが内心激しく怒っているんだよね。   マ「えーっと、ほうじ茶でも入れておくからなるべく穏便にねー!」    そうだな、後は憐れな目にあうであろう金糸雀のために卵焼きでも焼きますか。   金「ついに蒼星石の弱点を手に入れたかしらーー!!コテンパンにしてやるかしらー!」   蒼「いらっしゃい・・・」   金「覚悟するかしらー、弱点の芋羊羹かしらー!!」    自信満々で芋羊羹を蒼星石の頬に突きつける。   蒼「・・・・・」    蒼星石は無表情のまま動かない。      ぐりぐり・・・   金「食らうかしらーー!」   蒼「じゃあ、お言葉に甘えて食べさせていただくね。」    平然と芋羊羹を奪って踵を返す。   マ「あ、ほうじ茶入ったよー。」   蒼「今から芋羊羹を切って持っていくから待っててね。」   金「ひどいかしらー。だまされたかしらー。カナのなけなしのお小遣い返せかしらー!!」    金糸雀は床に這いつくばって駄々っ子のようにジタバタしている。   マ「これが・・次女なのか・・・」   蒼「本当に困った姉だ・・・」   マ「まあまあ、これでも上げるから機嫌直して。卵焼きが好きなんだってね?」    男が卵焼きを箸に取り、金糸雀の前に差し出す。   金「そんなものでごまかされないのかしらー!」    金糸雀はふくれっ面で怒りを露わにしている。   マ「じゃあ鳥の餌にでもするか・・・」   金「カラスにくれてやるなんてもったいないかしらーー!!」    金糸雀が卵焼きにダイブする。       ぱくっ   金「もぐもぐ・・・美味しいかしらー!ハッピーかしら~♪」   マ(計画通り!)   蒼「金糸雀、実は以前は芋羊羹が大の苦手で見るのも嫌だったけど、もう平気になったんだ。だからマスターを許してあげて欲しい。」   金「えー、そうだったのかしらー。じゃあ今は何が苦手なのかしら~?」   マ(だから本人に聞くなって。)   蒼「そうだな、具体的には明かせないけれどやっぱり和菓子かな・・。マスターは大好きなんだけどね。」   マ(そして容赦ないな、蒼星石。)   金「蒼星石、誘導尋問にまんまと引っかかっちゃったかしら。日を改めてまた来るから覚悟してるがいいかしらー!」    そう言い捨てて金糸雀は再び去っていった。  そして・・・   金「雛苺から情報を仕入れたかしらー。うにゅーの乱れ撃ちかしらー!」    蒼星石が見事に全てをキャッチする。   蒼「ごめん、これももう平気になった。」   金「きいぃぃー、昨日は雛苺にうにゅーを押し付けてたのに蒼星石の成長速度は異常かしらー!!」   マ(それは苺大福が好きな雛苺に譲ってあげてたんだろ・・・)   マ「特大卵焼きが焼けたよー。」   蒼「じゃあ、僕はお茶を入れてくる。君はどうするの?」   金「カナもいっしょにいただくかしら!潜入しての偵察兼内部からの工作活動かしらー!!」  ここは今日もとっても平和です。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: