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VS 翠星石(翠好き注意)」(2006/09/10 (日) 23:47:55) の最新版変更点

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おとといの大雨・洪水警報が嘘のように今日は実に晴れ晴れとした日だった。こんなピクニック日和に出かけないのは人生における最大のシミとなり、一生引きずってしまう羽目になるかもしれない。ちょっとばかり大げさだが。 しかし心のそこから湧き出してくる感情を抑えるほど俺は器用ではない。まず、この感情の高ぶりを蒼星石にぶつけるべく洗濯物を干しているはずの蒼星石の元へ行くことにした。 俺が庭へ出て、物干し台を眺めるも蒼星石の姿は・・・いた。蒼星石は台をつかって小さい体をフルに使い洗濯物を干していた。 俺は後ろから抜き足差し足忍び足の容量で近づいていく。そして蒼星石のすぐ後ろに立つと、俺は抱き上げるように蒼星石の両脇を持つ。 蒼星石の体は俺に重さを感じさせることなく、宙に浮かんでいく。はとが豆鉄砲を食らったように蒼星石はきょとんとした後、状況を少しずつ理解し、手足をじたばたさせた。 「まっ、マスター!?いきなり抱き上げられたらびっくりす――」 と蒼星石が慌て始めた頃だった。俺の腕が物干し竿にぶつかり、それが台から外れ俺の両腕を襲う。 蒼星石を抱えているため俺は握力を緩めるなんて愚考は犯さなかった。すべての物干し竿が俺の腕にダイブしたあと、俺の両手に抱えられている蒼星石は腰をひねってこちらを向き、愚かな俺に心配をかけてくれた。 「大丈夫?マスター?」 「なんとかな・・・。」 俺は衝撃を受けてぷるぷると震える腕を動かし、蒼星石を地面に戻した。 「ふー、危なかった・・・。もう少しでとんでもないやつらを敵に回すところだった・・・。」 蒼星石は誰だそれ、という面持ちでこちらを見ていた。 俺と蒼星石は手分けして洗濯物を干し、家の中へ戻った。そこで俺は今日というすばらしい日をどうやって消費するかを蒼星石に相談として持ちかけた。 「どこに行きたいって?・・・愚問だね、マスター」 「なにっ!?」 「それはマスターが僕のマスターとして当ててもらいたいな。」 蒼星石は少しだけいやらしい表情で俺に答えを求めた。それこそ愚問だぜ、蒼星石。 「レバー肉専門店か?もしくはそれに順ずる焼肉専門店とか。」 「ふーん、マスターには僕はそう見えてたんだ?」 その反応に俺はしまった、と心の中で舌打ちする。まさか違うとは思いもしなかった。ギャルゲとかなら好感度-1ってところだ。 「僕はお花屋さんに行ってみたいな、マスター?」 「花屋か・・・近いところにいい店があるぞ。じゃあ準備でもしてくるか。」 俺はそういうと財布に札を数枚仕込み、準備をはじめた。 家を出発してすでに5分が経った。見晴らしのいい丘からは目的地である花屋を容易に見つけることができた。俺はより歩を早く進め、まさにピクニック気分といえる蒼星石を先導していく。蒼星石と会話していると10kmでも苦なく歩けそうだ。 さらに7分後。俺たちは花屋に到着した。入り口の外からでも花のいい香りが鼻を刺激する・・・ダジャレではない。 店内に入ると芳香はより強いものとなって俺と蒼星石の鼻を刺激してくる。蒼星石はブランド物のバッグを見ている女性のように花を舐めるように眺め、吟味している。俺は本能的に食虫植物に目が行ってしまう。悲しき男のサガだと信じておこう。 蒼星石はというと、花ではなく、種が詰まった袋を俺に見せた。パッケージには真っ赤な薔薇の写真が印刷されていた。 声には出さないが蒼星石はこれを欲している。真紅の薔薇を咲かすこの種を。俺は目で答え、代金を払う。思っていたより値段は安かったので正直、ホッとした。買い物を終え、俺と蒼星石は花屋から出た。店員さんの声が俺の背中を押した。 「ありがとうマスター」 「ああ。こちらも意外と安く上がったんでよかったよ。」 蒼星石からお礼のお言葉をあずかる。俺にとっての至福の瞬間でもある。しかし、丘に差し掛かったところでこの雰囲気はぶち壊されることになる。 突如、ヴーン、と何かがうなりをあげてこちらに向かってくる。蒼星石とおそろいの鞄。飛行。この2語が俺の中で絡まり、1つの結論を導き出す。 「翠星石!?」 しかし時すでに遅し。その鞄は俺の額に思いっきりぶつかり、なぐり抜ける要領で空中に飛び出す。そしてまた俺の顔の前に戻ってきてから空中静止する。俺は額の激痛でめまいがする。蒼星石は俺が倒れないように後ろから支えている。 すると鞄がバカンと開き、中から暴走運転をしていた張本人が出てきた。彼女は翠星石と言って蒼星石の双子の姉だ。見た目は瓜二つだが性格が大いに異なる。彼女は俺と蒼星石が一緒にいるのを快く思わないらしい。 「ざまあ見ろです、ド低脳人間」 と翠星石はさきほど俺に鞄で体当たりしたときにぶつけたのか、額をさすりながら出てきた。 「そっちも同じ状態にあるぞ。」 「うっさいです!今日こそ息の根を止めてやるです」 と翠星石は物騒なことをさらりと言いのけ、如雨露を手に構えた。大ピンチだ。蒼星石に俺は視線をやる。 「がんばって!マスター!」 蒼星石は丘に配備されているベンチに腰掛けて俺に声援を送っていた。俺が助けを求めると、 「よく言うよね、“子供の喧嘩に親は出るな”って。だから僕はここで慎ましく応援させてもらうよ。」 そうか。単に姉妹喧嘩を繰り広げたくないように俺は見えるのだが。そうこうしている内に翠星石が襲い掛かってきた。 「お前には力を使うのももったいないです!脳挫傷で殺してやるです」 今あきらかに物騒なことを言った。しかしまだ余裕がある。俺は翠星石の仕掛けてきた如雨露での殴打攻撃を右にかわす。 するとその翠星石の像が雲が蒸発するように消えていく。 「残像ですぅ。」 「はっ、後ろっ!?」 俺の背後に出現した実像が如雨露で俺の頭を力いっぱい殴りぬけた。鈍い音がして俺は前に倒れこんだ。 「ええっ?本気?」 と、蒼星石が俺の元に駆け寄ってきた。まさかコントにでも見えたのか。蒼星石は俺のいきなりの転倒に慌てふためいている。 意識が揺らいでる俺に翠星石がにじり寄る。 「・・さ、そこをどくです翠星石。そいつ殺せない。」 「嫌だ!マスターを傷つけるなら翠星石でも許さない」 数秒前とはうって変わってシリアスな雰囲気になってきた。そろそろ俺の意識をつなぐ糸が限界に達しかけていた頃、俺の口が勝手に1つの言葉を口にした。 「――体は(蒼星石に対する)萌えでできている」 「え、マスター・・・」 「な、なんなんですか?」 2人が大きな不安を胸に抱き始め、それが確信に変わり始めた頃、俺の言葉は終わりに近づいていた。 「―その体は、きっと(蒼星石に対する)萌えでできていた。」 すると突然、世界が白き閃光に覆われたかと思うと、数秒後に別の世界が現れた。萌え盛る炎が壁を築き、世界から隔離する。 後には荒野。無数の蒼星石のポスターが乱立した、ポスターの丘だけが広がっていた。 「固有結界・・・これがお前の能力ですか・・・人間!」 「驚くことはない。これは全てただの萌えポスターだ。 人を傷つける力はない無力の存在だ。」 俺は右手を丘に刺さった一枚のポスターに手を伸ばし、握り、そして一気に引き抜いた。 「だがな、ポスターが如雨露に負ける、なんて道理はない。お前が如雨露を振るうなら、その悉くを受け 無力に変えよう。」 俺は一歩踏み出した。目前には世界樹の枝を操るドール。 「いくぞツンデレ女王――水の貯蔵は十分か。」 「は――思い上がりやがったですね人間!」 奴は“門”を開け、如雨露を召喚する。 荒野を駆ける。一対である二つの群は、ここに、最後の激突を開始した。 ―何分経っただろうか。俺と翠星石は以前と己の武器を打ち合っている。その力の差は互角、といってところだ。 しかし俺の魔力の消費が激しい。このまま持久戦が長引くとまずいことになる。そう思った俺いったん距離をとり、 丘からポスターを4,5本抜き出す。それを翠星石に向かって投げつけた。翠星石は一本目をかわすが、2本目の追撃により右腕を封じられて、左腕、右足、左足、と次々と四肢をポスターに封じられていった。 俺は翠星石に近づき、とどめを刺そうとした瞬間、俺の目の前にひとつの光球―人工精霊だ。目を守ろうとしたときにはすでに遅く、目くらましを食らったあとだった。 俺は目が見えずに2,3歩後ずさりをする。俺の力が弱まったため、ポスターが灰となって粉砕される。自由になった翠星石は俺に如雨露を構えた。 「これで終わりです人間。おまえにしてはよくできた方です。 冥土の土産に翠星石の宝具を飲み込んでくたばるがいいですぅ」 別にそんなものは飲み込みたくないが、そんな俺の気持ちもむなしく、翠星石は宝具を展開させた。 「スイドリーム(湿濡らす甘露の如雨露)!」 俺の意識が四方に拡散するのを感じた俺は、蒼星石に最後の言葉を託そうとした。 「蒼星石、頼む。奴を止めてくれ。このままだと世界は混沌の渦に飲み込まれてしまう。」 「わかったよマスター・・・。でも、別にあれを倒してしまってもかまわないんだね?」 「ちょ、蒼星石、何を言ってるですか!?」 「翠星石。僕らはもはやマスターを違えた。ローザミスティカを奪い合う敵同士だ。」 その言葉を全て聞く前に俺の意識は宙へと飛んでいった。 俺は不意に目を覚ました。俺は布団で寝ていたようだ。あたりを見回すと、自分の部屋だという確信は得られた。 時計を手にとり眺めると針は9時を指している。カーテンが閉められ、そこから闇が部屋を侵食していることを考えると今は夜らしい。 倦怠感が体に重くのしかかるが、それを跳ね除けて俺は居間へ行くことにした。 居間には蒼星石がテレビを見ながら湯飲みに注がれたお茶を飲んでいた。蒼星石は俺に気づくと 「目がさめたんだねマスター」 と声をかけてくれた。俺は蒼星石に昼間、何があったか訊いてみた。 「何って、僕とお花屋さんに行ったじゃないか。ほかに大したことは起きてないよ。」 そう振舞ってくれた蒼星石だがどこか裏があるような笑顔だった。それに、その言葉では俺が眠っていた理由を証明することはできないわけだが。 「えーっと、そうだ。帰ってきた途端、マスターが疲労で倒れたんだよ。きっとそうだよ。」 きっとそうだよ、って・・・。しかし俺は貧血気味なのかフラフラするためその日は蒼星石のレバニラ炒め+αを食し、再び寝ることにした。 これは後日談だが、翌日、俺は翠星石が持っていた物と同じような如雨露を使って買ってきた薔薇を育てている蒼星石を見た。俺はそのことについて触れることはしなかった。
おとといの大雨・洪水警報が嘘のように今日は実に晴れ晴れとした日だった。こんなピクニック日和に出かけないのは人生における最大のシミとなり、一生引きずってしまう羽目になるかもしれない。ちょっとばかり大げさだが。 しかし心のそこから湧き出してくる感情を抑えるほど俺は器用ではない。まず、この感情の高ぶりを蒼星石にぶつけるべく洗濯物を干しているはずの蒼星石の元へ行くことにした。 俺が庭へ出て、物干し台を眺めるも蒼星石の姿は・・・いた。蒼星石は台をつかって小さい体をフルに使い洗濯物を干していた。 俺は後ろから抜き足差し足忍び足の容量で近づいていく。そして蒼星石のすぐ後ろに立つと、俺は抱き上げるように蒼星石の両脇を持つ。 蒼星石の体は俺に重さを感じさせることなく、宙に浮かんでいく。はとが豆鉄砲を食らったように蒼星石はきょとんとした後、状況を少しずつ理解し、手足をじたばたさせた。 「まっ、マスター!?いきなり抱き上げられたらびっくりす――」 と蒼星石が慌て始めた頃だった。俺の腕が物干し竿にぶつかり、それが台から外れ俺の両腕を襲う。 蒼星石を抱えているため俺は握力を緩めるなんて愚考は犯さなかった。すべての物干し竿が俺の腕にダイブしたあと、俺の両手に抱えられている蒼星石は腰をひねってこちらを向き、愚かな俺に心配をかけてくれた。 「大丈夫?マスター?」 「なんとかな・・・。」 俺は衝撃を受けてぷるぷると震える腕を動かし、蒼星石を地面に戻した。 「ふー、危なかった・・・。もう少しでとんでもないやつらを敵に回すところだった・・・。」 蒼星石は誰だそれ、という面持ちでこちらを見ていた。 俺と蒼星石は手分けして洗濯物を干し、家の中へ戻った。そこで俺は今日というすばらしい日をどうやって消費するかを蒼星石に相談として持ちかけた。 「どこに行きたいって?・・・愚問だね、マスター」 「なにっ!?」 「それはマスターが僕のマスターとして当ててもらいたいな。」 蒼星石は少しだけいやらしい表情で俺に答えを求めた。それこそ愚問だぜ、蒼星石。 「レバー肉専門店か?もしくはそれに順ずる焼肉専門店とか。」 「ふーん、マスターには僕はそう見えてたんだ?」 その反応に俺はしまった、と心の中で舌打ちする。まさか違うとは思いもしなかった。ギャルゲとかなら好感度-1ってところだ。 「僕はお花屋さんに行ってみたいな、マスター?」 「花屋か・・・近いところにいい店があるぞ。じゃあ準備でもしてくるか。」 俺はそういうと財布に札を数枚仕込み、準備をはじめた。 家を出発してすでに5分が経った。見晴らしのいい丘からは目的地である花屋を容易に見つけることができた。俺はより歩を早く進め、まさにピクニック気分といえる蒼星石を先導していく。蒼星石と会話していると10kmでも苦なく歩けそうだ。 さらに7分後。俺たちは花屋に到着した。入り口の外からでも花のいい香りが鼻を刺激する・・・ダジャレではない。 店内に入ると芳香はより強いものとなって俺と蒼星石の鼻を刺激してくる。蒼星石はブランド物のバッグを見ている女性のように花を舐めるように眺め、吟味している。俺は本能的に食虫植物に目が行ってしまう。悲しき男のサガだと信じておこう。 蒼星石はというと、花ではなく、種が詰まった袋を俺に見せた。パッケージには真っ赤な薔薇の写真が印刷されていた。 声には出さないが蒼星石はこれを欲している。真紅の薔薇を咲かすこの種を。俺は目で答え、代金を払う。思っていたより値段は安かったので正直、ホッとした。買い物を終え、俺と蒼星石は花屋から出た。店員さんの声が俺の背中を押した。 「ありがとうマスター」 「ああ。こちらも意外と安く上がったんでよかったよ。」 蒼星石からお礼のお言葉をあずかる。俺にとっての至福の瞬間でもある。しかし、丘に差し掛かったところでこの雰囲気はぶち壊されることになる。 突如、ヴーン、と何かがうなりをあげてこちらに向かってくる。蒼星石とおそろいの鞄。飛行。この2語が俺の中で絡まり、1つの結論を導き出す。 「翠星石!?」 しかし時すでに遅し。その鞄は俺の額に思いっきりぶつかり、なぐり抜ける要領で空中に飛び出す。そしてまた俺の顔の前に戻ってきてから空中静止する。俺は額の激痛でめまいがする。蒼星石は俺が倒れないように後ろから支えている。 すると鞄がバカンと開き、中から暴走運転をしていた張本人が出てきた。彼女は翠星石と言って蒼星石の双子の姉だ。見た目は瓜二つだが性格が大いに異なる。彼女は俺と蒼星石が一緒にいるのを快く思わないらしい。 「ざまあ見ろです、ド低脳人間」 と翠星石はさきほど俺に鞄で体当たりしたときにぶつけたのか、額をさすりながら出てきた。 「そっちも同じ状態にあるぞ。」 「うっさいです!今日こそ息の根を止めてやるです」 と翠星石は物騒なことをさらりと言いのけ、如雨露を手に構えた。大ピンチだ。蒼星石に俺は視線をやる。 「がんばって!マスター!」 蒼星石は丘に配備されているベンチに腰掛けて俺に声援を送っていた。俺が助けを求めると、 「よく言うよね、“子供の喧嘩に親は出るな”って。だから僕はここで慎ましく応援させてもらうよ。」 そうか。単に姉妹喧嘩を繰り広げたくないように俺は見えるのだが。そうこうしている内に翠星石が襲い掛かってきた。 「お前には力を使うのももったいないです!脳挫傷で殺してやるです」 今あきらかに物騒なことを言った。しかしまだ余裕がある。俺は翠星石の仕掛けてきた如雨露での殴打攻撃を右にかわす。 するとその翠星石の像が雲が蒸発するように消えていく。 「残像ですぅ。」 「はっ、後ろっ!?」 俺の背後に出現した実像が如雨露で俺の頭を力いっぱい殴りぬけた。鈍い音がして俺は前に倒れこんだ。 「ええっ?本気?」 と、蒼星石が俺の元に駆け寄ってきた。まさかコントにでも見えたのか。蒼星石は俺のいきなりの転倒に慌てふためいている。 意識が揺らいでる俺に翠星石がにじり寄る。 「・・さ、そこをどくです蒼星石。そいつ殺せない。」 「嫌だ!マスターを傷つけるなら翠星石でも許さない」 数秒前とはうって変わってシリアスな雰囲気になってきた。そろそろ俺の意識をつなぐ糸が限界に達しかけていた頃、俺の口が勝手に1つの言葉を口にした。 「――体は(蒼星石に対する)萌えでできている」 「え、マスター・・・」 「な、なんなんですか?」 2人が大きな不安を胸に抱き始め、それが確信に変わり始めた頃、俺の言葉は終わりに近づいていた。 「―その体は、きっと(蒼星石に対する)萌えでできていた。」 すると突然、世界が白き閃光に覆われたかと思うと、数秒後に別の世界が現れた。萌え盛る炎が壁を築き、世界から隔離する。 後には荒野。無数の蒼星石のポスターが乱立した、ポスターの丘だけが広がっていた。 「固有結界・・・これがお前の能力ですか・・・人間!」 「驚くことはない。これは全てただの萌えポスターだ。 人を傷つける力はない無力の存在だ。」 俺は右手を丘に刺さった一枚のポスターに手を伸ばし、握り、そして一気に引き抜いた。 「だがな、ポスターが如雨露に負ける、なんて道理はない。お前が如雨露を振るうなら、その悉くを受け 無力に変えよう。」 俺は一歩踏み出した。目前には世界樹の枝を操るドール。 「いくぞツンデレ女王――水の貯蔵は十分か。」 「は――思い上がりやがったですね人間!」 奴は“門”を開け、如雨露を召喚する。 荒野を駆ける。一対である二つの群は、ここに、最後の激突を開始した。 ―何分経っただろうか。俺と翠星石は以前と己の武器を打ち合っている。その力の差は互角、といってところだ。 しかし俺の魔力の消費が激しい。このまま持久戦が長引くとまずいことになる。そう思った俺いったん距離をとり、 丘からポスターを4,5本抜き出す。それを翠星石に向かって投げつけた。翠星石は一本目をかわすが、2本目の追撃により右腕を封じられて、左腕、右足、左足、と次々と四肢をポスターに封じられていった。 俺は翠星石に近づき、とどめを刺そうとした瞬間、俺の目の前にひとつの光球―人工精霊だ。目を守ろうとしたときにはすでに遅く、目くらましを食らったあとだった。 俺は目が見えずに2,3歩後ずさりをする。俺の力が弱まったため、ポスターが灰となって粉砕される。自由になった翠星石は俺に如雨露を構えた。 「これで終わりです人間。おまえにしてはよくできた方です。 冥土の土産に翠星石の宝具を飲み込んでくたばるがいいですぅ」 別にそんなものは飲み込みたくないが、そんな俺の気持ちもむなしく、翠星石は宝具を展開させた。 「スイドリーム(湿濡らす甘露の如雨露)!」 俺の意識が四方に拡散するのを感じた俺は、蒼星石に最後の言葉を託そうとした。 「蒼星石、頼む。奴を止めてくれ。このままだと世界は混沌の渦に飲み込まれてしまう。」 「わかったよマスター・・・。でも、別にあれを倒してしまってもかまわないんだね?」 「ちょ、蒼星石、何を言ってるですか!?」 「翠星石。僕らはもはやマスターを違えた。ローザミスティカを奪い合う敵同士だ。」 その言葉を全て聞く前に俺の意識は宙へと飛んでいった。 俺は不意に目を覚ました。俺は布団で寝ていたようだ。あたりを見回すと、自分の部屋だという確信は得られた。 時計を手にとり眺めると針は9時を指している。カーテンが閉められ、そこから闇が部屋を侵食していることを考えると今は夜らしい。 倦怠感が体に重くのしかかるが、それを跳ね除けて俺は居間へ行くことにした。 居間には蒼星石がテレビを見ながら湯飲みに注がれたお茶を飲んでいた。蒼星石は俺に気づくと 「目がさめたんだねマスター」 と声をかけてくれた。俺は蒼星石に昼間、何があったか訊いてみた。 「何って、僕とお花屋さんに行ったじゃないか。ほかに大したことは起きてないよ。」 そう振舞ってくれた蒼星石だがどこか裏があるような笑顔だった。それに、その言葉では俺が眠っていた理由を証明することはできないわけだが。 「えーっと、そうだ。帰ってきた途端、マスターが疲労で倒れたんだよ。きっとそうだよ。」 きっとそうだよ、って・・・。しかし俺は貧血気味なのかフラフラするためその日は蒼星石のレバニラ炒め+αを食し、再び寝ることにした。 これは後日談だが、翌日、俺は翠星石が持っていた物と同じような如雨露を使って買ってきた薔薇を育てている蒼星石を見た。俺はそのことについて触れることはしなかった。

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